べんとう屋のつぶやき

 



その4



 静かな部屋に響く携帯の呼び出し音。相方を起こしてしまわない様に慌てて出る。
「おはようございます。・・10時入りっすね。解りました。
えっ、ああはい、 夕べ・・・一緒に行きますんで伝えとってください。じゃ」
 寝室に戻ると横になったの光一と視線が合う。
 「あっ、目ぇ覚ましたんか?」
 起きたと云ってもまだぼんやりしている光一を驚かせない様に、ゆっくりと  額に手を伸ばす。
夕べ貼りつけた冷却シートは光一の熱を取ってくれていたが
 直に手を当てて見るとまだかなり熱は高いようである。
 「うーん、まだ熱下がらへんなぁ。目ぇ覚ましたんやから、薬飲んどこな。今 持ってきたるわ」
 相方の呟きにいまいち自分の状況が把握出来てない光一は、起きあがろうとする。
 「なん・・・や?カラダむっちゃ重いやん。起き上がへんやん。・・剛のパジャマ?」
薬と水とを持ってくるとベットの上に不安げな顔の相方がいた。
 「おまえ、夕べ珍しくネツ出したんやで。そんで、よれよれやったから  ウチ連れて来たんや。
ほっとくとなんもしないやろ?はよ薬飲んで少しでも  楽にならんと、今日も仕事やしな。」
 起きあがるのを手伝い少しでも楽になるようにと薬を飲ませる。
   効き始めたのか、うつらうつらとしている相方を起こす。
本当だったら  せめて一日位休ませたいところだが、
人一倍仕事を大切にする相方は  体調不良で無理やり休ませる事を許さないだろう。
 「もっとゆっくりさしてあげたいんやけど、時間や。着替えていこか。」
 ぼんやりしている相方の着替えを手伝い、荷物・・自分の鞄と唯一の荷物、  携帯を持つと
足元で心配そうに見つめているケンシロウに「行ってくるで。」  と声を掛け、
ふらつく相方の躯を支えながら車へと向かう。
途中、光一の  マンションに寄るとジャケットと靴を取ってくる。
 「なんや、この時期にサンダル履きってのもなぁ・・あと、アレや、コンタクト  確か予備のがあったはずなんやけど・・」
 それは几帳面な相方のこと、整理された引出しに入っていた。

  TV局の入り口で待っていたマネージャーに相方の不調を伝え、先に控室に  行ってもらうと、
進行の変更を頼む為にスタッフルームへと向かう。  そこで、メインMCを自分にしてもらい、
その次に衣装の人になるべく袖口、  襟元の詰まった服に変更できないか聞いて、
探してみますの言葉に安心すると  今度は、DBBのいる控室へと向かう。
 ようやく控室に戻ってきた剛は、ドアの前で新しい衣装を受け取る。
  収録は気力で持たせていたが、やはり相当ツライのであろう、控室に戻るなり  倒れ込むように横になってしまった。
 熱を出しても仕事をする、というのはどこの世界でもあることだが、
それに身体的  苦痛、精神的苦痛が加わった今日、
光一の躯にどれだけの負担が掛かっているのか・・
 顔色はメイクでごまかせても、声の震えやかすれはどうにもならない。
時折客席から
 「光ちゃん~大丈夫~?」と声が掛かっていたが、「大丈夫~」と返す声も心細い声  だった。


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