ハワイでドライブ事始 №2



 一人早起きして朝食前に波静かなワイキキの海で一泳ぎする。家内は未だ夢の中だったため、起こしては可哀想と誘わずに一人でワイキキ海岸へ向かったが、後で逆に絡まれてしまう。ヤレヤレ !
 浜辺では、ちょうど写真を撮っていた東京の練馬にお住まいだと言う奥さんと知り合う。お互い連れ合いを宿に残してきたため、自身を撮るのに不自由を感じていたことから、共に補い合ってシャッターを押し合う。近親の方がハワイで結婚式を挙げるための旅とか聞いた。私の方がビデオの撮影もあり手間を掛けることとなったので、帰国後プリンパで印画した絵葉書を作り礼状を送る約束をする。
 ところが何とした事か、私が撮ったビデオもスチール写真も失敗していた上、住所を書き合ったメモも紛失。詫び状を出そうにも出せなくなってしまった。

 朝食後、今度は家内を連れて再度海岸へ。もう一度水につかってのち、専ら家内の水泳姿を撮影する。隣でイングランドから来たという同年配の英国人夫婦が甲羅干していて話しかけられる。
「自分達は、英国のプリマス近くの養殖漁業者だ。ロスからシカゴを経てハワイに来た。日本の敗戦直後に、海兵隊員として横須賀に居たことがあるので、今このワイキキが日本人観光客で溢れている光景が、夢のようだ」と言う。
 何か皮肉を言われているようにも思えたが、「私も同感だ。平和は素晴らしい」と簡単な単語を並べて当たり障りなく答えておく。それにしても、この南国の厳しい日中の日射しを貪るかのように浴び、よく数時間も平気で横たわって居られるものと思う。太陽の恵みに乏しい英国人らしい。数年前の冬、快晴のマドリッドを離陸しドーバーを越えた時、途中から青空が切れ、下方に灰色の海のような厚い雲が圧縮されるように英国方向に流れて行く様が目に浮かぶ。私たちは木陰でも約1時間で我慢できなくなり、宿に戻って4階屋上にあったプールとジャグジーで塩気を落として帰室。帰国準備の荷造りを始めた。

 昼食は、買い込んで食べきれぬままだった冷蔵庫の残り物を整理して済ませる。その後、残りの半日をどう有効に過ごそうかと家内と相談する。
「一昨日は車、昨日はセスナでの観光だったし、今度はサンセットクルーズの船に乗ろう」そう決まり、又一人でハイアットリージェンシーまで行く。同ホテル所有のカタマラン型大型ヨット「マヌカイ号」が爽快で格安だと聞いたからだ。
親切で美しい日系婦人がフロントにいて、希望どうりの最終便が予約できたばかりか、10%割引となる素晴らしい乗船記念写真入りのクーポン券まで。貰えた。宿泊者用らしく本当に幸運だった。

 やれ嬉しやと宿に戻り、出港までの数時間、ワイキキの繁華街を散策しながら買物を楽しむ。午後4時半、ホテル前の浜辺から出帆。次第に夕日に染まって行くワイキキの空や周囲の景色を眺めながら、サービスのビールを飲み、美味しいチーズや野菜サラダを摘まむ。乙に澄ましたクルーズ船が夕景の中を、大きな白い船腹や華麗なデザインのセールを赤く染めながら近く遠く行く。その中でも、私達を乗せた豪華カタマラン「マヌカイ号」は、乗せることができる客の数は精々20~30名。しかしそのスポーティーな姿が一際人目を惹くらしく、近付く船ごとに、カメラが一斉に此方を向く。

 ダイヤモンドヘッドの先まで快適なセーリングを楽しみ帰航に移る。だが夕景のクライマックスは、これからが本番だった。その茜色は到着した日に部屋の窓から眺めた夕映え以上に刻々と燃え上がり、貴婦人のように静々と帰航に向かう船のシルエットをクッキリと描き出していた。キラキラ光る客室の窓の明かりも5層、4層と大きな船が2隻、アロハタワーの方向に進んでいた。私たちの船を追うようにして、やや小さめ目だがスポーティーな姿が際立つヨットが、夕日を浴びた大きなセールに風を一杯孕ませ、同じワイキキを目指していた。「夕日に赤い帆」。そう、若い頃に口ずさんだアノ名曲が、自然に口をついで出てきそうな、思い出も眩しい光景だった。

 程なくして「マヌカイ号」はホテル前の浜辺に着船した。波の引く間をかいくぐるようにして、一人一人タイミング良く下船することになる。砂に汚れた足を海岸のシャワーで洗いながら、我が奥方はヌケヌケと言った。
「あの素敵な男性、どうせ手をとってくれるなら、抱いて浜辺まで運んでくれれば良いものを…」。

 浜辺から、暮れなずむカラカウワ大通りに出る。ハイアット前からタクシーで、タンタラスの丘下にあるタイランド・レストラン「チェンマイ」へ…。余り広い店内ではない事もあろうが、店先には既に順番を待つ人の列が出来ていた。予約しておいて良かったと思う。薄暗い店内に所狭しと見事なタイの美術品が飾られ、雰囲気も上々。ウェートレスも民族衣装に身を包んだチェンマイ美人揃いだ。そして極め付けが次々と運ばれて来たタイ料理の数々だった。「美味しい、実に美味しい」と私は舌鼓を打つ。
 タイビールに始まり、摘まみや前菜が何だったか今はもう確かではないが、微妙な味付けをした新鮮な野菜サラダや春巻き料理。特殊な茸や筍類を加えた鶏肉料理…と続いた。秘伝の魚醤やスパイスにより、こうした深みのある味になるのだろうと、私は家内にそれとなく味の秘密を噛み分けるように頼む。すると「無理言わないでよ。そんなこと言われたら食べた気しないじゃない」と願い下げにされてしまう。
 最後のデザートとして出された冷たい「タピオカ・ココナツミルク」も、コクがあるのにサッパリした下地の甘さに加え、口の中をツルツルと転がるタピオカの味が、トロリと弾力のある舌触りと共に何とも言えなかった。「これだけは、私でも何とか真似くらい出来そうだわ」。そう言っていた家内も、矢張りこの店の料理の味に魅せられたもののようで、帰国後早速アレコレ特殊な材料を集めている様子である。何時か我が家の食卓に、ソレが現れる日を楽しみにしたい。
 ともあれ、この私達を喜ばせたタイ料理のフルコースディナーが、何と税サービス料共52㌦51㌣(約6300円/@3150円)。嬉しい限りだった。
 更に嬉しかったのは、帰りぎわに私の無理とも思えた願いを快く聞き入れ、独特なスパイスを効かせたサラダのドレッシングソースを小さな容器に詰めて持たせてくれた事だ。
 ところでこの「チェンマイ」へは、ワイキキの東のハズレに近い宿舎パシフィックビーチ・ホテルからだと、バスを3回も乗り換える必要があるそうだ。また夜遅くなると少し危険な界隈でもあるらしいと、場所を調べてくれた添乗員から聞いた。付近から見るホノルルの街の夜景は美しいが、そんな感じもしないでもない雰囲気だった。見切れなかった市内各所を、より多く頭に留めるにはバスも良いが、ここでは素直にタクシーを呼ぶ。再訪を心に決め、車が曲がる後とに通りを尋ね、ビデオカメラで記録しながら、10時過ぎに宿舎に戻った。

 明朝は帰国。5時前にモーニングコールだそうだが、いつものように移動移動の旅と違い、既に荷造りは済んでいるので気は楽だ。
 今度の旅は、当初ガイドブックで立案した以上に、理想的に事が進んだ面が多かった。何より無事に海外での初ドライブが叶い。それなりの自信と要領を掴めたことが嬉しい。「ハワイなんて何時でも行ける。誰もが安直に行け過ぎて魅力がない」と、此れまで一寸敬遠気味の私だったが、やはりハワイは世界的に比較してみても、住むに良し遊ぶに良しの楽園だった。それに各島々、実に個性的で変化に富んだ自然に恵まれていて、尽きぬ魅力を感じさせられた。
 …ソンナ事を楽しく考えながら、いつか夢路に入ったこの夜の私だった。

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★記念Tシャツも入手、一路日本へ !(第5&6日目・5/22土&23日・現地は晴、帰国後は曇)

 7時半に宿舎を発って8時にホノルル空港着。出発までの時間を利用、係員に案内され職員用の構内バスでサークルレインボー航空まで行く。請求しそこなったままだった『地球の歩き方』読者サービスクーボンで、オリジナルTシャツを貰ってくることが出来た。案内してくれた親切なアルバイトの空港係員には、購入する場合は20㌦以上の賞品だったし、心付け5㌦をプレゼントする。会計学を専攻するハワイ大学生と聞いたが感じの好い若者だった。少し色をつけたつもりではあったが、いずれにせよ大した額でもないのに大変喜んでくれ、こちらも気持ちが良かった。一度断るところなども日系人らしい。10時10分離陸、一路帰国の途に就く。
 ただ帰国の機内では、こうしたハワイでの楽しい思い出に、一寸だけだが水をさされたように思えた場面にも出会う。
 感じの良いサービスとチームワークの良さが目立った往路のNW機クルー。親しみ合って共に記念写真を撮り、送付先のアドレスまで貰ったほどだった。しかし帰路のクルーには、一寸ガッカリ。硬い表情と遅い配膳作業で、冷えかかった食事が一層不味く感じられた。お茶を貰おうと呼び出しボタンを押しても、点灯が目に入らないのか何度も素通りされ、どうせこちらはツアー客さと僻みたくなるほどだった。しかしまあ何処のエアーラインを利用しても良くある事。取り立ててどうこう言うほどの事ではない。すべて往路のクルーが良すぎたためとも思う。
 やがて免税品の販売が始まって和洋煙草を各2カートンづつ買う。「カード払いのレートは1㌦125円」とのアナウンスがあり、隣で聞いていた家内からもアドバイスされたため、止むなくドルキャッシュで支払ったが、航空会社の場合だけは自社設定レートになるのかと不審に思う。帰国後にフリーダイヤルのVISAゴールドデスクへ電話して調べたところ、そんな事は無いと言う。ハワイ到着数日後までに使われた勘定なら、既に一部がコンピューターに入っている筈と親切に調べてくれたが、全てのレートが112円前後。さてはあの機内アナウンス、円高差損を考え出来るだけ現金で支払わせようとする虚構だったかとも思う。

 なおこのレート問題については後日談がある。機内販売レートの事を含めて日米市中為替レートの乖離を問題とする一文を、渡航者の参考にと『朝日』に投稿したところ、折り返しNW航空太平洋地区広報部長・M氏の反論記事が出た。
「アナウンスはカードレートではなく、現金またはTCレート。聞き違えたのでしょう」との事。そこで私としても黙視出来ず、「仮に、現金やTCレートとしたところで同じようなもの。やはり国際レートが1㌦110円を割っている時に1㌦125円と言われては、私ならずとも容認しにくいのではないか。問題の核心は日米市中為替レートの乖離にあると思う」とした内容のアンティーゼを書く。
 その折りも折り、仕事で海外に行ったり来たりが多い旧友・U君から新聞を見たと電話があり、「同感だ。再反論すべきだよ」と言ってくれる。またS銀行の外国為替担当次長だった旧友・M君にも会って意見を求めたが、「米国側の外国通貨一般売買レートが、そんなに国際決済レートと差があろうとは、今迄気が付かなかった。ハワイだけの観光地レートではないか?」との事。またS銀行本店で現に外国為替を担当中の行員にしても皆同様だ。「これまで市中レートがそんなに違うとは知りませんでした。良い勉強になりました」と言っていた。いずれにせよ今後、海外での市中為替レートの実体は、大いに研究するに値するとの感触を得た。

 こんな話題の種を経験しながら、ともあれ23日午後1時半過ぎ無事成田空港に着く。家への帰路は成田エキスプレスから新幹線に乗り継ぐ予定だった。しかし東京駅から以後は自由行動と言うことに変更されたため、配られた新幹線の回数券は後日使用する事とし、4時半発の沼津駅行き東名バスに乗る。悩みの種だった重い荷物は床下のトランクルームに預け、三島乗換えも無く楽チンそのもの。東京駅で買った幕の内弁当などを食べながら、新装成った御殿場駅も車窓から眺めさせて貰って、ユッタリと7時半に沼津駅北口に着く。「ホームの上がり降りも無くタクシーに乗り換えれたのもバスなればこそ…」。そんな話をしながら自宅に戻ったが、時間を気にせず過ごせる定年後の喜びを、ここでも感じさせられる旅の終わりだった。

 これで十回目になった海外旅行。ソレは余りにも短いハワイへの旅ではあったが、これまでの旅で自分なりに学んだ旅の教訓を十二分に活かし得た、実に有意義な旅であった。高いだけで満足度の少なそうなオプショナルツアーには参加せず、事前調査や地元の評判に重点を置いた選択と、独自の行動を貫いた結果だと思う。
 その第一は、何よりも先ず海外でのレンタカードライブに、踏み切れた事であった。当初、JR東海ツアーズの窓口担当者からも「危険だから止めたほうが…」とのアドバイスを受け、今回も躊躇しかけた私だった。しかし過去二回も国際免許や運転特約保険を無駄にして無念の帰国をした経験を持つ自分である。「これくらいのことで怯んでいたら、それこそ何時になっても、海外での自由を広げる旅は実現できない」。そう覚悟を決めての決断であった。
 第二は、あの実に多様なハワイ7島の印象を一日で垣間見る事を可能にしてくれた、サークルレインボー社のセスナツアーへの参加だった。今の私たちには少し過大な出費とも思えたが、残りの人生に余裕を感じられなくなった今なればこそ、見聞を広げる為に思い切って投ずべき有効な費用だと思えた。仮に後日「キリギリス」と笑われようと、その思いは変わらないだろう。
 第三は、示された各種オプショナルツアーに参加した人達から聴かされた不評の数々に引き換え、実に上首尾だった独自の選定による独自の観光の成功である。前2例のほかにも、ガイドブックからマークし、現地の情報を可能な限り入手した上で参加したヨットによるハイアットリージェンシーのサンセットクルーズも、その一つだった。ガイドブックの星の数などに惑わされず自分の足と目と頭を豆に使いさえすれば、「チェンマイ」や「ふるさと」のような、ムードも味も値段も、すべて納得できて満足度の高い店が、ハワイなら数多かろう。
「アロ~ハ ! ハワイ」。それは、居ながらにして世界中の楽しみを、私たち庶民でも適当に享受出来る常夏の島だった。

《以上で『ハワイでドライブ事始』の前半「ハワイ6日間こんな旅(1993.5.18~23・♂60♀57))」は完結。以下、後半の「格安追求 !! ハワイ3島ドライブ旅行(1995.6.3~15・♂62♀59)」の筆頭となる№3に続く)》

《付記》今後掲出予定資料名
 添付資料「ハワイ6日間こんな旅(1993.5.18~23・♂60♀57))」分
      朝日新聞『声』欄掲載節分を巡る波紋。
      参考として掲載文切抜きのほか、この
      記事に関する友人との往復書簡など。
 ※なお、
 (1)海外での両替レート情報(売買相場と日付)
 (2)利用航空各社の機内販売レート情報(円換算価格と日付)
 (3)その他、旅なれた方々の両替情報その他の最新情報や、ご意見などを期待。

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