1. 決意

2人目出産顛末記


1.決意

 午前9時5分。ついに産院に電話をかける時間を迎えてしまった。この瞬間まで待ちわびていた陣痛は、とうとう来てくれなかった。覚悟を決めて、受話器を取った。

「先週の妊婦健診で、この週末までに生まれなかったら月曜朝イチで診察を受け、その結果次第で誘発分娩を行なったほうがよいと先生に言われていた者です」

 「診察の結果次第で」というのは、「特に問題がなければ」との意味合いだ。子宮口が5cm開いているという、いまの私の状態では、おそらくは95%以上の確率で誘発分娩になるだろう。

 先週水曜日、39週で受けた妊婦健診で、胎児の推定体重が3500~3600gと大きめであるため、予定日(17日)を過ぎたらなるべく早く出産したほうがよいと、誘発分娩を促された。
 9月末から「すぐにでも生まれそう」な状態であると言われ続け、10月はじめには「おしるし」まであったのに、陣痛はいつまで経ってもやって来なかったが、まさか誘発することになるとは考えてもいなかった。赤ちゃんが生まれたいと思った時期に自然に産んであげられないかも知れないということに、ショックを受けた。以来これまで以上に熱心に散歩や階段上り下り、乳頭マッサージを行ないながら、なんとか自然に陣痛が訪れないものかと待ったのだが、おなかは強く張るだけで、陣痛には至らなかった。それはもうブルーな日々だった。

 20日にハッキリと分娩予約をしてきたわけじゃない。逃げてしまおうか。夫も月曜日よりは週半ば以降の出産のほうが、仕事のスケジュール的を考えると駆けつけやすいと言っている。
 それに正直、こわい。「陣痛誘発・促進剤で起こす陣痛はいきなり最大の痛みになることがあり、徐々に強まる自然の陣痛よりも痛く感じる」というような話を聞いたことがあるからだ。インターネットで検索すれば、陣痛促進剤使用による医療事故に関する記事が数多くヒットする。情報を得ようとすればするほど、こわくなるばかりだ。

 いろんな要素が絡み合って直前まで迷いに迷ったが、20日朝、里帰り先の実家から直接出勤する夫を送り出す時に覚悟を決めた。
「今日、産んでくるよ」
 そう告げると、彼は
「がんばれ」
 と言った。

 陣痛が来るまで待ちたい気持ちは変わらず抱いていたけれど、とにかく無事に赤ちゃんを産むのが優先で、そのためなら産む方法は関係ないなと、急にふっきれたのだ。かくして陣痛の来ぬまま、10月20日(月)午前9時5分を迎えたのであった。


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