M17星雲の光と影

M17星雲の光と影

PR

×

Keyword Search

▼キーワード検索

Freepage List

2006.01.09
XML
カテゴリ: その他


「キューティー・ハニー」と「駅馬車」の二本立て。っていったい何なんだろう、この組み合わせは。

いや前者は「スワロウテイル」を録ったはずのテープになぜか入っていたものだが(ほんとだって)、全然見る気はなくて早回しで最初のほうだけ眺めていたら、なんとなく気になる箇所があってそこから通常の速さで見始め、ついに最後まで見てしまったのである。

これが意外に面白かった。よく出来ていたと思う。でも、これは全然何の期待もせずに見るという前提条件がついた上での話ですからね。「あ、そうか、面白いのか」と思ってレンタルビデオ屋で借りて見ると、また話は別かもしれません。念のため。

庵野秀明という監督のことはアニメ出身ということくらいしか知らなかったが、この絵の作り方とビジュアルにたいするこだわり、カット割りの細かさは徹底している。何というか、怪獣ものやヒーローもののテレビ番組を見て眠りについた小学生の夢想が勝手にオリジナルをはるかに越えるレベルにまでスケールと完成度とストーリー性を高め、それが異常なリアリティをもってフィルムに定着されているという感じですかね。うまくいえないけど。少なくとも「ゼブラーマン」と同じくらい私は楽しめました。面白かったです。

おそらくはあの異常に細かいカット割りはアニメーションの制作過程が必然的にもたらすものなのだろう。いくらなんでもアニメで延々と同じ視点からカメラを長回しするような映像を作ることは考えられない。なめらかな動画を実現するためには膨大な絵が必要になり、人間が作るものである以上、その絵には少しずつ変化をもたせたくなる。だから、コマ割りも多くなり、それに慣れると、実写でも多くの視点からの絵を短時間で重ね合わせるような作り方になるのだろう。しかし、このようなアニメーションの動きは作り手だけでなく、見る側の感覚にもある種の影響を与える。

アニメを見ている人間の眼は、細かく動く画面をとらえようとして微細動を繰り返すのではないか。ひとつのものをじっと見つめることよりも、次々と起こる微細な変化を目で追いかけることが自然な動作と感じられるようになる。これは最近の若い人たちの特徴的な眼の動きに重なる。彼らと正対していると、フォーカスがこちらの顔の周辺を細かく動き回り、自分はその動きの範囲の中でぼんやりととらえられていると感じることが多い。

眼を細かく動かしていると、人間は不安になる。順序が逆だと思われるかもしれないが、人が不安を感じるということは世界が安定感を失い、小刻みに動き続けるということであり、その世界の小さな動きをもたらすのは、実は世界ではなく、その世界をとらえる視覚の動きなのだから、眼の動きが世界を動かし、その結果、不安な情緒が醸し出されるのである。実験したことはないが、たぶんそうなるだろう。実験して成功してもあまり愉快ではないと思うので、自分ではやってみないけど。

不安な人間が求めるものは安定である。アニメのテーマとして永遠の愛や友情、絆が好んでとりあげられることの背後には、このような事情があるのかもしれない。




「駅馬車」といえば、有名なジェロニモの率いる騎馬群と騎兵隊との壮烈な戦闘シーンが有名だが、実はそこに至るまでのこの映画の筋の運びは実にゆったりとした人情劇である。これはやや意外だった。町を追放されるアル中の医者がいい味を出している。しかし、ここには黒澤の「酔いどれ天使」や「用心棒」(最後の決闘シーンの街並みはそっくりである)、「七人の侍」の原型がぎっしりと詰まっている。太い筆で墨痕鮮やかに書き上げられた堂々たる楷書を思わせる映画である。無法者であるはずのリンゴー・キッドが妙にやさしいジェントルマンであり、女性的ですらあるところがなかなか面白く、気位の高い身重の婦人が最後まで好意的には描かれず、街の住人も総じていやな奴として描かれている。作り手のはぐれ者・アウトローに対するやさしくあたたかい視線が感じられる映画でもある。

しかし、名画として名高いこの作品がはたして一つの作品として全体的にバランスがとれているかといえば、やや微妙である。人情喜劇めいた冒頭から、唐突にあまりにも激しいアクションシーンに移行するあたりは、部分部分が必ずしも全体の統率の下に従っていないような印象を受ける。とにかく娯楽映画に必要な要素をこれでもかとばかりにぎゅうぎゅうに詰め込んだ一本であり、それだけに一作品として完成度が高いかといわれれば疑問が残るのである。有無をいわせぬ圧倒的な面白さにケチをつけるつもりはないのだけれど。

しかし、ここまで娯楽的要素が強調されていると、逆に「ここにはなにかあるな」と勘ぐりたくなる。ちょっと冷静になってこのストーリーのキーワードを探ってみると、「密告」(リンゴーは密告によって牢獄へつながれる)、「追放」(酔いどれ医者と商売女)、「不正」(銀行の頭取)、「差別」(商売女への)、「零落」(賭博師)、「風紀を正す会(?)」(おばさま方を中心としたこの会の存在は西部劇の中では違和感をもたらす)、「正義の相対性」、「復讐」といったところだろうか。時代は合わないものの、これらはマッカーシズム(赤狩り)を想起させる。既にこの動きの萌芽のようなものが映画界あるいはアメリカ社会にあったのだろうか。力による弱者の排除に反発するメッセージ色がどことなく感じとれる。またインディアンやメキシコ系住民なども映画の中に正面からアップで登場し、比較的同情的に(というのが言い過ぎならば、「否定的ではなく」といいかえよう)描かれている。ジェロニモの大写しになった顔の表情からは、ある種の大きな哀しみが読みとれるようである。

文句のつけようのないほどの娯楽作品にこのようなメッセージ色をそっとしのばせる作り方は私の好むところでもある。

でもこの映画の中のジョン・ウェインはなぜあのように女性的なのだろうか。これは見終わった後もずっと疑問として残っている。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2006.01.09 09:43:40 コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Calendar

Archives

・2026.08
・2026.07
・2026.06
・2026.05
・2026.04

Comments

和久希世@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) >「彼はこう言いました。「それもそうだ…
kuro@ Re:「チャンドラーのある」人生(08/18) 新しいお話をお待ちしております。
あああ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 非常に面白かったです。 背筋がぞわぞわし…
クロキ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 良いお話しをありがとうございます。 泣き…
М17星雲の光と影@ Re[1]:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) まずしい感想をありがとうございました。 …
映画見直してみると@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 伊集院がトイレでは拳銃を腰にさして準備…
いい話ですね@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 最近たまたま伊丹作品の「マルタイの女」…
山下陽光@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) ブログを読んで、 ワクワクがたまらなくな…
ににに@ Re:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) 文句を言うだけの人っているもんですね ま…
tanabotaturisan@ Re:WILL YOU STILL LOVE ME TOMORROW(07/01) キャロルキングの訳詩ありがとうございま…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: