ラインの黄金仮面 Weekly

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悪役4役:『ホフマン物語』オッフェバック


 『ホフマン物語』とはオペレッタの祖とも呼ばれるフランスの作曲家ジャック・オッフェンバックの作曲した唯一のオペラです。未完だったためか、その後さまざまに研究され補筆されたりしたため、さまざまな盤が存在します。しかも、微妙に違うどころか、盤によってまったく印象の違う曲や物語進行になっており、見た盤によって好き嫌いも大きく分かれるのではないかと感じさせられる曲となっています。

 『ホフマン物語』はドイツの作家ホフマンの書いた物語を原作に、主人公をホフマン自身と設定、3人の女性への奇妙で恐ろしい、幻想的な恋物語にしています。曲も、軽妙洒脱なオペレッタを得意としていたオッフェンバックらしく、軽く美しい曲もありますが、オペラだけに、重厚かつ、非常に歌に溢れた曲となっています。ただ、題名役のホフマンが難役で、出ずっぱりで歌も結構大変なため、人を得ないとできないし、ホフマンを愛する女性3人、それにからむ悪役4人にも人を得なければならず、それだけの歌い手をそろえるのも大変ということで、なかなか上演に結びつかない作品です。

 この作品、『ガレリア座』でやる前から大好きだった作品で、いつかは手がけたいオペラだと思っていたのですが、まさか、あんなにも早くその機会が巡ってくるとは思いもしませんでした。しかも、その役のどれかひとつでもいいから悪役をやりたかったのですが、なんと、思いもよらず、4役を一人で演じることになり、喜びとともに大きなプレッシャーにもなりました。ホフマンはアマチュアながら、その実力はほぼプロ並みだったTanちゃん。以後彼とはいつもオペラで競演しました。(歌唱の実力は数段彼の方が上ですが・・)。女性3役はそれぞれガレリア座の当時プリマとして活躍していた女性達があたりました。

 最初の役は議員リンドルフ。彼はホフマンの恋人でオペラ歌手のステラ(黙役)に横恋慕しようとたくらんでいます。リンドルフは直接何か悪事の行動を起こそうとはしません。が、この後ホフマンが語る3人の女性の恋物語に割ってはいる悪人達の権化として、存在感バリバリの役です。アリアも1曲あり。これがプロローグとなり、1幕から3幕まではホフマンの回想として3人の女性との恋物語が語られます。

 第一幕は物理学者スパランツァーニの娘オランピアとの恋。ホフマンは彼女に恋するあまりスパランツァーニの弟子となり物理学者を目指します。ホフマンがオランピアを恋すれば恋するほど周囲の目は冷ややか。一方、スパランツァーニは人形作家コッペリウスとなにやら密談。ホフマンはコッペリウスから買った色眼鏡をつけると、より一層オランピアが美しく見え、彼にほれてしまいます。舞踏会の夜、スパランツァーニは客人に娘を披露。人々はその美しさとアクロバティックな歌に感激。ホフマンも彼女に踊りを申し込み二人で踊ります。しかしオランピアは狂ったように激しく踊りホフマンを投げ飛ばします。ゲラゲラ大笑いする人々。オランピアはぼろぼろに壊れてしまっていたのです。そう、彼女は自動人形。コッペリウスとスパランツァーニの共同作品でしたが、スパランツァーニの裏切りに激怒したコッペリウスが仕掛けをしてオランピアを壊してしまったのです。彼女が人形だったことを知り嘆くホフマンでした・・。
 私はここではコッペリウス。悪役とは言いながらバスのコメディロール的な役柄です。アリアも1曲。実に短いのですが、登場するにはとてもインパクトのある曲です。(盤によってはこの後に登場する悪役につけられたアリアとして演奏されることもあります)コッペリウスは人形遣い、しかも人形に生きているかのような目を与えるということで、謎めいた存在です。私も黒マントを羽織って登場。目がキーワードということもあって、黒マントの下には、目が沢山ならんでいる。といっても、目というか、8センチのCDを沢山マントにぶら下げて登場しました。客席には結構インパクトがあったようです。

 次に第二幕。場所はヴェニスの娼館。ここの謎めいた娼婦ジュリエッタが今度のお相手。愛する人(人形)を失ったホフマンは恋も捨て、遊び呆けていました。このホフマンの"影”が欲しい、とゴンドラの船長(実は悪魔)に依頼されたジュリエッタは大きなダイヤと引き換えにホフマンを誘惑します。ホフマンはまんまとその誘いに引っかかり、彼女に実を許したため影をダッベルトゥットに奪われてしまいます。だまされたと知ったホフマンも後の祭り。彼女はゴンドラへ乗っていずこかへ逃げ去ってしまいます。
 このオペラの中ではもっとも幻想的なエピソード。あの有名な”ホフマンの舟歌”はここの場面の挿入曲です。さて、この悪魔ダッペルトゥットには難曲と言われるアリア『ダイヤの歌』があります。短い歌ですが、非常に高音を要求される歌で、またゆったりと流れるように歌わなければならないので、なかなか難しい・・。また、この上演は日本語でやったのですが、私、“だぢづでど”の濁音が上手く発音できず、「ダイヤよー♪」と歌うのがどうも「タイヤよー♪」と聞こえるらしく、何度も注意を受けました・・。

 第三幕は、娼婦の館から逃げたホフマンはもう次の女性と恋仲に。彼女は病弱なアントニア。死んだ母親の影響で歌手を目指していましたが、母親と同じ病気にかかり、命の灯が除々に消えようとしていました。病気の原因は歌だと思っている彼女の父親は彼女に歌う事を禁じていましたが、悪魔のような医師ミラクル博士が彼女に歌を強要、母親の亡霊まで呼び寄せて彼女を死の世界へ送り込んでしまいます。
 このミラクル博士が悪役4役の中でも一番悪役っぽい、というかかなり怖い存在。書かれている曲もダイナミックで私もこの4役の中では一番好きな役です。
 この役も医者といいながら、ほとんど悪魔・・。父親の前に薬びんを鳴らして現れるけれど、父親に追い返される。ほっとしたのもつかの間、あらぬところから突然登場するミラクル博士、なんて場面があるんですが、当初、あらぬところと言うのは、舞台下手袖に追い出されて、上手袖から現れる計画だったのですが、その移動時間は十数秒。下手袖から上手袖へ走って移動!!

 もう息絶え絶えで余裕かまして歌えるだけの余力は残っていません・・。で、急遽、幕をはさんで奥から前へ出てくるように変更しました。まぁ、ビデオで観てもさして違和感はなかったので助かりました・・。

 この4役、普通は別々の歌い手が歌うのが通例なので、(といっても、フィッシャーディスカウやB・ターフェルなど、全部歌っちゃう人も少なくありません)とにかく低い声中心の役から高い声を要求される役まで、広くカヴァーしていなければならず、若かった私にはなかなか厳しいものでした。今やらせてもらえたら、もっと違うものが出来るんじゃぁないかなぁ、なんて思ってもいます・・。

 そして、この公演ではこの4役の衣装がすごかった・・。リンドルフは議員ですから普通のタキシードでしたが、コッペリウスは先ほども申し上げたとおりタキシードに8センチCDを沢山つけたマントを羽織って出ました。そしてダッペルトゥットはちょっとヘヴィメタなロッカーな格好・・。妙にシースルーで、私の柔肌の露出度も高し!!そしてミラクル博士は前半、まるでマフィアのボスのような分厚いブラックにラメの入ったガウン、後半、悪魔となって現れる場面ではシースルーの服に蜘蛛の巣をあしらった衣装。私みたいな男声で、こんなに衣装変えする役も珍しいのではないでしょうか。まぁ、大変ではありましたがとても楽しい役柄でした・・。

 最後に・・。悪魔的に見せるため、つけ鼻をして今回は舞台に上がりました。私の鼻はぺちゃむくれでつぶれているのでちっとも高くない。鷲鼻を表現するために粘土を鼻につけていたんです・・。リンドルフ、コッペリウスとこれで通ったのですが、なんと汗でこの鼻がつかなくなってしまった・・。以降、ダッペルトゥット、ミラクル、そしてエピローグでのリンドルフはぺちゃ鼻に・・・・。リンドルフはプロローグとエピローグでは違う人物になっていました・・・・。||Φ|(|゚|∀|゚|)|Φ||

【おススメCD&DVD】
 『ホフマン物語』はいろいろなバージョンがあるのでどれを選ぶかによってずいぶんと印象の違うものとなってしまうことが多いようです。私は最近の版(エーザー版等)やオッフェンバックのオリジナルに限りなく近いといわれているオペラコミック的な演奏(台詞が多く入っているもの)は実はあまり好きではありません。ですので、私は、全編音楽中心で彩られているギロー版と、それに近いものをオススメします。

 まずは定番といえるものですが、CDではクリュイタンス指揮、タイトルロールにニコライ・ゲッダを起用した盤。オーソドックスですが、非常に聞き応えあり。フランスオペラらしいナヨナヨ度(エスプリ??)も健在。歌手陣がインターナショナルで豪華なのもこの盤の魅力です。特に、ジュリエッタのシュヴァルツコップやアントニアのデ・ロスアンヘルスといった女性陣が見事。
 それから小澤征爾指揮、ドミンゴをタイトルロールにした盤。小澤さんの指揮は別段すごい訳ではないけど、嫌味がないので、すんなり聞けます。とにかくこの盤は歌手が豪華。ドミンゴは他の盤にもっと良い歌が聴けるものがあります。そして女性3役をあのグルベローヴァ様が歌っているのです。やっぱり悪役一人4役以上に、ヒロイン一人3役をやる方がかなりムリがありらしく、あまり納得のいく出来ではありませんが、それでも、お得意のコロラトゥーラが冴えるオランピアは見事!この盤は悪役4役にそれぞれ人が充てられており、どれも見事な歌唱。悪役を楽しむにはいい盤です。リンドルフ:A・シュミット、コッペリウス:G・バキエ、ダッペルトゥット:J・ディアツ、ミラクル:J・モリス。特にモリスの押しの強い声は必聴。
 DVDでは最近のもので手に入りやすいのがロペス・コボス指揮、ニール・シコフをタイトルロールにした盤です。演出が現代的で、私にはどうも・・。最近人気のカーセンという人が演出です。ネットでいろいろなレビューを見ているとかなり評価が高いので、私は好きではありませんが、見てみる価値はあります。この盤で、特筆すべきはシコフのホフマンの大熱演、熱唱です。まるでホフマンという人物が取り付いたのではないかと思えるすごさ。今まで見たホフマンではピカイチです。そして悪役4役演じるB・ターフェル。彼のあふれんばかりのたわわな声の力がこの悪役4役にかなりのスゴミを感じさせます。ちょっとクドいですが、こんな歌を歌えるのも彼一人でしょうから、是非聞いてみてほしいです。
 最後に私の大好きな映像がちょっと前にDVD化になっていました。どうやら期間限定販売だったのか、今手に入るか微妙ですが、プレートル指揮のコヴェントガーデンでのライブです。タイトルロールはドミンゴ。相変わらずの丹精な容姿と歌い口。またライブなので、そこへ熱唱と熱演が加わり、改めてこのテノールの偉大さを感じさせてくれます。このDVDが豪華なのは、女性3役、悪役4役にそれぞれ歌手を充て、しかも皆名歌手で熱演、熱唱を繰り広げており、これこそオペラ!!!!!!というものを聞かせて、見せてくれています。
 オランピア:L・セッラ(美声です)ジュリエッタ:A・バルツァ(もう語る必要は無し・・。その激情的な歌手と美しくも的確な舞台での演技は女優です・・)アントニア:E・コトルバス(あまりにも素晴らしく美しい声と歌!!)リンドルフ:R・ロイド(存在感タップリ)コッペリウス:G・エヴァンス(さすがコメディロールの得意な名役者ぶり)ダッペルトゥット:G・ニムズゲルン(伸びの良い高音と低音を生かしたアリアは必聴!)ミラクル:N・ギュセレフ(そのコントラバスのような渋く低い声、そして容姿がまさに悪魔的。なんとなく作曲家のリストを意識しているかのようなメイクがまたGood)

ターフェル/オッフェンバック:ホフマン物語
★シコフの大熱演、大熱唱がステキ。ターフェルの悪役も充実の盤です。

小澤征爾/オッフェンバック:ホフマン物語 全曲
★小澤征爾指揮。ドミンゴのタイトルロールとグルベローヴァのヒロインと豪華。悪役も充実!!

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