Mさん、すごいねえ、魔術師だね。
知らぬ間に、私がぼんやりと思ったことを具体的に表現してくださっている。
自分のブログのコメントで、まだ3~4回くらいしか聴いていない音楽について語りたくないと感じたのは、まさに「実のない」ことばで空間を埋めるなと、私の恐怖心がささやいたのだわ。
思いつきの言葉でその場をしのげたとしても、自分自身にはバレてしまう。

(2006.07.15 00:17:12)

M17星雲の光と影

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2006.07.14
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カテゴリ: その他
おそらくいままで一度も使ったことがないことば。世間でもほとんど使われることのないことば。でも、時折頭の中に明滅しては消えていくことば。そういうことばがある。

そのことばははたして自分を形容するためのものなのか。あるいは誰か特定の人間に対して用いるためのものなのか。よくわからない。ただ、そのことばがふっと浮かび上がってきて、何の発展も結実も見せないまま、しばらくの間、意識の上をただよい、やがて静かにこころの底に沈んでいく。ただそれだけだ。

おそらくそのことばには何らかの恐怖がまとわりついている。そういう気がする。でもその恐怖の中味ははっきりしない。そのことば自体を恐れているのか。そのことばで自分のことを形容されることを恐れているのか。あるいはそのことばで形容されるものを恐れているのか。よくわからない。しかし、何らかの恐怖心がそのことばを呼び出していることだけはわかる。そう、このことばを呼び出しているのは自分の意識ではなく、恐怖心なのだ。こちらの意識とは関係なく、恐怖心が勝手に呼び出しているのだ。

それは「実のない」ということばだ。

「実のない人」「実のないことば」

この「実」は、実質ともとれる。誠実ともとれる。実りととってもおかしくはない。

「実のない」とは、だから、空虚で空しく中味がない、ということを意味する。

なぜこのことばが時折意識の表面に浮上するのか、その理由がわからない。しかし、事実として、突如、このことばは浮かび上がってくる。そして、なんとも形容のしようのない錆びた釘を舐めたような渋い味が舌一面に広がる。

これはオレを指していわれているのか。それともオレがもっとも嫌うものにかぶせられたものなのか。あるいは、そのふたつは同じものなのか。このことばが招き寄せる恐ろしさはこうして徐々に広がっていく。



私はそれを嫌う。しかし、その嫌悪の対象が実は自分自身なのではないかという恐怖にひそかにおののく。

たとえば「愛」ということばを軽々しく使うこと。そのことばの背後にあるはずの「永遠」を忘れ、「あ、ごめん」と一言断れば、その「愛」を捨てられると軽信するこころ。私はそれを激しく憎む。しかし、その憎悪の鋭くとがった舌の先端が自分のこころに届かないと言い切れるかどうか。私は断言できない。そう考えると、じっと下を向いてうつむいてしまう。

私は鉛の分銅のような、小さいけれどもぎっちりと中味の詰まったことばの感触を愛する。舶来の弱々しい血統書付きの飼い犬の頭を撫でるような手つきで、自分を甘やかせるためだけに紡ぎだされる中味のない空虚なことばを激しく憎む。でも、自分のことばが行動を伴わない、指先で軽く弾き跳ばせるような3gの分銅でないと誰が言い切れるか。そう考えると、また私は頭を抱え込んでしまう。

要するにお前はことばだけの人間なんだ。そのことばの重みなんて、現実世界の重みに比べれば、3gの分銅にすぎないものなんだ。オレのくしゃみでも吹き飛ばせるぜ。そんなもの。

そういわれると、私は反論できない。ことばの重みなんてしょせん幻想にすぎないものさ。そういうつぶやきが自分自身の胸の奥からも聞こえてくる。

あるいはそうかもしれない。しかし、私は自分の生の重みを盛る容器をことば以外には持ち合わせていない。だから、どれだけ非難されようと、私はこの小さな器に自分の生を盛るしか術を知らないのだ。

現実から眼を背けている?あるいはそうかもしれない。現実的に無力なことばをつぶやき続けることにどれほどの意味があるというのか。あなたはそう問うかもしれない。私にもう一度頭を抱え、うなだれさせようとして。

でも、ことばから切り離された現実っていったいなんなのだ。それにはどれだけの重みがあるのか。たしかに3gの分銅よりもそれは重いかもしれない。でもその重さは、所詮動かしにくさを示すだけの重圧にすぎないものではないか。

3gの分銅は違う。それは人間のこころを、人と人とのつながりを、そして世界を動かすための起点となりうる重さなのだ。ゼロとは決定的に異なる。物事を固定するにはあまりにも頼りないけれども、この世界の価値あるものをすべてそれを基準にしてとらえうる「起点」の重さなのだ。

どれほど無力だと思われても、どれほど現実から眼を背けていると非難されても、地に足がついていないと口汚くののしられても、私はこの3gの分銅を手放さない。私の口が「愛」と呟く時には、その分銅の底には「永遠」という文字が小さく、しかし確かに刻まれているのだ。

私は「実のない」人間にはなりたくない。私は「実のない」ことばを操る人間にだけはなりたくない。



「実のない」ことばに加担するくらいなら、私はむしろ「何もない」断崖の向こうに身を投じることを選ぶだろう。


「実のないことば」「実のない人」


私はあるいは自分自身を憎んでいるのだろうか。














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Last updated  2006.07.15 08:48:19
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マジシャン  
acorn さん

Re:マジシャン(07/14)  
acornさんへ

ご賢察の通り、これは「黄金の月」を繰り返し聴きながら書かれた私のネガティブな「決意表明」です。一言も書いてないのによくわかりましたね。 (2006.07.15 08:41:53)

Re:「実のない」ことば(07/14)  
もも さん
毎度おさわがせします。私は言葉で世界を理解することしか能のない人間ですから、興味深く読ませていただきました。
「実のない人」は、ジツですね。「実のない言葉」はジツというより、私としてはミと読みたい。つまり言葉を意思疎通の道具としてみた場合、相手との共感や理解がもてれば、それは成果=実、となるのでしょうね。
でも、「ジツのある人」は、言葉を超える。それは果てしない自分自身の「実のない言葉」との格闘の末に生まれるもの、と思います。言葉でしか世界を解釈できない自分にとって「実のない言葉」も、自己のうちで育て、そこから峻別するしかない、と思います。
言葉にとらわれない。そこに真の存在はないから。でも、私はその一歩手前で、無様な状況です。
(2006.07.15 09:26:46)

なにごとも  
akiko さん
必要としていたことばと出会って「よいしょ。」と深い穴からひっぱりあげてもらったことが一度でもあれば、ことばに対して正直でありたいと、より強く思うのが自然な気持だと思います。M17さんは添削ということばを扱うお仕事をされているので、なおさら自分で「実のあることば」を使っているのか・・・となるのでしょうね。でも、そう思っている限りはきっと大丈夫なんだと思いますね!何の仕事にしても外観や見栄えは良くても自分が手を抜いて建てたものは自分が知っているし、たぶんそれには近づきたくないものでしょうから、ちょっと時間かかっても「出来た!」感を大切にしたいですね。自分を大切にすることと同じですね、結局。(今日から主婦業も手を抜きづらくなりそ・・・) (2006.07.15 09:54:42)

Re[1]:「実のない」ことば(07/14)  
ももさんへ

重みのあるコメントをいただきました。しかし、うちの客人はレベルが高い。負けそうでございます。

>でも、「ジツのある人」は、言葉を超える。

そうですね。「実のある人」はことばという制約を超えているという気がたしかにします。ただそこへ行きつくためにも、まずはことばとの格闘が必要だということも同時に感じます。

ぶざまにのたうちまわっているのは当方も同様です。夢は現実に破れ、個人は組織に破れる。そして、ことばもまた、という心境ですが、お互いあきらめず、悲観せず、ことばの可能性を追い求めましょう。がんばりましょうね。
(2006.07.15 21:43:14)

Re:なにごとも(07/14)  
akikoさん

いやいや、akikoさんはこの世の中でもっとも「実のある」子育てという大事業をなさっていらっしゃる。

しかもその仕事の途上で、なおかつ自分自身を磨き高める読書を、音楽を、そして表現を求めておられる。

その姿を見るにつけ、私はすばらしいことだと感服しております。

それに比べてオレのことばはなー、それにもましてオレの存在はなーという心境ですね、正直いうと。(おっとまたまたネガティブ虫がぞろぞろと) (2006.07.15 21:49:32)

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和久希世@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) >「彼はこう言いました。「それもそうだ…
kuro@ Re:「チャンドラーのある」人生(08/18) 新しいお話をお待ちしております。
あああ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 非常に面白かったです。 背筋がぞわぞわし…
クロキ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 良いお話しをありがとうございます。 泣き…
М17星雲の光と影@ Re[1]:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) まずしい感想をありがとうございました。 …
映画見直してみると@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 伊集院がトイレでは拳銃を腰にさして準備…
いい話ですね@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 最近たまたま伊丹作品の「マルタイの女」…
山下陽光@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) ブログを読んで、 ワクワクがたまらなくな…
ににに@ Re:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) 文句を言うだけの人っているもんですね ま…
tanabotaturisan@ Re:WILL YOU STILL LOVE ME TOMORROW(07/01) キャロルキングの訳詩ありがとうございま…
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