5月25日に緊急事態宣言が解除されたが、CMをオンエアした企業、銘柄、作品のオンエア件数はいずれも前年同期比85%程度にとどまり、新CM数は384作品から262作品にまで減少した。
CM好感度の1位に輝いたのはゼスプリ インターナショナルジャパンが5月4日にオンエアを開始した『ゼスプリ キウイフルーツ』のCMだ。
キャラクターのキウイブラザーズが出演するシリーズは今年で展開5年目。本作ではキウイブラザーズがジョギングや筋トレなどさまざまな健康法に挑戦するも挫折してしまう様子を、「♪ヘルシーは好きなことを楽しみながら」といったCMソングに乗せて映し、「好きなことなら長続きできるよ」という呼びかけと「ヘルシーを、やみつきに。」のコピーで締めくくった。
■メッセージが伝わるように長編CMで訴求
オンエア開始当初は60秒CMのみをオンエアし、5月25日以降は15秒CMを中心に展開した。同社マーケティング部APACマーケティング本部長の猪股可奈子氏によると「ヘルシーを、やみつきに。」というコピーはグローバルキャンペーンのタグライン「Make your healthy irresistible」を訳したもので、このメッセージをわかりやすく伝えるためには長尺でなくては難しいと判断されたそうだ。
また新型コロナウイルス感染拡大を受け、声高に押しつけるメッセージにならないようCMソングの曲調や歌詞などを心温まる内容に変更したという。本作は小学生などの若年層や50代の女性を筆頭に幅広い世代から支持を集めた。シンガーソングライターの岩崎愛が歌う、ゆったりとしたテンポのCMソングやかわいらしいキャラクターの姿に心を和ませた視聴者が多かったようだ。
調査モニターからは「キウイのキャラクターがとてもかわいい」「アコースティックな曲に癒やされる」「幸せな気分になる」といったコメントが見受けられた。またコロナ禍で健康への関心が高まっていることもあり、「体にいいことは疲れるなどの歌詞に共感」「好きだから続けられるの言葉に納得」などの感想も寄せられた。
2位はアサヒ飲料の『三ツ矢サイダー』。大野智と二宮和也がサイダーの飲み方に表れる嵐のメンバーそれぞれの個性について「人の世話を焼く人」「ポーズに隙がない人」などとコメントする姿を描いたCMが女性層を中心に得票した。
3、4位にはKDDI『au』の作品が並んだ。前者は来店回数の“上限”を超えたため竜宮城に入場できない浦島太郎(桐谷健太)をコミカルに描いたCMで、データ容量の上限がない料金プランを訴求した。後者は「三太郎」シリーズを初めてアニメ化した新CMで、6月前期の新CMで最も高いCM好感度を獲得。
三太郎にしっぽが生えていると指摘された大黒天が「ポーン!」などと言いながら彼らの目の前でタヌキの姿に戻ってしまう内容で、『au PAY』による支払いで『Pontaポイント』が貯まることをアピールした。
本作はコロナ禍の影響により、おなじみのキャストがそれぞれ別の収録ブースから音声をリモート収録して制作されたという。また三太郎CMの初のアニメ化を記念し、本作のCMカットのぬり絵作品を募集するキャンペーンを展開。
投稿されたぬり絵を使ったアニメCMは、7月下旬に公開される予定だ。これまでどおりの撮影ができない状況を逆手に取り、デジタルとアナログをかけ合わせた斬新なアイデアで乗り切る姿勢は年間のCM好感度でナンバーワンを独走するauならではの取り組みと言えよう。
■90秒3回オンエアでも支持を集めた『ボス』
トップ10以下で注目したいのは24位にランクインしたサントリー食品インターナショナル『ボス』のCM。トミー・リー・ジョーンズ扮する“宇宙人ジョーンズ”が「今日は、この惑星の住人たちにいくつかのアドバイスがある」と語るシーンに始まる。
滝に打たれる姿に「とにかく全力で手を洗おう」、コンビニ店員として働くジョーンズがボスの品出しをする姿に「もし缶コーヒーが飲みたくなったら、さっと買って、さっと出る」といったナレーションを重ねたほか、ラストでは人の少ない渋谷のスクランブル交差点の風景を映して「この惑星の住人は…やるときは、やる」というジョーンズのセリフで締めくくった。
過去の同シリーズの一場面とともに新型コロナウイルス感染症への対策や心構えを90秒で伝えた。本作は2006年のCM開始以来、14年間で制作した90作以上の中から19のシチュエーションをピックアップして制作。通常のCMはジョーンズが本国へ地球でのできごとをレポートするというフレームだが、このCMでは彼が初めて地球人にアドバイスをする様子を描いた。
懐かしいシーンの数々にクスッと笑えるユーモアを乗せて展開するもので、医療従事者へのねぎらいも交えたジョーンズの温かいまなざしが心に響く秀作だ。テレビ朝日『アメトーーク!』の特番をはじめ3回のオンエアにもかかわらず多くの支持を集めた。
当期は過去に制作されたCMを再びオンエアする“再放送”CMも注目を集めた。
日清食品は2018年8月10日に誕生した『チキンラーメン』のCMを再開。布団の上で「チキンラーメン飽きた」とつぶやく新垣結衣の前に“ひよこちゃん”が現れ、サバの缶詰と麻婆豆腐をそれぞれ加えた食べ方を提案する内容だ。今回は5月25日から月末までの1週間の放送で30代の女性を中心に得票し、総合5位にランクインした。
■リモート制作など試行錯誤しながらの発信続く
また同社『どん兵衛』は2017年10月開始のCMがトップ20入りを果たした。CMは吉岡里帆扮する“どんぎつね”が天ぷらそばを食べる星野源に「なんできつねうどんじゃないんですか?」などと問い詰めるストーリー。
今年4月にこの作品で描かれたエピソードを星野源が1人で再現するCMを開始し好評を得たが、吉岡と共演するオリジナルCMはさらに高いCM好感度を獲得した。このほか日本コカ・コーラも山田孝之と広瀬アリスが会社の先輩と後輩を演じる『ジョージア ジャパン クラフトマン』のCMを1年ぶりにオンエアし、当期も好スコアを記録した。
今期はこのほかにも撮影現場での“3密”を避けるために、すべての工程をリモートで制作したCMも相次ぐなど、各社が試行錯誤しながらもCMの発信を続けている様子が見て取れた。
在宅時間が長くなりテレビの視聴時間が伸びている今、すぐれたクリエイティブのCMであれば平時よりも一度に多くの人の心に届く可能性があるとは考えられないだろうか。制約の多い時代だからと諦めず、それぞれのブランドらしさと「今できること」を掛け合わせた魅力的なCMの誕生に期待したい。
関根 心太郎 :CM総合研究所 代表
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