田中およよNo2の「なんだかなー」日記

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2008年06月09日
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カテゴリ: 硬派
こんなニュースだった。

「作家の氷室冴子さん死去…少女小説で一世を風靡」

小説を発表しなくなった作家が久しぶりにニュースになったら
死亡記事だったのいうのは、よくある話である。

しかし、それでも、やっぱり、氷室冴子さんが亡くなったのは
僕は驚いたし、悲しかった。

一度、このBLOGで、氷室さんの 「シンデレラ迷宮」 について、書いたことがある。

亡くなる前の数年間、彼女は小説を書いていなかったようだ。
なぜだろうか。

本当のところはわからない。
でも、もしかすると、彼女は書くことに迷っていたのかもしれない。

当時。

多くの少女小説家と呼ばれた人たちに対して、物知り顔の文学評論家とかは
厳しかった。
文章になっていなくて、めちゃめちゃだって。
自由すぎたり、ご都合主義のカタマリだったのだろう。

ただ、彼らの多くでさえ「氷室冴子は違う」と言っていた。
まず、文章が上手いと。
まあ、彼らはそれ以上はあんまり、触れなかったけど。

僕が思うに凡百の少女作家の自由さが、本当に勝手だったんだと思う。

いうのだろう。
感動する人がいたとしても、いくら、自由でも即興でも、それはジャズではない。

一方で、氷室冴子さんの書く即興さは、音楽であった。
多くの人が納得できる、スジがあった。
むしろ、クラッシックの教育を受けたピアニストがジャズに転向して奏でる


一読して、とんでもないとしても、どこかしら、読者の我々は、安心感をもてた。
江戸時代にロケットが飛んでも、ありえないと思うのではなくて、まあ、この
お話の流れなら、しかたないかなって、読者に思わせた。

氷室さんの文書の自由さは、古典小説をふんだんに吸収した上で生まれていた。
たとえば、「ジェイン・エア」
あるいは、「嵐が丘」。

ただね。

そこが、彼女の限界であり、特徴であったとも言える。

批判しているつもりはない。
だって、多くの物書きは、自らの限界や、特徴さえもつかめず、
迷っていく人が多いのだから。

そうだ。

氷室冴子さんは上手かった。
シャープだけど、演じている文章がかわいかった。
自由に書いて、センシティブを表現した。
技術の高い書き手だった。

でもね。

それは、少女のメルヘンに限定されていた話。
ちょっと、その持ち場を離れると、彼女の筆の技術の
輝きと、巧みさは消えてしまっているみたいだった。

一言ですますと、おかしいけど、彼女の自由さは
清純であるという前提が成り立っている世界でないと
発揮されなかった。

無意識の前提に清純さと、一種のイノセンスは、少女小説と
そして、古典の教養文学にはあった。
氷室冴子さんは、その前提条件を崩すことがなかったから
僕らは安心できたのだ。

自由にジャズをひいているように見えて、実は、昔ながらの
むしろ目新しくない和音の組み合わせを繰り返しているだけ
だったのかもしれない。

不協和音で、不純で、不確実なオトナの世界では、彼女は何を
書いていいのか、わからないみたいだった。

書いたとしても、いささか、キレイゴトのレギュレーション(規制)を
嫁したため、面白みにかけるものになった。
リアリズムに書こうとすると、舞台や背景に現実の原因と結果の枠組みを
はめるため、カチコチに主人公の行動パターンをレギュレーションにかけると
小説全体が動かなくって、面白くないのだ。

主人公に「清純」なレギュレーションをかけても、小説が動くのは
舞台や背景が作者で勝手に作れる時だ。
それが、古典的なご都合主義であったり、少女小説の突拍子もなさになるのだ。

多分。

それが氷室冴子さんが、最後まで大人向けの小説で「少女小説」以上の
達成を得ることができなかった理由かもしれない。
あるいは、彼女がもう少し生きていれば、こんなバカゲタ、僕の意見など
消してくれる小説を書いてくれたかもしれない。

それに。

別にイイじゃないか。
小説家がみんな、オトナの不協和音を迫力で書ききらなくてもいいじゃないか。
大人向けの小説がよくて、少女小説が悪いなんてだれが決めた。
古典的な和音より、新しい音のほうが素晴らしいなんてだれが決めた。

少女小説であっても、古典的な和音であっても美しいものは美しいし、
表裏一体のセンシティブと豪放さを巧みに書けている小説は、やっぱり、
素晴らしいのだ。

例え、死亡記事が少女小説という書かれ方でくくられてしまおうが、
氷室冴子さんの小説は僕は素晴らしいと思う。
迷っていたのなら、書き続けて欲しかった。

そして。

今回も言うが、なんで、 「シンデレラ迷宮」 が絶版なのだろうか?

さて。

最後になりましたが、氷室冴子さん。
安らかにお眠り下さい。

※もっと、「なんだかなー」なら『 目次・◎ものがたり 』まで





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最終更新日  2008年06月09日 23時16分30秒
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