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サンガンピュールの物語(お菓子の国)6話



 2人が二度目にお菓子の国を訪問したのは次の土曜日、「お菓子の国」開催まであと1週間だった。その日は朝早くに家を発ち、なかなか来ない常磐線にイライラしつつも北千住に着いた。そこで前日に連絡を取っていた世良田と合流し、足立区にある「お菓子の国」実行委員会が入居する建物に着いた。昼前に着いたのだが、その時にはチクロンBのメンバーが襲来していたのである。3人は建物の付近に一台のベンツが停まっているのを確認した。しばらくしてそこから一人の男が降り立った。建物内ではガシャーン、ガシャーンとガラスを凶器で叩き割る音が聞こえていたが、そこへサンガンピュールが応戦した。20人超という大人数を相手にライトセイバーを砲丸投げのように扱った。突然の少女参戦でチクロンBの動きは鈍くなった。戦闘が5分ほど続いた後、その場一帯にドスの効いた声が響き渡った。
 「さあ、弁済できねえんなら今度こそ諦めてもらおうか、『お菓子の国』の開催をな!」
 「弁済・・・?どういうことだ?」
 Kがふと思った疑問について考える暇も与えず、現れていきなり脅迫してきたのは、先程までベンツに乗っていたチクロンBのリーダーである熊田吾郎(くまだ・ごろう)。そして3人の幹部だった。日数谷健太(ひかずだに・けんた)、名古路達也(なこじ・たつや)、そして安本守(やすもと・まもる)。3人に続いて十数人の子分達がいた。
 熊田が怖そうに言った。
 「今日こそ約束を果たしてもらおうか」
 続いて名古路も怖そうに要求した。
 「ここであったが10ヶ月目、さあ、とっとと弁済しろって言ってんだよ!!」
 世良田はチクロンBについて「暴力集団」と語っていたが、彼らの正体は金貸しだったのだ。法定利息の1000倍の利子を顧客に要求することなどで知られる危険な闇金融業者だった(当時の貸金業規制法では元本の29.2%まで)。脅迫で職人一同が凍りついている中、今度は溌剌とした若い大声が響き渡った。
 「そうはさせないわ、チクロンB!」
 熊田達は勇敢な少女の声に戸惑った。
 「げっ、サンガンピュール!まさか都内に現れるとは思ってなかったぜ!」
 「・・・サンガンピュールって誰ですか?」
 名古路が熊田に聞いた。
 「バカッ!そんなことも知らねえのか!?茨城を中心に活躍している自称・正義の味方の少女だ!」
 「正義の味方?・・・・・・フフフフフ・・・フハハハハハハハ・・・」
 名古路他チクロンBの一同は笑い出した。
 「何?あたしのことがそんなにおかしいの?」
 「おい、どうするか?」
 サンガンピュールの問い掛けに耳を傾けない日数谷の声に対し、熊田は言った。
 「ええいっ、予定通りやれ!」
 「従業員どもはもらっていくぜ!」
 名古路がそう言って最前線に陣取っていた職人を拉致しようとした時だった。
 「待ちな!」
 再びサンガンピュールがチクロンBの悪行を阻止しようと声を上げた。
 「交渉のための人質にはさせないわ!」
 「サンガンピュール・・・、そうか、なら俺が出るしかないな。来い、勝てると思うならかかってみろ!」
 熊田の挑発に乗る形でサンガンピュールはライトセイバーを出し、熊田を斬ろうとした。彼が何の反応も示さないことを疑問に思った彼女だが、感づいた時には既に遅かった。熊田は何と自分の右足を使い、蹴技でサンガンピュールのライトセイバーを床に叩きつけたのだ。

 「そんな・・・!」

 愕然するサンガンピュール。そして熊田は彼女のあごに蹴技を食らわせた。彼女は大きな衝撃の弾みで作業テーブルに強く叩きつけられた上、作業途中のケーキをも潰してしまった。彼女の髪と服はクリーム、生地だらけになって汚れてしまった。
 「サンガンピュール!!」
 Kが彼女の代わりにチクロンBと対戦しようとするが世良田に止められた。対戦は彼女だからできることであり、素人は引っ込んだ方が正解だ。彼女が何もできない間に7人の職人が拉致されてしまった。ライトバンに乗せられ、どこかへ連れて行かれた。その後、チクロンBの 面々は全員お菓子の国を一旦去った。
 「大丈夫か?」
 Kがすぐに寄り添った。
 「大丈夫・・・。いたたた・・・」
 どうやら彼女には大したケガはないようだが、物凄い敗北感を感じていた。

 埼玉県内某所にある工場。拉致された7人はそこで目隠しを外され、そこで日数谷、名古路、安本というチクロンBの3人の幹部と対面した。その後、3人の幹部はすぐ作戦会議に移った。何かを話し合っている様子は窺えたが、20分経過しても結論が出てきそうになかったのだ。そんな中、職人の一人が思わず叫んだ。
 「何をしたいんだ!」
 「生かすなり、殺すなり、早く決めてくれ!」
 ここで名古路が一喝。
 「黙ってろ!もうすぐお前らの運命が決まる!」

 7人はそこで2人組と5人組の2組に分けられた。2人組は安本が、そして5人組は名古路がそれぞれ監視下に置いた。日数谷は安本と名古路を配下に置く身分だった。
 安本が指差した方向には町工場にありそうな大型プラスチック粉砕機があった。本来この機械は、プラスチックやカーボンで作られた自動車用部品で不要になったものを解体処理するものだ。粉になったプラスチックは再利用され、自動車用部品を作るための材料として生まれ変わるのだ。
 一人が粉砕機の前のベルトコンベアに乗せられた。その人はつい先程、結論を早く出すよう催告した職人だった。もう身動きは取れなかった。そして身体を骨ごと粉々にされた。場内に言葉にならない悲鳴が響いた。彼は自分の発した一言のせいで、7人の中で見せしめとして殺されてしまったのだった。生き残ったもう一方は粉々になった遺体を詰めた袋を持たされた上で帰還を許された。完全に精神崩壊である。トラウマとして永久に彼らの心に刻まれただろう。そして「次は自分の番ではないか」と5人組の誰もが恐怖に怯えたのは当然のことだ。
 だがチクロンBはここで理解しがたい行動に出た。解放した職人に対し、自らのアジトと思われる場所の地図を渡したのだ。ただし、帰り道は子分が運転する車でお菓子の国の近くまで送ってくれるが、万一車を降りるまでに地図を見た場合、解放した職人も先程と同様の方法で殺すと警告した。トラウマがよぎる職人には地図を車内で読む勇気が無かった。

 ( 第7話・前編 に続く)

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