たからくんが大人になるまで生きていたい日記

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タイトル「風景の中」


「風景の中」



 どんぶりの縁に括弧をひっかける
畑美樹さんの句だ。面白い。
 括弧ってみんな直線ではない。丸括弧、カギ括弧。すごく言いたいからこそ声が出て「 」。言いたいのに理性に押さえ込まれて言えない、それでも、言いたいから( )。もっともっと強調したいから〈 〉。特別なんだと言いたくて括るから【 】[ ]{ }。
 言ってしまいたくて、でも言って良くなる見込みもない。唇寒くなるだけの人と接しながら暮らす。それが真実の鏡にあぶり出された、どんぶりという器ほどにちっとも特別ではない日常。
 言葉がちゃんとお互いに届く友人など、生涯に二人思い出せたら、すばらしい人生だったと死ねるだろう。もし、三人も与えられたなら破格の恵み。
 それ以外のほとんどの人は、川岸の風景のようなものだ。少しずつ目に入ってきてはっきり見えるようになり、そして後方に小さく疎遠になり、見えなくなる。今自分を取り囲んでいるほとんどの人は過ぎ去っていく風景。
 括弧の中の言葉を、きっと、美樹さんは言わないんだろう。それで、どんぶりの縁に弥次郎兵衛みたいに括弧を引っかけて、わざと自分で揺らして見ているんだな。
「へぇ~。このくらい揺らしても、結構落っこちないものなんだ」
「言わなくても、あたしって案外壊れないんだな」






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