たからくんが大人になるまで生きていたい日記

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タイトル「頭でっかち」


「頭でっかち」



 すさまじい雨だった。屋久島には太陽がないのだろうかと思うほど、ずっと雨。雨粒が地面から跳ね上がる、そんな雨。
 どうせずぶ濡れならばと、シュノーケリングで海を覗くことにした。ほんの少し泳いだだけで、ギンガメアジの群が下を通り過ぎる。真っ青なソラスズメがくるくると動き、ハナミノカサゴが大輪を見せていた。
「まるで水族館みたいね」と友人が言う。素直な感想だが、本物を見て偽物に似ているねというのも何だか奇妙で、笑いあった。
 岩に「陣笠」と呼ばれる一枚貝がたくさん貼り付いていた。真っ平らな場所にしっかりとくっついているものは無理だが、少しでもぼこぼこした岩について油断している陣笠は、吸着力が弱い。それを見つけてはエイッと親指で引っぺがす。驚くほど簡単に取れた。貝殻の縁からぎゅっと親指をねじ込んで、身をはずす。そのまま食べる。大はしゃぎだ。
 キビナゴの群れが体をきらきらと光らせて私の前を通り過ぎていったかと思うと、いきなり引き返してきて、私の左右に分かれながら進んだ。キビナゴの群に包まれた数秒間。私を避けないの? 自然が私を敵視しないなんて。
 海面から四十センチくらいの層で、水がもやっている。もの凄く濃い砂糖水をコップに作ってみると、どろどろとした水の動きが目に見える。まさにそんな風に、淡水が海水の上で、くっきりと層をなして、もやもやとしているのだ。あまりにも一時に真水がゴウゴウと川から流れ込み、まだ雨は止まない。海水との親和に時間が必要なのだろう。手でその淡水をかき混ぜてみる。手の動き通りに水が筋を引いて動く様が、はっきりと見える。新体操のリボンを操っている気分で、夢中になって水の筋を作り見つめた。
 山と海を川が繋ぎ、空と海を雨が繋いでいる。目の当たりにすると、「嬉しい」。初めて感情が追いついた。


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