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サンガンピュールの物語(生い立ち編)3話

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 少女…いや、サンガンピュールは自分の知ったことを全てKに話した。Kはこの事実を受け止めた。Kは母国・日本への帰国を数日後に控えていたが、彼女の能力を確かめさせた。彼女は生まれ変わって初めて自分のスーパーパワー(超能力)を発揮した。コップは勿論、重いリュックサックやテーブル、重いソファーまで手を使わずに持ち上げることができた。ちなみに拳銃やライトセーバーは他のホテル利用者に迷惑となるので、今回は使わなかった。

 スーパーパワーに驚いたKは、「これは凄い!」と感心した。彼女も興味津々で面白がっていた。そして翌日、Kは早速サンガンピュールに対して実践を勧めた。彼女もやや不安はあったものの、喜んでロンドンの街へ、悪者退治に出かけた。そう、Kと出会う前の自分に対してレイプを犯そうとしたギャングどもに対してリベンジをするときがやってきたのである。


 しばらく街中を歩いてサンガンピュールは思った。
 「あたしは本来普通の女の子だったんだ。でも雷のせいで、親から見捨てられてこんな哀れな姿になった。なぜこういうことになっちゃったのかなあ…。なんであたしが…」
と、雷を憎んだ。まるで末期ガン患者が自分の身体を蝕む病原体を憎むように。なぜ、こういうことになってしまったのであろう。なぜ彼女にスーパーパワーが与えられたのであろう。原因は神のみぞ知る。

 そうこうしているうちに彼女は、ギャングの集団に出くわした。明らかにKに拾われる前の彼女を犯そうとした集団だ。3人組のギャングの1人が言った。
 「いよう、姉ちゃん!俺とやんねえか?」

 これに対して落雷を受けて特殊な力を手にした少女は
 「また、あんたたちだね。今度はそうはいかないよ!かかってきな!ぶっ倒してやる!」
と自信満々であった。3人組のギャングは、以前自分たちが犯そうとして逃げられた少女だと気がついた。
 「けっ、あのチビスケか。久しぶりだな!今度も犯してやるから覚悟しろ!」

 ギャングは2人が果物ナイフを取り出し、彼女を脅迫した。そして残りの1人が彼女を犯そうとした。しかしサンガンピュールは臆せず、武器であるライトセーバーを取り出した!そしてあっという間に2人のギャングの果物ナイフを斬り、使い物にならなくしたのだ。そして刃をギャングのリーダーの首に向けて、彼女は言った。
 「あんたたち、降参する?さもなきゃ、この人の首を切るよ!」
3人組のギャングは降参してしまい、彼女の手によって警察に突き出されたのだ。サンガンピュールにとっては初のお手柄であると同時に、以前にレイプされそうになったギャングにリベンジを果たしたのだった。彼女はKとともに悪者を逮捕できた喜びを分かち合った。

 その後もスラムの不良者や、誘拐犯、銀行強盗などを相手に戦った。ロンドン市内に突然現れたスーパーヒロインに市民は興味津々で、最初のうちの評価は高かった。しかしそれは最悪の場合、拳銃で犯人の頭をぶち抜いて死亡させたり、あるいはライトセーバーで手首を切り落とすことに至ることもあった。彼女はこういう残忍な方法で事件を解決したこともあったために、ロンドン警察も当然のごとくやり方を疑問視した。そしてロンドン市民からの評判は良いどころか、悪くなる一方であった。

 この事態を重く見たKは、彼女に日本への渡航を勧めた。これはKが日本に帰国する日が近かったということもあるが、同時に家族や自分の住み家もない彼女に定住する場所を与えること。そして彼女は、いずれまたギャングから報復の標的にされる。その可能性を回避する意味もあった。
 提案を聞いて彼女は一瞬、困惑した。見知らぬ国に行くのは誰もが覚える不安だが、ことに彼女の場合にはそうだったかもしれない。フランスとイギリスは文字も同じ、言葉もある程度通じるので、そんなに不安は感じなかった。しかし行く先は日本。極東の島国に行くことに不安を覚えずにはいられなかったのは言うまでもない。
 彼女は悩んだ結果、Kと一緒に日本で新しい生活を始めることを決意したのだ。Kはまさかと思ってもう一度聞いてみた。

 「ねえ、本当にいいの?イギリスから日本へ、まったく文化の違う国に行くけど、それでもいいの?」
 「うん、パパやママはもう自分を愛してくれなくなった。あたしがこんな姿になって初めて助けてくれて、そして愛してくれたのが、おじさんなの。パパやママに捨てられたんだから、あたし、自分を助けてくれたKおじさんについていくよ!最悪な目にあったロンドンはもうこりごりだよ!」

 Kは感動した。異国の地で出会った見知らぬ少女は、前向きで、しっかりとした意志を持っている。もう彼女にヨーロッパに残る理由はなかった、と読み取れた。
 「分かったよ、僕は君が立派な大人になるまで応援していくことを誓うよ。よろしくね!分からないことがあるなら、どんどん僕に聞いて」
 とKはサンガンピュールに言った。
 しかし、である。彼女のパスポートはどうなっているのか?一瞬気になったKは彼女に聞いてみた。

 「すっかり忘れていたけどさ、パスポートは持ってる…よね?」
 「うん、持ってるよ。パパとママは病院を出るときにパスポートと、少しの服や食べ物を入れたリュックを残していったんだ」
 「ありがとう。これで安心したよ」

 イギリスがシェンゲン協定に加盟していないことに感謝すべきだったかもしれない。日本人としてKはそう思った。もしパスポート不要のシェンゲン協定加盟国でこのような事態に遭遇していたら、彼女のパスポートの問題などで大わらわになっていたのは目に見えている。よって、彼女がちゃんとパスポートを持っていることに安堵したKなのであった。

 数日後、Kとサンガンピュールはロンドン・ヒースロー空港から成田空港に向かうJAL機に搭乗。イギリスを出国した。成田までは約12時間のフライトである。サンガンピュールは一時、自分の生まれ育ったフランスが恋しくなったのだが「自分で決めた人生だから仕方がない」と前向きであった。彼女と付き人のKは、窮屈な座席で一夜を過ごした。

 ( 第4話 へ続く)

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