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著者・編者 | 小林登志子=著 |
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出版情報 | 中央公論新社 |
出版年月 | 2008年12月発行 |
アニメ『Fate/Grand Order』で古代メソポタミアが登場する。『ギルガメッシュ叙事詩』は読んだことはあるが、せっかくの機会なので古代メソポタミア神話の概要を知っておこうと思い、本書を購入した。
シュメル神話には、『旧約聖書』のノアの箱舟のモデルとなった洪水伝説や、エデンの園、天岩屋や神無月に似た話など、世界各地の神話の起源を感じさせる。主メル神話に登場する神々は、原初の海ナンム女神のように自然の威力を人格化したもののほか、戦の神イナンナ女神(イシュタル神)、英雄ビルガメシュ神(ギルガメシュ神)、ニンウルタ神のように都市を守護する神々が存在するのが特徴だ。
シュメル文明は紀元前 2000 年前後に滅んでしまうが、その神話は後の世界各地の神話の原型となり、都市文明は現代にも受け継がれている。
神話を創ったシュメル人は、紀元前 4 千年頃に登場した民族で、いまも出自が不明。シュメル語の解読はできているものの、その系統の不明のままだ。シュメル人が信奉する大いなる神々は、自然の威力を人格化したもので、これは世界各地に見られる。だが、都市を守護する神々も存在しており、これはシュメル神話特有だ。各都市には神殿と、神々が天から降臨して休息するジクラトと呼ばれる塔が設けられた。
シュメル神話では、最初に存在したのは「原初の海」ナンム女神である。古代ギリシア神話の混沌カオスに似ている。
沖積平野であるシュメル地方には石材や鉱物資源はなく、木材もまた輸入していた。だが、粘土ならばどこにでもあった。粘土から煉瓦をつくって建物を建て、粘土板に文字を刻んだ。また、最高神がもつ「天命の粘土板」には、すべての神々の役割や個々人の寿命などが書き込まれているという。古代インドの「アガスティアの葉」のようでもある。
低位の神々を労働から解放するため、粘土から人を造られた。ユーフラテス河の沿岸にあった都市エリドゥは、天から地へ最初に王権が下された都市である。
だが、人間が増長したため、神々は大洪水を起こし、神々を恐れ敬う慎み深いジウスドゥラを除き、人間を滅ぼした。これは、『旧約聖書』のノアの箱舟のモデルとなった。大洪水以前の 5都市は神話時代であるが、洪水以後の各王朝はシュメル人にとっての史実である。
またエデンの園から流れる 4 本の河の名前にティグリスとユーフラテスが含まれていることから、エデンの園はメソポタミア地方に実在したのではないかという説もある。
エンキ神の理不尽な振る舞いに怒って姿を隠してしまうニンフルサグ女神は、「記紀神話」に描かれる天照大御神が弟の須佐之男命の乱暴な仕打ちを嘆いて天岩屋に隠れた故事を連想させる。
後年、ハンムラビ法典が編纂されるように、シュメルは文明社会である。ニンリル女神を手籠めにした最高神エンリルは、神々の会議で断罪され、エンリルはニップル市から所払いとなる。神々の会議は、日本の神無月に似ている。
イナンナ女神は、メソポタミアの神々のなかで最も魅力的な存在だ。アッカド語でイシュタルと呼ばれる。ウルク市の本来の都市神は天空神アンだったが、いつの時代からかイナンナにその座を取って代わられた。従神イシムは常に双面で表現されている。これは、ローマ時代の神ヤヌスに符合する。
小林さんは、シュメル神話の英雄として、第一にビルガメシュ神(ギルガメシュ神)、第二にニンウルタ神を挙げる。
ビルガメシュ神が活躍する『ギルガメシュ叙事詩』(『ビルガメシュ神とフワワ』『ビルガメシュ神と天の牡牛』『ビルガメシュ神、エンキドゥと冥界』)では、3 分の 2 が神、3 分の 1 が人間とされ、人間の存在への根本的な問いかけを含んだ作品となっている。のちに冥界神となる。小林さんは『ギルガメシュ叙事詩』の背景を、「『絶対の無』に常人はなかなか耐えられるものではない。死んで無になる怖さが、生きている人間の心に落ち着きを与える仕掛けとしてあの世をつくりだし、あの世についての考え方をふくらませていった理由になるであろう」(245 ページ)と語る。そして、ビルガメシュの不足している面を補う有能な従者がエンキドゥである。ビルガメシュは実在の王と考えられているが、直接的な証拠は見つかっていない。
もう一人の英雄、ニップル市のニンウルタ神は、『ルガル神話』の主人公である。『ルガル神話』は、ニンウルタ神のアサグ退治、ニンウルタ神によるティグリス河の治水・灌漑、ニンウルタ神による「石の戦士ども」の裁きの 3 つの部分から成っており、もともとは別の物語だった推測されている。物語が「ルガル(王)」とはじまっているように、「王」の役割をはたす神であった。
紀元前 2004 年、ウル第三王朝の最後の王イッビ・シンがエラム軍の捕虜となってアンシャンに連れ去られ、シュメル人社会は崩壊した。農村に生き残ったシュメル人も、時代とともに他民族に吸収されていき、古バビロニア時代の最盛期となるバビロン第1王朝(前 1894~1595 年)の頃にはメソポタミアの住民は完全にセム語族化したのだった。だが、シュメル文明の遺産とも言える「都市」は現代まで続き、ジッグラトはバベルの塔とのモデルとなり、いまもブルジュ・ハリファのような超高層建築の建設が続いている――。
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