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2006.03.15
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カテゴリ: 村上春樹
文藝春秋4月号の村上春樹「ある編集者の生と死」を読む。

実は読みたいという気持ちと、(少なくとも)今はあまり読みたくないという気持ちが相半ばしていた。人並みの好奇心はもちろんある。だが、ある話題に集中豪雨的に人々の関心が集まり、短期間でその話題をむさぼり食い、しばらくすると噛み終わったチューインガムのように道端に吐き捨てられる。そういう光景をこれまであまりにもしばしば目にしていただけに、そのような動きに荷担したくないという気持ちを抱いていたのも事実である。

この文章は、新聞報道などで彼の原稿流出事件を知り、まだ「文藝春秋」の当該の文章を読んでおられない方に向かって書くことにする。おそらくはいちばんやきもきし、かたづかない気持ちを抱えておられるのは、そのような方々だと推察するからである。

まずは自分自身のこの文章を読む前の心情について述べておこう。おそらくは多くの方とそれほど違いはないのではないかと思うのだが、私の心情は「春樹さん?」というものであった。

報道で知る限り、彼は被害者である。これは間違いない。その告発は正当である。これもほぼ間違いない。だから、理は当然、彼の側にある。そう思いながらも、かすかなクエスチョンマークが頭の中に点滅する。「なぜ告発のタイミングが今なのだろう」、「なぜ告発すべき相手が死者なのだろう」「なぜ告発の媒体が『文藝春秋』なのだろう」。私の疑問はこの三点に尽きる。その中でも最も大きな疑問は最後のものだった。しかし、それについては後述することにする。

念のために私の立場も明らかにしておこう。私は村上春樹作品の愛読者である。ただし、一年半ほど前から。それ以前は一文字たりとも彼の文章は読んでいない。生来のあまのじゃくで、ベストセラー本などはあらかじめ視界からシャットオフされてしまう。まあ、偏狭固陋な人間だと考えてください。ただし、それ以降、読書のほぼ7割以上は春樹氏のものだったのではないかと思う。翻訳を除けばほとんどの著作は読んでいるかもしれない。ただし彼の「ファン」ではない。というのは彼がつまらない作品を書けば、即座に罵倒する心づもりがあるということである。ふつう「ファン」というのはそういうものではありませんよね。だから、私は「ファン」ではない。これまで誰のファンでもあったためしがないんですけどね。

だからこの文章を読む前の私は基本的にはニュートラルなスタンスだったと思う。特に春樹氏寄りだったということはない。ちょっと前置きが長くなってしまいましたね。本題に入ります。

読後の第一印象。頭の中の三つのクエスチョンマークのうち、二つは消えました。「だいじょうぶです、この文章を書いたのは、まちがいなく、あの村上春樹です」というところです。だから、彼の文章を愛してやまない読者の方々、村上春樹氏はこの事件の前後で何も変わってはいません。この文章の書き手は私がよく知っている、あの村上春樹氏でした。とくに彼の文章、というよりも彼の基本的な考え方の核心をなす「公正さ」において、私は彼に対するイメージをいささかも修正する必要を感じませんでした。ご心配の読者の方々にはまずこのことをご報告しておかねばならないと思います。

そして、その次に私の頭に浮かんだこと。それは「この文章は丸ごと読まねばならない」ということです。この文章に書かれた内容は、この文章全体の字数、構成、各ブロックごとのバランスを通して表現されているので、読むのならば最初から最後まできちんと読まなければならないということです。つまみ食いは基本的にやめたほうがいいと思います。



この文章を読む時には、前もって読んでいた「引用」部が邪魔になります。村上氏があえてこの分量で、このバランスで、だからこそ、ここでこういう言葉遣いをし、こういう流れを作っているんだという、文章の全体像を作りあげる作業を、事前に知っていた「引用」が邪魔するんです。私ははっきりそう思いました。だからまだこの文章を読んでおられず、これから自分で読もうと思われている方は、「引用」を読まないほうがいいです。私のこの文章でも一切引用はしません。彼の言いたいことは彼の書いた文章全体の中にあります(一部ではなく全体です)。それはしっかり読めば、きちんと感じとれます。彼は日本でも有数の文章の書き手です。この文章のエッセンスを引用を交えて紹介するにはおそらく彼以上の文章力が必要になるでしょう。要するに「本文を読むにしくはなし」ということですね。真実はいつも単純なものです。

だから、できたら図書館で読むか、本屋さんで立ち読みするかして、全文を読まれるのがいいだろうと思います。またむちゃくちゃなことをいいますが、この雑誌は買わないほうがいいです。

最初に述べた三つの疑問のうち、最初の二つは解けました。でもその答を説明しようとすると先ほどの「引用」を行う愚に近づくのであえてここには書きません。春樹さんがよく言われるように「答は風の中にある」、いや「答は文章の中にある」か。読めばわかります。「引用」を読むと、逆にわかんなくなります。

でも三つめの疑問。実はこの疑問だけは解けなかったんです。なぜ媒体が「文藝春秋」だったのか、その説明は残念ながら、この文章の中にもありませんでした。きついことばづかいをするならば、作家の手書き原稿を売り飛ばした編集者を告発し、同種の行為を未然に防ごうとする意図は正当なものだと思いますが、その告発を「商品」にする意図が私にはどうしてもわかりませんでした。まあ、そういう言い方は穏当ではありませんね。彼の文章は結果的にきわめて商品価値の高いオブジェクトになった。そう言い直しましょう。でもそういう可能性を彼が予見できなかったはずはない。彼はなぜそのことを回避しなかったのか。彼はこの文章をウェブサイトで発表することもできたはずですし、法的手続きをとることも可能だったでしょう。その疑問だけが、私には最後まで解けませんでした。

実は先日、内田樹先生のブログ(村上春樹恐怖症)にトラックバックを張らせてもらいました。内容的には村上氏とは関係のないもので、むしろ内田先生に対する個人的なメッセージのつもりだったんです。しかし、そのアクセス数はまさに驚異的なものでした。「なんだよ、ぜんぜん関係ないじゃないかよー。ったく」と舌打ちされた方がたくさんいらっしゃったと思います。どうもごめんなさい。でもそのアクセス数の多さといったら、こちらの予測をはるかに超えるものでした。それに対する罪滅ぼしの意味もこの文章には少しこめられているわけですが、それはともかくとして、人々のこの問題に寄せる関心の高さには並々ならぬものがあるとその時に思いました。

今月号の「文藝春秋」が何部刷ったのかは知りませんが、この記事のおかげでその売り上げは急増すると思われます。その事実にだけは、私は何か釈然としないものを感じます。そう感じざるをえないのです。

拙い感想文は以上です。中味のない感想ですいません。でもこの文章についての感想は読まないほうがいいというのが私の感想だったものですから、こう書くしかなかったんです。でも、へたくそな文章はなぜこんなに簡単に要約できちゃうんだろう。いやになっちゃいますね。

だから村上春樹氏の愛読者(およびファンの方々)は、とりあえず出来るだけ雑誌を購入することなく、この文章を自分自身で読んで、これに関する感想文からは極力遠ざかる、それが正解だろうと思います。そして、その後は春樹氏の本でもゆっくり読んだほうがいいですよ。翻訳本なんかいいんじゃないでしょうか。え、何がいいかって?そうですね、これなんかぴったりじゃないでしょうか。

レイモンド・カーヴァー『頼むから静かにしてくれ』。










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Last updated  2006.03.15 20:16:31
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噂の真相の廃刊が惜しまれる  
もと村上ファン さん
村上春樹は「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」で終焉を迎えました。そのあとの羊男やノルウェイやねじまきは、残滓にすぎません。
という私の個人的意見はともかく、こうした「噂の真相」的類の文章は、村上氏の手に負えるものではありません。「噂の真相」の岡留編集長なら、素晴らしくやってくれたと思います。文春も、売りたいのでしょう。 (2006.03.15 20:59:36)

Re:噂の真相の廃刊が惜しまれる(03/15)  
もと村上ファンさんへ
厳しい意見ですね。でもそういう人がいても私はいいと思います。でも私は「ダンス・ダンス・ダンス」は好きなんですよね。それはともかく、噂の真相の廃刊に関しては私もまったく同意見です。安晋会や例のメール、次期首相をめぐる暗闘など、噂の真相的ネタに世間は満ち満ちていますからね。残念です。 (2006.03.15 21:43:10)

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和久希世@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) >「彼はこう言いました。「それもそうだ…
kuro@ Re:「チャンドラーのある」人生(08/18) 新しいお話をお待ちしております。
あああ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 非常に面白かったです。 背筋がぞわぞわし…
クロキ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 良いお話しをありがとうございます。 泣き…
М17星雲の光と影@ Re[1]:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) まずしい感想をありがとうございました。 …
映画見直してみると@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 伊集院がトイレでは拳銃を腰にさして準備…
いい話ですね@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 最近たまたま伊丹作品の「マルタイの女」…
山下陽光@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) ブログを読んで、 ワクワクがたまらなくな…
ににに@ Re:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) 文句を言うだけの人っているもんですね ま…
tanabotaturisan@ Re:WILL YOU STILL LOVE ME TOMORROW(07/01) キャロルキングの訳詩ありがとうございま…

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