「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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ぴかろんの日常
リレー企画 162
Conversation オリーさん
「ちょっと失礼」
アテンダントの指した座席に座るため彼に声をかけた
僕を振り仰いだ彼の顔ったら
限りなく無防備な呆け顔
さっさと彼の前を通ると窓側の席に強引に腰かけた
彼は僕の顔をじぃっと見ている
僕はすまして彼に言った
「シートベルト」
「…」
「シートベルト締めて。右腕が不自由だから」
彼は弾かれたように動いて僕の座席のシートベルトに手を伸ばした
僕はタルトの箱を片手で上に持ち上げた
彼はすごく僕の体に密着して、それでいて僕の右手に注意を払ってベルトを締めた
その時機体が静かに動きだした
僕は彼の肩に頭をもたせて目を閉じた
彼の肩がぴくりと震えた
「で」
「ん?」
「何でここにいる?仕事はどうした?」
「仕事はキャンセル」
「キャンセル?」
「何か違う方向に行っちゃって、僕はもう御用済みだって」
「ファイアーされたのか」
「失礼な、切られてないよ。仕事の方針が変わったの」
「そうか」
「そうだよ」
「…」
「傷は?もう退院していいのか?」
「ううん」
「だったら何で…」
「帰ったら安静にする」
「・・」
「当分右手使えないからね」
「・・」
「お風呂も不便だし、着替えも大変。食事も手助けがいる」
「・・」
「聞いてるの?」
「ああ」
「面倒みてくれるよね?」
「・・」
「どうなの?」
「ああ」
「寝るときも熟睡できないかも。寝返りうてないから」
「ああ」
「掃除・洗濯もちろんだめ」
「・・」
「車の運転もだめ」
「そんなにだめばっかりで何で退院したんだっ」
「だったら帰ろうか」
「もう飛行機飛んでるだろ」
「パラシュートで飛び降りる?やったことあるよ」
「ばか・・」
「ねえ、何でこの席なの?」
「何でって、ファーストクラスは一杯だったんだ」
「そうじゃなくてっ、何でエコノミーじゃないの」
「長いフライトだからエコノミーじゃだめだ。疲れるだろ」
「だって自腹でしょ」
「お兄さんがチケットくれた」
「ほんと?」
「ああ」
「すごい」
「でもエコノミーだったから席を替えた」
「何でっ!」
「だからエコノミーは疲れる」
「で自腹切って席を替えた?」
「ああ。ミンこそ何でこの席?」
「先輩が最初からプレステージクラスで取ってくれたの」
「空いてたらファーストにできたのに残念だ」
「残念じゃないよっ!これだって十分贅沢だよ」
「そうか?」
「そうだよ」
「ふ・・ん」
「あの・・」
「何?」
「その箱、何だ」
「これはお土産」
「土産?」
「奥さんが作ってくれたタルト」
「タルト?」
「これのおかげで乗り遅れそうだった」
「わざわざ作ってくれたの?」
「そう。オーストリアのお菓子だって」
「ふうん」
「でも中身は奥さんお手製の葡萄ジャムだから英国風だって」
「ふうん」
「一切れあげるね」
「一切れ?」
「あそこの家で食事した?」
「朝ご飯を」
「おかわりした?」
「しない」
「ほんと?」
「したくてもあんなに一杯じゃ食べきれない。デザートつきだし」
「デザートまでいった?」
「ああ、美味しかった」
「・・・」
「何?」
「気をつけようね」
「何が」
「タルトはやっぱり僕が食べるよ」
「何だって?」
「いいから」
「・・・」
「ねえ」
「ん?」
「昨日・・」
「・・・」
「来てくれてありがとう」
「いや」
「嬉しかった」
「邪魔だったろ」
「・・・」
「すまなかった」
「・・・」
「ミン?」
「邪魔なわけないだろっ」
「そうか」
「そうだよ」
「すごく・・嬉しかった」
「ん」
「あの・・」
「何?」
「あの紳士は・・」
「先生のこと」
「先生なのか」
「オックスフォードの先生だよ。会ったんだってね」
「ああ」
「先生と何を話したの?」
「別に」
「そう・・あ、そうだ、先生からの預かり物」
「手紙?」
「そうみたい。渡せばわかるって。読んでみれば」
「いや、後でいい」
「そう」
「・・・」
「ねえ」
「何?」
「このステーキ切ってよ」
「え」
「ステーキの肉、小さくしてよ。自分ばっか食べてないで」
「あ、ああ」
「わかってるでしょ、ナイフとフォーク一緒に使えないの」
「ああ」
「いちいち言わなくてもやってよね」
「人にやってもらうのに何て態度だ」
「わかってることじゃない」
「・・・」
「あ、今むっとした」
「してないよ」
「したよ」
「してない」
「ほんとに面倒見てくれるの?」
「ああ」
「大丈夫?」
「けほっ」
「ねえ」
「ん?」
「疲れてない?」
「別に」
「ジェットラグは?」
「そんな暇ない」
「そうだよね、ごめん」
「いいんだ、でもまさか一緒に帰れるとは思ってなかった」
「間に合ってよかった」
「本当に腕は大丈夫なのか?」
「いいよ、腕くらい」
「利き腕なんだから大事にしないと」
「いいってば。腕なんかっ」
「よくない」
「いいってば」
「よくない」
「キスして」
「・・・」
「ねえ、キスして」
「あの」
「ん?」
「随分危ない目に遭ったんだろ」
「そうでもないよ」
「ひとつだけ言っとく」
「何?」
「どんなにみっともなくても臆病だって言われても、生きてなきゃだめだ」
「僕は死なないよ」
「だったら何で腕時計を先生とやらに渡した」
「傷つけたら誰かさんが怒るでしょうが」
「怒るもんか」
「絶対怒るよ」
「とにかく生きてなきゃだめだ。アンドルーさんのように伍長でかまわないから」
「誰が伍長だって?」
「宿のご主人」
「海軍でぺえぺえで甲板掃除ばっかりやってたって」
「ああ、そう言ってた」
「やられたね」
「何?」
「あの人はね、元英国陸軍特殊部隊SASの隊長だよ」
「え」
「伍長だってのは大嘘。今回だってすごい活躍だったんだから」
「・・・」
「僕も騙された」
「食えない爺さんだな」
「そうなんだ。でもあの人に助けられた」
「そうなのか」
「あと先生にも」
「・・・」
「ねえ、どこ行ってたの、トイレ?」
「まだ寝てないのか」
「だって枕が急に動くから」
「人の肩で寝るな」
「やだ、ここじゃひっつけないから枕になってくれなきゃやだ」
「子供みたいなこと言うな」
「甘えたいんだもん」
「ばかっ」
「ねえ、もう一回キスして」
「・・・」
「ねえってば、もう一回キ・・」
僕はミンにキスした
へらず口がきけないくらいのを
よく帰ってきたね、おかえり、そう思いながら
ミンは帰ってきたよ、ただいま、そう応えた
さっきトイレに入って、例の手紙を開いた
たった3行の短い手紙だった
大学の先生だというあの紳士のどこか哀しみをたたえた瞳を思い出した
「ねえ」
「何?」
「あのね・・」
「何?」
「僕、先生とキスした」
「・・・」
「先生とキスしちゃった」
「そうか」
「ごめんね」
「ひとつ覚えておいた方がいい」
「何?」
「そういう話は僕にするな」
「どうして?」
「僕はその、そういう話は聞きたくない」
「え・・」
「何度も言わせるな」
「もしかして、妬いてる?」
「・・・」
「そうか、たまには妬かせればいいんだ」
「ミン・・」
「冗談だよ、ふふ」
「もう寝ろ」
「うん・・でね、先生キス上手かったよ」
「ミンっ!」
「おやすみっ」
僕はブランケットを顔まで引き上げ、彼の肩によりそった
手すりのところで彼の手が僕の手に重なった
彼は指と指を一本づつからませた後で僕の手を優しく握りしめた
僕は安心して目を閉じた
僕はトイレで何度もその手紙を読み返した
そして気の済むまで読み返してから、細かく破ってトラッシュボックスに捨てた
宛名も差出人も書かれていないたった3行の手紙を
Please accept my apology.
The story was not true.
Nobody can touch your jewel.
「ETERNALLY」 ロージーさん
こんなにもあなたが 懐かしいのは何故
僕はあなたの一片-kakera-だから
あなたは僕の全てなの
遠い昔二人は 一つの命だった
生まれる前から僕はきっと
あなたを探していたから
回り逢えたこの歓びに
ふるえて生きてゆくのでしょう
作曲 Charles Chaplin 『
ETERNALLY
』映画「ライムライト」より
日本語詞 Rosy
la memoire de 泰成_3 妄想省家政婦mayoさん
ちぇみテスが出掛けた後..柚子茶を淹れ.テーブルについた
テーブルに置いた便箋に向かい..くるくるとペンを指先で回すだけで筆が進まない..
ペンを置いてテソン父の手紙を取り出し..また読み返した..
「はるみぃ..」
「にゃんでしゅか?」
「テソンとお父さん..字が似てるよね..」
「しょうでしゅね..きれいなじでしゅ..」
「そうよね...はふぅぅ..」
テーブルに前足を乗せ..一緒に読んでいたはるみが項垂れた私に追い打ちをかける..
「まよのじは"ばばっちぃ"でしゅからねぇ~~..」
「はひ..ごもっともでごじゃる..」
「ンッケケ(>▽<)」
はるみの言うとおり私の字は..ばばっちぃ..
というより..ある時は丸文字..設計文字..横倒れ文字..その時の気分で字体が変わる
速記の文字が混ざると暗号めいていて..そぅそぅ他人には読めない字..と相成る..
「まよ..ずるしてぱしょこんでおへんじかいちゃだめでしゅょ#」
「ぉん..」
「ばばっち~~ぃじでも..こころこめてかくのれしゅ...あらっちっ!!」
「アラッソぉぉ..>o<..」
出力した同封する何枚かの写真を見た..
韓服の私の隣にお揃いの韓服のはるみを抱いたテソン..私の隣のテスはちぇみの懐にいる4人の写真..
にっきーのなべつかみを手にはめ..後ろからちぇみにヘッドロックされ..ばたばたしているテソン..
ソファではるみとおすまし顔のテソンやキッチンに立つテソン..等々..
ぱこ☆ぱこ☆...はるみが頭を叩いた..
「なかにゃいのっ#..」
「ぉん..(T_T)」
「まよがめしょめしょしてどうしゅるんでしゅかっ#」
「ぁぉん..だってさぁ..はるみぃ..」
「にゃんでしゅか?」
「かえって辛くなっちゃうかなぁと思ってさぁ..」
「いちゅかきっとあえるのでしゅ..あいときぼうはちゅながっているのでしゅ..」
「はひん..」
「ちゅべこべかんがえない..ほれっ..ちゅぢゅけなしゃい#」
「ぉん..」
はるみにごしゃかれて(怒られて..)かなりの時間をかけペンを走らせた
”ふみ”のお礼を綴り..期待を持たせる物言いは使いたくなかったが..
テソンがかなりゆっくりではあるが"あのこと"以前の事を少しつづ手繰り寄せていることを綴った..
自分なりに丁寧に綴った手紙と写真を封筒に収めると..
「ごくろうしゃん..」とはるみが頭を撫でた..
これからの季節..釜山には山の手から海辺へ冷たい季節風が吹き抜ける..
ソウルより暖かいとはいえ空気は乾燥し..体感温度は低くなるはずだ..
「一人は寒いよね..はるみ..」
「みゃぉん..しょうでしゅね..(;_;)」
トントンとはるみが腕を叩き..柚子茶の入った茶碗を指した..
「そっか..」
「んみゃ..^o^..」
テソン特製の柚子茶は使う柚子の量がハンパではない..
甘みに梨を加え..市販のべたっとした甘さが無いので..飲み終わった後もさっぱりしている
お湯で割るメシル茶(梅茶)も黒糖に漬けた完熟梅のエキスが凝縮されている..
はるみを抱いてキッチンヘ行き..キッチンの棚にある瓶を2つ取り出した..
エアキャップでお茶の瓶を包み..メモを付け..封筒と一緒に小さな段ボールに収めた..
梱包を終え..送付状を貼った段ボールをちぇみテス部屋のデスクに置き..メモを付けた..
景福宮から伸びる世宗大路と鐘路の交差点近くの光化門(クァンファムン)郵便局は夜8:00まで開いている
「はるみぃ..後でちぇみと郵便局行ってくれるかな..」
「みゃ#..りょうかいしみゃした^o^..」
テーブルに戻り..メールを受信した後..リュルの件もあったので★☆メールを送った
夕方にテソンが帰ってきた..
テソンはいつものようにちょっと背伸びをする私の腰に軽く手を添えて支える..
左右ほっぺタッチの後..「着替えてくる」とテソンは部屋に入った..
ポッテリとした蓋付茶碗に淹れたメシル茶を持って部屋に入った
シャツを着替えたテソンは西側のボウウインドウ(弓状の曲線に張出した出窓)の前に立っていた
出窓の部分にはポシャギに包まれていたあの筆箱があった..
テソンは伏せ目がちに筆箱の螺鈿をゆっくりなぞり..
瞼を上げ..茜色に染まる薄暗い西の空に視線を向ける..
コトン..とメシル茶の茶碗を置くとテソンは振り返った..
振り返ったテソンに無言で『ん?』っと首を傾げると..テソンは力無く首を振った..
僕とちぇみが帰るとリビングには誰の姿もなかった..
「着替えてこい」とボトムの上から僕のお尻をむにゅっと掴んだちぇみは
「ぁん..」っとつい声の漏れた僕にヤらしく口端を上げて笑った..
僕がシャツとボトムを着替えて部屋から出て来ると..
テソンさん達の部屋の開いたドアに腕を組んで斜めに寄りかかるちぇみがいた
「ちぇみぃ..覗いちゃ駄目だよぉ~~」
「ぷっ..ぃぃから..」
僕が側に寄るとちぇみは組んでた腕を解き僕の頭に手を置くとそのまま懐へ引き寄せた
テソンさんとmayoシは出窓の前に並んで立ち..黄昏時の空を眺めている..
「テソンさん..また何か思い出したかな..」
「どうかな..」
「...??」
「思い出つーやつは時に自分に都合良く美化しちまう..
時が経てば経つ程な..余計そうなっちまうもんだ..」
「ちぇみ..」
「それに..今のこの薄暗い時間帯は特にな..狼の時間だ..」
「狼の時間?」
「ん..薄暗いこの時間帯は狼と犬の見分けがつかなくなる..」
「それで狼の時間か..人の顔もボンヤリするもんね..」
「ん..記憶として蘇るのか..都合良く自分で作っちまった幻を見てるのか..」
「どっちだろう..」
「さぁな..」
「会って話をすればわかるのに..」
「ん..」
「生きてるんだもん..テソンさんのお父さんは..」
「ふっ..そうだな..」
ちょっと俯いた僕の髪をくしゃっとしたちぇみが僕を促して僕とちぇみはドアから離れた..
少し経ってテソンさんとmayoシは部屋から出て来た..
僕とちぇみは例の人物の話をmayoシに報告した..
「そっか..なるほど..テスシもサンキュ..」
「へへ..僕でも役に立つことあんのょ..」
「ぅん^^..」
その後僕はテソンさんとmayoシと一緒に店に行った..
同じ顔 ぴかろん
イナはヨンナムに店の近くまで送ってもらったので、それからなんとかRRHに帰ってシャワーを浴びる時間があった
一度マンションに戻って正解だった
エントランスに立つとトンプソンが目を丸くして飛び出してきて、イナのスーツの草やら土やらをロビーの脇で払い落とし、
上から下まで確認してにっこり笑うとエレベーターホールへ手を差し伸べた
イナはその時初めて、どうしてタクシーに乗車拒否され続けたのかが解った
トンプソンに礼を言ってエレベーターに乗り込み、部屋に着いてソファで待っていたミソチョルを抱きしめ、大急ぎで部屋のシャワーを使った
店に出るとウシクがいた
ウシクはイヌと一緒に暮らすのだと言う
イナは少し羨ましくなったが、そんな幸せそうなウシクの表情に、ほんの少し翳りがあったので、
どんなに幸せでもやはり一点の曇りというものはあるのだと、あの広場の木々やヨンナムの顔を思い出し、うんうんと頷いた
ウシクは不思議そうな顔をしていた
イナを送った後、ヨンナムは家に戻った
なんだかむしゃくしゃしていた
こんなにイライラする事なんてここ暫くなかったのに
ヨンナムは真っ直ぐに台所に行って米を研ぎ始めた
テジュンが夕飯を食べるかどうかは解らなかったが、余ったらまた明日の朝ごはんに回せばいいと思い、二人分の米を研いだ
あの場所で何を泣いていたのだろう…あの子供のような男は…
なぜテジュンはあの男を泣かせるようなことばかりするのだろう…
よりにもよってあの場所で…あの男は…
イライラの原因を引き出し、米と一緒に研ぎ、漱ぎ、流す
そうするうちにイライラは消えてなくなる
もとの自分に戻れる
研ぎ終わった米をザルにあげた時、テジュンが帰ってきた
ヨンナムはテジュンに何か言われる前に、夕飯が必要かどうか尋ねた
テジュンは機先を制され、曖昧に、ああ、と答えた
ヨンナムは夕食の準備を始めた
よく動く自分の従兄弟を眺めながら、テジュンは口を開いた
なぜBHCに配達したいか聞いたんだと
ヨンナムは淡々と答えた
「別に…。したいのかなぁって思って…」
「したいって言ったろ?!」
「言った?」
「…」
「ニヤニヤしてただけでしょ?」
やられた。そうだった。自分はヨンナムの質問にへらへらと笑っただけだ。それで伝わるはずだと思って
実際テジュンの気持ちはヨンナムに伝わっていた
だからこその意地悪なのだろう。こいつは本当に僕に冷たくて意地悪だから…
お前が配達するのかと聞くと、しれっと、そうだと言う
テジュンはため息をついて二階に上がる
階下から、夕飯の支度を手伝うよう促す声がしたが、貴様の意地悪な仕打ちに心を痛め、今から泣くのだと答えると、一言
「馬鹿野郎」
と怒鳴られた
まあいい…、客としてBHCに行ってみよう…
そう思いつき、テジュンは少し微笑んだ
ヨンナムとテジュンは夕飯を食べた
今夜はどうするんだとヨンナムが聞く
イナのところへ行くとテジュンが答える
へぇ…そんなに好き…とイヤミなほど抑揚のない声でヨンナムが返す
ああと力強くテジュンが被せる
夜の配達はあと二軒ほどだ
夕食の後片付けを終えたヨンナムは、配達の時間まで帳簿をつけることにした
二階からテジュンが降りてきた
じゃあなと言い残し、外へ出て行った
黒いVネックのセーターにブルージーンズで、シンプルだけどセクシーだなとヨンナムは思った
同じようなセーターを自分も持っているけれど、きっと自分はあんなにセクシーにはなれないだろう
ヨンナムは数字を帳面に書きつけながらふっと笑った
きりのよいところで帳面を閉じ、ヨンナムは配達の準備にかかった
ふと着替えを思い立ち、テジュンと同じような黒のVネックのセーターを着てみた
始めからジーパンを穿いていたのでそれはそのままに鏡の前に立ってみる
先ほど出て行った従兄弟にそっくりだ
「色気が足りないけどな」
ヨンナムは鏡の中の男に囁いた
BHCのドアを開け、店内に入っていくと、一斉に「いらっしゃいませ」と同じ声で迎え入れられた
振り向く男達の顔がほぼ同じ顔なので、テジュンは少し面食らう
祭で見慣れているはずなのに、狭い店の中だと不思議でたまらない
そんな中に違う顔がある
その違う顔は自分と同じ顔である
不思議な光景だ
イナは客席についている
店に入った瞬間、テジュンの顔を確認して驚き、そして輝くばかりの笑顔を見せた
よくよく考えてみると、イナが仕事をしているところをじっくり見るのは初めてだ
手の空いているウシクがテジュンのところへ来て、イナさんは指名が入ってますけどどうします?と席に案内しながら耳打ちした
テジュンは、一人でいいよと答えたが、ウシクは空いている人を探してきますと奥へ行った
ラブが来てくれるといいのになとテジュンは思った
それからすぐに、イナに怒られるか…とクスリと笑った
「失礼いたします」
空いているホ○トがやってきた
「「…あ…」」
仮採用のソクだった
二人で見つめあい、気まずい顔をした
ウシクはくすくす笑いながら、お飲み物はいかがいたします?と悪戯顔で聞いた
テジュンは迷わずフォア・ローゼズを頼んだ
ソクはテジュンの斜め横に座り、当たり障りのない会話をした
イナがバーボンのボトルとグラスを持ってきた
「お待たせしました」
「…お客さん、いるんだろ?」
「うん。これ置いたら戻る。待っててね。空いたら来るから」
可愛い顔でそう言うイナを、テジュンは愛しそうに見つめた
「これ、好きだよな、テジュン…」
「う…あん…」
「これ飲んで和んで盛り上がったんだよな…」
「う…」
「…」
愛しい男が俯いたので、テジュンは焦った
愛しい男はくすくすと笑っていた
斜め横の自分と同じ顔の男は、不思議そうに二人を交互に見た
バーボンの水割りを作って、愛しい男は元いた客席に戻っていった
「相変わらず仲のおよろしいことで…」
「留守中イナが世話になったようだな」
「ん?…別に…」
「抱きしめたって?」
「しいいいっ!」
同じ顔の男は慌てて人差し指を唇にあてた
スヒョクに聞かれるとまずいと顔を顰めた
ソクの反応にテジュンは少しムッとした
カマをかけたのだが、本当に抱きしめたらしい…
全く…油断できない奴だ…
その他に何かしたか聞いてみた
口を割らないので、抱きしめた事をスヒョクに言うぞと脅すと、右手だったか左手だったかに身代わりキスをさせられたと答えた
しかたがない、自分が留守をしていたのだから…と思ったものの、やはり仕事先に連れまわしたほうが安全かもしれないとも考えた
ソクととりとめのない話をし、イナを待っていた
やがてイナの席の客が立ち、イナがこちらに向かってウインクをした
客を送り出すとこちらにやって来て、片付けたら来るからとまた元の席に戻っていった
客席を片付け、食器を持って厨房に入る
テソンとmayoがコーヒーを飲んでいる
おいおい、何くつろいでるんだよ、特別美味しいテソンスペシャルなおつまみお願いします、恋人摘んでないで…
とイナが言うと、テソンはアヒル口になって、何よそれ…と答えた
イナはテソンの口を指で挟んで上下に揺らした
テソンは無理矢理頷かされた
厨房を出ると裏口のチャイムの音がした
イナは戸口に走った
ドアを開けるとテジュンそっくりの男がミネラルウォーターを担いで立っている
着ているものまで同じだなんて…
イナはそれがヨンナムだと解っているのに、テジュンが瞬間移動してここにいるのかと錯覚してしまった
ヨンナムもイナの姿に驚き、立ち止まった
やがてイナはにっこり笑ってヨンナムを招き入れた
「ヨンナムさん、さっきは有難う。配達これで終わりなら、寄って遊んでいかない?さっきのお礼に奢りますよ」
「…あと一軒配達があるし…」
言葉を濁すヨンナムに、イナは、その配達が終わってからでもと誘いをかける
「テジュンも来てますし…是非どうですか?」
まるでドッペルゲンガーだとテジュンは思うだろう…
今、テジュンの相手をしているのはソクだし…、見てみたい、三つ子のテジュン顔…
イナはくふっと笑った
ヨンナムはイナの緩んだ口元を見つめて言った
「じゃぁ…手伝ってくれる?配達」
「…え…」
ヨンナムは悪戯っぽく笑うと厨房へ消えた
数分後、ヨンナムが厨房から出てくると、イナは戸口にいた
手伝うから絶対に寄っていってくれと言う
じゃあついて来てよとヨンナムはイナに声をかける
イナはヨンナムの後をついて外に出た
トラックの横に来ると、はいと大きなボトルを渡された
こっちこっちと言われてフラフラ歩いていくと、ヨンナムは『オールイン』の裏口を空け、入って行った
イナはアハッと笑って後に続いた
二人は『オールイン』の裏口からにこやかに出てきた
イナはそのままBHCの裏口に向かおうとしたが、ヨンナムはイナの腕を掴んで強く引いた
「これ、美味しいの?」
「え…あ…」
ヨンナムはイナの右手の拳をじっと見つめている
そしてその拳のキズに唇を寄せた
そっと触れた柔らかな唇
テジュンではない男
動けずにただ見つめるだけのイナ
心臓の鼓動が高鳴り口が渇く
ヨンナムの唇が離れると、イナは我に返って腕を引っ込めようとした
しかしヨンナムはもう一度イナの腕を引き、今度はその体を抱きしめた
イナは、体中が激しく脈打つのを感じた
「すごい…。ドクンドクンしてるよ…君…」
甘い声で囁く
テジュンと同じ声だ
テジュンと同じ服装だ…
テジュンと同じ…テジュンと同じ…
イナは戸惑い、取り違えそうになる
かろうじて自分を保てているのは、いつもの香りがないからだろう
唾を呑み込み、落ち着こうと努力する
見透かしたように耳に唇を寄せるヨンナム
動悸が激しくなる
「あの場所でテジュンを想って泣くのはやめてくれる?」
「え?」
「あの場所にアイツを持ち込まないで…」
「…」
「あそこは僕の聖地だから…」
「…。あの…ばしょ?」
「…泣いてたでしょ?地面に突っ伏して…」
ああ…。あの林の…
「…ヨンナムさん…見てたの?」
「あそこに行こうとしたら君が泣いてた…」
「…よく…行くの?」
「…いい場所だろ?木と一緒に空に吸い込まれそうなさ…」
「…」
「テジュンを持ち込まないでくれ」
「…。テジュンの事で泣いてたんじゃないよ…」
「…じゃあ何?」
貴方の事だよ…とイナは心の中で呟いた
「あそこで木に囲まれて突っ立ってると、フワフワ浮き上がっていくような気がするんだ…」
自分を抱きしめたまま、ヨンナムが囁く
「あそこの木もそんな感じでしたね…フワフワ…」
「だろ?気持ちいいんだ」
「俺は…怖くて哀しかったです…」
「怖い?」
「…。あいつら…根っこが地面に埋まってること忘れてるような気がする…。木なのに…木じゃないみたいな…」
「…」
「根っこが地中を這ってるから生きてられるのに空へ連れてってくれって言ってるような…」
ヨンナムはイナの唇に指を押し付けた
イナは言葉を止めた
ヨンナムの指がそっとイナの唇をなぞる
イナは少し怖くなった
「ふぅん…この唇…」
「…ヨン…ナムさん?」
「美味しいのかな…」
ヨンナムは、すいっと顔を寄せ、イナの唇の上を唇で軽くなぞった
ずきんずきんとイナの心が痛んだ
覗き込むヨンナムの瞳は、妖しい光りを帯びている
イナの瞳をじっと見つめて、ヨンナムは静かに言った
「また…今度ね…」
イナの体から離れ、彼はトラックへ戻って行った
動けずに、震えながらその姿を見送るイナを、背中から抱きしめる男がいた
「隙だらけだな…」
「…てじゅ…」
「ごめん…イナ…」
耳に唇をつけて囁くテジュンの頭に、自分の腕を巻きつけて、イナは呼吸を整えた
「なんでてじゅがあやまるの?」
テジュンは何も答えずイナの首筋に顔を埋めた
飛べない小鳥 れいんさん
いつもの様にヨンナムさんちで過ごす夜
いつもの様に並べた布団で眠る夜
いつもの様に寝かしつけて
いつもの様にあいつの傍で
いつもの様に
いつもの様に
手を伸ばせばすぐ届くのに
あいつの頬に触れたくて躊躇いがちに伸ばした右手
空を彷徨い拳を握りやがて力なく下ろされる
安心しきって眠るあいつ
すやすやと寝息をたてて
よほど疲れていたんだな
苦い過去を思い出し、心を痛めて
一人で孤独をかみ締めて
どうすれば一人じゃないって伝える事ができるのだろう
おまえが見ている視線の先を僕も観ているという事を
今夜はとても眠れそうにない
そろりと床を抜け出して僕は着替え始めた
ハーフコートを羽織り、あいつが起きない様に軋む扉をそっと閉めた
どこかで軽く飲みたい気分だ
一人きりで考えるのも悪くない
通りに出て少し歩く
夜風がひんやりと肌をかすめていく
この不思議な街は驚くほどに昼と夜の顔が違う
日暮れまでのこの街は緑に囲まれた公園やオープンテラスのイタリアンカフェ
人気のオーガニックレストラン、キュートなデザインが売りのブランドショップが軒を連ねる
颯爽と歩く若者たちが似合う街
それが夜の帳が下りた途端、大人の街へと変貌する
洒落たダイニングバーやブリティッシュパブ
アジアンテイストなライブハウスにゴージャスなクラブ
零れた色とりどりの宝石が自己主張しているみたいに、どことなく背徳の匂いも漂わせ
僕はふと目についたダイニングバーの扉を押した
シックなモノトーンで纏められた店内
落ち着きのある青色のライティング
タイトなドレスを纏ったピアニストが奏でるJAZZのナンバー
都会の喧騒から逃れてきた見知らぬ人達があちらこちらのテーブルで語り合う
ここでなら誰に邪魔される事もなく一杯やれそうだ
僕はカウンターに並んだ背の高いスツールに腰掛けた
抑揚のない声でオーダーを訊くバーテンダー
「ドライマティーニ」
「かしこまりました」
バーテンダーの手がウォッカの瓶に伸びる
軽くステアしてショットグラスに注ぎレモンをぎゅっと絞りいれる
オリーブにスティックをさし目の前にスッとグラスを滑らせた
ふふ…あいつが一緒ならこんな店には来られないな
あいつ…飲むのは決まって焼酎だし
面倒だから瓶ごと持って来いなんていつも言う
居酒屋フードがお気に入りで
入った途端、肩が凝るとか尻が痛いなんてぼやき始めて
きっと5分と持たないな
なんだか急にあいつの顔が浮かんできて、くすっと笑いが零れた
なんだって、あいつの事、思い出すんだ…
僕は唇をぎゅっと結び、痛いくらいにかみ締めた
僕とあいつ
そう…こんな例えはどうだろう
一人の少年が深い森で一羽の小鳥を見つけた
羽が傷つき飛べない小鳥
少年は小鳥を手のひらにそっと乗せ大事そうに連れ帰る
怪我を治そうと懸命に世話をする少年
小鳥は次第に少年に慣れ、少年と小鳥は心を通わせる様になった
そのうちに少年は小鳥をずっと手元に置いておきたくなり、鳥篭に小鳥を入れる
いつか自分の下から去っていく事を畏れて
だけど小鳥は鳥篭の中を嫌い、逃げ出そうと暴れだす
格子に小さな体をぶつけ傷ついた羽をばたつかせ必死にもがいた
治りかけてた羽からはまた赤い血が噴出した
少年は「やめて!」と叫び、泣きながら小鳥に詫びた
「もう君を閉じ込めたりしない。傷が癒えたら好きな所に飛び立っていいよ。だからもう自分を傷つけないで」と
いつか大空に飛び立つ予感に震えながら、小鳥が幸せならそれでいいと…
ふふふ…
あはは…
僕はその少年…
なかなかいい例えじゃないか
三杯目のマティーニに手を伸ばした時、店内がわずかにどよめいた
振り返り際、目に映ったのは中央のテーブル席の一組の男女
突っ立っている女の手には空のグラスが握られていた
硬直したまま腰掛けている男の頭から雫が滴り落ちていた
しんと静まり返った店内
ピアノの音も一瞬止んだ
ハンカチで濡れた顔を拭う男
注目を浴びた恥ずかしさからなのか、侮辱された怒りからなのか
赤らんだ顔で女を睨みつけたかと思うと踵を返して立ち去った
男と女の痴話ゲンカか…
女は、何見てるのさ、と言いたげに周りの客をギロリと一瞥し
乱暴にイスに腰掛けた
ヒップのラインがくっきり分かる短め丈のスカートから
スラリと覗いた脚を組み、胸を反らせて腕組みしている
全身で周りの敵に悪態をついているみたいに
気の強そうな女だな…
思い出したかの様にピアノが曲を奏で始め、僕もようやくマティーニに口をつけた
これを飲み干したら帰るかな…
その時、僕の目の前を細い腕がさっと横切り、グラスの中のオリーブが忽然と視界から消えた
あっ!
反射的に振り向くと、先程の気の強そうな女の口に僕のオリーブが放り込まれた
「…君」
「…ねえ…アンタ、一人?」
「…」
「誰かと待ち合わせ?」
「いや…」
「私に一杯奢ってくれない?」
砂糖菓子 ぴかろん
ラブが出勤するというので心配だったけど一緒に店に出た
フワフワと儚げなラブは、店に着いて皆の顔を見た途端しっかりと根を下ろしたように見えた
BHCは凄い場所だ
出勤してよかったと僕は思った
ここに来てよかったと僕は思った
それでもやはりラブは僕が離れると不安そうな気配を見せる
だからずっと側にいた…
離れるのは必要最小限に留めた
お客様から今日は雰囲気が違うねと言われ、ドキッとした
ラブは柔らかく笑って
「どんな風に?」
と聞いた
お客様は
「…しっとりしてる…とてもいい感じがするわ…」
と微笑まれた
ラブもにっこり笑い、僕の方に柔らかな視線を向けた
営業が終わってお客様を送り出す時、タクシーが遠くに走り去るまで二人で店の前にいた
ラブが僕の手に指を絡ませたので、僕はその手をしっかりと握った
ふと弟の事を思った
弟もきっとミンチョルさんの手を握るだろう
僕はそうなる事を確信していた…
「誰の事考えてる?」
「あ…」
「ギョンビン?」
「ん…それと…お前の事…」
「…ごっちゃにしないでよね…」
「してないよ…」
「…何を感じる?」
「え?」
「ギョンビンの事さ…。大丈夫かな…」
「うん…。大丈夫だよ…。あいつもミンチョルさんとこうするはずだよ」
僕は握ったラブの手を挙げてその甲に接吻した
ラブは僕を見つめて笑顔を作った
僕達は手を繋いだまま、通りを見ていた
暫く二人でいたかった
僕という人間と、ラブという人間
不器用な二人が偶然出会って今こうしてここに立っている
僕にとって、初めての…初めてと言えるであろう仲間に支えられて
ラブにとって、かけがえのない仲間に支えられて
僕達二人はこの場所に立っている
ラブにも僕にも、気がかりな事が沢山あって
それらはすぐに片付く問題ではないけれど
二人で手を繋いで、仲間達の助けを借りれば、きっと少しずついい方に向かっていけると
僕はそう思った
ギョンビン
お前にとってもそうだろ?
ギョンビン
僕をここへ導いてくれて有難う
やっぱりお前は僕の太陽なのかな…
その輝きを増して帰ってきてくれること
僕は知っている
ミンチョルさんが迎えに行ってよかったんだ…
たとえ傷ついたとしても…君の輝きは変わらない…
ギョンビン
だけど輝いてるのはお前だけじゃないんだからね…
ラブも僕もイナも…BHCの皆、輝いてるんだからね…
『そんな事ぐらい知ってるよ!』
ああ…目を吊り上げて僕の背中を叩きながらプリプリ言いそうだ…
俯いてクククっと笑うと、ラブが僕の唇を引っ張った
「痛いよ」
「何思ってるのさ!」
「…ん…だから…みんな輝いてるって事を…」
「は?」
「…いや…あの…」
「一人で思い出し笑いして感じ悪い!」
「…ラ…ラブ様…」
「…」
僕達は一瞬、マジな顔で見つめあい、そして思いっきり吹き出した
ラブは大笑いした後、僕の肩に頭を乗せて甘えた
ずっとこうして歩いていこうね…
迷ったり間違ったりしたときは、仲間を頼っていいんだよね…
解決するのは自分自身の力でって解ってるけどさ…
頼れる仲間達は、色々なヒントをくれるもの…
一人の頭より何人もの頭で考えた方が色んな道があるものね…
「ラブ…」
「ん?」
「今夜は…」
「…」
「…ゆっくり眠ろうね…」
「…くふ…」
「…ね…」
「やだ」
「…」
「寝かせない…」
「…え…」
「って言ったらどうする?」
「…勘弁してよぉ…死んじゃうよぉ…」
「くはっあっはっはっ…エロミンが死んじゃうっていったぁくはっはっはっ…」
「だぁって…」
「俺だって…ゆっくり眠りたいよ…」
「んだろ?」
「でも…」
ちょっとだけスキンシップしたいなぁ~と歌うようにラブは言った
げほげほ…ちょっとだけね…ハグぐらいね…と答えると、即座に
「キスは?」
と上目で聞く
そんな風に瞳を潤ませられると…吸い寄せられちゃう…
だから僕達はその場所でキスした
キスに酔っていた
テプンさんに頭を小突かれるまで、僕達は長い間キスをしていた
ラブの家に帰って、一緒にお風呂に入ってハグしあう
ラブは腰にバスタオルを巻いてベッドルームに消え、消えた途端に悲鳴をあげた
「どうしたのっ?!」
「せんたくしなきゃっ!ああんもうっ!」
ラブの目がギョンビンのように釣りあがり、シーツだのカバーだのをきいきい言いながら引っぺがしている
「いいじゃんかぁ別にぃ…」
「やだっ!今から洗濯するっ!」
「…ラブゥ…」
お風呂での余韻を味わいたかったのに…色気ないなぁ…
洗濯機を回したラブは、新しいリネンを出してきて、ベッドメイキングしている
きいきい言っている
「うまくいかない!嫌いだメイキング!きいっ!だからイヤだったんだ!きいっ!」
「だってお前がここでしようって…。じゃあゲストルームでゆっくり眠ろうよ」
「あそこもまだ洗濯してないもんっ!」
「なんだよ!じゃ、前にカーニバルしたときのまんま?」
「…ん…」
「なにそれ!」
「だって別に…俺、あそこで寝ないし…」
「すっげぇひどくない?」
「ひどくないもん!」
「一緒に洗濯しろよ!」
「…」
「ラブってば…」
「…」
「ラブ?」
「…アンタ、すればいいじゃんアンタが汚したんだから…」
「汚してないぞっ!」
「汚れてるもんいろいろ…」
「それはお前のっ…ていうかそんな事はどうでもいい!信じられない!ゲストルームのリネンを洗わないなんてっ!」
「忘れてたんだもん!アンタがしつこいから!」
「僕のせいにするの?酷いヤツ!」
「つべこべ言ってないで洗濯機止めてゲストルームのリネンも一緒に洗ってよ!」
「後で洗うよ」
「勿体無い!一緒に洗えば電気代安く済む!一度にいっぱい洗えるんだから早く止めてきてよ!」
「…けち…」
「なにっ?!」
「…けちだラブは…一度にいっぱい洗える高級洗濯機やら、あんな高級時計一杯持ってるくせに…」
「…」
「解りました!止めます!僕が洗濯しますっ!ふんっ!僕をなんだと思ってるんだよ!ふんっ!
風呂場に脱ぎっぱなしのお前のへーんなパ○ツも一緒に洗っていいですね?!」
「俺の素敵なパ○ツは一緒に洗ってもいいけどアンタの変なパ○ツは別にしてね!」
「…なによそれっ!きいっ!絶対一緒に洗ってやるっきいっ!」
僕は洗濯機のところに走った
リビングから一番遠いところにある
ばか!
こんな広いとこに住むなばか!
洗濯機を止めてゲストルームのリネンを引っぺがし、放り込み、風呂場の脱衣カゴの中の服や下着類をぜぇぇんぶ一緒に投げ入れ、
もう一度スイッチを押す
「ゲストルームのベッドメイキング、しといてよ!」
「なんだってぇ?!」
「アンタそこで寝るんだろ?」
「なにいいいっ?!きいっ!わかったよ!リネン類出せよきいっ!」
ラブはリネン用のクローゼットの中から真紫のシーツとカバー類を出し、僕に投げてよこした
こ…こんな色の…
「僕を…狂い死にさせる気?」
「なんで!」
「こんな色に包まれて安眠できるかよ!」
色んなラブが夢に出てきそうで熟睡できないっ!
「ふんっ!どすけべ!」
ラブはあっかんべーをしてリビングの方に消えた
僕は仕方なくゲストルームのベッドを整えた
すいすいとメイキングする
実は僕は手先が器用なんだっ!
アイロンかけだって上手いしなっふんっ!
どうだこのピシっと張った布具合は!ふんっ!
ホテルマンとして潜入捜査した事だってあるんだふんっ!
これぐらいできるぞふんっ!
ああでも…
なんかムカつく!僕をなんだと思ってるわけ?!
「奴隷かよ!」
真紫の枕に向かって悪態をついた
「そうだもん!」
ムカつく声が返ってきた
「なにっ?!」
「違うの?!」
ラブが涙目で僕に刃向かっている
僕は腰にタオルを巻いただけの、その儚げな男を睨み付けた
「やだ…」
ラブは溜めていた涙を流した
あ…くそ…卑怯だぞ…きゅうん…
「おこっちゃやだって言ったのに…おこった…やだ…」
きゅきゅきゅきゅううん…
「ばか…」
はぁぁん…
「アンタなんか…」
「どれいでしゅっ!くうん」
僕は堪らなくなってラブの腰に巻きついた
「やだっ!」
「うぅん…離さないもん」
「…やだ…」
ラブの腰に巻きついてラブのお腹に頭を擦りつけた
「くしゅぐったい…」
「はぁん今らりるれった」
「らりるれってないもんっ」
「ぐりぐりぃぃ…」
「はぁっ…」
唇も一緒にラブの脇腹に押し付ける
くふふふふ…くーっふっふっふっ…
僕はそのまま真紫のシーツにラブを倒した
ぐりぐりぐりぃぃと頭を擦りつけながら素早くお臍まわりに接吻する
ひーひーラブの声が弾みだしたひーひーたまんなぁい
ラブの体中にぐりぐりと頭を擦りつけてやったひひひっ
ラブは唇へのキスを求めているけどしてやんないふんっ
太腿だとかへその下だとか、めちゃくちゃ際どいところにいっぱいキスしてやったひひっ
ラブの瞳は潤み、体は火照り、僕を欲しがっている
でもあげない…
っていうか…無理だし…
我儘で小憎らしいラブを上から見つめ、切ない表情を堪能した後、僕はおもむろにラブから離れてドアをあけた
「いやっ!どこいくのっ!」
「洗濯物が完了したようですのでご主人様」
「…」
「干して参ります」
「…乾燥機ついてるよ」
「…」
「…」
「…ヤなカンジ!」
「ふんっ!ばかっ!」
僕はわざと部屋の外に出て、10数えてからドアを開けた
紫のシーツに包まって突っ伏しているご主人様…
背中から包み込んで抱きしめた
「やだ…きらい…」
「僕は好き」
「いじわる」
「どっちが!」
「ひどい…」
「どっちが…」
「俺をこんなにして…」
肩越しにキスした
ラブは体の向きを変えて僕の首に腕を回した
また長い間キスをした
キスしながら僕達は、眠くなったのでそのまんま眠った…
夢も見なかった…
僕の先輩_13 妄想省mayoさん
「今日は来るの?..ミンギ..」
「うぃっス..」
「そっ..」
僕は昨日営業後いつもの仲間達や弘益大に通ってる仲間と合流してそのまま友達の家に泊まった
弘大界隈も探索したから先輩の元カノのこと..少し解った
営業が終わって先輩は着替えるために厨房2Fスパイ小屋に上がった
階下で待っていた僕はヌナに紙袋を渡された
「なんスか?」
「褒美..」
「ぉ?..この間の調査のスか?」
「ぅん」
「いひひ..何スか?..中身..」
「時計..」
「えっ@o@..ぁふぁふ...」
「んなビックリしなくていいよ..高いもんじゃない..」
「何だ..安いんスね..」
「ぁのねっ#」
「ひひ..冗談だって#..いいんスか?」
「ぅん..で..お揃の色違いにしたょ」
「えっ#..誰と?..ぇ..ぁ..ラブちゃんと?」
「ぅん」
「マ..マジっスか?」
「ぅん」
「わぁ..嬉しいなぁ..へへ..ヌナ..次の仕事ないんスかぁ?」
「ぁ..ぁ--...っとぉ...今んとこ..な..ぃか..な..」
いつになくヌナは歯切れが悪かった..何でだろう..ちょっと引っかかる..
「ヌナ..」
「何..」
「僕..ちょっと解ったんスけど」
僕は人差し指で2階を指して次に小指を立てた..
ヌナはぷっ#っと笑って「どこまで解った?」っと聞いてきた..僕はリサーチした内容を話した
「いい線いってるよ」
「そっスか?」
「ぅん..ミンギはどうしたいと思うの?」
「逢った方がいいかなぁとか思うんス」
「ふっ..何故?」
「ぁのさぁー..ほらぁ..あの雑誌みてからさぁー」
「ぅん..」
「ちょっと呆けてるんスょ..先輩..」
「くく..そぅ..」
「だからさぁー..まだ好きなのかなぁとか思うんスょぉ..」
「そっか..」
「ヌナだって反応見たかったからあの雑誌見せたんスょね..」
「ん..まぁね....じゃぁさ..ミンギ..」
「なんスか?」
「じわじわそっちの線に行かせるようにしてごらん..」
「ぃ..ぃぃっスかねぇ..おっかねーなぁ..」
「ぷっ...」
ヌナの歯切れが悪いのはこの事じゃないな..っと僕は思った..
じゃ..何だろう..僕を使わない調査って..何だろう..
着替えの終わった先輩が降りてくる気配がして僕はヌナとの会話を止めた
先輩は僕の側に来て紙袋を覗いた..
「それ..何?ミンギ..」
「ヌナからのご褒美っス」
「見せて..」
「ぁ~とぉ~でっ#」
@@...
はっ#っと息を吐いた先輩はくるっと向きを変え..
(スニーカーだから)ピタピタピタ#スタスタ...で厨房の裏口へ向かう
もぉー..すぅ~ぐ..むつけるぅぅ..
口を尖らせた僕にヌナと側に寄り添うテソンさんはくすくす笑った..
ヌナとテソンさんにバイバイして店を出た
マンションに帰る前に先輩は遅くまで開いているチーズ専門店へ寄った
店を出て歩きながら僕は先輩の買ったチーズの入った紙袋を覗いた..
「何買ったんスか?」
「ぁ~とぉ~でぇ~~ぇ~~」
先輩..僕に下唇を突き出した
『それさぁ--..もろ.."猿顔"っス..』っと言いかけた僕は自分の口を自分の手で擦った..
僕のその仕草を見て先輩は口端を上げた..
先輩は僕がヨダレを我慢していると思ったのか..口を開いた..
「チリ産のいいワインが手に入ったのょ..」
「珍しいっスね,,先輩がチリ産って..」
「仏は大戦でドイツに侵攻されたでしょ?」
「ぁ..はぁ..」
「チリの土壌は仏程戦火にまみれてないからね..たまに安くて美味しいのがあるのょ..」
「そっスか..ぁ--..いいんスか?」
「何が?」
「僕と飲んでも..」
「ミンギと飲むって言った?..僕..」
「先輩ぃ~↓ぃ~~↑~↓~~↑」
僕は先輩の前に立って自分の両肩を揺すった..ぷっ...っと笑った先輩は僕の上腕を叩いた
マンションに帰ると先輩がワインクーラーからチリ産のワインを出して僕はチーズを皿に並べてテーブルに運んだ
乾杯の後..ワインを飲むと..先輩は座った僕の側にある紙袋をじぃ~~っと見ている..
「見たい?..先輩..」
「ぅん..見たいな..」
「いつもそう素直だといいんスけど..」
「@_@..」
「ぁ..すんません..」
僕は紙袋に入っている箱を出した
ストーン柄の細長い箱をテーブルに置くと先輩の目がちょっと開いた
「リトモラティーノじゃない~~ミンギ..」
「先輩知ってんスか?」
「90年にミラノで生まれた..国際線スッチーが広めたと言っていいかな..ボブサップもしてるょ..」
「へぇ..そうなんスか..」
「ぅん..」
「ラブちゃんと色違いのお揃だって..」
「ラブ君も持ってるの?」
「ぅん..何個もある..全部は見てないスけど..」
「へぇ..そぅ..」
わくわく感の僕は
ストーン柄の箱
を開けた..
箱には上と下が黒い筒..僕は筒に入っている
時計
を出した..
@_@..ちょっと先輩の顔色変わった..
「ぁ..やっぱラブちゃんと色違いだ」
「ラブ君何色?」
「っんとぉ..濃いピンクで半月が黒..」
「でもさぁ..
ラブちゃんの
色がいいなぁ..どぅ?..この色..」
「ミンギらしい色なんじゃない?」
「そっスか?」
「ぅん..半月の色が凄くいいと思うな..それに似てるじゃない..時計の顔..口大きいでしょ?..ミンギは..」
「ぁ..ぁ--...僕が"お喋り"って言いたいんスか?..先輩..」
「そぅね..」
「はひ..」
「このsoleシリーズ..ツートンアイテムは完売じゃなかったかな..」*sole=太陽(伊語)
「そ..そうなんスか?」
「ぅん..カタログにもないょ..なかなか見つからない」
「ぅわ...そぅスか..ひひ..可愛く見えちゃうな..」
「僕のより..ぃぃ..」
「へっ??...先輩持ってるんスか?」
「本物を知るオトナの『外し』の時計..だもの..リトモは..」
「い--ひっひ..」
「何ょ..」
「スッチーが言ったんスか?..それ..」
「@@」
「ぁ..すんません..」
「先輩のリトモ見たいス..」
「そ?..」
先輩は同じ大きさの
赤い箱
を出してきた
赤い箱の中は僕の時計と同じように筒の中に時計が入ってた
先輩の時計は黒のフェースで金色の星が飛び交っている..
「これ..名前あるんスょね」
「ぅん..
stela
..」
「へぇ..先輩らしいゃ..」
「そぅ?..」
「ぅん..」
「でもそれ完売品じゃない..今も売ってる..つまんない..」
「先輩~~」
「もう一つあるょ」
「は?..何処に?」
※163に続く
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