片眼鏡

片眼鏡

2022.06.02
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後添えの若妻をいびり倒し、酒に酔っては暴力を奮う男。このままでは殺されてしまう。女は勇気を持って、金も名声もある男を相手に立ち上がる。殴られて頬を赤く腫らした女は、裁判所に駆け込んで、最悪の夫から身を守る。世間も味方につけ、見事離婚を勝ち取った女は、彼女を支え続けた友人と共に新しい人生を歩みだすのだった。

世は進み、勇気の告発が増えるにつき、権力を笠に弱い女性を虐げてきた男たちの正体があばかれ、過去の非道の数々が衆目にさらされる。酒乱の夫の魔手を逃れて今は平和に暮らす彼の女も、押さえつけられ犯された日々をいかにして生き延びたのか文にして表明し、世の女性の旗印とならんとする。

さて、世間に疎まれ身を低くして暮らしていた酒乱の男は、過去の所業を蒸し返されいつまでも呵責に耐えなければならないのを良しとはしなかった。なんとなれば、一度は愛し妻と選んだ女を幸せにできなかった非は認めるが、少なからざる慰謝料を払い別れた女に、ことあるごとにワイフビーター(妻を殴打する者)と騒がれたのでは営業もままならない。母に虐待された幼少期を生き抜き、努力と才能で世界的な成功を収めた男にとって、彼の女もその友人たちも、才能もなく人にたかるだけの寄生虫だった。靴に入り込んだ小石のごとく、わずらわしい躓きの石だった。

男は、扇情記事で彼を追い込んだ大衆紙の出版元を訴えて負けていた。世情は彼に不利であった。正義は女にあった。男の口から出たものは言い訳とごまかしだった。

しかし男はあきらめなかった。かつて男の弁護士だった男が、彼の女の醜聞を流すと、男のことを長く知る者の中から、男の無実を訴えるものが出始めた。男はこれを追い風に、証拠を集め、女の嘘を暴き、自らの名誉を回復することを訴えた。世情の変調は女の生活を乱し始める。女はこれを傷に塩する非道として、逆に男の嘘を訴える。

弱い女は被害者で、強い男は加害者である。彼の女と一味は、今回もこの論理で調子を付けるつもりだった。しかし、女は最早弱いだけの性ではなくなっていた。性差別をなくし男女平等をめざす努力が、皮肉にも陪審員に事実だけに基づく公正な判断を促す結果となったのか。男が暴力を振るうなら、女も振るってもいいだろう、女が泣き寝入りするように男も泣き寝入りすることもあるのではないか、男が嘘つきなら女も嘘を言ってもいいだろう。意識・常識がそんな風に変わったのは確かだ。

とにかく、彼の女は情にも知にも訴えることはできず、嘘つきの烙印を押された。まだアッピールの機会はあるが、汚名返上の余地は少ない。名は落ちるところまで落ちて、開き直ってひどいあだ名を受け入れるか、まったく改名してしまうか。人前での活動は相当覚悟がいるだろう。

小生は個人的に彼の女にも男にもこれ以上賞罰を与える必要を感じない。職業的な才能があるのなら発揮して欲しい。本邦に来て活動するなら応援するだろう。

ただし、この騒ぎが女性からの正当な訴えに与える悪影響は否めない。男性からの訴えには味方となるだろう。印象操作と世論誘導だけで正義を成すためには、それなりの演技力と社交力が必要だ。



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Last updated  2022.06.02 09:50:23
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