yutaさんへ

喜んでいただいて、書いたかいがありました。ちょっと物足りないとは思いますが、あれ以上書くと「引用」の範囲を越えてしまいますので悪しからず。でも、こっそりとあと一箇所だけサービスしちゃいましょうか。

「春樹 ぼくは書いてる途中で悪態ばかりつくのね。ちきしょうとか、くそとかさあ。で、女房怒るわけ、聞くに堪えないってさ(笑)。もう小説書くの止して平凡な夫に戻りなさいってさ。それでさ、何といえばいいのかって聞いたらね、ちきしょうというときはワンワンといいなさい。くそっていうときはニャンニャンていいなさい(笑)。やったんだよ、ばかばかしいよ(笑)。」

笑えるでしょう。文豪の若き日の貴重な饒舌の記録でした。 (2006.07.14 15:13:26)

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2006.07.13
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カテゴリ: 村上春樹
このあいだの日曜日、暇をもてあまして近所のブックオフへ出かける。(他にいくとこないんかい。あ、は、はい、とくにないんです、すいません)

いつもの105円コーナーの「ま」の棚からチェックを始める。そういえば、春樹本のほとんどすべてを私はこの棚から拾い集めたのである。かれこれ30冊以上。しかし、春樹本はいつも少ない。その隣にある「村上某」の棚にはいつも何十冊も在庫があるのに。

しかも、ブックオフの店員さんのおそらく27パーセント前後の方々は、「村上春樹」と「村上某」の区別がついていないようである。いつも「春樹」棚をチェックして、「ああ、今日は何もないな」と思って、おもむろに「村上某」棚をチェックすると、しばしば「遠い太鼓」とか「シドニー」が並んでいることがある。たしかにこの二作は「村上某」が書いててもおかしくはないタイトルではあるけれども。

しかし、今日の春樹本もとくに収穫はないようだ。「ノルウェイの森」下、一冊のみか。せっかくきたのになー、ついてないよなー、とぼやきつつ、一応念のために「村上某」の棚もチェック。おやおや、やっぱり春樹さんの本が紛れ込んでるじゃないか、しょうがねーなー、居心地悪そうだから、こっちに移してやるか、とひとりごちながら、その本を春樹棚のほうへ。そして、背表紙を見ながら、「おや、これは」と、しばし立ちすくむ。

「えーと、村上春樹って書いてあるよな、それはまちがいない。そして、その横に連名で、えーと、村上龍って書いてある。えー、なんだこの本。二人の共著ってこと?ひょっとして、これって、あの本?」

そう、この本は「これってあれ」なのでした。村上春樹、村上龍共著「ウォーク・ドント・ラン」。ヤフー・オークションで一万六千円の値がついているという、あの幻の絶版本、「ウォーク・ドント・ラン」なのであります。思わず値段を確かめると、105円。ブックオフばんざーい、っと叫びながら、即時購入。さきほど読了いたしました。

読後の感想。

けっこー、おもしろかったですよ、この本。好事家が一万円以上で買い求めても、「あー、損したなー」とは思わないくらいインタレスティングな本です。おそらくまだこの本を読んでいないという方が多いと思いますし、このブログには少なからぬ春樹ファンも立ち寄られていることにかんがみ、今日は特別にこの幻の本の紹介をすることにします。とくにお世話になったあの方に、おちゅうげーんでございます。以下、箇条書きで。

・ まず中扉の後に二人の顔写真が二枚並んで載っている。あちゃー、春樹さん、これ痛いっすよー。このころ(1980年)の村上龍はめちゃめちゃもてそうな顔してます。信じられないでしょうが、顔すっきりしまってます。しかし、春樹さんはどうかというと。ほとんど爆笑問題の太田がお多福風邪引いたような顔してます。クルーネックの白のTシャツの上に、チャックのシャツ、さらにその上にVネックのセーター。うーん、私がいうのもなんですが、垢抜けてません。それに対して龍くんは革ジャン一枚。髪無雑作に真ん中分け。春樹くん、七三。うーん、春樹君が絶版にしたがったのもわかるような気がしてきた。



 あとはてきとーな抜粋をば。

「龍 春樹さんの小説では、言葉が選ばれてるでしょう。比喩にもね。春樹さんの言葉に対する好みが実によく出てますよ。
 春樹 使いたい言葉と使いたくない言葉をはっきり分けて、使いたくない言葉は絶対使いませんね。」

「龍 ぼくは一八年間、九州弁でしゃべってたわけですよね。小説って東京弁で書いてあるでしょう。ぼくは東京弁が下手なんですね。他人がしゃべっているように書けなかったんですよ。
 春樹 ぼくも一八まで関西弁しかしゃべらなかったんで、東京へ出てきてどうなるかと思ったら、三日で完璧にしゃべれるようになったね。あれは、なんか性格の問題じゃないのかなあ。ぼくは順応性が高いらしい。」

私は春樹派だ。三日で標準語しゃべれたし。

この後、文学の話はさっぱり盛り上がらないが、なぜか猫とジャズの話は大いに盛り上がる。あと盛り上がるのは「うちのかみさん」という章。

「龍 (うちのかみさんは)とにかく、ぼくの書くもの、まったく読まないんです。推理小説が好きで、ガードナーがいちばん好きなんです。「ペリー・メイスン」は全部、読んでる。」
「春樹 うちのかみさんは夢野久作とかポーなんかの怪奇小説ばっかり読んでますよ。」
「龍 なぜぼくのもの読まないかって、べつに意識しているわけじゃないんですよね。どうしてだって訊いたら、「おもしろくない」っていう(笑)」
「春樹 あっ、うちもそれいう(笑)「おもしろくない」って。ぼくは書くと、まずかみさんに見せるんですよ。おもしろくないと捨てちゃうんだね。」

「(中略)春樹 エッセイなんかでも、すらすら書けたなと思って渡すでしょう。そしたら、「哲学がない」って捨てちゃうのね(笑)。なかなかあるわけないんだ。そんなもの。でも、やっぱり夫婦っておもしろいよね。」
「龍 ま、共通してるのは、仕事の上において、あんまり尊敬されてないってことですね(笑)。」
「春樹 尊敬されてないねえ。たとえば、洗濯物干せっていわれる。「ぼくは原稿書いてるから干せない」っていうと、「そういうくだらない原稿書くより、洗濯物干すほうがずっと大事なんだ」って、こんこんといわれるわけ(笑)。しょうがない、ぼくが干しちゃうんだね。それで「洗濯物干したくなかったら、もっと人を感動させる文章書きなさい」って言うわけ。これはね、説得力あるよ。」

最高。ノーコメント。

この後もなかなか興味深い展開が続く。たとえば春樹氏が龍氏の「コインロッカー・ベイビーズ」を激賞する。(イメージしにくいでしょう)。この時点(1980年)では、お互いにデビューから三作目まで書いている。龍氏の三作目が「コインロッカー」、春樹氏のそれは「街とその不確かな壁」、これは「世界の終り」の原型となった作品である。龍氏は春樹氏に向かって、さかんにあの三作目をもっと長いものにして書いたほうがいいよ、とアドバイスしているのである。このへんはなかなか興味深い。



「春樹 書くときはね、これを読んでくれるであろう読者を一人、頭の中に想定します。非常に平凡な人をね。ぜんぜんぼくも会ったことないし、会ってもうまく話せないだろうという感じの人、共通する話題もたいしてないしさ。けっこう気むずかしかったり、かと思うと意外に涙もろかったり、で、何かパッとしない仕事しててというふうに。わりとそういう人のために書いているという気があるのね。」

オレですか、これ。

「春樹 文章を書くってことはある意味では、むなしいし、辛いですよね。通りの真ん中でズボンを脱ぐような感じがするね。」

うわー、わかるわー、ここ。

「春樹 ぼくはね、たとえばだれとでも寝る女の子っているわけじゃない。そういう女の子と寝るというのはものすごく落ち着くのね。むかしからそうだったんだけど」(!)
「龍 あ、ものすごいですな。」
「春樹 どっちかというとね、好きな女の子と寝るというのはさ、どうも落ち着かないのね、むかしから。不思議だな。」(!)

!!!

「春樹 ぼくはどうもセックスっていうのはビター・スイートという感じでしかとらえられないな。」

「春樹 一人っ子ってわがままだっていわれるじゃない、小さいころ。で、そうならないようにしようとね、一所懸命努めてきているのね。でもいまでもね。何がしあわせかっていうと、家に帰るでしょう。だれもいなくてね。電気が消えてて真暗というのがいちばん好きだね。」
「龍 ふーん。」

ふーん、面白いな。

「春樹 それから夏目漱石なんかわりに読みやすいような気がするよ。あの人は、英語をやってたんでしょう。英文学。だから何となくね、眺めていると日本語的じゃないような気がするんですよね、使われている言葉は古いけど。いつかまとめて読んでみたいと思いますね。好きになれそうな気がする。」

ふーん、そうか。

ということで、今日は稀少本の著作権法ぎりぎりの「引用」ブログでした。春樹ファンへの大還元サービスであります。春樹さん、怒るかな。でも、全編を通して春樹口調はまったく変わっておりません。もう一箇所引かれたところがあったんですが、それはまたブログで書きますね。長くなりそうだから。

けっこういい本でしたよ。おそらくはこの本を絶版にしたのは春樹くんでしょうね。あのおおざっぱな龍氏がそんなこと気にするとは思えないし。「おい、龍、あれさ、絶版にしとこうぜ、いいだろ、講談社にはオレのほうからいっといたからな。」「え、ええ、あ、そうすか、べつにいいすよ、春樹さんがそういうなら(別に絶版にしなくてもいいんじゃないの)」というような会話がどこからか聞こえてきそうである。





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Last updated  2006.07.14 11:37:36
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絶版だったの?  
acorn さん
「ウォーク ドント ラン」私も読みました。
うかっり流出した春樹本の山の中にあったはずです。
流れ流れてMさんち、だったら面白いですね。
春樹さんと龍さんって絶対にお互い嫌いだろうと思っていたので、親しそうに対談しているのを読んで感動した覚えがあります。
(だけど、本当は嫌いなんでしょう?なんて少しヒヤヒヤしながらでもありました。)
今となってみれば二人とも揺るぎのない世界を確立しているので、ライバルですらなくそれぞれが己の道を歩んでいますね。
もう、内容はすっかり忘れていましたので若かりし頃の春樹語録、楽しく読ませていただきました。
今日あたり本気で暑くなってまいりましたが、元気にのりきりましょう。
今後とも素敵な話題、期待しております。よろしく☆ (2006.07.14 00:30:50)

Re:絶版だったの?(07/13)  
acornさんへ

acornさんはたしか「風の歌を聴け」を「群像」で読まれた筋金入りのファンでしたよね。さすがです。でもこの本はいまや一万円以上の値段がついているみたいですよ。おそらくは若い愛読者で何が書いてあるか、気になっている人がいるんじゃないかと思って紹介してみました。読後感は意外に爽やかでした。春樹氏の警戒心をこれだけ解除しているということは、やはり龍氏には何かがあるんだろうなと思いました。

では、では。acornさんも暑さにめげず、お仕事がんばってくださいね。
(2006.07.14 09:16:51)

Re:ウォーク・ドント・ラン(村上龍&春樹)(07/13)  
もも さん
昔、もう20数年前、千駄ヶ谷の村上春樹がオーナーだったバーの近くに住んでいました。さっぱりした木造のテーブルとイスで、カントリーぽい居心地の良い店でした。従業員もラフな服装で。村上春樹らしい感じ。たまに見かけましたけど、ジャンパー着た普通のお兄ちゃんで、オーラなかった。
もし村上龍が店なんかしたら、イタリア製のソファかなんか置いて、きれいなフロアレディがいて、本人はアルマーニ着て、われわれ庶民は近づけない、て感じになるでしょうね。(どこかでやってるのかな、中田と共同で)。
文は人なり、ですね。 (2006.07.14 14:27:42)

ありがとうございます!  
yuta さん
うわー。amazonのマーケットプレイスを覗いてはため息をついて、「今度ブックオフをまわろう……」と考えてたところでした! いま一番読みたい本でしたよ。抜粋、ありがとうございます。ホント、語り口が変わらないですね。 (2006.07.14 14:28:22)

Re[1]:ウォーク・ドント・ラン(村上龍&春樹)(07/13)  
ももさんへ

そうですか。実は私も今年の2月まで、授業をするためにその店の前を通っていました。でも、はっきりと店の場所がわかったのは、今年の4月頃だったんですけどね。校舎が変わってもうあそこを通ることもないと思います。最近はおしゃれな店が増えてますが、本来は小さな商店街のある、思わずぶらぶらと散歩したくなるような場所でしたね。 (2006.07.14 14:57:51)

Re:ありがとうございます!(07/13)  

なるほど  
yuta さん
サービス、ありがとうございます。
あの流れるように読めて、研ぎ澄まされた文章の影には、そうした苦労があったんですね。「鋭利なリズムのある文章」の秘密を一つ知った気分です。 (2006.07.14 15:46:05)

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