「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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ぴかろんの日常
リレー企画 123
硝子の向こう 足バンさん
夢をみた。
ドンジュンに連絡しようと携帯をプッシュした。
どうしても思う番号を押せない。
そうするうちに着信が鳴る。
ドンジュンから。
慌てて出ようとした瞬間。
携帯はゴムのように柔らかくなり通話ボタンが押せない。
鳴り続けるその役に立たない物体を掴んで僕は叫んだ。
「ドンジュンっ!切るなっ!切るなっ!」
目を開けると見慣れた自宅の天井。
ひどく汗をかいていて頭の中心がぼうっとしている。
ああ…なんて…
夢の淵から這い出るまでしばらく時間がかかった。
ブラインドから漏れる陽射しはそれほど早い時間でないことを示していた。
枕元で突然鳴った携帯の音に夢が重なる。
ドンジュンからだった。
僕はゆっくりと確実に”通話”を押した。
「おはようスヒョン」
「おはよう…ちゃんと眠れた?」
「うん」
「どうしたの?」
「さっきギスから連絡があった」
「そう」
「受けるかどうかは全く別にして会いたいって」
「いつ?」
「今日午後…幹部会議があるから横で内容を聞いてみないかって」
「そう。行っておいでよ」
「でね、スヒョンも行ってくれない?」
「僕?なんで?」
「どんな企業なのか一緒に見てほしいんだ。上司の同席ってことで許可とるから」
「いいよ…一応この件をミンチョルに報告してからね」
「じゃ時間は…」
電話の後、熱いシャワーを浴びた。
ソファに座り珈琲を飲みながらノートパソコンを開く。
昨夜の作業の続き。
ギスの新しい会社の設立準備状況と資金状況、
ギス自身の国内外の評価などを調べた。
午前中、ミンチョルにことの次第を簡単に連絡した。
ミンチョルは何も質問せずに最後まで聞いて”わかった”とだけ言った。
カフェで軽い昼食を済ませ
ドンジュンとの待ち合わせまで久しぶりに街をぶらついた。
街のショウウィンドウを見ながら歩く。
切りとられたいくつもの夏の風景。
澄んだ青空をゆうゆうと飛ぶ白い鳥。
束ねられた無数の向日葵。
そして子供達に追いかけられている足の生えたアイスクリーム。
そんなものにまであいつの顔を重ねてしまう自分がおかしかった。
立ち止まってウィンドウに映る自分を見た。
気乗りしないデートに向かう、そんな顔をしたスーツ姿の男。
もしかしておまえ…今回かなり参ってるの?
硝子の中の男は返事をしない。
その代わり、急にその向こうの笑顔に焦点が合ってどきんとした。
いつの間にかドンジュンがアイスクリーム店の中から手を振っていた。
「なんだよ人が悪いな」
「だって側に寄っても全然気づかないんだもん」
「おまえ何だか楽しそうだね」
「そうでもないけど」
「故郷に顔出す感じ?」
「敵情調査だよ。今日返事をするわけじゃないし気楽に考えてる」
「そうか」
「もう行こう。すぐそこだよ」
先代のビルをインテリジェント化した自社ビル。
調べた限りでは資金的な問題は無いようだ。
約束の時間に着くと僕たちは会議室に通された。
部屋の15人ほどの男達の目が一斉に向けられる。
ハン・ギスと懐かしそうに握手するドンジュン。
ギスは笑顔で僕にも握手をしてきた。
ハリョンと思われる女性がギスの後ろで僕を凝視している。
ギスがドンジュンをアクターの設計者と紹介すると
男達から小さなどよめきが起こった。
近くに座っていたひとりはわざわざドンジュンに握手を求めた。
部屋の男達を真っすぐ見据え丁寧に挨拶をするドンジュン。
それは僕が見たことのないドンジュンだった。
闇夜のお仕事&お留守番_4 妄想省家政婦mayoさん
PCを開くとはるみは両前足で眼鏡を挟んでよこす...
デスクにランダムに置かれたCDを片前足で何枚か引き寄せ...
一枚づつ前足で指してはるみは俺に振り返る....
俺が何枚かのCDに首を振って答えた後...一枚のCDに頷くと両前足でCDを挟んでよこす..
「器用だな...お前は..^_^...」
「みゃん#」
「ご主人様の仕込みがいいのか..ん?」
「みゃん#^^...」
Anthony Hamilton
のCDをセットしてメールを受信する..
届いた調査の資料を振り分け...俺は調書の作成に入った...
はるみは仕事の邪魔にならないように俺の膝の上でごろん#と横になった...
~~~~~~~~~~~~~
キムパブを1個口に入れノートPCを開いたときにテソンから電話がきた..
「ご飯食べた?」
「今食べてる.....」
「キムパブ?」
「何でわかるの...」
「ぷっ...わかるの#.」
「はひ..」
「ぷっ...海のそばなのに...メウンタンでも食べなきゃ...」
「ひとりじゃ嫌だよ...何食べても美味しくない....」
「ったく....」
「ぁ...シチュンさん..店に来た?」
「ぅん...でれぇーっとしてちょっと遅れて来た....腰押さえながらね#.」
「あは^^;;..そぅ...」
「メイが帰ってきたって....礼言ってたよ...」
「ん...よかった....」
「ぅん...帰ったら電話する...」
「ぅん..」
「テソンさん..」
「何.....テス...」
「声聞くと安心する?」
僕は電話を切ったテソンさんの顔を覗いた....テソンさんは頷きながら笑った....
~~~~~
PCに取り込んでいた「Soulife」を聴きながらモバイルをセット...
ノーマルメールを受信し送られてきた調査の資料を振り分ける...
★☆メールを開いて昨日のメールを読んだ...
★お手伝いの報酬...こいつも面倒な分高いぞ#...覚悟しろ#
『ぷっ...マージンは店の工事費だ#つーの#...』
★俺はテソンが声がでかいと聞いたぞ?ビンゴだろぅ~(^^;)
『ビンゴですけど...ここ何日かは...聞いてないか....』
★☆メールのアイコンがくるくると廻った...
★何聴いてる....
☆Soulife...
★ぷっ...そっか...
☆もしかして...そっちも?
★ん....そうそう...テスはお前と踊らないとつまんなぁ~いそうだ#
☆...私もかな..
★ぷっ...俺やテソンでは駄目か...
☆違う踊りになるでしょぉ^^;...
★ぷはは....そいつは言えるな....
☆資料揃った?
★明日海外調査の分を受け取ることになっている..それがあれば調書も楽にできるだろう
☆サンキュ....
★かなりデカイ物件だな...今回は...
☆ぅん...
★お前....まさか株に手出してないだろうな...
☆株はやらない...親父の遺言だから...
★ぷっ...そうだったな...
☆ぅん...
闇夜の家はじいさんの代まで大店を構えていた.....
それを闇夜のじいさんは見事に潰した...株と女で...
なので闇夜の親父は「株には一切##手を出すな」と最後まで闇夜に言い続けた...
★ぁ...テスがメールに気づいた...
☆いつ...
★昨日だ...俺がテスに確かめた...
☆で..メールしてるってことは...
★ん...テスは続けていいと言った..それと..テスはテソンに喋ったそうだ...
☆そう...テソンには私からちゃんと言うよ...
★ん...その方がいい...×なら★☆メールは止めるぞ...いいな...
☆わかった...
★ん....明日も移動だろ...仕事はほどほどで早く寝ろ#
☆アラッソ#
~~~~~
「テソンさん..一緒に入ろう~」
「えっ?..ぁ..いいよ...」
「いいからっ#僕たちのバスタブ大きからさっ#」
「ぅ....ぅん....」
部屋に入ってきたテスは僕の手を引っぱっった...
僕はちぇみテス部屋のバスルームに連れて行かれた...
確かにちぇみテスのバスタブは男3人で入れる大きさだ...
バスルームに入ると柑橘系の香りがぷぅ~んと漂う...
レモンに似てるけど....もっとやわらかい香り....
「これは...ヴァーベナ?...」
「ん....」
バスタブの端で..はるみと泡だらけになっているちぇみが僕に頷いた...
かなりぬるめのジェットバスにはクリーミーなヴァーベナの泡がたっぷり立っていた....
バスタブに浸かるとテスが悪戯をしかけてくる...
「や...くすぐったい#テス#..やめろって#.....」
「えへへ...^o^...テソンさんって...すべすべ....」
「さ..触らないでよっ..ぁの....」
「どこを?...テソンさん...」
「ぁ...ぁのね#....」
「ちぇ~みぃ~....」
「ん......」
テスが呼ぶとちぇみが僕の側に近寄った...テスが僕の顔を泡だらけにした...
「ぁ~やだ#~....やめてよぉ~~~きぃ#.....アンドゥェ##..アン..ドゥェ##」
僕はかろうじて保持した...大事なところは守った....
ちぇみテスのバスルームを出て部屋に戻り...僕は闇夜におやすみコールをした...
はるみとベットに入ろうとしたら....またテスが部屋に入ってきて僕の手を引っぱって行く...
「一緒に寝ようよ~テソンさ~ん...」
「テス...何もしない?」
「ぅん^o^...」
「ホントに?」
「ぅん...」
「ちぇみ...何もしない?」
「ん?....んー.」
「ちょっとぉー」
「...ん....何もせん#」
結局僕たち3人はちぇみテスのベットで.....
テスが真ん中で...僕が右...ちぇみは左...の川の字眠った...
パッション オリーさん
彼のちょっと右に上がった唇がかすかに開いて、
静かに話し始めるのを僕は隣でただ聞いていた。
こんな時彼は感情をまじえず淡々と事実だけを話す。
聞き手の僕に先入観を与えないよう、わざとそうしているのだろう。
「考える時間を一週間だけもらった。」
握りしめた缶ビールの淵を指先でなぞりながら、彼は深いため息をついた。
駐車場で彼と別れた僕は、急にビールが飲みたくなってノースウイングのスーパーに寄った。
クアーズとフォーエックスを棚から掴みとってカゴに入れた。
部屋に戻ると、彼がシャワールームから出てきたところだった。
「遅いから先にシャワー浴びてた。」
「ビール買ってきたから。」
「クアーズか、懐かしいな。」
「アメリカにいた時飲んでた?」
「しこたまね。」
「フォーエックスもある。先に飲んでて。」
僕は彼にスーパーの紙袋を押し付けるとシャワールームへ向かった。
「飲まないビールは冷蔵庫ね。」
「わかってる。」
シャワールームから出ると、彼はビールを片手にカウチにうずもれていた。
僕は冷蔵庫からフォーエックスを取り出して彼に近づいた。
「どうしたの?疲れた?」
僕の声に彼は振り返って顔を上げた。
「いや、ちょっとね・・」
「ふうん・・で、ミューズはどうだったの?」
彼の横に陣取った僕の問いに、彼は話を始めたのだった。
「どう思う?」
相変わらず缶の淵をなぞりながら彼は僕に聞いた。
「やるしかないでしょ。」
「どうして?」
「昔の仕事に戻れてしかも立場は社長。うまくいけば弟さんの事も解決するし、一石二鳥じゃない。」
「そうだね。」
「断われば会社は売られてそれっきり。だったら受けた方がいい。」
「確かにそうだな。」
「気が進まないの?」
「考えてる。でそっちは?先輩は元気だった?」
「すごく元気。」
「何か話があったんだろ。」
「ん、僕も、その、内職してもいいかな。」
「内職?」
「先輩が困ってるんだ。」
「どうして?」
今度は僕が頼まれた内職のことを説明した。
課内の人員が削減されて、先輩が対欧米とロシアの統括を1人でやってること。
手が回らなくて資料に作成する時間がないこと。
資料作成は翻訳がメインだけれど、秘密保持のため外部に発注できないこと。
僕はロシア語と英語ができて、秘密保持に関しては問題ない存在であること。
彼は黙って聞いていた。
「どう思う?」
今度は僕が聞いた。
「ミンはどうなの、やりたい?」
「先輩を助けたい気持ちもあるし、ちょっと関わりたい気持ちもある。」
「じゃ問題ないだろ。」
「いいの?」
「ミンがやりたいなら、僕は止める権利はないよ。」
「もっと積極的に賛成してよ。」
「オーケーはオーケーだ。」
「面白くないなあ。」
僕は苦笑いしてビールを飲んだ。
「ただ・・」
「ん?」
「前の仕事に未練がある?」
「またその話?もう済んだ話でしょ。」
「あるかないか聞いてるんだ。」
「ないよ。翻訳は別の頭使うから、いいかなって思ったんだ。それだけ。」
「ミンは仕事をやめたのに、僕は昔の仕事に戻ったとしたら・・」
「そんなこと気にしてるの?おかしいよ。」
「でも少しでも前の仕事に未練があるなら・・」
「待ってよ、全然状況が違うでしょ。何で僕がこの内職やろうと思ったかわかる?」
「なぜ?」
「パソコン一台あれば出て行く必要がない。だからやってもいいと思った。」
「それだけ?」
「そうだよ。僕は自分で選んだんだよ。忘れた?」
「忘れてないよ。でも・・」
「ならそれでいいでしょ。僕は僕のやりたいようにした。だからミューズの話もやりたいようにすればいい。」
「ミン・・」
「僕の事は気にしなくていいよ。好きにして。」
「わかった。考えるよ。」
彼がいつになく弱気なのはなぜだろう。
いつもの彼なら条件を聞いた時点でやる方を選ぶはずだ。
そんなことを考えていた僕の耳に、突然彼の言葉が突き刺さった。
「スヒョンとも相談しないと。」
「何?」
「スヒョンに相談してみる。」
僕は全身から血の気が引いていくのを感じた。
「何でまたあの人なの?」
「え・・」
「僕が今ここにいるのに、何でスヒョンさんなの?どうして、どうしてよ?」
「何言ってるんだ。」
「何言ってるって、わけわからないのはそっちじゃない。目の前の僕じゃ足りなくて、
スヒョンさんに相談するって、じゃあ僕は一体何なの!」
「ミン・・」
コントロールできないもう1人の僕がいた。
口が勝手に動き、どんどん声が大きくなる、止まらない・・
「そんなにあの人がいいなら、あの人の所へ行けばいいよ!」
僕は手の中の缶ビールをつぶして立ち上がった。
彼の視線が立ち上がった僕に注がれているのを痛いほど感じた。
でも僕はどんどん坂を転げ落ちている。
「行かないなら僕が出て行こうか。」
缶を投げ捨てるとエレベーターの方へ足早に歩き出した。
「ミンっ!」
彼の呼ぶ声にも僕の足は止まらなかった。
海へ ぴかろん
朝、俺は腰も腕も脚も痛くて中々動けなかった
ギョンジンは…いない…
よかった…
もしいたらまた…迫られそうでコワイよ…
なんて体力あるんだ!なんて…スゴいんだ…全く…
ベッドの中でだらだらしていたら部屋の戸が勢いよく開いて
「おっはよぉ~」
という素っ頓狂な声とともに、またエロ爆弾が俺に覆いかぶさってきた
俺は恐怖で声もでない…
エロ爆弾は否応なく俺の腕を押さえつけ、ちゅちゅちゅ…と唇に攻撃を落とす
「あっうっ…もっいっやっあっ」
ちゅちゅちゅのリズムがちゅっちゅっに変わり、やがて深いちゅうになる…
俺は気が遠くなりそうだった
「んちゅっ!はあぁっご飯できたよっ」
すっげぇ明るく、そして可愛らしく、ギョンジンは俺に言った
「え?皆で作るんじゃなかったの?」
「ん、三人で作った。ほとんど僕がやった。誉めて」
「…なんで起こしてくれなかったのさ!」
「だって疲れてるみたいだったんだもん」
「あんた疲れてないの?!」
「ぜんぜんっ。むしろ元気!」
「…」
「早く起きて!あっ、でもシャワー浴びた方がいいかな?ぐふっ」
「…先に食べててよ…」
「待ってるから、早くおいでよね」
ニコニコしてリビングに消えるギョンジン
はぁぁ…
俺は痛む体を引きずってシャワーを浴びた
やっと四人揃ったので、朝飯を食べた
ギョンジンはラブに
「あ~んして」「僕にもあ~ん」「はい、ミルク飲む?」「トマトジュースは?」
とかいがいしく世話をやいている
とっても嬉しそうである…
俺は…テジュンに、トマトを食べさせてやった
お返しにテジュンは目玉焼きをくれた
少し微笑み合った
大方食べ終えてからギョンジンが言った
「今日は何して遊ぶ?」
遊ぶ?!
遊ぶ目的で来たんじゃねぇのに…
「そうだなぁ…海にいくか?」
何言ってんの?テジュン!
話するためにここに来たんじゃないの?!
「ん?イナ、なに怖い顔してんの?」
能天気なギョンジンに言った…
「俺、水着持ってないし…それに泳げない…」
ギョンジンはにっこり笑って答えた
「僕も持ってない。ホテルのショップで買おうよ、ねっテジュンさん。せっかく海に来たのにさぁちょっとぐらい泳ごうよ…」
「ん…そうだな…泳がなくても…ビーチでのんびりしてもいいしね…」
「じゃ、片付け終わったら水着買いにいこうっ!」
ラブがギョンジンの腕をひっぱって訊ねている
「…あんた…どんな水着買うの?」
「ブーメラン水着ってのあるよねぇ」
「…え…」
「ブーメランみたいなの、競泳の選手が着てるヤツ…あれさぁ」
「やめてよね!そんな水着着たら俺、もう絶対相手してや…けほっこほっ…絶対…、口きかないからねっ…」
「え?僕はふつーの海パンを買うつもりだよ。そうじゃなくてぇ、お前がぁ…でへへっあれをぉ…どぅえへへっ穿いたらぁっひひひん」
「俺はそんなへんな水着、着ねぇからなっ!」
「…ちぇえええっ…穿いてくれたら水着にお札挟んであげるのにぃぃっ」
べちん★
そんなやり取りを終え、片付けをした後、俺たちはみんなでホテルのショップまで歩いていった
で、全員水着を買った
もちろん、ごく普通の、ありふれた形の海パンだ
ギョンジンは変な水着をしきりとラブに薦めていたけど、最低五発は頭を叩かれてたな…
あんなヤツだっただろうか…アイツ…
俺はイヤだったんだ…
泳げないしモヤモヤしてるし…
コテージで着替え、海岸に向かうことになった…
俺は…すっごくイヤだった…
気になる…
いったいいつ?
いつ話し合う気なの?
「はぁっ」
思わずため息をついてしまった
ラブとテジュンが俺をさっと見た
ああ、いけない二人に気を遣わせてしまった…
「なぁにため息ついてんの?」
訊ねたのはギョンジンだった…
そして俺の瞳を覗き込み笑顔で言った
「海見たら楽しくなるぜ。なっ?」
ギョンジンの瞳が怒っていた
『いつまでそんな憂鬱な顔を見せてる気?みんながお前に気を遣ってるのわかってるだろう?』
そう…言っている…
目線を外すと、がしっと肩をつかまれた
「行こう!なっ」
「あっ…俺…泳げないからっ…」
「ビーチで寝転んでりゃいいよ!」
おどけた調子なのに目が怖ろしく鋭かった…
『甘えるな』
そうも言っている…
肩を組みながらギョンジンは呟く
「まず僕とゆっくり話ししような…今晩…」
「今晩?」
「それまではお前も楽しめ!みんな大変な思い抱えてるんだ!お前だけじゃない」
「…わかってるけど…」
「だったら楽しむ時は楽しめよ、お前らしくない!」
「…ギョンジン…」
「いこっ(^o^)」
なんでお前はそんな風になれた?
やっぱラブのお陰?
ビーチに着いた
ギョンジンはラブにくっついてギャーギャー騒いでいる
波打ち際で子供のようにはしゃいでいる
「ギョンジンってかわいいな」
テジュンが優しい瞳をして言った
「きっとガキの頃はしゃいだ事なかったんじゃねぇの?」
「そうなのかな…」
多分…
親父さんの顔色伺いながら、優等生演じてきたヤツだから…
そうだった…
あいつ、そういう生活してきたんだった…
「仲間同士で旅行なんて…多分…初めてじゃねぇかな…」
「…ふぅん…それでね…」
…俺、自分の事ばかりにかまけてたな…
ふっと笑って海を見つめた
『海見たら楽しくなるぜ』
楽しい?うーん…俺、やっばし怖いよ…飲み込まれそうで…
「泳がないの?ホントに」
「泳げないんだ。ホントに」
「浮き輪借りてやろうか?」
「…いいよ…かっこわりぃ…」
「かわいいのに…」
「ふんっ」
「じゃ、二人でこうしていよう」
テジュンは俺の横に寝そべった
「でも…暑いよなぁ…パラソル借りてこようか」
「ああ…」
俺達は浜茶屋まで歩いていった
浮き輪やら水中眼鏡やら足ヒレやらも貸し出している
俺達が借りたのはビーチチェア二つとシートとパラソル二つ
二人で浜まで持っていってセッティングした
ちょうど海から上がってきたラブとギョンジンが、じゃれあいながら近づいてきた
「波、けっこう高いよ」
「あそこでボディボードやってる」
「イナもやんない?」
「いやだっ!」
「溺れたら僕が助けてやるのに」
「いやだっ!」
「浮き輪に掴まってればいいのに」
「ぜったいいや!」
まるでドンジュンのように膨れて、俺は抵抗した
そんな俺に、ヴィーナスのような微笑を浮かべて…ラブが声をかけた
「海、キモチいいよ」
「…いやだ…」
俺は…やっとのことでラブに返事した…
返事ができただけでも進歩だと思うんだけど…でもギョンジンの目は相変わらず鋭かった
ビーチチェアに寝そべっている俺に覆いかぶさるように腕をつき、鋭い目のギョンジンは俺に言った
「海に来たのに海に入らないで帰るの?お前ってそんな消極的な人だったっけ?なんでもやってみなくちゃわかんないでしょ?!」
「…なんだよ…つっかかるなよ…」
「怖がってちゃ何もできない。じゃなかったっけな…」
「…え?…」
「行こう」
ギョンジンは俺の腕を無理矢理ひっぱった
替え歌 「OCEAN」 by ギョンジン ロージーさん
降りそそぐ陽を浴びて 美しいおまえがいる
そのすべて守るため 僕はただ走り出す
ゆっくり沖を進んでゆく 白く光る船のように
どんな風も呑み込んで 一つずつ波を越えたいよ Baby
果てない想いを おまえに捧げよう
握りしめた この手は はなさない 嵐の中でも
新しい旅へと ともに出て行こう
胸ふるわす 僕らが見てるのは どこまでも 広がるOCEAN~
形の違う心 何度でもぶつけ合って
人は皆それぞれに生きてゆく 術-sube-を知る
一人隠してきた涙を 今こそ見せてくれないかい
怖がらないで迷わないで 僕はその心にさわりたいよ Baby
果てない想いを おまえに捧げよう
かわした言葉 その声は響き続ける 季節が変わっても
どこにも逃げないで 同じ空を見よう
絆深き 僕らを待っているのは 静かにゆらめくOCEAN~
果てない想いを おまえに捧げよう
握りしめた この手は はなさない 嵐の中でも
新しい旅へと ともに出て行こう
胸ふるわす 僕らが見てるのは どこまでも 広がるOCEAN~
(B'z 『OCEAN』)
海へ 2 ぴかろん
「やめろよ!いやだ!怖い!」
「大丈夫、僕がついてる」
「いやだ!俺たち二人で行ったらあいつらが!」
「…僕はラブを信じてるから」
「…ギョンジン…」
「海に包まれてみろよ」
「…いやだっ!いや!」
無理矢理ひっぱられて俺は海の中に倒れこんだ
潮水にまともにぶつかる
鼻の中がツーンと痛む
苦しい…
「ぶはっ!ぶへっ!ひでぇっ!」
「くはは、しょっぱいだろ?」
「鼻が痛い…」
「もっと深いトコに行こう」
「えっあっやめてよっ溺れるからっ」
「僕に掴まって」
「いやだっ帰るっ帰るっ…」
俺は必死でもがいたけど、ギョンジンは俺を抱きかかえたまま、スイスイと水中を動いて浜辺から少し離れたところまで俺を連れてきた
そしてトンと突き放した
俺は怖ろしくてばたばたともがいた
体が沈む
ギョンジンはぷかぷかと浮んでいる
助けてと叫びたくても声が出ない
浜にラブとテジュンがいる
俺達を心配そうに見ている
その二つの影が一つに寄り添ったような気がして俺は
もがくのをやめた
とぷん…
俺の体が水の中に落ちた
すぐに海底についた
頭上を見ると太陽の光に揺れる水面が、きらきらと輝いている
なんで俺、こんなに落ち着いてるんだろう
じっとしていると体が水面に出た
ギョンジンが俺の頭を水面から出した
「ぶはっはあっはあっはあっ」
「大丈夫か?」
「…あ…うん…」
「力抜いてごらん」
「…うん…」
「頭支えてやるから寝そべってごらん」
「え?」
「溺れそうになったら助けてあげるから…」
「…あ…うん…」
俺はギョンジンの手を枕にして、水面に寝そべってみた
まるで海の布団に寝ているみたいで…気持ちよかった
青い空と青い海にサンドイッチされてる…
スヒョンとミンチョルにサンドイッチされたことを思い出した
「キスしてもいい?」
唐突にギョンジンが言った
ギョンジンの方を見つめるとにっこり笑っている
「なんで?」
「キスしたくなっちゃった…」
「ラブにしろよ」
「お前にしたいの…」
「こんなとこで?」
「うん」
「どうやって?」
「ふっ…」
笑って、俺を、海の中に引きずり込む…
俺は小さく叫んだ
怖くてギョンジンにしがみつく
ギョンジンは俺の口を塞いで、器用に舌を吸う
こんな海の中で…
頭が麻痺した
怖さが消えた
俺は目を開けて海面を見た
不思議な世界が見える
俺はギョンジンのくちづけを酸素ボンベ代わりに
浅い海の底から海面を通して空を見ていた
あいつらは…もっと深い底まで行った…
こんな風景を見たのか?
体中が海水に包まれて心地いい
もしも一人だったら…
怖くてたまらないだろうな…
ギョンジンがいてくれるから怖くない…
あいつらもそうだったのかな…
ギョンジンにしがみついて全てを任せた
気が遠くなりそうになったころ、ようやく俺たちは水面から顔を出した
唇は離れ離れになった…
浮き上がってきたら離れ離れに…あいつらも…
目の奥から光が走り、瞼を突き抜けて俺の視覚が戻る
浜にふたつの影が見える
遠慮がちに距離をとって、俺達の様子を心配そうに見ているようだ…
「ギョンジン」
「ん?」
「なんでキスしたの?」
「…底まで…行きたかったから…」
「…」
「浅いけどね…フフフ」
「…」
「どう?海を味わった気分は…」
「ん…思ったより気持ちいいな…」
「そう?よかったね。知らなかったものが一つなくなって…」
ギョンジンは…何を言いたいんだろう…
「なあ…俺、浮けるかな?」
「力抜いて楽にしたらね。まだ無理だと思うけど」
「…浮けるようになりたいな…」
「力を貸すよ、僕もラブも…」
「…お前にまで世話になるのかな…」
「…上がろう…僕らの愛しいダーリンがプリプリしてるみたい…」
「…ふ…」
俺たちは手をつないだまま浜に上がった
昼までイナはギョンジンや僕に手を引かれながら浅瀬で浮く練習をしていた
だんだんコツが解ってきたみたい
「あはっ浮いた!これで泳げるかな?!」
「浮くのと泳ぐのは違うからね」
「でもさっ!浮かなきゃ泳げないんだろ?」
「…そうだよ、イナ」
僕とギョンジンとラブは、少し元気になったイナを取り囲むようにして海に浸かっていた
イナが何気なく言った言葉に、ギョンジンは深い色の瞳で答えた…
僕には、その意味が、解った…
いや、イナ以外の三人は、その意味が解ってた…
「もう一つ言うとね」
「ん?」
「浮くためには、沈まなきゃなっそれっ!」
ギョンジンは浮いているイナを押さえ込んで沈めた
バタバタともがいていたイナは、海にすっぽり包まれると、もがくのをやめた
そして僕の体に…まるで藻のように…絡みついた…
それから海面に浮かび上がり、僕に笑顔を見せた
イナ…
「すげぇ…俺、浮き上がれた…」
嬉しそうな顔…久しぶりに見たような気がする
ギョンジンは、イナに微笑みかけながら言った
「けど油断大敵なんだ…」
「え?」
パッション 2 オリーさん
エレベーターのボタンを押した僕の手に彼の手が重なった。
「離してよ。いくら僕が話を聞いても無駄なんでしょ。」
彼の手を振り払うと、彼は僕の前に回りこんだ。
「何言ってるんだ。スヒョンは・・」
「僕は出て行く。あの人を呼んでいくらでも話を聞いてもらえばいいじゃない。」
「違うんだ。」
「もういいよ。」
進もうとする僕の胸元を押さえて彼は言った。
「スヒョンしか、スヒョンしかいないんだ、代わりにチーフを頼めるのは。」
「・・」
「この話を受けるとしたらもうチーフはできない。だからスヒョンに。」
彼は震える瞳で僕を見つめた。
僕の心の中でパンパンに膨らんだ風船が音をたててしぼんでいった。
「チーフやめるの?」
「二股はかけられない。」
エレベーターのドアが開き、そして閉まった。
ごめん、そう言おうとした時、彼が僕の胸元に額をつけて呟いた。
「怖いんだ。」
「え・・」
「僕はたまらなく怖い。」
僕は恐る恐るいつもと違う彼の肩を抱いた。
あの人なら彼の気持ちがすぐわかるのだろう。
でも僕は聞くことしかできない。
「何が怖いの?」
「ヴィクトリーが潰れた時、僕は何もできなかった。あの喪失感は忘れられない。」
彼の声はかすかに震えていた。
「スタッフが職を失い、父さんは呆けた。また同じような事が起きたら・・」
「そんな事にはならないよ。絶対に。」
「なぜわかる?」
「今はマイナスなんだよ。やらなければマイナスでゲームオーバー。
やればプラスにできる可能性がある。」
彼はゆっくりと顔を上げ僕の顔を見つめた。
「その通りだ。ミンは強いね。」
「簡単な確率論だよ。」
僕は腕に力を込め、しばらくの間消え入りそうな彼を抱いていた。
「ねえ、ビール飲み直そうか。」
彼のかすかな震えがおさまったのを感じた僕は、声をかけた。
冷蔵庫から新しい缶を手にして、僕らはまたカウチに戻った。
僕は彼にかける言葉が見つからず、黙って彼の肩を抱いていた。
彼もただ黙ってビールを飲んでいた。
ふたりの缶が空になった時、彼が口を開いた。
「ソンジェの死んだお母さんはとても美しかった。」
「・・・」
「ソンジェが社長になった時、僕はもう心配することは何もないと思った。
天国のお母さんもこれで安心だろうって。」
覗き込むと、彼は静かに微笑んでいた。
でもその瞳は深く暗く揺れていた。
思わず彼の首に抱きついた。
ああ、そうだったんだ・・だから揺れてたんだね・・
「ごめん、ごめんね。さっきは言いすぎた。」
彼はしばらく僕の髪を撫でていた。
それから抱きついた僕を両手でそっと離した。
「僕の方こそすまない。ミンに辛い思いをさせてた。」
片手で僕の頬を包んだ。
「スヒョンとはどこかでつながってるのは本当だよ。たぶんこれからも・・
でも僕はミンと暮らしてる。この意味わかるだろ?」
彼はとまどっている僕の首に腕を巻きつけ、低い声で囁いた。
「愛してるよ、ミン。」
その言葉が僕の耳から頭へ駆けのぼり、甘く狂おしく全身へ広がった。
目の奥が熱くなった。
「初めてだね、愛してるって言ってくれたの。」
「そうだよ。」
「どうして今まで言ってくれなかったの。」
「ミンには言う必要がなかった。」
「どうして?」
「わかってると知ってたから。」
「そうだよ、わかってた。でもたまには言って欲しかったのに。」
「じゃあ、これからは毎日言おうか?」
「いいよ、毎日だと価値がなくなる。」
「だろ。」
それから僕らはもう一本づつビールを飲み、ミューズの可能性の話をした。
でも結局結論は出ず、彼はあの人に相談することになった。
今度は僕は切れなかった。
今夜彼は僕にすべてをさらけだしてくれたから。
過去の傷も、家族の思いも、そしてあの人への気持ちさえも。
そして僕らの間では使ったことのない言葉を初めて彼が言ってくれた。
僕はその夜ずっとその言葉に包まれて眠った。
愛してるよ、愛してるよ、愛してるよ、ミン。
Illustration by Dr.Ashiban
佇む天使 足バンさん
僕とドンジュンは会議テーブルではなく
その外側に用意された椅子に案内された。
会議とは言っても今後の方針などの簡単な内容だった。
ドンジュンはともかく僕のような部外者の入室を許可するくらいだから
当然と言えば当然だ。
ドンジュンは真剣に聞き入っている。
発言者ひとりひとりに鋭い目を向けるその横顔は
僕の腕の中で甘えて微笑むドンジュンとは別人だ。
業界の歴史に残る巨大プロジェクトを成功させた…
僕が夜ごと抱いているのはそんな男なのだということを思い知らされる。
ある幹部が品質管理の不安を口にしたとき
ギスはいきなりドンジュンに水を向けた。
「あなたはどう思いますか?」
ドンジュンはちょっと困ったような顔で僕を見て
しかしゆっくりと立ち上がってよく通る声で話しはじめた。
「国産車のIQS初期品質調査は近年良くなっていて、ヒュンダイの品質改善により
98年には100台あたり272件の不具合発生率が昨年には117件に減少し
6年間に57%もの改善が達成されています」
僕は思わずドンジュンの顔を見上げた。
ドンジュンは海外に対抗できる環境整備の重要性などについて述べた。
「さすがですね。ブランクがあるとは思えない」
「あ、いえ」
「参考までに我が国の今後の課題についてお聞きしていいですか?」
ドンジュンはまた僕をちらりと見てから口を開いた。
「先進メーカーとの競争力格差縮小のためには、過去の生産過程中心の
戦略から研究開発及び生産技術中心の信頼性向上戦略へと転換することが重要です」
「未来型自動車についてはどうでしょう」
「ヒュンダイ、キアグループがハイブリッド車を開発し韓国環境部に
提供しましたが、実際はインフラ及び基礎技術面で先進国との
格差が大きすぎます。しかし…」
幹部達はドンジュンの抑揚のあるスピーチに耳を傾けはじめた。
「部品生産についてはどうですか」
「世界10大部品メーカーの多くが我が国に進出していることからも、
核心部品及びシステム部品分やでの自立や部品産業の専門化は不十分で
この分野での独立開発能力は大きな課題であり…」
まわりがなるほどと頷き始めるとギスはにやりとした。
ギスのやつ…僕はその時やっと気づいた。
ドンジュンがデジタル分野での差別化や根強い労使問題を説くに至っては
みんなが静まり返っていた。
「あくまでも個人的な意見ですので」
「いやありがとう。見学に来てもらったのに思いもよらぬ収穫です」
僕がギスを真っすぐ見ると
またしても隣のオ・ハリョンの視線を感じた。
「どうです?皆さん。幸運にもカン・ドンジュンさんのご意見を伺えましたが
私が勧めるプロジェクトの根拠は間違っていないことが
おわかりいただけましたでしょうか?」
幹部達はううむと頷きざわついている。
1時間ほどした頃、会議は細かい経理の議題に進むということで
僕たちは退席することになった。
ギスはドンジュンにがっちり握手をして
「ではまた連絡させてもらいます」と機嫌良く言い
そして僕に向かって
「多才な部下をお持ちだと上司の方も大変ですね」と言って
満面の笑みを見せた。
ビルの外に出ると僕は何となく足早になっていた。
「スヒョン待ってよ!ね、お茶しない?」
「ああ…ちょっと書店に寄りたいんだけど」
「じゃつき合う!出勤までまだ時間あるし」
ドンジュンはどこか興奮しているように見えた。
「おまえよく勉強してるんだね」
「うん…普段でもどうしてもアンテナはそっち向いちゃってさ」
「今日はギスにやられたな」
「え?」
「彼はまだ社内的に新事業の全面合意を得てないんだろう」
「そうみたいだね」
「それでおまえをわざと呼んだんだよ。アクターの開発者っていうカンフル剤を」
「そうかも」
「そんなおまえがペラペラ喋れば彼の思うつぼでしょ」
「ペラペラって何よ」
ドンジュンが足を止めたので、僕は振り返らざるを得なかった。
「僕は常識的な業界の問題点を話しただけだよ」
「それを利用されたって言ったんだ」
「そういう言い方やめてよ。別に減るもんじゃない」
「幹部に自分の優位性を印象づけるためだ」
「経営者があらゆる手を利用するのは当然だよ」
「おまえの純粋な気持ちとはズレてない?」
「まだ僕は何も決めてない」
「向こうはもう決めてる」
道行く人の控え目な好奇の視線を感じる。
「スヒョン…一緒に考えようって言ったじゃない」
「言ったよ」
「でも今のスヒョンは最初から反対してる」
「そうじゃない」
「そうだよ」
「そうじゃない」
「ごめん。本屋はひとりで行って」
「ドンジュン」
「遅刻はしないから心配しないで」
ドンジュンはプイと踵を返し今ふたりで歩いてきた雑踏を引き返して行った。
僕の右手はドンジュンの腕を掴み損ねたまま宙に止まっている。
そうじゃない。
そうじゃ…
僕は今日
自分の羽根がまがい物じゃないかって
初めて感じた。
海へ 3 ぴかろん
ギョンジンがにやりと笑った瞬間、少し大きめの波がイナを呑み込んだ
イナだけでなく僕達全員が大きな波に弄ばれたんだけど…
波と言うものを味わったことのないイナは、また慌ててジタバタしていた
浜の方まで連れて行かれて肩で息をしている
駆け寄ろうとした僕より先にギョンジンはスイスイと水の中を歩き、イナの腕を引っ張ってまた僕達のいる場所まで連れてくる
イナの顔は強張っていた
もういい!もういやだ!と泣き顔でギョンジンに訴えている
ギョンジンはお構いなしにイナをひっぱり、イナは彼の背中をバンバン叩いた
ギョンジンはイナを振り返り、パッと手を離した
「戻りたきゃ戻れよ!せっかくここまで来たのに!言ったろ?油断大敵だって!相手は海なんだ!ダラダラしてたら殺されるんだ!」
「こんなの怖いだけじゃねぇか!」
「そうだよ。海なんだから怖さもあって当たり前なんだ!それでも楽しいだろ?」
「もういい!」
「ガキ」
「ああ!俺はどうせガキだよ!」
「海ってのはなぁ!気持ちいいだけのモンじゃない!キレイだけじゃない!不思議だし温かいし冷たいし怖いし…気を許しすぎても張り詰めすぎても付き合えない!そういうモンなんだよっ!」
「そんな難しいモンとわざわざ付き合いたかねぇよ!」
「…じゃあ…帰れ」
「ああっ!帰るさ!」
「一人で生きていけよ!」
「…は?」
「さいなら」
「…待てよ…俺は…俺はここに…話し合うために来たんだ!それをお前が遊ぼうとか言い出したから…。なんで俺が一人で生きてくって話になんのさ!」
「海を拒否する野郎が、どうやって僕達と話し合うんだよ!どうやって人と一緒に生きてくんだよ!」
「…は?」
「お前が飛び込んでこないのに、どうやって僕達、お前と関わればいいんだよ!」
「…は…」
「来いよ!」
「あっやめ…」
「もっと沖まで連れてってやろうか!それともあいつらの前でもう一回僕と溺れてみるか!」
「…ギョンジン…」
「海は広くて深くて大きくて…その全てを理解するなんてできないさ!だけど、僕達がいる場所までは、お前だって来れるはずだろ?
溺れそうになったら絶対助ける!信用しろよ」
ラブと僕のいる場所からは離れていたので、二人が言い争っている内容はわからなかった
ただ僕もラブも、二人の表情を、波に漂いながらじっと見つめていた
やがて二人が寄り添い、水中に沈んだときも
僕らは少し距離を置いて顔を見合わせて微笑んだだけだった…
僕らは…底まで行ったんだよね…
ギョンジンは…この海の中で少しずつそれをイナに解らせてるのかな…
「ギョンジン、変わったね…」
「…元々ああいう人なんだよ…きっと…」
「…そうなのかな…」
「ずっと隠れてたんだ…ずっと今まで…」
「お前が引き出したの?」
「…」
ラブは微笑んだ
美しい微笑みだった
苦しい、怖い、嫌だ!
どうしてこんな事をする!
海が嫌いだからってなんで話し合いができないなんて言う?!
キスするな!
お前はラブとイチャついてれば幸せなんだろ?!
俺はギョンジンから離れようともがきまくった
もがけばもがくほど苦しくなる…
ギョンジンが唇を離して俺を見つめている
水中だとはっきり見えないんだな…
ギョンジンだかギョンビンだかわかんねぇ
ギョンジンは俺から腕を離すとすうっと水面へ上っていった
俺は…必死でもがいて後に続こうとした
変なトコに力が入ってうまく浮き上がれない…
息が苦しくなって口を開けた
水が中に入ってきて、俺は水を飲んでしまった
怖い
怖い怖い怖い…
どうして浮き上がれないんだろう…
少し気が遠のく
怖さが薄れる
苦しいのに
怖さがだんだん消えていく…
こんなとこで俺の命は終わってしまうのか?
こんな…浅い…
こんなとこで?!
冗談じゃねぇよ!
終わってたまるかよ!
好きでこんなとこに来たんじゃねぇ!
俺にはやりたいことが一杯あるんだ!
どうすれば浮き上がれるんだっけ…
ええっと…
『力を抜いてごらん』『身を任せて…』
そう…力を…抜けば…
流されても…必ず浮くさ…
息が苦しかったけど体をリラックスさせて、海の腕に抱かれる事をイメージした…
恐ろしさはほとんど消えて
俺は海中を漂う藻のように揺ら揺らとゆらめいていた
苦しい…でも…もがきはしなかった
抗ったところで勝ち目はない…
息が苦しいのだという事を理解して俺はその時を待っていた
体が水面に出た
頭を水の上に突き出し、ようやく呼吸ができた
ゆっくり目を開けると、テジュンとラブが俺の方に向かって泳いでくるのが見えた
俺の背中の方から、ギョンジンがぷはぁっと顔を出し、大丈夫か?!と聞いた
呆けた頭で、俺はギョンジンに抱きついた
ギョンジンは俺に軽くキスをしてよく頑張ったなと言った
「頑張ってないよ…もがかなかっただけだ…」
そう答えた後、ようやく俺は浜に連れ帰られた
「ちょっとやりすぎたかな…」
ギョンジンがぐったりしている俺に呟いた
「こんな風にギョンビンに水泳教えてやったの?」
「くふ…もっと厳しかったさ…」
「ヤな兄貴…」
「僕はヤな奴だもの…」
そう言ってまた俺にキスをした
…おい…ラブとテジュンがこっちに来るってのに…
「これは人工呼吸なんだ…」
「…舌…絡める人工呼吸なんか聞いたことねぇ…」
走り寄ったラブの平手が、ギョンジンの後頭部にキレイに決まった…
「もういいでしょ?!次は俺とボディボード体験に行くんでしょっ!」
「あん。ラブぅ…今妬いた?」
「はやくっ!申し込みに行こう!」
「わかったよ…じゃ、イナ、今夜話しようね…」
まだなんか話があんの?
お前とじゃなくてラブと…話さなくちゃいけないんだけどなぁ…はあ…
テジュンが俺の頭を愛おしそうに撫でてくれて、俺は、安心して少しだけ眠った…
闇夜のお仕事&お留守番_5 妄想省家政婦mayoさん
窓から覗く雲にうっすらと橙が混ざり始めた時目が覚めた..
テスはいつもの様にんぱっ#っと口を開け..テソンはアヒルの口でぐっすり寝ている...
鳥の巣のテスの髪を撫でつけ...目にかかっているテソンの前髪をかきあげた....
はるみがデスクの上にある俺の携帯のストラップを銜えて来た...
携帯のランプが点滅していた...はるみの口から携帯を取り部屋を出た..
冷蔵庫からペリエの小瓶を取り出すと肩に乗っているはるみがみゃぁ~と鳴いた...
「お嬢はどれですかな?」
「みゅ..ゅ..」
「ウユ?」
「みゃ#」
「はいよ....合点承知...」
「みゃぁ~^o^」
いつもの中庭のベンチに座るとはるみもだらんと座った..
はるみは牛乳の小さなパックを器用に両前足で挟み..ストローでちゅうちゅう飲み始めた...
「猫は普通..ちゅうちゅう出来ないんだがな...お前は別か...」
はるみは目をくりくりさせ..口をすぼめたまま頷いた...
ペリエを飲みながら携帯を開くと動画が届いていた...
朝陽が顔を出し始め..地平線から太陽が浮いて蜃気楼のようにゆらゆらと揺れていた..
『ふっ...随分早起きだな...』
俺ははるみと一緒の動画を送ろうとした...
「何だ...俺が...半分しか入らない...」
「ッケ..ケケケケケケケケケ....(>▽<)」
「ぁぃゃ....まだ駄目だ....」
俺はぐぐっ#と前に腕を伸ばした...
「ぉ....今度は大丈夫だぞ...はるみ#」
「「...v(^_^)v...(?o?)...(*^^*)...(/_?)..(>_<)..^_^.....^o^~」」
カシャ★
『ったく....朝っぱらから何やってんだ俺は^^;;...』
牛乳を飲み終えたはるみはゲプッ#っとした後ころんと横になった...
2本目の煙草に火を付けた時...テソンが起きてきた...
「何だ..もう少し寝てろ...」
「ぅん...でもぐっすり寝た感じする...」
「ぷっ...2人でコロッ@っと寝ちまったみたいだな...」
「だって...枕投げするんだもん...テス....」
「ぷはは....」
「でもなんか...楽しかった....」
「ん...」
「僕さ....ぁ...知ってるんでしょ...聞いた?」
「ん.......”ここ”のこともあったしな...」
俺は自分の腿を叩いた...
「ぁ..そっか...着替えの時....見られちゃったのが最初か...」
「ん...テスがずっと気にしてたしな...闇夜が俺とテスにちょっとだけ話した..」
「そう...僕...ひとりっ子で母さんと2人きりだし..友達もあまりいなかったんだ...」
「ん...」
「でもさ...学校のキャンプとかさ...修学旅行とかでさ..枕投げするさ?」
「ん...」
「そういうときは僕でも仲間に入れたから....そん時の楽しいこと思い出した...」
「ん....テスは兄貴もあんなだったが仲はよかったみたいだ...」
「そうなんだ...」
「ん...」
「な...テソン...」
「何....」
「....父親には会ってないのか...」
「.....生きてんのか..くたばってんのか知らないよ....知りたくもない#...」
「テソン....」
テソンは唇を噛み..少し震えた...俯いたまま言葉を吐いた...
「何で..何でそんなこと聞くの...」
「闇夜も俺も父親には苦労してる...俺は生まれは華やかだが....
愛情には恵まれてなかったんだ..不遇と孤独の幼・少・青年時代だな...」
「そうなの?」
「ん....だが...親は親だ..憎んだままでいいのか?」
「・・・」
「それと....闇夜は知ってる...どこにいるか...」
「えっ#....」
「闇夜はお前から聞いて...すぐ調べたそうだ...お前..姓を変えてたんだな...」
「僕は母さんの姓に変えたんだ...父親の姓が一生ついて回るのが嫌だった..」
「ん....」
「ちぇみ...闇夜は何故そこまで...」
「お前にこれから先もずっと父親を憎んだまま生きて欲しくないんだろ...」
「・・・」
「惚れ合ってお前が生まれたのか..そうじゃないのか...
それを知る必要があるんじゃないか....っとこれは闇夜が言ってた..」
「ちぇみ...」
「それに..闇夜が側にいればお前は穏やかかもしれない.だがひとりになると不安だろ..今でも..」
「ぅん...」
「お前の殻が剥けるかどうかはわからん...だが何もしないよりはいいんじゃないか?」
「・・・」
「たとえ許せなくてもだ...恨み辛みの一言は今のお前の言葉で言えるだろ..ん?」
「ぅん...」
「逝っちまったら言えないんだぞ...それもくやしいじゃないか...っとこれも闇夜が言ってた..」
「・・・」
「会う会わないはお前が決めろ...場所は闇夜に聞け...俺等はそこまで聞いてない..」
「・・・」
俯いたままのテソンの後頭部に手のひらを当てすりすりした...
「闇夜は...一緒に行くからと言ってたぞ...
お前が泣こうが...喚こうが...どんなでも側にいるからと...」
俺がそう言うと.途端にテソンの目からぽたぽたと雫が落ちベンチを濡らした...
俺は奥歯を噛んで..テソンの頭を肩に乗せ背中を撫でた....
「爽やかな朝にする話じゃなかったな...すまんな...こういうのはオヤジの役目らしい...」
テソンは黙って首を横に振った...
「鳥の巣タレ目テス」が起きてきた...
「おっはよぉぉ~...れれ?どうしたのさ..テソンさん...ぁん...ちぇみぃ....苛めたんだ」
「ぉい!」
「mayoシと...ち◎うさせろ..とかって..言ったんでしょ....」
「ち...違ぁ~う#馬鹿たれ#...(そうしたいのはやまやまだが)...」
ぐぅー★ぐぅー★
「「(ぶつぶつ)聞こえてる#....」」
「はひ...^^;;.」
テスはぽちゃぽちゃの親指でテソンの涙を拭っている...
はるみが俺の頭を撫でてくれた....
「サンキュ..はるみ..../_\...」
「みゃん#^_^...」
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