2006年09月24日
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エラく怒っていたのだった。

人間とは、悲しみを乗り越えるために、
いくつかの感情を使い分けるようだけれど、
実母は「怒り」を選択したようだった。

ノゾミちゃんの「治療」と称した
「単なる延命」に怒り、

病院側が行うのは新生児への対処のみ、
母親である娘(わたし)には、
精神的なケアもなにも行われて
いないことに怒り――。

個人的には「同情」なんてされたくもないし、
自ら溺れて「不幸のヒロイン」なんてものに
酔い痴れたくもなかったから、

ある意味、「自分のことなど、どーでもいい」と
周囲に言い放っていたので、

自分以外の人間が、自分のために
怒ってくれていることは、
非常に新鮮であり、ありがたく、嬉しかった。



日曜日のは担当の先生が不在であるため、
スタッフさんが説明をしてくれて、
いまのところは小康状態を保っていた。

さすがに涙も出なくなるころだろうと
自分では思っていたのだけれど、
何故かものすごく気持ちが不安定になってしまい、
涙が止まらなくなってしまった。

前にも書いたことがあるのだけれど、
正直なところ、いったい何が悲しいのか、

我が子のこの状態が悲しいのか、
自分の立場が悲しいのか、
行く末が悲しいのか、

いまひとつピンとこなくて、
そこがまたやるせなくて、
また泣けてくるのだった。



ノゾミちゃんは、黄疸がひどくなっていて、
光線療法を受けていた。

目を保護するためにテープを貼られていて、
表情がわからない。

左手は点滴をされているために、
固定されてしまい、動かせないので、
自由になる右手だけが動いている。

まるで、ファイティングポーズを繰り返して
いるようだと、ダンナさんは笑った。

スタッフさんが「お顔が見たいですよね」と
テープを外してくれたけれど、
外してもらったらもらったで、
余計にショックを受けてしまった。

痩せて、皮膚がたるんで、シワが寄っている。
まさに骨と皮だけ。

小さな老人みたいだ。

皮膚の色が真っ黒なので、
人種が違うのではないかと
疑われても不思議ではないくらい。

涙が止まらなくなってしまった。



帰り際、同じエレベータに乗り合わせた
NICUのスタッフさんが、ずっと泣いている
わたしを見て、声をかけてきた。

「赤ちゃんの調子が悪いとでも、
 言われたんですか?」

なにも答えたくなかった。

見て分からない?
あの状態を見て、どうしてそんなことが
訊けるのか?

ダンナさんがなにか言ってくれたけど、
耳に入らなかった。



自宅に向かう車の中で、ダンナさんが言った。

「言いたいことがあれば言って欲しい」

ダンナさんのスタンスは、
「なにがあっても諦めない、
 だから悪いことは考えない、
 考えてはいけない」

根本的に、父と母では考えることが
違うのかもしれない。

違いがあるから、本当のことは言えない。
すすり泣きしているうちに、しゃくりあげてしまい、
まるで子供のような泣き方になってしまった。

思い返してみれば、二度目だ。
大人になって、しゃくり上げて泣くなんて。

ノゾミちゃんに恨まれてもいい。

いまもただ、生き長らえさせられている、
すでに400gにも満たないだろう命の姿を
見ていると、とにかくつらい。

ノゾミちゃん自身の痛みや苦しみ、
周囲の気苦労、ムスメの将来、家族の将来、
そんなものを次々と考えては、
ただただこのまま、空に還してあげたいと思う
この母は、極悪なのか。



深夜に、ダンナさんに気持ちを吐露したら、
無意識から出た言葉に、答えがあった。

「赤ちゃんを産んで、ずっといっしょにいて、
 抱いてあげて、おっぱいも飲ませてあげて、
 本当なら幸せなはずなのに、
 ぜんぜん幸せじゃないんだもの」

ムスメのときには、おっぱいをあげるときに
はじけるような幸せがあって、
母親になった喜びを、文字通り
しみじみと噛みしめる瞬間があった。

そのことをよく覚えている。
(すでに一度、体験できているだけでも、
 幸せなことなのだろうけれど)

ムスメが今年の2月まで飲んでいたので、
出産してからすぐ、おっぱいをあげるのに
困らないほどの量が出た。

桶谷式に1年半通っていたから、
自ら手で搾るのも手慣れたもの。

だけど、ノゾミちゃんがいなくなっても、
出過ぎるおっぱいを想像すると、
あきらめからおっぱいを搾る回数も減り、
量も減り始めてきた。

街を歩くと、妙に小さな子供たちが目につき、
悲しくはないけれど、
おっぱいが出る身のせいか
ベビーカーに寝ている乳児を見ると
とてもかわいらしく、愛しくてたまらない。

ムスメの身体を見れば、お腹もふっくら、
肌はみずみずしくて、つやつやしているのに、

ノゾミちゃんの頬には、本来、
抜けて生まれてくるはずの産毛が
まだ濃く残っていて、まつげだと
思っていた毛が、実は体毛だったと気づいて、

(ムスメのときは、誕生時に
 まつげは生えていなかった)

この子は、乳児ではなく、
まだ胎児なのだと思い知るのだった。

こんなにも簡単な事実すら
わからなくなるほど、混乱していたのか。

わけもわからない、もやもやした悲しみが、
急にすとんと心の中に収まった気がして、

すこしだけ目の前の霧が晴れたように、
気持ちが落ち着く感覚があった。

「あの子の体温が失われる瞬間を思うと、
 すごく怖い」

そう告げると、ダンナさんも
同じ気持ちであることをはじめて知った。



明け方になって、ムスメが泣き出した。
昨日と続けて、二日連続の夜泣き。

泣くムスメに訊いてみると、
怖いものに追いかけられたと言う。

ただ、夜泣きで怖いものに追いかけられたと
言うわりには、泣き方が寂しげなのだった。

怖くて、わあわあぎゃあぎゃあと
泣くならまだしも、
しくしくと、これまで無いほど、
悲しげに泣くのだった。

ふと、想像したりもする。
もしかして、ノゾミちゃんが
お姉ちゃんであるムスメと遊びたいのかと。

久しぶりに抱っこ法を思い出して、
ムスメを横抱きにして、手を握り、
目をのぞき込むと、ムスメは抵抗しない。

力も抜けて、されるがまま抱かれている。
それだけでも安心した。

抱っこ法では、抵抗しないのは
心の傷が深くない証拠だから。

最近、とみにイヤイヤ君になっているムスメ。
電話がかかってくると、必ずといっていいほど、
「ムスメちゃん、またどこかにいくの?」と訊く。

ハハが帰ってこないと、妙に聞き分けがよくなり、
自分から歯を磨いたり、寝ると言い出したりする。

ムスメは赤ちゃんのことを訊かなくなった。

ムスメも小さい心を痛めている。









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最終更新日  2006年09月26日 11時10分23秒
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