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著者・編者 | 浅田 秀樹=著 |
---|---|
出版情報 | 講談社 |
出版年月 | 2024年6月発行 |
著者は、一般相対性理論、重力理論、理論宇宙物理学がご専門で、弘前大学大学院・宇宙物理学研究センターのセンター長・教授である浅田秀樹さん。『 三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題
』(2021年3月、講談社ブルーバックス)の著者でもある。
本書は、2023年に国際研究チーム「ナノグラブ」が重力波を捉えたという衝撃の発表を皮切りに、重力波の発生メカニズムやそれを観測する方法、さらにはインフレーション理論の痕跡とされる原始背景重力波に話が及ぶ――。
第1章は「重力とはなに」をテーマに、 ケプラーの法則
、 ニュートンの万有引力の法則
、 アインシュタインの特殊相対性理論・一般相対性理論
を振り返る。
第2章は、アインシュタインの方程式から予言された重力波の性質と、その性質を利用した望遠鏡の仕組みを紹介する。2015年に、 アメリカの重力波望遠鏡「LINGO」が、ついに重力波を捉えた
。データ解析の結果、2つのブラックホールの合体現象から生じたものだった。
第3章は、 パルサー
(中性子星)の成り立ちと、そこから発せられる電波について解説する。パルサーがきわめて近い距離で連星系を構成している場合、相対論的効果による近日点移動と、重力波を発生することによってエネルギーが失われ、公転周期が徐々に小さくなる。また、重力によって電波パルスの伝搬経路が引き伸ばされ、「 シャピロの時間遅れ
」と呼ばれる現象が発生する。パルサーは固体であり、角運動量保存の法則により、そこから発生する電磁パルスは非常に正確な周期を刻む。こうした前提から「パルサータイミング法」が導かれる。
第4章では、素粒子理論に触れつつ インフレーション理論 を紹介する。インフレーション理論は、現時点で証拠がつかめていないが、ビッグバン理論が抱えていた マイクロ波背景放射 が高い精度で等方的であること、宇宙の曲率が限りなくゼロに近いこと、モノポールやグラビティーノが検出されないこと、宇宙の大規模構造があることなどを説明できることから、多くの研究者たちに受け入れられているという。インフレーション理論を裏付ける証拠として、原始背景重力波が注目されている。重力波は物質ではないので、変換されることなく、時間とともに引き伸ばされているはずだ。
第5章では、相対性理論から導かれるブラックホールの性質を概説する。2012年に地球上にある複数の電波望遠鏡の観測データを合成することで、地球サイズの口径に匹敵するバーチャルな巨大電波望遠鏡を構成する イベント・ホライズン・テレスコープ (ETH)が発足し、2017年4月に20マイクロ秒角という角度分解能を達成し、約6000万光年彼方にあるM87銀河の中心に太陽質量の約60億倍の巨大ブラックホールを発見した。そして2022年5月には、天の川銀河の中心に太陽質量の約400万倍の巨大ブラックホールがあることを発見した。しかし、現時点では、巨大ブラックホールの生成メカニズムは解明されていない。
第6章では、いよいよナノヘルツ重力波を捉えることができる パルサータイミング法
の基本原理を解説する。複数の安定したパルサーの電波パルスは、重力波が通過したときにパルス間隔が揺らぐ。さまざまなノイズを除去した結果、その揺らぎがヘリングス‐ダウンズ曲線に一致すれば、重力波を観測したと言える。
1990年、パルサー・タイミング・アレイ・プログラム(PTA)がスタートして、現在、5つの国際研究チームが観測を続けている。そして、2023年6月28日、5チームが、それぞれの研究成果を公開し、超長波長のナノヘルツ重力波を検出したと報告した。独立したチームが異なる観測方法、集計方法で検出したという報告の信頼性は高く、最も精度の高い報告で4シグマ(99.994%の確率)を達成しているという。国際PTAチームは素粒子実験に求められる5シグマを目標としている。
第7章では、PTA以外の重力波観測方法として位置天文学を紹介する。欧州宇宙機関(ESA)は三角測量によって恒星の位置を直接観測する ヒッパルコス衛星
や ガイア衛星
を打ち上げ、20億の恒星の位置が特定された。これらの恒星は固有運動をしているが、もし一定の方向性があれば重力波が通った証拠になる。まだその証拠はつかめていないが、日本が計画している赤外線位置天文衛星「JASMINE」や、アメリカが計画している「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」が稼動を始めれば、さらにデータが集まるだろう。
第8章では、PTAが観測した重力波は、巨大ブラックホール連星からのものと考えられることを紹介する。そして、原始背景重力波を検出する方法として、巨大ブラックホール連星からの重力波を丹念に取り除くことや、宇宙背景輻射の波長の揺らぎを検出する方法を提案する。
重力波
ただ、お恥ずかしながら、序章でつまづいた。キロヘルツやメガヘルツではなく、 ナノヘルツ
――SI単位系では10のマイナス乗になるから、波長は無茶苦茶長くなることが、しばらく頭に入らなかった。普段見たことも聞いたこともない波長だということを、あらためて思い知らされる。
それにしても、十数年間にわたってパルサーを観測し続けるという研究の継続性に驚かされる。
重力波が見つかったからといって、私たちの日々の生活が便利になるわけではない。それでも、ビッグバン宇宙論をサポートするインフレーション理論の確証としての原始背景重力波が見つかったら、科学は確実に前進する。そして、それを追うように技術が進歩し、いずれは私たちの生活をさらに豊かなものにしてくれるだろう。
私たちの多くは研究者ではないので、24時間365日、科学に関心を持とうと言うつもりはないが、せめて生活時間の1%を、所得の1%を科学に向けてみてはどうだろうか。 その果実を収穫する、私たちの子どもや孫世代のために
――。
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