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サンガンピュールの物語(お菓子の国)3話



 菜食主義の刃物男の件でサンガンピュールとKは警察から発見者の一人としてみっちり事情聴取を受けた。それが一通り終わった後、Kが一声掛けた。
 「でもやったな、サンガンピュール!」
 「それよりも東京に出てきてまでこんなことするなんて、疲れるよ・・・」
 サンガンピュールは呆れた様子だった。日頃の疲れを取るため、ストレス発散のために東京へ遊びに来ているのにこれでは土浦にいるのと全く変わらないからだ。それに、
 「もう12時半周ってるし、何か食べようよ~」
 と言い出した。気がつけばもうそんな時間だ。2人とも空腹を隠せず、レストランへ移動しようとした時だった。
 「すみません、ちょっとお時間よろしいですか?」
 見知らぬ男性から声を掛けられた。するとKは不満の表情を隠さずに言った。
 「・・・何ですか。非日常の気分を楽しもうとしている時に・・・」
 「まあ、まあ、そうおっしゃらずに・・・」
 男性は胸ポケットから自分の名刺を取り出し、Kに差し出した。Kはあるところに気付いた。
 「『お菓子の国』実行委員会副委員長、世良田徹(せらだ・とおる)・・・?」
 そう、2人に話し掛けた男性、世良田は「お菓子の国」の関係者だった。お菓子の国と聞いて飛びついてきたのはもちろんサンガンピュールだった。
 「『お菓子の国』?どんなイベントなんですか、教えて下さい!」
 「そう言えば・・・、ついさっきその広告を見たんですよ。自分もこの子も気になってて・・・」
 Kが詳細を話そうとした時に菜食主義者が事件を起こしたから、彼女にとっては聞きそびれる形となってしまったのだ。この質問に対して世良田は
 「まあ、簡単に言えば、お菓子職人さん達による合同イベントです。でもこんな場所で立ち話というのもなんなんで、昼食を取りながら聞いていただけませんか」
 と答えた。取り敢えずKは買い物の会計を済ませ、3人で北千住マルイの9階にあるレストランに向かった。

 「突然お伺いして驚かせてしまったようで、すみません」
 案内された4人掛けのテーブル席に着くなり、世良田はまず突然挨拶したことを陳謝した。
 「いや、あんまり気にしていませんけど、そりゃそうですよ。赤の他人から急に話しかけられるんだから誰でもびっくりしますよ」
 Kは言葉を選びながら会話した。世良田は彼女を知ったきっかけをKに話した。
 「実はサンガンピュールさんのことをインターネットでお伺いしましてね」
 「ほうほう。どんな内容でした?」
 誰だって自分に対する評判は気になるものである。
 「『超能力を持つ少女が強盗退治に大活躍!』という見出しでした。これまで何十回と町の 正義のために活躍してきたことを知りまして」
 「いやあ、照れるなあ・・・。あたしがまさかそんなに注目されるなんて思ってもみませんでしたよ。フランスからここに来て良かったな・・・、あっ!!」
 サンガンピュールは、絶対にやってはならないミスを犯してしまったような心境に陥った。フランス生まれであることをKや市長さん以外には知らせていないのに、どうしようか、と。当然ながらこの事情が全く分からない世良田が食いついた。
 「あれ、サンガンピュールさんは日本の方じゃないんですか?」
 「・・・はい、彼女はフランス人なんです。日本に来て2年が経ちましたけど日本語はかなり上達していますし、学校でも友達と良い関係築けているらしいですよ」
 Kが必死になってフォローした。
 「へえ、そうなんですか」
 サンガンピュールはしばらくの間、黙っていた。どんなことを言われるか嫌な思いをしていたのだ。世良田が言った。
 「凄いですね、フランスから来たなんて」
 「・・・いや、それほどでも・・・」
 彼女はぎこちなく答えた。すると、
 「まあ、この先は彼女の出自の部分に触れてしまうことになるので・・・」
 とKがこの話を強引に終わらせ、話題をイベントの方へ転換した。
 「それで、そのイベントはいつあるんですか?」
 「2週間後の土・日です」
 「ほう、もうすぐじゃないですか」
 するとサンガンピュールが先程のように割って入った。
 「全然もうすぐじゃないじゃん!待ち遠しいよ」
 この言葉に世良田は感激した。
 「待ち遠しい・・・ですか。うれしいです。では、うちの工場を覗いてみませんか?」
 これを聞いて、Kは念のために聞いておこうと思った。
 「いいんですか、今日、日曜ですよね」
 「でもみんな、イベントのために休日返上で頑張っているので」
 「そうですよね。みんな楽しみにしているんで」
 こうしてとんとん拍子で話が進み、サンガンピュールとKは事務所兼工場に案内されることとなった。

 ( 第4話 に続く)

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