たからくんが大人になるまで生きていたい日記

たからくんが大人になるまで生きていたい日記

タイトル「上弦の月」


「上弦の月」



向こう見ずだから眠れる起きられる



立ちくらむ刹那 私は放たれる



鏡が矢を引く誰よりも至近距離



つぶて呑むたび私の海がせり上がる








上弦の月につられて笑おうよ



強情な小鬼 眉根にぶらさがる








アスファルト割る タンポポは瓢瓢瓢



笑わせるたびに虚ろな海を曳く



鬼の子は人間ごっこして遊ぶ



うぬぼれに触れられ痛む髪の先







ばりっと日めくり今日を捨てねば明日は来ぬ



目的も理由も霞 疾駆する








それでも生きていたい 第九また歌う



ふうっとひと吹きルサンチマンの海の霧



シャボン玉おまえはいいな消えられて



逃げ出せばなおなお深くなる樹海



ジ・コ・カ・ン・リ 音の響きが気に障る



私とわたし そろそろ愛し合わないかい



化粧品一式を買う さよなら私



素直になりたい素直になれない手の鱗





幻滅っていいな わたしが生き残る



「つう」のように我が羽を抜く作句する



裂けて石榴やっと涙が流れ出す








ピルケースからから 命渇く音



傘の裏に青空描いて持ち歩く



商売にもならぬストリップが続く





桃すすり自分を嫌い人嫌う



母の子宮に溶けて消えたいアリスの日



母さまの真綿の愛に蹴躓く



撫でられもつねられもしてからの好き




対座してブランコみたい家なんて



友達だった人よコーヒーは苦いね



電話機に頭すりつけノルマ追う



重税よ せめて信頼させてくれ





まだ明るくて四時は会社の所有物



文面の底に海坊主が見える














多数決という戦車につぶされる



赤い爪 意地を十枚ためてある








冷凍庫の奥へ泣き言ラップする



あしたへと届け梯子に水をやる



ヒールかっかっ行進曲も自前です



肩胛骨が翼ですか ツイギーたち



コップにも洞窟がある無職の昼



胸襟を開く加減も思いやり



夏だけの彼氏と思うアイスコーヒー



そうねとだけ言うごみ箱でいてあげるよ





ほほ笑みを返してくれただけで好き



同じ本手にとる人を待ちつづけ



胸の波凪ぐまで歩く雨の夜








逢える日は平気で待てる吹きさらし



メモ貼った缶コーヒーにお陥落ちました



置き傘はあなたに貸せるように紺





さよならが沈むコーヒー飲み残す



破れてもまた風船を買っている



紅差し指であなたの跡にそっと触れ



まだ好きで賀状の束に混ぜてある







一か八かサボテン咲いてみるつもり



もう化けてやらん 誉めてくれないもん








葱坊主の精一杯も気づいてよ



スコーンと青空 身もふたもない朝帰り



犬ころになってしまうよ 君が好き



矢印に似た雲の先 君の街



耳たぶに穴開けてまで欲しいもの



写真破っても質量保存法則よ



マッチ擦るまた擦る 諦めるために



耳たぶに好きな人揺れ見合いする





オノマトペだけでうふふふ日記書く



春匂う気球がポンと離陸した



あなたへの手紙今なお風に書く







翔びたくて汚れています白木蓮



妻のある男を想う砂の時



この恋は忘れない ピアスの穴あける





感情線もつれもつれて掌に負えず



アドレス帳べりっ 弱虫の羽化の音



くまちゃんを離すと凍えてしまうの



灰の底にあなたを隠しているのです




春夕焼け背中を押してくれないか



あーんしてひと匙もらうあげるフフ



恋消えて眼窩を埋めるアルコール



振り向かれどぎまぎしてる野のあざみ





いいひとだなあとは思う平熱で



欲情の芯は愛かなまんじゅしゃげ



優しい男の手もとる 腕は二本ある







欲張った罰だ二人に愛される



こんにゃく千切る友達なんていない午後



コンビニへふれあい買いにゆく夜中





無機質にふれあうポケベルの084(おはよ)



相談相手ほしくて鸚鵡買いに行く



何すれば満たされるのかピアスの穴



淋しくて金キラキンになる私




所詮はひとり カロリーメイトさくさく



アスレチックジム個個個個個個個個個 無言



寂しくて鎧のようにマニキュアを



働かぬ手をきれいねと叱られる




テレビ砂丘にやっぱり沈む独りの夜







凍える日 キスのかわりのキムチ買う










キムチ鍋ひとりでつつくクリスマス



蛍光灯皓々 ひとりで暮らす部屋









手枷足枷なくて 風のがらんどう



絶望に逆らって立つ花カンナ










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