「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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ぴかろんの日常
リレー企画 160
いとこ同士 2 ぴかろん
※159の続き
「何言ってる!ダメだよ、ミンチョルいないしラブとギョンジンも本調子じゃないだろうし…。退屈なら店に遊びにくれば?テジュンの代金奢るよ」
「…店に?」
「ん。お前、ミソチョル届けに来た時以来、店には来てないだろ?どう?」
「それは…お願いしてるの?」
「は?」
「僕に、『お願いだから店に来てください』って言ってるの?」
「…違うよっ!退屈だって言うから…」
「退屈だから一日中お前とヤりたいって言ってるだろ?!」
「…テジュン…。何イラついてるのさ…」
「イナ…仕事始めたらホントに…ホントにすれ違いが多くなるかもしれないんだぞ」
「ああ」
「…いいのか?…」
「それぐらい我慢できるよ…」
「お前が?寂しがりのお前が?!」
「何だよっ…そのためにミンチョルのマンションに越したんじゃねえか!」
「…僕がいない時に泊まりにいくだけにしろよ」
「イヤだ」
「僕が居るときは元の部屋で一日中一緒にいようよ!」
「イヤだそんなの!」
「どうして!」
「命令すんな!…余計寂しくなる…」
「…。じゃあ勝手にしろ!」
テジュンはムッとした顔でまた俺に背中を向けて寝っ転がった…
俺は静かに立ち上がってテジュンの部屋を出た
出るときテジュンの様子を窺ったけど、ふてくされて寝転んだままだった
階段を一段降りるごとに寂しさが増す
ミンチョルのマンションに帰ろう…
ミソチョルがいるから…
ヨンナムさんに挨拶しようとした時、ヨンナムさんは何も言わずに、またふわりと俺を抱きしめた
限りない優しさ…
誰にでも優しい…
ヨンナムさんの手が、俺の頭をヨシヨシと撫でている
横目で顔を見てみる
テジュンにそっくりのその顔…
微笑んでいる口元と優しい瞳…
限りなく優しくて
誰にでも優しくて
「寂しくない?」
思わず言ってしまった…
ヨンナムさんの微笑みが一瞬凍りついた
それからフッと笑って俺から離れた…
「不器用だな…」
追い討ちをかける俺…
寂しくない?不器用だな…俺もテジュンも…ヨンナムさんも…
「帰ります…」
俺には…仲間がいるから…
俺は…仲間を捨てられないからテジュン…
どっちも大事だからどっちかなんて選べないよテジュン…
通りに出ると朝の清清しい空気の中に、表通りの排気ガスが混じっているのを感じた
Bad boy れいんさん
今日は手首のギプスが取れる日
病院の待合で名前が呼ばれるのを待っている
今日限りであいつの無茶苦茶な介護らしきものから解放される
屈辱的な風呂ヤやトイレの場面もこれで終わり
美味しい物はあいつが先に食べ、どうでもいいおかずを
否応なく口に運ばれる
そんな食事タイムももうなしだ
実に清々しい気分だ
病院にはもちろんあいつもついて来ている
付き添いという名のもとのナースウォッチングに
「わざわざお前まで来る事ないのに」
「何、水臭い事言ってんだ。乗りかかった舟だろ?俺って結構面倒見いいんだ」
ふん…どうだか…
下心みえみえだぞ
ここは総合病院だけあってナースの数も多い
形成外科、内科、小児科…
その通路をナース達がせわしなく行き交う
白いナース服を着ているとニ割り増しってホントだな
「おい…あの後姿のナース…」
「うん…なかなかいい感じだ。…振り向け…振り向け…」
あ!振り向いた…
「…賞味期限切れだな…」
「うん…そだな」
次に目の前を横切ったのは若くてなかなか可愛いナース
アイドル風の顔立ちとグラマーな肢体が妙にアンバランスでそそられる
小児科の待合で立ち止まり、泣いている子供に何やら話しかけている
子供の声を聞き取ろうとしているのか、だんだん前かがみになり、おのずと僕らの視線も集中する
「…どこ見てんだ。お前」
「お前こそ」
「このスケベ」
「男の本能だ」
「…おい…キワドイな」
「うん。なかなかいいポジションだ」
もう少し…前かがみに…
見えそうで…、見えない…後もうチョット…
あああっ…行っちゃった…
「…惜しかったな」
「ああ。あと30度前かがみになってたら確実だった」
「このスケベ」
「だからお前こそ」
病院の待ち時間は長い
イライラしてても仕方ない
ふとホンピョの様子が目の端に映った
僕達の視線を釘付けにしたナースはもういないのに
あいつはまだその場所をじっと見つめていた
視線の先には硬いイスに腰掛け泣いている子供の姿
何かを懐かしむ様に、でもどこか寂しげな眼差しのあいつ
ふいにホンピョが立ち上がり、その子の隣にドサリを腰掛けた
「よぉ、坊主。どうしたんだ?」
「ひっく…ひっく…」
「迷子か?母ちゃんはどーした?」
「うぇっ…うぇっ…」
「なんだ、泣き虫だな。男だろ?泣いてちゃわかんねえぞ」
「うっうっ…ママが…お薬貰って来るから…ひっくひっく…ここで待ってなさいって…」
「ふぅん…じゃ、泣く事ねえじゃんか。待ってりゃすぐ来るだろ?」
「ひっく…ひっく…れも…まら…こらい」
「そっか…じゃ、俺が一緒に遊んで待っててやるよ。だからもう泣くな
お前も男なんだから股の間には立派なモンついてんだろ?」
「え?それがあると泣いちゃダメなの?」
「そうだ。それがついてるから男は泣かないんだ」
「お兄ちゃんもある?」
「おお。当ったりまえだ。そりゃ、立派なモン持ってるぞ。暴れん坊で困ってるくらいだ」
「あはははっ」
「おっ!坊主、やっと笑ったな。笑った方が男前だぞ。ホラ、これで涙ふけ」
「お兄ちゃん…このくちゃくちゃしてるの、ハンカチ?」
「馬鹿野郎。男がいちいち細かい事気にすんな」
ホンピョが何やら子供に話しかけ次第に子供に笑顔が戻る
身振り手振りのオーバーアクションで子供を笑わせているホンピョ
パーカーのポケットに無理やり手を突っ込んで、脚は左右に大きく開き
面白い顔を作ってみせる
大きな腕白坊主がそこにいた
イスからぶら下がっている子供の足が笑い声と共に振り子の様に揺れだした
まるで切り取られた写真を見る様に僕は目を細めてそれを眺めた
そのうちにその子の母親らしき女性が戻り、ホンピョにペコリと頭を下げ
その子の手を引きその場から去っていった
その子は名残惜しげに振り返りホンピョにバイバイと手を振った
あいつはそれに応えて片手を上げたまま母子の姿を目で追っていた
姿が見えなくなるまでずっと
のろのろと元の場所に戻ったホンピョは
どこかに大事な物を置き忘れた子供のような顔をしていた
どうしたんだ?その言葉を飲み込んだ
何も聞かなくたって分かっているよ。お前が考えている事くらい
「…俺って…意外とガキに好かれんだな」
「そうみたい…だな」
「グラマーなおネエちゃんに好かれりゃいいのによ」
「お前が子供と知能レベル同じだから好かれるんだろ?」
「ふん、うるせぇ。…でもさ…子供って可愛いもんだな」
「うん、そうだな」
「俺さ…子供いるって知ってるよな」
「ああ、知ってる」
「ヨンファって言うんだ」
「ヨンファ…いい名前だ」
「だろっ?俺がつけたんだ」
「そっか…」
「でも…捨てた…」
「…」
「昔、惚れてた女と色々あってな、ムシャクシャしてる時に…いつも俺の後をついてきてた女と…
酔った勢いで…ついその…で、子供ができちまって結婚したってわけだ」
「…」
「成り行きでそうなったとは言え、俺だってカタギになって真面目に生きようと思ったんだ、その時は
でもケンカばっかりの毎日でさ、とうとう嫌気がさして飛び出しちまった
結局は愛せなかったんだ
出る時に有り金全部置いてきて、今も給料出たら仕送りしてる」
「そうか」
「家族を捨てて飛び出すなんて俺って酷い奴だろ?子供に罪はないのにな…」
「でも、今までずっとできる事はやってる…そうだろ?」
「ほんの少しだけどな」
「…会いたいのか?」
「え?」
「…子供に…」
「…どうかな…わかんねえや。正直言うとちょっと怖い
それに向こうだって俺みたいなのが父親だなんて知らない方が幸せかもな
でも…さっきの子供見てたら…思い出しちまった。ヨンファも大きくなったろうなって…」
ホンピョはポケットに手を突っ込んだまま背中を丸めて俯いた
そんな顔…僕に見せるなよ
「ホンピョ」
「ん?」
「泣きたい時は泣けよ。寂しい時は寂しいって言え
僕の前では強がらなくていいんだぞ」
「ドンヒ…」
「な?」
「お前…どうして俺に優しくするんだ?」
「だって…僕達…友達だろ?」
好きだから…なんて言わないよ
だっておまえ困るだろ?
肩が触れてたわけじゃない
手を握ってたわけでもない
でも僕は心の中でこいつの事を抱きしめていた
切ないなんて思ってないさ
僕達の距離は一向に縮まらないけど
かといって離れるわけでもない
僕が一歩踏み出せばおまえは一歩退く
怒ったように、怯えたように、体を硬くして
まるでハリネズミみたいに全身の棘をピンと立てて僕を警戒する
それ以上近づけば僕の体は傷つき血を流す
だからいいさ、このままで
僕は溜息まじりにふっと笑ってみた
あいつに気づかれないように
One Way Love (by ドンヒ) れいんさん
あいつの事など もう忘れたいよ
だってどんなに あいつを見つめても
伝えられない 恋なら
気がついた時には もう恋していた
もっと早く つき放せていたなら
こんなに 辛くはなかったのに
ああ せめて 一度だけでも
その 澄んだ 瞳のおまえに
このまま 夜明けまで 僕の腕の中でと
泣けたなら
ああ 肩寄せ歩く 僕達ふたり
触れたくて ためらって
孤独なまなざし 拗ねて横向くおまえ
哀しくて
あいつの微笑み 無垢な魂と
知っていたのに それだけでいいはずなのに
愛を求めた 片想い
愛を求めた 片想い
( 片想い / 浜田省吾 )
Comprehension オリーさん
受話器をゆっくりと置いた
あっけなく終わった
電話の主はMI6の課長
当分の間、外国の諜報機関と接触できないらしい
例の件でしばらく調査が必要だと
アーメッドはもう死んでいるのに
君はもう仕事をする必要がなくなったようだ
君を縛る理由がなくなってしまった
けれど正直肩の荷がおりた感じだ
なぜだろう
たぶん君の涙を見たから
そして君の彼に嘘をついたから
君の彼は見事だった
燃えさかる炎にあおられてぶつけた言葉に逆上するのかと思った
振り向いた彼は確かに怒りと動揺をあらわにしていた
けれど次の瞬間には態勢を立て直し鋭い切り返しをしてきた
君はどんな目にあっても傷つかないと言う
しなやかな強さ…
東洋の世界における独特の発想だろうか
柔らかい君の笑顔と、危険に立ち向かう君の横顔と
両方を知らなければ理解できなかったろう
勝ち目のないゲームは…どうする…
「病院の支払いは?」
「それはね、後で君に請求書が行くよ」
「いくらくらいですかね」
「安くないよ」
「ですよね」
「まじで心配してるの?」
「保険かけてないし…」
「馬鹿だな、仕事中のことだろうが」
「僕アルバイトですから」
「そりゃ立場弱いなあ」
「そうなんです」
「なあんてね、今回はウチが出すらしいよ」
「ほんと?」
「君は一応功労者になってるからね」
「功労者?」
「教授を助けた」
「僕が助けられたと思いますけど」
「詳しい事情はともかく、ウチが内偵してたのに結局あんな事になっちゃったからね」
「そうですか」
「だから請求書はこちらでカバーする」
「ああ、よかったあ」
「そんな時計してるくせに病院の支払いなんか気になるの?」
「あ」
「それ、パティック・フィリップだろ?それもいつかしてみたいなあ
僕はタグホイヤーだけどね」
「これはプレゼントなんです」
「ひゅー、例の彼?」
「違います」
「じゃ誰?」
「パトロ…けほっ、いいじゃないですか、誰だって」
「どうでもいいけど、不思議な兄弟」
「何か?」
「いや、別に」
「行こうか」
「あの…」
「何?」
「先生はどうしてます?」
「大学か自宅だと思うよ」
「自宅って?」
「とりあえず僕らが借りたアパートにいる。たぶんそこに引っ越すだろう」
「先生に会えます?」
「会いたいの?」
大学に近いこのアパートは狭い事をのぞけば快適だ
時折誰かに見られているような気がするが、たぶんMI6だろう
アーメッドがいなくなったのだから
僕に会いに来るテロリストはいないはずだが
もしかして報復の可能性でもあるのだろうか
気にしても仕方がない
何かあったらそれはそのときのこと
何かあってももう驚くことはないだろう
静かな午後の昼下がり、ロッキングチェアに腰かけいつしか眠っていた
来訪者を告げるインターフォンの音で目が覚めた
「どなた?」
「MI6のロジャースです」
やれやれ、まだ何か用なのだろうか
入り口のロックをはずして待っていると、しばらくしてドアにノックの音がした
「まだ何か取り調べ?」
そう言ってドアを開けると君が立っていた
やがてその老婦人は本を閉じ目を上げた
本から離れた視線が目の前の僕のそれとぶつかった
彼女は優しい笑みを浮かべると本をバッグに入れ立ち上がった
そしてしっかりとした足取りで公園の出口へ歩き出した
静かに読書にふけり、時間が来ると現実の世界へ戻っていく
その流れるような彼女の一連の動作を目で追っていた
僕はどのくらいここに座っていたのだろう
気がつけばすでに暖かい陽射しは弱まってきている
ウェストに出てリサーチをする気分でもないし
時間的な余裕もあまりなくなっている
結局ロンドンまで出てきて、ハイドパークのベンチに座っていただけ
僕は何をやっているのだろう
せめて少し絵でも見ていこうか
僕は立ち上がった
「先生、僕これから帰ります」
内に招きいれすすめた椅子を断り君は言った
「例の仕事は中止だそうだね」
「連絡ありました?」
「MI6の課長から直々にね」
「そうですか」
「よかっただろう」
「え?」
「君は無罪放免だ」
「…」
「傷の方は?退院できるの?」
「無理を言って退院させてもらいました。できれば…」
「できれば?」
「夜の便に乗りたいと思って」
「急だね」
「彼が今夜発つので一緒にと思ってます」
「それでお別れの挨拶に来たってわけか」
「…」
「最後まで律儀だね」
「大丈夫ですか?」
「何が?」
「色々大変だったから」
「そうだね、すごく歳を取った気がする」
「わかりますその気持ち、ほんの少しだけど」
「君に、何がわかるのかな」
黒い雲が心にムクムクと湧き上がり少し意地悪な視線を君に向けた
ブラックキャブをつかまえテート・ブリテンへ行った
House of Parliamentをテムズ川に沿って1キロほど下った川沿いにある
数年前テート・モダンの開館で現代美術の多くはそちらへ移転したので
現在は16世紀から20世紀の作家の作品を中心に展示されている
せっかくイギリスへロンドンへ来たのだから
ターナーを見ていこう
一昔前の美しい風景を紡ぎだしたイギリス絵画の巨匠
あの時代のあの作家の世界に触れたくなった
膨大な数を誇るテート・ブリテンのターナーコレクション
僕はターナーの世界に浸っていた
そんな中一枚の絵が僕を捉えた
Sunrise
淡いタッチで全体が薄ぼんやりとしたNorham Castleの夜明け
そのタッチはオルセにあるモネのCathedralと結びつく
淡いブルーの城とその後ろにやはり淡くうかびあがる檸檬色の朝日
その影が海岸の浅瀬に映って、さらに淡い世界が広がりを増す
手前の薄茶色の影は流木を拾っている少年の影だったか…
僕はその不思議な空間に捉えられ、
その絵の前から離れることができずにいた
「君に僕の気持ちがわかる?」
「少しだけ」
「なぜ?」
「僕も大事な人を目の前で失くしましたから」
「大事な人?」
「子供の頃父が目の前で殺されました」
「お父さんが」
「婚約者も…式の当日に」
「…」
「僕は昔二人とも守ることができなかった」
「君」
「だから、僕は今掴んでいるものは離したくないんです」
君の決然とした態度に一瞬言葉を失った
君にそんな過去があったとは
素直に真っ直ぐに伸びている若木のような印象しかなかったのに
「随分はっきり言うね」
「きっと先生も大事な人が見つかります。新しく前に進めば」
「そうかな」
「そうです」
「君のように運がいいといいけど」
「先生はとても魅力的です、聡明だし…」
「そうかな」
「それにキスも上手です」
「君の彼より?」
「それはノーコメントということで」
「最後くらいお世辞は言うもんだが」
君はちょっと照れたように笑うとお元気でと左手を出した
その手を握りしめながら、腕ごと君を引っ張った
ふいをつかれた君はバランスを崩して胸の中にすとんと入ってきた
さして大きくないそのキャンバスに置かれた色彩に捉えられ
絵の解釈などどうでもよくなっていた
ただ柔らかでぼんやりとしたタッチに魅せられていた
しばらく見つめるうちに、檸檬色の朝日がミンの顔になった
その輪郭がだんだんとはっきりと浮かび上がった
帰って
このまま帰って。まだ仕事が残ってる
その言葉を言った時のミンの顔だった
突き放したような、それでいて泣き出しそうな
そんな顔は似合わないよ
ミンはやっぱり朝日のように笑っていないと
その時、すべてがぼんやりとしたキャンバスの中で
急激に檸檬色の朝日が輝きだした
ああ、そうだよ
そんな風に輝いていないと
朝日のように
いつでも
どんな時でも
僕のために
輝いていてほしい
僕は絵を見つめ直し、しっかりと目に焼きつけた
そして歩き出した
数歩行ったところでもう一度振り返った
朝日はまだ輝いていた
僕は心の中でターナーにお礼を言った
あなたの絵は僕の心に朝日をくれました
僕は迷わず歩き出した
胸の中に入った君を抱きしめた
君はかすかに体を震わせて、だがそのままでいた
君の温もりがじんわりと伝わってきた
首の後ろに手を回すと唇を近づけた
もう少しで君の唇に届こうとした時、君の左手がその行く先を遮った
「先生…」
「お別れのキスだ」
「先生の唇は僕のものじゃありません。そして僕の唇も…」
「…」
「先生にはきっとかけがえのない人が見つかります
それまでこの唇は大事にとっておいて」
「本当に見つかるだろうか」
「見つかります。残された者は幸せになる義務があります
あの人のために、あの人の分まで、あの人と一緒に」
目の前で君の唇がそう言った
もう一度首に回した手に力をこめて、君の頬に頬を重ねた
「君もそんな風に思っているのか」
「僕はただ幸せになりたい、そう思っているだけです。僕自身と失った者のために」
「君が宝石だと言う意味がわかったよ」
「え?」
手を放すとそのままベッドルームへ行った
サイドテーブルの上の便箋にペンを走らせた
そしてその短い手紙を封筒に入れ君に渡した
「これを君の彼に」
「何でしょう?」
「読んでもらえればわかる。渡してくれ」
君は封筒を受け取るとジャケットのポケットにそれを入れた
そして部屋から消えていった
窓から覗いていると、サーブに乗り込む前に君は一度窓を見上げた
そして人差し指と中指で軽く敬礼をした
それに応えて笑顔を見せたつもりだったが、笑えていただろうか
これからの人生、君の言うように歩いていけるだろうか
今ひとつわかっていることは
君を助けたことを後悔していないという事だ
ギャラリーを出るとすでに5時を回っていた
僕は再びキャブを捕まえた
「ヒースローまで頼みたい」
「何時の便です?」
「8時なんだが」
「なるほど、わかりました」
運転手はまかせておけ、とばかりにハンドルを切った
その途端僕は思い出した
「ポール・スミスに寄りたいんだが」
「コヴェント・ガーデンの本店ですか」
「そこへ寄ってくれ」
「8時の便でしょ、あんまり時間ないですよ」
「チェックインはオンラインで済ませてあるからボーディングの時間に間に合えばいいんだ」
「なるほど」
運転手はうなづくと車を勢いよく発車させた
ポール・スミスは以前ミンが好きだと言っていたブランドだ
何かひとつ買ってやりたい…僕からのプレゼントだ
店に着くとすぐ戻るからと言ってタクシーを降りた
腕が不自由だから前あきのカーディガンがいいだろう
そう考えて店内を物色している僕の目に
檸檬色のカーディガンが目にとまった
あの絵の朝日の色とだぶった
それを着ているミンの姿が容易に目に浮かんだ
僕はそのカーディガンを包んでもらった
店員が贈り物ですかと聞いたのでリボンをかけてくれるよう頼んだ
クリスマスのプレゼントでもいいし
その前に渡してもいい、帰ってきたときにでも…
僕はそんな事を思い店員がリボンをかける様を見ていた
通りに出て待っているタクシーに乗り込むと運転手が言った
「混んでくるから飛ばしますよ」
「頼む」
僕はシートに体をうずめた
ロンドンの街はすでに夕闇に包まれていた
la memoire de 泰成_1 妄想省家政婦mayoさん
僕の彼女は近頃忙しい…
リビングのPCで夜遅くまで仕事モードに入ることが多く..日付が変わるのもしばしば..
僕は仕事の邪魔をしないように部屋で料理本を読んでレシピノートを書いたりしている
彼女が部屋に戻ってきて..僕もまだ起きているときは一緒にバスタブぐふふで戯れる..
ベットに入り胸に引き寄せると彼女の足が絡みつき..僕は彼女の髪を梳く..
すると..す~ぴ~~す~ぴ~~…寝息が聞こえる..
夜からはるみが部屋にいる時はベットに手招きし…
彼女と一緒に毛布にくるむ..朝の奇襲を期待して僕も眠る..
朝…
@_@…@_@..はるみと一緒に彼女の顔を覗く..
「はるみぃ..<(_ _)>」
「みゃおん.. (>_<)」
胸にある彼女の頭をそっと枕に移しベットを抜ける..
そんな夜と朝が続いていた..
リビングのテーブルでリュルの事務所から借りた雑誌を何冊も広げてはいる..
視線の先にある誌面のレイアウトも写真の構図も頭に入ってこない..
***江北の江辺北路でちぇみは口籠もった後に言った
「今朝..テソンがな..」
「ぅん..」
「自分がもし穏やかなにバランスを取れるようになったら..
お前が離れていくんじゃないか..と..ぽつんと洩らした」
「ぁ..ぁぅ.アタシは.随分と..信用ないのかなぁ..」
「ぃゃ..今は不安定なんだろう…それにお前..最近忙しいだろ..あれやこれや..」
「ぅん..」
「で…ぁ--…と..だな…テソンとだな..」
「何よ..」
「その..ちゃんとだな..なにをだな..」
「..??..!!…ぁ..ぁふ…」
ちぇみの煙草を持つ手の甲の薄い皮を摘んでぐぃっと捻った..
「ぁ..っ..痛ぃなぁ..お前は..」
「…繋がったからって..テソンが安心する..ってもんじゃないでしょぅぉ?」
「んまぁ..それはそうだがな?..ん..すまん..ごめん.」
「ごめん?」
「なさい…ん..」
「もぉ..」
「それはそれとして..だな..」
ちぇみは捻ってやった手の甲をふぅふぅしながら
「な..ちょいと背中押してやったらどうだ?..」と言葉を続けた***
ひとつ小さくため息をついてから
テーブル下に置いたバックの中から一通の封筒を取り出した
***昼間..リビングで資料を作っていた時テスが1Fからトットコトットコ上がってきた
「今..郵便屋さん来た..これ..mayoシ宛..ごめん..裏..見たんだ..」
「…??」
テスに渡された封筒の裏を見た..
住所は釜山..差出人は..テソン父だった
「..オモ..」
「住所..釜山だったからさ..テソンさんに気づかれないように持ってきたんだ..」
「ぉん..コマウォ..テスシ..」
「ぅぅん..じゃね..^_^..」
テスは私の肩をすりすり〃して..トットコトットコ..また1Fに降りていった***
昼間一度読んだ手紙をまた広げた
”日脚がめっきり短くなり夜寒が身にしむ頃となりました…"
と時候の挨拶に始まるその”ふみ”は丁寧に細筆で書かれていた..
釜山を訪れ..息子の安否を伝えてくれた私に対する感謝の言葉を綴り..
息子が無事に生きていてくれたことの喜びも綴られ..
そして私が敢えて口にしなかった事..
テソンが一人になってからどのように過ごて来たのか..
それをテソン父は”如何ばかりであるか察するに余り有る”..と..
息子に対する自責と詫びの言葉と共に綴っていた..
釜山は済州島に次ぐ暖かい地方だ..真冬のソウルとは5℃ほど気温差がある..
”ふみ”の最後にはこれから一段と厳しくなるソウルの冬を過ごすテソンと私..
そして一緒に住む仲間達の身を労る暖かい結びの言葉で終わっている..
親子程に歳も違う私にひとつひとつ言葉を選び..丁寧に書き綴られたそれを読み辿れば
文字の向こうに見える人と成りは見て取れる..
釜山の教会で光の十字を真っ直ぐに見据えていた横顔が思い出された..
父を思えば今すぐにでも会わせてやりたい…
奥歯を噛んで瞼をぎゅっと閉じた..
釜山から帰ってからテソンは夜中に微かに震える時がある…
寝入っていても胸を合わせ添うていれば鼓動の乱れはすぐ感じ取れる..
背中をゆっくり擦ると鼓動はいつものリズムを取り戻す..
ゆっくりと自分から手繰り始めたテソンにあれもこれもと詰め込むことは出来ない..
墜ちていくだけの元の暗闇に戻ることは絶対させてはならないことだった
『お前にしかできないんだぞ..』..とちぇみの言葉が頭の隅によぎる..
閉じていた瞼を開き深く吸った息を吐いた
テーブルに散らばる雑誌をすべて閉じ..1つに纏めPCを閉じた..
フットライトの灯を残しリビングの照明を落とした..
僕はデスクでちぇみテスに頼まれたベーカリーのPOPを書いていた
はるみは椅子に座る僕の足の隙間に立ち..デスクに前足を添えて僕の作業を見ている..
パステルで薄く色づけしたPOPを見てはるみは両前足で拍手をした
「どぅかな..なかなかいい出来?」
「んみゃ↑んみゃ↑〃^o^〃」
「何かさぁ..はるみ..語尾上がってるょ?..」
「みゃ↑?..@o@」
「ぅん..みゃ#」
「みゃぁ~~↓↓^o^;;」
「ぷっ..ったく..」
「>▽<」
はるみの頭を撫でていると部屋のドアを閉めながら闇夜が部屋に入り..僕の隣に座った
「ぁ..もう終わり?仕事..」
「ぅん..今日は打ち止め..」
「今日は出たり入ったりだったから..疲れてるんだょ」
「そっかな..」
「ぅん..それとも..さ?…何か..あった?..帰り..」
「ぁ..の..ね??..」
パッコーン☆
はるみが僕の頭を叩いて..メッ#と睨んだ..
「ぁぉん..冗談だってばぁ..」
パコン☆の後ではるみが僕の頭をなでなでするのを見ながら闇夜はくすり笑った..
はるみを抱いてバスルームに行こうと僕が椅子から腰を浮かせたとき..
闇夜は僕の肩を押さえつけた..僕の腰は椅子に戻った
替え歌 「朝日のように輝いて」 ロージーさん
朝日のように 微笑んで
金のヴェールのむこうから
名残りの霧が 溶けはじめ
夜は欠片-kakera-も 残せず往く
朝日のように 輝いて
僕の全てを 染めあげて
薔薇の色さえ うつろわす
時の流れに 負けないよう
宇宙の片隅で めぐり逢えた歓びは
神様にも 奪えないと
朝日のように 微笑んで
翳りのない愛で 包みこんで
どんな運命-sadame-が 試しても
僕はどこにも 迷わないよ
宇宙の片隅で つぶやき合う永遠は
一瞬だと 知っていても
朝日のように 輝いて
どんな時も僕の 僕のために
僕のために 僕のために
(荒井由美『
朝陽の中で微笑んで
』)
一緒にいたいな… ぴかろん
イナさんが店にやってきた
イナさんはテジュンさんが帰ってきたとかでここんとこ始終ニコニコしている
その顔を見ているとこっちまで嬉しくなる
けど今日はなんだか…ちょっとだけ顔が引き締まってるように見える…
一文字に結ばれたイナさんの唇が、先生の困惑した顔と重なった
先生は何を躊躇ってるのだろう
僕に何を考えろっていうんだろう…
ふぅ~とため息をつくと、子供のようなイナさんが僕の顔を見つめていた
「どしたの?」
「…いや…」
「先生と喧嘩した?」
「ううん…」
「先生が急に冷たくなったとか?」
「いつも優しい…」
「じゃ、何」
「…イナさんに言う必要ないもん…」
「聞きたい!」
「…なんで…」
「なんか…聞きたい…」
「…あのね…。僕…先生と一緒に住む事にしたの」
「え…」
イナさんは目を真ん丸くして絶句した
そして上の方を向いて、なぜか涙目になった
「なに?どうしたのイナさん…」
「…うらやましい…」
「…」
「いちゅも優しくて、いちゅも一緒にいて、しょれだけでも羨ましいのに…ホントに一緒に住むんら…」
「イナさんもテジュンさんと暮らせばいいじゃない」
「住んでくんないもんっ!」
「…ふーん…」
「はぁ…」
「はぁ…」
「なんれそんな幸せなお前がため息つく!」
「いろいろあるんだよ!」
「…しあわせれもか?」
「…うん…」
「しょっか…」
そう言って何度か頷きトコトコと控え室に行くイナさんは、幼稚園児でもあり全てを悟った聖者のようでもある…
イナさんもテジュンさんとなんかあった?
そっか…
みんないろいろ…あるんだな…
ギョンジンさんとラブは相変わらずベッタリとくっついている
今日は心なしかお互い、支えあっているような印象を受ける
ラブの雰囲気がいつもより柔らかい
よく見ているとギョンジンさんにすっかり頼っている感じがする…
ギョンジンさんが席を離れると途端に瞳に不安の色が浮ぶ
それを知っているのかギョンジンさんは慌てて席に戻ってくる
ラブが席を離れても同じだ
今度はギョンジンさんが少し落ち着かなくなる
ラブがそそくさと戻ってくるとパッと明るい顔になる
なんだろう…何かあった?
久しぶりに店に出ているドンジュンは張り切っていた
側で見つめているスヒョンさんの笑顔が優しい
ああドンジュンもスヒョンさんに包まれてるんだと思った
でも次の瞬間、僕は気づいた
スヒョンさんもそうなんだってこと
ドンジュンの羽根に包まれて安心しきっている…
ドンジュンはパリから帰ってきて、一回り大きくなったような気がする…
スヒョンさんの笑顔が…いつもよりかわいい…
なんだろう…ここも…何かあったの?
そういえばスヒョクの雰囲気も違っている
ソクさんだって、あんなにスヒョクにベトベトくっついていたのに…
くっついていなくても二人の間に流れる信頼が感じられる
お互いを見る目が限りなく優しい…
うん…ここは確実に何か(…想像はつく!)あった!
そっか…みんな…色々あるんだ…
僕達だけじゃなくてみんな一つずつ山を越えてるんだな…
僕はそっと先生を見つめた
先生と一瞬目が合った
先生はすぐに僕から目を…逸らした…
「今日やっぱり先生の部屋に行く!」
「…え…」
「今後の事色々相談したい!」
僕は店の片付けをしながら先生に言った
「…」
「イヤなの?」
「…イヤじゃないけど…。いいの?寮の部屋、片付けなくて…」
「どうせ引っ越すんだもん。その時まとめて片付ける」
「…ふーん…」
「イヤ?」
「…イヤじゃないよ…」
でも…とか言い出しそうな先生を睨みつけて僕は片付けを終え、帰り支度を整えた
『イヤじゃなく』て『僕を好き』ならもっとはっきり返事してよ!全く…
先生の上着やら持ち物やらの用意もして先生の腕を引っ張って帰った
先生は戸惑った顔で、僕にされるがまま…
部屋に着いて鍵を開け、中に入る
ぼんやりと玄関に突っ立っている先生の靴とジャケットを脱がせる
洗面所に引っ張ってって手を洗わせ、うがいをさせる
「今頃からこんな世話させないでよねっ」
「…ウシク…」
「こないだ見た映画の主人公みたくなっちゃった?」
「…え…」
「『消しゴム』のヒロインみたいになっちゃった?!」
「…なってないよ…」
「なんでぼんやりしてるのさ!」
「ウシクこそ、何をそんなに怒ってるの?」
とぼける気?僕が気づかないとでも思ってるの?
僕は先生に噛み付くようにキスをした
薄く目を開けて先生の表情を確めた
眉根を寄せて…我慢してる…
両手が宙を泳いでる
その手をどうしたいの?
僕を突き放したいの?!
そうはさせないから!
僕は先生の唇と舌を甘く吸った
先生の眉間から皺がなくなり、暫く泳いでいた手はふっと下に降りた
僕に…その身を預けている…
僕はすっと唇を離す
先生が切なそうに目を開けた瞬間、もう一度その唇を強く吸う
「は…」
甘い吐息が漏れる
先生のシャツのボタンを一つずつ外していく
吐息が荒くなる
シャツの隙間から指を這わせる
また眉根を寄せる先生
湿った音を立てて唇を離す
その途端先生の腕が僕を押し戻した
肩で息をしながら…上気した顔を俯けて…
「先生…欲しくないの?」
「…だめだ…」
「なんで?!感じてなかった?」
「…ウシク…。ごめん…ごめん…毎日は…無理…」
嘘だ!嘘だ絶対…
「…生理中?…」
「…うん…」
「馬鹿!」
腹が立つ
無性に腹が立つ
嘘つき!嘘つき!嘘つき!
なんで抑えるの?!
何を遠慮してるの?!
反応してたくせに…
涙が溢れてきた
先生は何を躊躇ってるんだろう…
越えなきゃなんない山、越えたばかりなのに…
…何を…
冷静になって考えた…
先生の山は祭りの時に越えた
僕の山はこのあいだ越えた
…次の山って…なんだろう…
先生はなぜ言ってくれないんだろう…
いつまでたっても洗面所から出てこない先生
そっと覗いてみる…
壁際に座り込んで頭を抱えている
一緒に住む事がそんなにも不安?
僕はそんなに負担?
それとも何かもっと別な理由?
先生の髪を乱暴に掴んで顔を上げさせた
ふっと祭のときの自分が過ぎった
すぐそこに泣き顔の先生がいる
どうしたの?何が悲しいの?
「ウシク…愛してる…」
「…せんせ…」
「…ウシク…僕のそばにいてほしい…いてほしい…けど…」
そこから先に進まない…いつもいつも先生はそこで言葉を止めてしまう
「いるじゃない!これからずっと一緒にいるんじゃない!先生」
「ほんとに…ほんとにいいのか?君はそれでほんとに…」
「僕が離れてってもいいわけ?」
「…」
「僕が先生から離れていけると思う?」
「…」
「僕が、先生なしで…生きていけると思う?」
「ウシク…」
「先生…僕を愛してるなら怖がらないで…僕に何でも言ってよ…。いけないとこがあるなら直す。何が不安なの?!」
「…」
黙り込む先生を立たせてリビングの椅子に座らせた
シャツのボタンを留めてあげた
先生は辛そうな顔で涙している
何度か深呼吸して、何かを言おうとしては言葉を止める
僕は待つ
焦らずに待つ
でもこのまま放っておけば、先生はまた言葉を仕舞い込むだろう…
「コーヒー?紅茶?それとも他の物がいい?」
「…ジャスミンティー…」
「オッケィ」
僕は先生の注文どおり、ジャスミンティーを淹れた
テーブルに二つのカップを置き、そこに甘い香りのお茶を注ぐ
「嫌いじゃなかったっけ…」
鼻にかかった声で…赤い目と腫れた瞼のままで…先生は僕に話しかける
「最初は苦手だったけど、付き合って飲んでるうちに好きになったよ」
「ふ…」
「はい…どうぞ…」
「ありがと…」
先生はそろそろと熱いお茶を飲んだ
花の香りが辺りに漂って僕の気持ちは柔らかくなった
「ウシク…僕は…。君の夢を奪ってる…」
「…」
「一緒に住んだら、君を君の夢からもっと遠ざける事になりはしないかな…」
「…先生…」
「それが…怖い…」
僕は、花のお茶に口をつけ、ゆっくりと一口飲み込んだ
「僕の夢って…。家族を持つ事?」
「…ああ…」
「僕に好きな女の人ができたら、躊躇わずにそっちに行けって言ったでしょ?」
「…うん…」
「今は僕、先生と一緒にいたいんだけど…」
「…」
「先生も僕と一緒にいたいんだよね?」
「うん…」
「じゃ、怖がる事ないじゃない…。今の僕の夢は…先生と一緒にいることだから…。先生と家族になる事だからさ」
「家族って…」
「一緒に住めば家族だよ。僕の中ではね」
「ウシク…」
「それとも…先生は僕が去っていくときの事考えて怖がってるの?」
「…」
「どうしてそんな先の事考えるの?」
「…」
「先生…」
先生はひっくひっくとしゃくり上げ始めた
今日の先生は…子供だ…
手を伸ばして先生の頬を伝う涙を拭う
なんだか可愛いな…
「先生は…ほんっとに…『今』を生きるのが下手だね…」
「…え…」
「ねぇ…今僕の事好きでしょ?」
「うん…」
「一緒にいたいでしょ?」
「うん…」
「じゃあ僕と一緒に住んで」
「…ウシク…」
「いいね」
「…うん…」
「よしっ!じゃ、僕からプレゼントあげる」
「?」
「先生がこの先誰か女の人を好きになって、その人と家庭を作りたいと思ったら、躊躇わずにそっちに行ってね」
「ウシク」
「いい?」
「ウシク…」
ポロポロと零れる涙は、僕の指で拭いきれなくなってきた
僕は先生の側に行って先生の頭を抱きしめた
なんだか今日の先生はかわいくて仕方ない…
「あ~…欲しくなっちゃったぁぁ…」
「毎日は…」
「だ~からぁ…、僕が…先生を…」
抱きたい…
la memoire de 泰成_2 妄想省家政婦mayoさん
私が親父から受け継いだこの厄介な性分は抜けないらしい..
祭が終わった朝..テソンから父親のこと聞いた..
テソンの父親がどんな人なのかを知りたくなった..
テソンの頑なな心を解くのは時間がかかる..
ならばテソンの歩調に合わせゆっくり辿っていくしかない
闇夜は僕の肩を掴み僕が椅子に落ち着くとクローゼットの方へ歩んだ..
ごそごそとクローゼットから小さな包みを持って来て椅子に座り..はるみは闇夜の腿に座った
「..??..」
闇夜が薄絹の青赤黄白..6色のセットン(縞模様)のポシャギを開くと..
中からまたポシャギに包まれた細長いものが出て来た
「mayo..このポシャギ..」
「わかる?」
「..ぅん..紐にバクジが付いてるのは母さんのだから..」
「そっか..」
見覚えのあるポシャギだった
十長生の織模様の絹..甲紗(カプサ)と無地の明紬(ミョンジュ)のポシャギは
碁盤縞に正方形の絹を青色のグラデーションに配置されている..
結んでいる紐の部分に小さな布のバクジ(蝙蝠)の飾り..母さんのポシャギの特徴だ.
「紐..解いてみて..テソン..」
僕は青色の紐を解いて母さんのポシャギを開いた..
中から現れたのは..黒檀の細長い螺鈿細工の筆箱..
「…」
「覚えてる?」
「ぅ..ぅん..どうしてここに..これが..」
どうなってるの?と狼狽えた僕に闇夜は言った
「テソンに渡してくれって..お父さんから託された..」
「…」
ぐっ#っと噛んだ僕の唇は「傷になるょ..」と囁く闇夜の唇で優しく解かれた..
「mayo..」
「ぅん?」
「会ったんだ..父さんに..」
「ぅん..」
「…」
テソンからの「どんな人だった?…何をしてるの?…元気なの?…」次の言葉は続かない..
まだ…無理か…筆箱を包んでいたポシャギを表に返した
「テソン..」
「ぅん?..」
「このグラデーションの模様..こっちの角が一番濃くて..対角のこっちが一番薄いじゃない?」
「ぅん..」
ポシャギの碁盤縞の濃色部分から薄色の部分対角に掌を滑らせ..
その掌を薄色の部分からまた対角の濃色部分まで滑らせた..
「辛い事..段々と薄れていって..いい事や幸せがどんどん濃くなって来る..そんな風に感じた..
お母さんが..順序よく幸せになって..って想いを込めて一針一針縫い進めたのかな..って思った..」
「…」
「私..勝手にそう思っちゃてるかな…ごめん…」
テソンは首を振った..
「母さんが繋げる前に..僕..その濃淡の布を適当に並べたんだ..パズルみたいだったから..」
「ぅん..」
「でも母さんは『それじゃ駄目なのょ』って言ってた..」
「そぅ?」
「ぅん…」
「お父さん..このポシャギにこの筆箱を包んで..ずぅっと持ってた..」
「…」
「今でも凄く綺麗だょ?」
筆箱の螺鈿の部分は今でも真珠光を放ち貝殻の色艶も黒檀の艶も衰えてはいない..
テソン父は折に触れ筆箱を取り出し..息子を想い..丁寧に手入れをしていたに違いなく..
「この筆箱..受け取れる?..私も受け取って欲しいと思う..」
筆箱を見つめたままのテソンは…ぅん…ぅん…と間をおいてゆっくり頷いた…
「よかった..テソン..それ..振ってみて..」
「..??..」
テソンは私に振り返り..私の瞬き頷き顔を見ると筆箱を手に取り..軽く振った..
筆箱は中でからからと音を出した..テソンはちょっと首を傾げて筆箱のフタを開けた
「…!!…」
筆箱の中には貝の欠片が幾つも入っていた..
「私..中開けなかった..でもさ?..」
「ぅん..」
「持ってくる間..バックの中で音がしたから..貝殻かな..っと思った..」
「…」
「少しづつ..思い出そうょ..ん?」
テソンの目からぱたぱたと涙が零れていく..
はるみがテソンの頭をなでなでした..
「それに..何処にも行かないから..ちゃんと側にいるから..」
「僕..僕さ..こんなだから..君を束縛してるんじゃないか..と思う時ある..」
「テソン..」
「でも..あっちこっち飛び回る君を見るのも好きなんだ..」
「テソンがいないと私..困る..羽を休める処が無くなる.
テソンの腕だから降りて行けるんだょ?解ってるくせに..言わせたいんだ..」
「…ぅん…」
テソンは泣き笑いの顔を上げた..
「テソンのこと大事にしなくちゃ..」
「どうして?」
「私の大切な『奥様』だもん」
「ぁふ..じゃ..ちぇみは?」
「ん~~..『戦友』」
「テスは?」
「『兄弟』かな..」
ちょっと面白くない..っと言ったテソンの唇がこめかみに落ちた..
闇夜とあわあわのお風呂の後にベットに入った..
「またこれ♪かけるのぉ..」
「いいじゃなぃ..」
「駄目だよぉ..」
闇夜は僕の髪に指を絡め撫で下ろす..その仕草も温もりも心地よくて..
僕はこの夜..流れる伽耶琴の音色のせいもあり..
横抱きで闇夜の胸に顔を埋めると途端にすぅ~~っと眠りに入った..みたい..
朝方..
僕の身体の線をゆるりゆるりとなぞる指に眼を覚ました..
愛でるような指の動きは擽ったい..というより柔らかく染みていく..
背骨に沿ってすぅ~~っと一気に降りた指は僕の臀部でくるんくるん@..っと輪を描いた..
つつん..と僕の中に血流が集まり始め..僕は彼女を組み敷いた..
僕の背中がざわざわとおののき..足に絡む彼女の爪先がくっ..と丸くなった..
一瞬動きの止まったお互いをきつく抱き締め合う..
ふるふるとした余韻を互いに味わった後..そっと抱き合いそっと離す..
闇夜の髪をかきあげた..にこりと笑みを形どる顔が現れた
「テソン..」
「ぅん?」
「"もう一人のあなた様"..ご機嫌麗しゅう..お健やかで..」
「そっ#…愉悦の極みょ..」
「^^;;…」
ぷふふ…と笑った僕の髪を闇夜がかき上げた..
「眠ってる時..何か..見えた?」
「ぅん..」
「何?」
「波打ち際でちっちゃな僕がしゃがんでる..」
「貝殻拾ってるんだ..」
「ぅん..でさ..綺麗な貝を掴もうとしたとき波が打ち寄せてくる..」
「で?..」
「波が引く時って..砂と一緒に足掬われるじゃない..」
「ぅん..」
「前のめりにこてっ#とひっくり返りそうになるんだ..」
「ふっ..ぅん..」
「でもさ..そん時..」
「…??」
「…ひょいっと僕を抱えてくれる…」
「…お父さん?」
「多分..」
「多分?」
「…顔が..まだ..はっきりしないんだ..」
「そっか..また何か見えるよ..」
「ぅん..」
互いに唇を啄んだ…つもりだった..
トントン…トントン
僕と闇夜の肩を叩く…
「「はるみぃ~~^^;;^^;;…」」
「..>o<..」(いーかげんにくちびりゅはなしてくだしゃい#..まったくもぉー..ンッケッケ..)
僕はベットから出て..はるみを抱き上げ椅子の上にある毛布に寝かせた..
一緒にいようね… ぴかろん
先生は目を丸くして僕の顔を見つめた
一分半ほど見つめた後、ゴクリと唾を飲んで立ち上がり、僕のシャツを脱がせ始めた
「なにっせんせ…どうしたのっ」
「…」
「せ…先生…。僕が抱きたいって言ったんだよ?」
先生は上目で僕の瞳を覗き込みこっくりと頷いた
えええっ?
だだ…抱いていいってこと?
えええっ?
ぼぼ…僕が先生を?
「どどうしてっ…」
「…予行…演習に…」
「は?!」
「女の人とする時の…練習に…どうぞ…」
「…」
「僕に抱かれてばかりだと…肝心なその時にうまくできないかもしれないじゃない…だから…」
「…先生…もしかして僕が女の子とえっちした事ないと思ってる?」
「え…。…。したの?」
「僕を幾つだと思ってるのよ…この年までなんの経験もなしなんて…マズいだろ?」
「…」
先生は唇をとんがらせて、ほんの少しだけ横を向いた
なんて可愛いんだっ!どうしたんだ先生っ!
僕は先生を引っ張ってベッドに連れてきた
もう…抱いちゃうからっ…
先生が異常に緊張している…ああ可愛い…
ベッドに横たえておでこに接吻する
そこからゆっくり唇めがけてキスをしていく…
唇を捉えながら先生の耳を触ってみた
弱いはず…
あ…ふふ…眉間に皺…
唇から唇を離して瞳を覗き込む…
「大丈夫…今日はそぉっと優しくするよ、せんせ」
「ばか…」
「じゃ、こないだみたいにアクマになろうか?」
「絶対イヤだ」
「…先生…好きだよ…」
「ウシク…」
僕はそっと先生の体にキスをした…
先生の瞳が熱を帯びて僕を求めている
あれ…本とは先生が僕を抱きたかったのかな…
でも…今日はダメだからね…
もう火がついちゃった…
遠慮がちに息を漏らしていた先生はやがて声を上げ、体を撓らせだした…
敏感な部分に唇や舌や指をやると先生は逃げようともがく
捕まえてもっと濃厚に攻めると、切ない声になる
「入ってもいい?」
「え…あ…」
潤んだ瞳が誘ってるから…僕は先生の中にゆっくりと僕を沈める
「いた…いたい…」
痛がる先生の歪んだ顔が美しい…
「ひどく痛む?」
首を横に振って我慢している先生…
いつもの先生じゃない…
「あの時はごめんね…無理矢理…ああぁ…」
「…あ…ウシク…。気持ちいい?」
「うん…すごい…気持ちいい…」
「そ…よかった…」
僕はそっと体を揺らし、先生の負担にならないように注意しながらゆっくりと高みを目指した
先生の喘ぎに色が着いてきた
感じてるのかな…それとも痛いのかな…
先生は僕の首に両腕を巻きつけ、泣きそうな顔をして僕の顔を覗き込む
「気持ち…いい?」
「うん…先生…痛くない?」
「痛い…気持ち…いい…」
どっちだよ…
「やめようか?」
「やっ…」
…。可愛い…。たまんない…。どうしよう先生…
僕は腕の中で喘ぐ年上のその人を慈しみ、愛した
やがて彼の中に僕を放ち、僕達は唇を求めあい、くすくすと笑い合った…
「は…たまには…いいなぁ気持ちいいや…」
「たまに…だよ…いつもはイヤだからね…」
「気持ちよくなかった?」
「痛い…」
「気持ちいいって言ったよ先生」
「そんな気がしただけだもん…痛いよやっぱり…」
「くふん…慣れてくるよ…」
「…」
先生を抱きしめて頬ずりした
先生は僕の胸板を指で押して一言言った
「ウシクって体…太い…」
ムッ…失礼な…
「気持ちいい…」
「ふふん…僕と一緒にいると…気持ちいいだろ?」
「…うん…」
「ねえ…どうしたの先生…今日はずいぶん可愛らしいけど…」
「大学生になったみたい…」
「へ?」
「可愛い大学生がね…口の上手い人のよさそうなお兄さんに騙されて、部屋に連れ込まれてそれでああンんっ…」
僕はまだ先生の中にいたので、そのまま腰をくいくいと動かしてみた
先生の減らず口はすぐに止んで、さっきより濃く、瞳が濡れていた
今日の先生は…どうしようもなく可愛らしい…
朝までまだ時間あるしな…どうしよっかな…と呟くと、一瞬僕を睨んで、それから僕の作り出すリズムに乗り、僕の前に身を投げ出す…
楽しいでしょ?僕といると…
嬉しいでしょ?気持ちいいでしょ?
一突きごとに質問を浴びせた
先生は答えられずに顔を顰めるだけだった…
「幸せでしょ?僕といると…」
その質問にだけ、しっかりとした顔で答えた
「しあわせ…ウシク…」
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