「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
100万ポイント山分け!1日5回検索で1ポイントもらえる
>>
人気記事ランキング
ブログを作成
楽天市場
291635
HOME
|
DIARY
|
PROFILE
【フォローする】
【ログイン】
25話 【Make Of!】
←24話
┃ ● ┃
26話→
25話 (―) 【Make Of!】
■ 透子 ■
幸せの絶頂にいるはずなのに、心に穴が開いている。
本当はそんなこと、気付いてはいけなかった。
だって、それでは認めたことになるじゃない。
不破犬君との一件で気落ちしているってこと。
そんなの、軽はずみでも思ってはいけないのだ。
私には伊神さんがいて、とても幸せなのに。ずっと願ってきた夢が実現したばかりなのに。
不破犬君を怒らせ、見くびり、傷付けてしまった昨日の言動を、今とても後悔している。
私はひととして最低な言葉を浴びせてしまった。気まずくて顔も合わせられない。
元より、不破犬君自身が私を避けるようになった。
己を慕ってくれてた人をないがしろにした罪は重く、そんな私が伊神さんと仲良くしているなんて。
素直に喜べない。後ろめたさに襲われる。
思わず漏れる溜息。気にしてる。かなり気にしてる。そこでまた「はぁ……」と自己嫌悪。
いけないいけない。ただでさえ今から仕事なのに。
振り切るように1歩を踏み出す。ローファーヒールの靴音が、ひと気のないフロアに響き渡る。
開店2時間前。客はもちろん、そのフロアには従業員も見当たらない。
化粧品コーナーを抜け、銘店を通過し、日用品雑貨へ。まだまだ足は止まらない。さらに移動を続ける。
やがて、人の声がクレッシェンドのように聴こえ始めてきた。青果、鮮魚の売り場だ。
市場で買いつけてきた活きのいい魚や野菜、果物がトラックの積み荷から次々と降ろされ、氷点下の空調に保たれている冷蔵庫へと運ばれる。
1分1秒を争う彼らは時間を無駄にしたがらない。鮮度を保つためにはスピードが1番だと、声を揃えて断言するほどだ。
鋭い指示を飛ばす口、絶妙な載せ方で素早く商品陳列する手。鮮度を見極める目。朝早くから彼らの感覚は研ぎ澄まされ、発揮されていた。
私は陳列棚を隔てた向こう側、対面式になっている鮮魚の作業場に向かって声を掛けた。
「おはよう、杣庄」
私の位置からは死角で見えないが、なんらかの魚を捌いていた杣庄は、顔をあげることなく「よぉ、透子」と気さくだ。
昨日は社員旅行があり、杣庄とは気まずい鉢合わせをしてしまった。それ以来、杣庄とは喋っていない。
杣庄は昨日の朝のこと、どう思っているんだろう? 心境としては、かなり複雑に違いない。
私を妹のように思っていると話してくれた杣庄。その私が伊神さんと朝を迎えたのだから、何かしら思うところもあるだろう。
けれど今は仕事中だ。私は心に渦巻いている不安要素的なモノを抑え込み、なるべく平然を装って杣庄に尋ねた。
「今日はどんな魚が出るの?」
値札が貼れない魚の有無を確認すると、杣庄は一気に告げる。
「がやめばる398円(さんきゅっぱ)、大あさり150円(ひゃくごじゅう)、れんこだい、ちだい598円(ごーきゅっぱ)、それぐらいかな」
「分かった」
一昨日とは異なったオーダーだ。今日は、するめいかとわたりがに、栗ガニの取り扱いはなし……と。値段も変動している。時価というやつなのだろう。
ふと振り返ると、見慣れないものが視界に入った。売り場にそぐわないので驚いてしまった。
「子供用のプール?」
スポーツコーナーで見掛ける円形のポンプ式子供用プールが通行の邪魔にならないよう設置されていて、中身はなんと金魚!
赤と黒のそれが、元気に泳ぎ回っている。
「あぁそうそう。それ売りものなんだ。金魚も登録しておいてくれ」
「値段は?」
「ポイ代200円にするか、1匹50円にしようか迷っててさ。どう思う?」
「どっちを選んでもいいようにすれば?」
確実に欲しければ50円で買い求めるだろうし、冒険心を満たしたければポイ代を支払うだろう。
「金魚か。風流ねぇ」
仕事中だということも忘れ、しばし見惚れる私。すると、「透子先輩、おはようございます」。
声のした方を振り向くと、千早さんが売り場に近付いてくるところだった。
「千早さん。どうしてここに?」
「透子先輩がPOSルームを出て行かれた後、青果のチーフに内線で立ち寄るよう呼ばれたので」
「わざわざ千早さんが来なくても、このあと寄ったのに」
「お盆商材の追加があるんだそうです。商品が多いとのことでしたので、透子先輩お一人では大変かと思っ……」
そこで会話が切れる。視線をちらりと動かした千早さんは、己の視界に入った見慣れないものを認識した瞬間、「き、金魚さんっ!」。
喜びを前面に押し出した声で、きらきらと目を輝かせながらビニールプールの水面を覗き込む。
「千早さんの反応は可愛いなぁ。さっきの透子なんざ、金魚も食いかねないほどの凝視だったからな」
杣庄がにやにやと笑う。さすがにイラッとした。八つ当たりだと承知しながらも、杣庄を見据えて告げていた。
「……私、今なら杣庄の舌を三枚下ろしにできる自信があるわ。殺る気満々、いつでもオッケー」
「やめてくれ。人間のタンなんて、考えただけでも怖気が走るわ……」
げんなりと杣庄は言った。これに懲りたら、二度と私を誰かと比較しないことね。
とは言え、大切な友人、杣庄への八つ当たり。これにもまた自己嫌悪。
とことん落ち込んで、それでも伊神さんを見れば心は浮き立つ。嫌なことも忘れられる。
素直な自分がひょっこり現れて、いつもなら恥ずかしくて口走れない言葉も、すんなり口を突いて出る。
……ねぇ、一体伊神さんがいなかったらどうなるの、私? どうなってたの?
■ 芙蓉 ■
「嘘でしょ? なんて言ったの、香椎? 『スグリキイチ』って聞こえたけど」
女子更衣室の中。がやがやと騒がしいのに、やけにクリアに聴こえた香椎の言葉。
疑う余地もなく、彼女は静かにこう告げたのだ。――昨日から村主稀一が来てるわよ、と。
信じたくない。心が無意識に無駄な抵抗をする。聴き直す、というやり方で。携帯電話を握る手に力がこもった。
どうか誤報でありますように。そう願いつつも、香椎がガセネタを掴まされるなどありえないのだから、今回も正しい情報なのだろう。
「昨日見たのよ。芙蓉の耳に入れておいた方がいいと思って」
「感謝するわ」
「潮さん、今日は出勤?」
「えぇ」
社員旅行に参加するため、一昨日の午後から昨日にかけてPOSオペレータ全員休んでしまったのだ。今日は3人体制で臨まなければならない。
「タイミングが悪いわね。そう言えば聞いたわよ、伊神君の話」
「相変わらず情報通ね。一体どこから……」
言い掛けて、それがどれだけ無駄な質問だったか気付く。鮮度の高いネタを知っていてもおかしくない。馬渕がいたのだから。
『歩く辞書』の異名を持つ香椎と、『歩く拡声器』として畏れられている馬渕がタッグを組めば、知り得ない情報などないに等しい。
電話を切り、溜息をつきながら私服のカットソーをハンガーにかける。
村主稀一がね……と、潮と因縁の仲である男の名を7年振りに呟く。招かれざる来訪者の件については潮本人に知らせるべきだろう。
更衣室を出て事務所に向かう。出勤の証であるIDカードの登録を済ませ、潮が来ていないか調べるために回転板式の名札を見やる。
潮も千早も既に出勤していた。ところがPOSルームに潮はいない。
「おはようございます、芙蓉先輩」
お盆用果物セットが載った作業用カートを牽引して戻ってきたのは千早だった。
「おはよう、千早。今日も私好みのいい女っぷりね」
千早歴が着用しているシフォンボウタイブラウスのリボンは綺麗に結んであるけれど、私は更に綺麗になるよう手直しをする。
「おはようございます。あの、あちらの男性が芙蓉先輩を呼んで欲しいと仰っているんですけど……」
心当たりは1人しかいない。案の定、千早が視線をやった方を向けば、懐かしいシルエットが伺えた。スーツ姿の男性が、私を見つめ返している。
「村主さん……!」
慌てて廊下に出る。片手を挙げて微笑んだのは、先ほど香椎から聞いた村主稀一そのひとだった。
「おぉ。八女ちゃん、おはよう」
「村主さん、どうしてここに?」
「あぁ、それがさ……」
バサバサッと荷物が落ちる音がして反射的に振り返ると、潮が呆気に取られた顔をして立っていた。
手に持っていた仕事用具の一切を床にぶちまけるほど驚いたのだろう。『潮、来ちゃダメ』。……今となっては空しい忠告だ。
「潮ちゃん。久しぶり!」
一方、潮の動揺など知ったこっちゃないと言わんばかりに村主さんの顔は明るい。
潮は彼を警戒するようにじりじりと3メートルの距離を保ちながら弧を描くようにPOSルームへ近付こうとする。
「な……何しに来たの?」
「御挨拶だなぁ。仕事だよ、仕事」
顔をしかめ、決して嬉しそうではない潮と、久し振りの再会を果たし、喜ぶ村主さんの無言の対峙は続く。そんな中、千早はこそりと尋ねてきた。
「あの……これは一体……?」
「あー、これね。昔、両片想いだったのよ、あの2人」
「両片想いってことは、付き合ってはいないんですね」
「えぇ。透子が入社したばかりで、伊神と出会う前の話よ。社内では結構冷やかされたりしたのよね」
(いまさら焼け木杭に火が付くってこともないだろうけど。潮は落ち着かないでしょうね……)
長い付き合いだから分かる。
潮は今、結構イラ立ってるわよ。
■ 透子 ■
村主稀一。
岐阜店時代の、右も左も分からない社会人1年目。そんな時に優しく接してくれたのが村主さんだった。
事務所詰めの若きプリンスは、当時入社4年目。
分かりやすく言えば八女先輩の2個上で、柾さんと麻生さんの1個先輩に当たる。
ということは、だ。今は御年34歳。本部にいるという話だから、順調に階級を上がっているのだろう。
クールビズ期間だからノーネクタイでも構わないのに、村主さんは爽やかなパステルグリーンとライトグレイのストライプネクタイを締めていた。
こういうきっちりしたところ、昔と変わってない。
艶やかな黒髪もそのままだし、女の私から見ても羨ましいぐらいの、ハッとする二重瞼は今もなお健在だ。
面食らったのは、柾さんや麻生さんランクの色気が漂っている点だ。
現場で鍛えてから先鋭部隊の本部で手腕を発揮し続けている経歴の持ち主だけに、それは何物にも勝る自信となっているのだろう。
それが溢れ出ている。月日の経過と彼の努力が比例している事実に他ならない。
だから余計、ここに村主さんが居ることが場違いのように思えた。
「何しに来たの?」と、歓迎というよりかは傍迷惑な口調で聞き出す。
「先日部署異動があってね。POSシステムを担う部署に配属されたんだ」と村主さんは垂れ目気味の目を私に向けた。
「POSシステムをバージョンアップしたろ?
設置する際に説明があったと思うが、この新機能を搭載したのはネオナゴヤが記念すべき1店舗目でね。システムの先駆け的存在なんだ。
来週2店舗目が誕生する。今回俺が来たのは、こいつの具合を確かめに来たのさ。使いやすいかい?」
私の記憶が正しければ、社員旅行中に八女先輩は新機能について手離しで喜んでいた。
POSオペレータ全員が一斉に参加できたのもこの機械のお陰だと褒め称えていたのに、まさかこんな展開を迎えるとは。
「……お陰さまで」
「そうか。それはよかった」
それから真面目に質疑応答がなされ、通常業務と並行して村主さんの確認作業は進んでいった。
*
私、八女先輩、千早さん、そして村主さんの4人で昼休憩に行くことになった。向かう先はテナントの回転寿司店。
1皿100円がウリの寿司屋は、なんと言っても杣庄のお墨付き。それならば行かない手はない。
混雑時のピークを過ぎたお陰もあって、すんなりとテーブル席に案内された。
レーン側には八女先輩と村主さんが。八女先輩の隣りに私、村主さんの隣りに千早さん。
ガリ、あがり、むらさき、なみだ。村主さんがそれらを手際良く用意してくれる。肩身が狭いほどだ。
お手拭きで手を綺麗にしながら、「さぁて」と戦闘態勢。
ベルトコンベアで運ばれる皿を眺めすかめつ、すっと手が伸び、鮪といか、海老の皿を掴んだ。それを千早さんの前に置く。
「千早さん、他に何食べたい? 遠慮せず言ってくれよ。タッチパネルが届かない位置にあるし、そこだと皿も取れないだろ? 俺がやるから」
「ありがとうございます」
千早さんは持ち前の人見知りっぷりを発揮しながら恐縮しきっていた。
一方、レーン側の芙蓉先輩に「サーモンアボカドとネギトロとサバが食べたいです」と伝えた私は、多いから待てと却下されてしまった。
この席は失敗だ。
それぞれ2皿ずつ食べ終えた頃、八女先輩が村主さんに質問をし始めた。
「村主さん、ご結婚は?」
「いいや。してないし、彼女もいないよ」
「へぇ、そうなの」
そう受け答えた八女先輩は、ちらりと私の方を見る。その表情は複雑そうだ。
……え、なに? 今の、どういう意味だったの?
「八女ちゃんは杣庄から告白されたんだってな」
「そうか、村主さんは本部ですもんね。当然例の件を耳にしてるわけだ……」
苦笑いをしながらも、八女先輩は肯定の意を示した。
「成就おめでとうな」
「ありがとうございます」
「潮ちゃんは?」
は? 私?
この質問には困惑せざるを得ない。
とは言え、この手の質問にはハッキリ、キッパリと断言しておけなければ。第二の都築誕生を未然に防がなければならない。
「結婚はしてないけど、彼氏はいる」
言ってやった! 先手必勝とばかりに宣言してやった! これで少なからず牽制できただろう。
ところが、何を思ったのか村主さんはこう尋ねたのだ。
「透子は年上好きだったよな。柾か麻生じゃ……」
「はぁ?」
顔を思い切りしかめる私に、その名に過剰な反応を示して顔を真っ赤に染めたのは千早さんだった。
開いた口が塞がらない千早さんをよそに、村主さんの頓珍漢な推理は続く。
「ひょっとして青柳か? 待てよ、ここには千早凪がいたな。凪という線も……」
「あのねぇ。社内中の男性社員を私の彼氏候補にしないでくれる? 柾さんたちに失礼でしょ? 伊神さんよ!」
「……伊神?」
突然呆けてしまった村主さんに私はたじろいだ。
「な……何よ? 伊神さんのどこがいけないって言うのよ!?」
「本当に伊神が好きだったのか。あのさ、どうして伊神なんだ? 言っちゃ悪いが、都築の件からずっと不思議だったんだ」
「お願いだからこんな話させないで。伊神さんは、それはそれは優しいんだから!」
「村主さん。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ――ですよ。
単に『イケメンだ』ってノロけらるより、『優しくて頼りになる』という評価の方が、聞いててハラハラしません?
そこに容姿も加われば、そりゃもうダメ押しの一手。太刀打ち出来ないし、エネミー確定。ショックなのは分かりますけど」
「いや、違うよ。俺は潮ちゃんとよりを戻したいとか、そういうんじゃなくて」
「あら、そうなの?」
八女先輩は目を瞬かせた。まいったなーと、村主さんは苦笑さえしている。
「潮ちゃんへの未練はないよ。ただ、情報を小耳に挟んだもんだから、真実が知りたくて。
風の噂で聞いたんだ。都築のこと、凪のこと……。でも情報に尾びれが付きまくってて……。ぐちゃぐちゃなんだよ。錯綜してる。
中には『これは絶対ウソだろう』っていうような荒唐無稽な話も幾つかあってさ。これでも心配してたんだ。『潮ちゃん、大丈夫かぁ?』って」
「それはどうも……」
「あぁ、あと千早歴さん」
「は、はい!」
急に名前をフルネームで呼ばれた千早さんは、しゃきっと居住まいを正した。
「本部に噂があってね。鬼無里三姉妹が喧嘩をしてるって話なんだけど。心当たりある?」
「……いいえ、存じません。……お願いです、どうか嘘だと仰って下さい。私と兄の平和のためにも……」
千早さんの目は虚ろだ。明らかに動揺している。
「いや、すまん。だが……そうか、知らないのか。把握しておきたかったんだがなぁ」
どうやら本部は本部で大変そうだ。
*
昔のよしみ、旧知の仲。私と村主さんの関係はもはやその程度でしかないと思っていた。
でも向こうはそうじゃなかった。私に関する噂を聞いて、彼なりに心配してくれていたのだ。
その優しさに報いるためにも、そしてこれ以上誤解が生じないためにも、正しい情報を提供しておきたかった。
ほだされたわけではないが、私は話せる範囲内で村主さんに報告した。聞き終えた村主さんは「大変だったんだな」と同情の目で私を見やる。
「俺が言うのもお門違いだろうけど、潮ちゃんが元気そうで安心した」
「村主さん」
「それに、皆も。色々あったのにきちんと前進してて、なんだか嬉しいよ。勇気貰った。
……さてと。ここでの仕事も終わったし、これから凪の野郎を捕まえて遊んでやるか」
その言葉が解散の合図だった。
支払い方法で一悶着あったものの、村主さんの「経費。以上」という一言で誰しもが押し黙った。
店を出ると、村主さんと横に並ぶ形になっていた。
それは恐らく自然の成り行きだったんだろうけど、八女先輩たちが意図して仕組んだのかなと思えなくもない。
村主さんとこうして話すことも、ないかもしれない。だから気の利いた会話が出来ればいいと思った。でも、何も言葉が出て来なかった。
「元気でな」
「うん。村主さんもね」
別々の道を歩んでいた2人が、ある日を境に同じ道を歩み出して。繋がっていたその道も、やがて時が経つと再び分かれ、歩む先も別々に。
それがヒトの『出会い』、『別れ』。
そんな関係を幾つも、数多もこなして。そうして今の私が在る。私たちが在る。
村主さんともそうだった。でも今、私が共に歩んでいるのは伊神さんだ。
それは私が伊神さんを選んだから。村主さんを選ばず、不破犬君を選ばず、伊神さんを望んだから。
でも。
……でも。
はっきりと自覚した。
村主さんと友達でいられる道を、私は今から選びたい。このまま赤の他人になる未来なんて、私は嫌だ。
「村主さん。メアド教えて下さい」
私の言葉に村主さんは「えぇ?」と驚く。
「俺の? 知りたいの? どうして」
「気が変わりました。何だかこのままではいけないような気がして。村主さんとはお友達でいたいんです。これからも」
一度は同じ道を歩んだ。それは楽しかったからだ。
それなのに、『道を違えたから縁を丸ごと切る』のは寂しいことだと、今になってやっと気付いたのだ。
本当なら消滅していた縁。そのまま霧消していったであろう関係。それは、なんか、嫌だ。
「恋愛感情、未練、私もないです。その点はちゃんと保証します」
「……何気に言うことキツいよな、お前」
「これからも相談に乗って下さい。友達でいてください。村主さんとまた、楽しい報告とかし合いたいです」
村主さんの悪いところも知っているし、いいひとだということも知っている。それは私も同じだ。お互い様。
「そいつは光栄だ」
好きだった頃と同じ笑顔がひょっこりと顔を覗かせる。変わらぬ、魅力的な笑顔だった。私も笑い返す。
笑顔にしたい人がいるならば。未来を通して一緒に笑い合いたい相手がいるならば。素直にその心に従おうと思った。
そしてそれは不破犬君にも当てはまった。
村主さんと同じように、不破犬君と友達でいられる道も、私は選びたい。
仲違いのまま赤の他人になる『行く末』なんて、やっぱり嫌だ。
ひととの関係は、そう易々と壊していいものじゃない。手離していいわけじゃない。
取り戻す。取り返す。
毒舌で、年下のクセに生意気。それでいて一本杉のような図太い芯を持っている不破犬君が、私はひととして好きだ。だから奪還する。
育みたいのは友情。
私が不破犬君を求めたことは一度としてなかったけれど、それは単に、彼の好意に甘えていたからだ。
避けられている今、今度は私が動く番だ。
天邪鬼という鎧を脱ぐだけで、こんなにもシンプルで、単純明快な解答にあり付けた。まるで目から鱗。
まずは1歩。
2歩目もきっと、ほら。
――大丈夫。
2012.10.05
2019.12.28
←24話
┃ ● ┃
26話→
ジャンル別一覧
出産・子育て
ファッション
美容・コスメ
健康・ダイエット
生活・インテリア
料理・食べ物
ドリンク・お酒
ペット
趣味・ゲーム
映画・TV
音楽
読書・コミック
旅行・海外情報
園芸
スポーツ
アウトドア・釣り
車・バイク
パソコン・家電
そのほか
すべてのジャンル
人気のクチコミテーマ
鉄道
485系:特急「いなほ」(貫通型)
(2024-12-03 07:13:39)
『眠らない大陸クロノス』について語…
チケット系の意見 個人的なまとめ
(2024-10-24 04:28:14)
アニメ・コミック・ゲームにまつわる…
【転生貴族、鑑定スキルで成り上がる…
(2024-12-03 07:00:13)
© Rakuten Group, Inc.
X
共有
Facebook
Twitter
Google +
LinkedIn
Email
Design
a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧
|
PC版を閲覧
人気ブログランキングへ
無料自動相互リンク
にほんブログ村 女磨き
LOHAS風なアイテム・グッズ
みんなが注目のトレンド情報とは・・・?
So-netトレンドブログ
Livedoor Blog a
Livedoor Blog b
Livedoor Blog c
楽天ブログ
JUGEMブログ
Excitブログ
Seesaaブログ
Seesaaブログ
Googleブログ
なにこれオシャレ?トレンドアイテム情報
みんなの通販市場
無料のオファーでコツコツ稼ぐ方法
無料オファーのアフィリエイトで稼げるASP
ホーム
Hsc
人気ブログランキングへ
その他
Share by: