ジーパンに白スニーカー
語り継ぐ吉田拓郎スタイル
コラムニスト いであつし
2022/7/29 @ニュースなルック
吉田拓郎氏が52年の音楽活動に年内で終止符を打つ引退宣言をして、ラストアルバム『ah-面白かった』が発売された。1970年代のデビュー当時から彼の歌を知る世代にとっては「たくろう」と呼んだほうがいい日本を代表するフォークシンガーであり、数々の名曲を生んだレジェンドアーティストだ。
悲しいかな筆者はギターも弾けないし楽譜も読めない音楽オンチで、音楽配信サービスというやつも一度も使ったことがないアナログオヤジであります。ということで今回のニュースなルックは音楽ではなくファッションから、引退宣言をした偉大なるレジェンドアーティスト、吉田拓郎氏について考察してみたい。
とにもかくにも、吉田拓郎氏の引退宣言のニュースはショックである。筆者は正確には70年代に吉田拓郎氏の曲や深夜放送を夢中で聴いていたドンズバなフォークソング世代ではない。それでも、「結婚しようよ」や「人間なんて」、「夏休み」、「今日までそして明日から」、「落陽」etc…。知っている曲が何曲も出てくる。とくに「落陽」は大好きな1曲。あれはボブ・ディランの「風に吹かれて」にも匹敵する名曲だと思う。
フォークシンガー、ファッションも「先端」
ギターも弾けない筆者とは違って、3つ年上の兄貴は中学生の時にどっぷりとたくろう(あえてそう呼ばせてもらいます)にハマっていたフォークソング世代である。兄貴の部屋には地元静岡の楽器店「すみや」でこづかいをためて買ったフォークギターと、『guts(ガッツ)』や『ミュージックライフ』、『ヤングギター』といった音楽雑誌がメンクラ(メンズクラブですね)と一緒に積まれていた。ギターは弾けないけれども雑誌は好きだった小学6年生の筆者は、兄貴の部屋に入ってはファッション誌のメンクラとそういった音楽雑誌もこっそり見ていた。
忘れもしません、その時に初めて見たのが、あれはgutsのグラビアページだったか、泉谷しげる氏が裸で着ていたLeeのオーバーオールだ。当時流行っていた日本製のビッグジョンやボブソンのそれとはあきらかに違って、古着のようにいい具合に色落ちしたオンスの薄いデニムで胸元のポケットに小さく「Lee」のロゴが付いている。後になって、それは『メイドインUSAカタログ』に出ていたLeeのオーバーオールと同じものだと知る。
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70年代ファッション 映像が掘り起こす記憶
70年代のフォークブームは、フォークシンガーがファッションもイケてる時代であった。基本、彼らのスタイルはベルボトムのジーパン(ジーンズではなくジーパン)に、チェックのウエスタンシャツやネルシャツや、ナンバリングが入ったカレッジTシャツなどを着て、靴はキャンバス製のズック(スニーカーという呼び方はまだなかった)。もちろん髪形は耳まで隠れる肩まで伸ばしたロングヘアー。いわゆるアメリカ西海岸のヒッピーファッションである。たくろうも、陽水(井上陽水)も、泉谷しげるも、小室等も、「かぐや姫」の南こうせつや山田パンダや伊勢正三も、先日亡くなった山本コウタローも、みんな当時渋谷の道玄坂にあった「シップス」の前身の『ミウラ&サンズ』の店員のような格好をしていたのだ。
70年代ファッション 映像が掘り起こす記憶
どんなにレコードが売れてメジャーになろうとも、いつもベルボトムのジーパンにシャツの裾を出してスニーカーというスタイルで、アコースティックギター1本で歌っていた吉田拓郎氏。彼のなにがすごいって、今ではごく当たり前のことだが、単独全国ツアー、大規模野外コンサート、アーティストによる会社設立など、どれも日本で最初にやったのは吉田拓郎氏なのである。
例えば、伝説のオールナイトコンサートと言われている「吉田拓郎・かぐや姫コンサート イン つま恋」。今でいうフジロックのような夏の野外フェスで、75年8月2日と日付をまたいで8月3日の2日間にわたって、静岡県掛川市のつま恋多目的広場で開催された野外オールナイトライブコンサートだ。
原稿を書くにあたり、YouTubeで「吉田拓郎・かぐや姫コンサート イン つま恋」を見たのだが、いやぁー、たくろう、カッコよすぎる! 頭にバンダナを巻いてアコースティックギターを抱えて落陽を歌う姿なんて、まるでボブ・ディラン。つま恋にたくろうを聴きに集まって来た当時の若者たちのファッションもいい。ベルボトムのジーパンにシャンブレーのワークシャツやナンバリングの入ったタンクトップを着て、頭にはみんなチューリップハット。上半身裸でリュックサックを背負ってやってきたバックパッカーの若者もいたりする。ウッドストックのような野外フェスが、日本でも70年代にたくろうたちによって開催されていたのである。筆者も取材で5年前に静岡県のつま恋に初めて訪れた。今でも野外コンサートが開催されたつま恋には、ギターを抱えたヒッピーファッションの若者の像が記念に建っている。
面白いのが、吉田拓郎氏、井上陽水氏、小室等氏、泉谷しげる氏がつくったレコードレーベル会社『フォーライフ』で、4人がつま恋の野外ライブコンサートの打ち合わせをしているシーン。当時のフォークシンガーが集った70年代の表参道を歩く若者たちの映像が出てきたりする。ちょっと前まで『モントーク』(カフェ)があった場所には『カフェ・ド・ロペ』が映っていたり、かぐや姫の3人が伝説の喫茶店『ペニーレーン』で深夜に打ち合わせしていたりする。これはこれで貴重な70年代ファッションとカルチャーの資料にもなっている。
今の装いはプラダやジレでも…
引退宣言をした吉田拓郎氏の公式HPで、何十年ぶりに伝説のオールナイトコンサートを行ったつま恋を訪れる映像を見た。当時の楽屋に使われた場所や、若者たちが集まった会場になった広場の芝生に寝っころがったりする吉田拓郎氏。もう髪も肩まで伸ばしていないし、色付きのサングラスを掛けているし、白いTシャツに羽織っている薄いグレーのショートブルゾンは、あれはおそらく『プラダスポーツ』のものだ。そういえば最後のテレビ出演になった『LOVE LOVE あいしてる』でも、ノータイで白いウイングカラーシャツにジレを着たジャケットスタイルでKinKi Kidsと落陽を歌っていたなぁ。
でもね、髪が肩まで伸びていなくてもプラダを着てもジャケットスタイルでも、やっぱりたくろうは今でもジーパンに白いスニーカーなのだ。それがたくろうのスタイルなのだ。久しぶりに、渋谷のタワーレコードに行って、吉田拓郎のラストアルバムになる新譜と、そうだ、『落陽』の入ったCDアルバムも買ってこようかな、サブスク? なにそれ。
いであつし
1961年静岡生まれ。コピーライターとしてパルコ、西武などの広告を手掛ける。雑誌「ポパイ」にエディターとして参加。大のアメカジ通として知られライター、コラムニストとしてメンズファッション誌、TV誌、新聞などで執筆。「ビギン」、「MEN’S EX」、JR東海道新幹線グリーン車内誌「ひととき」で連載コラムを持つ。
青春の詩 (アルバム)
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