ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 249

So What? 6 ぴかろん

重鎮は、この素っ頓狂な男と本当に『弓道場』で知り合ったのか?
なんでラブとこいつはこんな事してるんだ?
…そういえばクリスマスパーティーの時、長髪のゴリラみたいな男がいたけど…あれか?
…うん…あれだ…ラブに纏わりついていた…いや、どっちかってぇとラブのほうがこの男にまとわりついていたんだ
俺は、重鎮とラブとギョンジンと、そしてこの素っ頓狂男の会話を聞いていた

「ポール殿とラブ殿はお知り合いか?」
「って言うかー、僕ってぇ、ラブちゃんの奴隷の友達なのよぉ」
「奴隷って誰の事よ!」
「オゥ、ミン・ギョンジン。最近『ご無沙汰』らしいな」
「…む…。…。げほん…。あー。お前、韓国語、喋れるようになったのか?!」
「チョッチネー」
「…」
「いやさぁ、ニホンで最近行ってるお気に入りの店のオバチャンたちがさぁ、みぃぃんな、韓国ドラマに嵌っててさぁ…。教えてくれるのよぉ僕に韓国語。フフン。それでぇ、毎晩ラブちゃんに電話して。ねっ」ちゅっ
「あん。ねっ」ちゅ
「電話?…毎晩?!…ラブに?!!」
「そ」ちゅ
「あん」ちゅ
「『ちゅ』は、やめい!」
「んでぇ、韓国語の会話練習してたの。ねぇっ」ちゅううはむ
「あ…む…」はむはむれろ
「やめてぇぇぇやめてぇぇぇ」

ギョンジンが気の毒になり、俺はラブを突いた
ラブはT-1000のキスにトロンとなりながら俺に微笑み、パン☆と俺の掌を叩いてから泣き喚いているギョンジンにしなだれかかった

「次はキミねぇ?」
「え゛?!」

むちゅうううう…

なじぇ!なじぇ俺は、T-1000にまでキスをされてるんだっ!
しつこいキスをするT-1000を押し戻し、俺は奴に訴えた

「ぶぁかやろう!俺はおもちゃじゃねぇやい!」
「ああん可愛い~ん…。あ!思い出した!あの時赤ん坊の扮装してた子だ!ふぅぅん可愛い~ん…」
「なんで俺にきしゅしゅるんらっ」
「あ。涙目…きゅん…ピーちゃんきゅんしちゃう…」
「なんでか理由を聞いてるら!」
「だってラブちゃんがキミにタッチ交代したからぁ」
「ぢがーう。俺にはきしゅしなぐでいいー!(>o<)」

俺はジャンスさんに泣きついた
けどジャンスさんはまたまた重鎮と話し込んでいて、俺の訴えを聞いてくれなかった

*****

「なぁんで重鎮、あんな軽そうなのスカウトしようとしたのよ」
「軽そうに見えますがの、武道全般イケますのじゃ。して、あの美貌じゃ。ワイルドアンドキュートじゃろ?ユーモアセンスも抜群じゃ。ホ○ト向きじゃと思うてのぉ…」
「あれが『書』を?」
「左様。中々の腕前じゃったぞ。他に茶道も華道もニホン舞踊も習うたとか…。しての、本業は…ゴニョゴニョじゃ!」
「なにっ?…あんなのがエージェント…」

*****

「ねぇねぇ、古いターミネーターなんかほっといて、変幻自在・美貌の持ち主のT-1000と遊ぼうよぉ、ごさいじィ」
「ペラペラだな、韓国語…」
「ニホン語も結構ウマイよ」
「すげえな」
「くふん」
「トマンゼリンって日本語なの?」
「ふふん。日本語でもありイングリーッシュでもあーる」
「英語?」
「ふふん」
「英語だとどんな風に書くの?」
「こうだ!」

Tom and Jerry

「え…」
「こうだ」
「…。これって…アニメの?」
「イエー」
「ネコとネズミの?」
「イエー」
「『仲良く喧嘩しな』…の?」
「それ!それが言いたかったの!」
「…」
「これぞ親友ざんしょ?奥が深いの、Tom and Jerry」
「とむあんどじぇりぃ…とむぁんどじえりぃ…とまんどぜりー…とまん・ぜりー…とまんぜりん…」
「そそ。そんでぇ、当てた漢字はTom and Jerryの本質を突いたものだとボクは思うのォヨ、ごさいじィ」

そういう事か…結構哲学的?
いや…そんなことない!こんな…こんな変な…

ハンサムじゃん…

「ボクゥを見つめるその潤んだ瞳をボクに売るんだ。きゃー、ピーちゃん韻踏み韻踏みぃぃ♪」
「ピーちゃん、ラッパーだぁ」
「イェーラブちゃぁん」
「ぶぁかっ!」

ギョンジンが涙目で睨んでいる。ほんとだ。バカだ…

「見つめ~ないで~見つめ~られると~、罪ツクリッ、罪ツクリッ♪」
「何の歌だよ」
「キスしよう、ごさいじィ」
「(@_@;)」

ばっちぃぃぃん☆

俺は迫ってくるT-1000の頬を両手挟みビンタした
はぁぁ…

クラクラする
あ…目眩が…

一瞬気が遠くなった俺は、カウンターに突っ伏した
徐々に耳が回復して騒がしい声が聞こえてくる
うるさいけど愛おしい仲間達の声

「いかん!イナが気絶した!人工呼吸を!」
「僕がする」
「俺がする」
「ボクはプロナノヨォ」

ドドドド

「ボクが」「僕が」「俺が」「僕が」

「たわけっ!」

重鎮の声に皆シィンとなった
俺は薄っすら目を開けて、仲間達の声を聞いた

「ポール殿、まずは落ち着かれよ」
重鎮はまとめ役…
「はぁい」
このバカは仲間と認めていいのか?
「お前一体何しに韓国へ来た!」
ギョンジンだ。仲間だな

「韓国ドラマ・ロケ地めぐりツアーに便乗して来たの」
「二泊三日か?明日はニホンに帰るんだな?!」
「そぉんなのミン・ギョンジンには関係ないじゃなぁい。マダム達と同じヒコーキに乗ってきたけど、僕は自由気ままな旅人だものぉ」
「…暇なのか?」
「うふん、忙しい」
「…あばんちゅーるでか?」
「くふふーん。あっそうだ、今夜ラブちゃんちに泊まってもいい?」
「だめ!」
「いいよ、ピーちゃん」
「だめったらだめ!」
「有難うラブちゃん。何して遊ぶ?」
「決まってるじゃん…くふ…」
「あはぁん…」
「だめったらだめったらだめぇぇやめてぇぇぇ(;_;)」

突然現れた、実はめちゃくちゃ腕の立つらしいMI6極東支部のエージェント・ポールは、ラブとギョンジンの間で、T-1000の格好をしてヘラヘラ笑っていた
俺はカウンターに突っ伏したまま『仲良く喧嘩しな』という『トムとジェリー』のモットー(?)についてぼんやり考えた

俺とミンチョルは、親友…
テジュンとヨンナムさんも、ある意味親友なのかもしれない
俺とヨンナムさんは?
そんな風になれるかな…

喧嘩できるようになれれば…
そうすれば…
それ以上言葉が浮んでこなかった

そこから先の感情は、その時にしかわかんないだろう…
テジュンはヨンナムさんと、ちゃんと喧嘩できるようになっただろうか…
帰ったらテジュンに電話してみよう…

*****

T-1000にキスをくらって落ち込んでいるイナの背中を叩いた

「なんだ!しっかりしろよ」
「だって変な奴いるし…もう帰ろうかな俺…」
「だめぇん。まだジャンスとあまりお話してないじゃんすー」
「…」
「ね?じゃあ、ジャンスが質問しまーす。はい、しつもーん。テジュンとヨンナム君との違いは?」
「違い?」

何をいきなり…
はぁ…疲れるぜ…
けど『テジュンとヨンナムさん』なんて俺を擽るキーワード出されちゃ答えないわけにはいかない…

「…そだな…真面目なトコ。ヨンナムさんは浮気とかしないと思うし優しいし可愛いし…」
「ぷっ」
「…なによ…」
「テジュンは浮気者だからなぁぷぷ」
「…」
「でもあれだぞ、気持ちはお前に向いてるぞ」
「うん」
「まぁなんだな、時間かけてヨンナム君と『友達』になるこったな、あの二人のように」

そう言ってジャンスさんはソクとギョンジンを見た
あの二人か…

「でだ」
「はい」
「お前、済州島の出張、テジュンと一緒に行かんか?」
「え?あ…。そう言えば前になんか言ってたな、てじゅ…」
「俺は行かんから、二人でゆっくりたっぷりしっぽり何でもやってこい!」
「…。いつなの?てじゅの出張」
「まだ決まってないが近いうちだと思う。ウチの仕事が暇な間にな」
「…。店が忙しいからなぁ…。人手不足だし…」
「あんなにいっぱい同じ顔がいるのにか?!」
「だってスヒョンとミンチョルは…映画だし…、スハが休んでるらしいし…、テジンも元気ないしさぁ…。あとはまだこれといった芸のない新人が4人…」
「映画やってても店に顔出してるんだろう?スヒョン君とミンチョル君」
「…うん…」
「たかが二泊ぐらいなんとかなるだろう!」
「…うーん…」
「よし!決まった!お前の分もチケット取っておく」
「ちょ…ちょっと待ってよ!…スヒョンやミンチョルにも聞かないと…」
「わかった。じゃああの二人の都合がつくときにお前らは済州島へゴーだ!」
「そんな勝手に決めないでよ…。俺の分は保留してよね」
「なんだと?!俺は待たされるのが嫌いなんだ!いつ返事をくれる?!」
「…そんなの…わかんねぇよ…」
「今からスヒョン君とミンチョル君に電話して聞け!」
「…。そんなに急かすなら、俺、行かない」
「お…」
「いいよ。別に。行かなくても」
「…わかった。拗ねるな。とにかくだな、なるべく早くに返事をくれ」
「…いいって言ってるのに…」
「だめだ!テジュンの出張中にヨンナム君とまた何かあったら大変だ!」
「…俺とヨンナムさんは別に…」
「ふん!何言ってるか!『テジュンとヨンナム君の違いは?』と尋ねた時にお前は即座に『ヨンナム君』について答えたぢゃないか!あやしい!」
「…そ…れは…。だってジャンスさん、てじゅの事はよく知ってるだろうから…」
「とにかくお前とテジュンはべっとりくっついてないとダメだ!特に今はな!いいな?それが俺の会社にとってもお前らバカップルにとっても、そしてヨンナム君にとっても一番いいんだ!キメ!いいな?!」
「…強引だなぁ…」
「いいな?!」
「…はいはい…」

はぁ…。じゃ、明日にでもミンチョルたちの撮影覗きに行って、そのついでに聞いてみようかな…
済州島か…
懐かしい…
スヨンがいるんだよな…スヨン…
ふふ
ヨンナムさん、あの時スヨンに似てたんだ…ふふ…ふ…

…。スヨン?!

閃いてしまった
俺は興奮してジャンスさんに、済州島に行く時、ヨンナムさんも連れてっていいかと聞いた

「おまっ!まだそんな事を言うか!何を考えておるのじゃっ!そんな…ヨンナム君とテジュンと三人で…さ…さんにんでっ(@_@;)」
「だって済州島にはスヨンがいるだろ?ねね、ヨンナムさんとスヨンってどうよ!いいと思わない?あの二人。うまくいくと思わない?」
「…なにが?」
「だからスヨンとヨンナムさんとくっついたらさぁ…くふ…」
「…」
「お似合いだと思う、俺!イヒン。あ、でもそうなるとヨンナムさんの仕事、なんとかしなきゃな…」
「…おい…イナよ…」
「なんとかなるよな。よし。決めた!済州島には三人で行きます!」
「…イナよ…俺には何が何だかさっぱりわからんが…」
「解るだろ?今のハチャメチャな状況よりよっぽど解りやすいよ!大体ジャンスさん、その金髪は何なんだよ!」
「おお、これはテジュンから借りたんだ」
「…。え。…。て」
「テジュンから借りた」
「…。なんでてじゅがそんなきんぱつのづらを…」
「昔ドライブ中にトンネルで…」
「え?昔?なになになに?!トンネルでなにっ?!」
「すれ違ったらしい」
「何と!」
「…。ふふ。そんな事は本人に聞けばよいふふふ。じゃあ、済州島行きはオッケーだな?ん?」
「三人で行く!」
「…」

ジャンスさんは、自分が強引な提案をしたくせに、俺が強引に三人で行くと決めるとブチブチ言い出した
でも三人で行くんだ!そしたらきっと…きっと…
気持ちが少し浮き上がったような気がした


So What? 7 ぴかろん


その後、俺はカウンターでチョンマンやジホさんに、今日の天使とキツネの『俳優っぷり』を聞いた
チョンマンは、二人のキスシーンを見ていたら胸が苦しくなって呼吸困難になり、もう少しでジホさんに人工呼吸されるところだったと興奮して喋った

「お?チョンマン、正直に言えよ。『僕の唇と少し触れ合った』って」
「やめてよ監督!」
「こいつねー、うっきーうっきー暴れまわるからじっくり吸い付けなかったんだよぉ、イナちゃあん」
「…」

イナちゃん?

「スヒョン君とミンチョル君のキスシーンを再現してやろうと思ったのにさぁ」
「冗談じゃないよ監督!なんで僕と監督がそんな」
「ううん…し・た・い・く・せ・に」
「何を!」
「き・す」
「ああ。チニさんとならね!ふんっ」

言い争いながらも『とまんぜりんたる二人』…だよな、こいつら
ふと店内を見渡すと、ラブはギョンジンに吸い付かれながらポールに色っぽい流し目をし、ウシクとイヌ先生はイチャイチャし、スヒョクとソクは相変わらずで…

「…なんかさぁ、今日みんな『キス』づいてない?」
「うん。そうね。波及効果?」

ジホさんが軽く言った

「…。は?」
「影響受けてるのよ、見てなくても…」
「…」
「チーフ&元チーフの…」
「…。ああ…」

スヒョンとミンチョルがキスをした
それがみんなに影響している

「ふ」
「ん?可笑しい?」
「…いや…なんだか…みんなやっぱり繋がってるんだなぁって…」
「ふふ。そうだね。みんな気にしてるのね。だから自分のパートナー以外の人に積極的にキスしに行ってる」
「…かんとく…」
「ん?なんだい?チョンマン。げ…なんで泣いてるのさ!」
「あうっえうっがんどくぅぅ」

チョンマンはジホさんに抱きついた

「どうしたの…なんなの…」
「だあって…だぁって僕…ひっくひっく…」
「…。吹聴しちゃったこと、後悔してる?」
「えうっえうっ…ドンジュンやギョンビンの気持ち考えたらひっくうっく」
「お前さん、彼らの気持ちを考えたから、ああしたんでしょ?」
「うっくひっくえっく」
「…ばかだなぁ泣かなくてもいいだろ?チョンマンなりの気遣いだって僕は解ってるよ」
「えうっえうっかんとくうう」
「可愛いなぁ、泣きじゃくるチョンマン。ぐふふ」
「う…。うぎーっ」バタバタバタ
「なんだよ、逃げるなよ、僕はお前の理解者なのにぃぃ」

ジャンスさんの向こう隣りに張り付いたチョンマンを愉快そうに眺めるジホさん
そんな姿を見ていると、やっぱこの人は映画撮る人なんだと思う
のらりくらりしてるけど、見るとこちゃんと見てるんだな…
俺の視線に気づいたジホさんは、口をニィっと横に広げて笑い、俺の目の前に顔を突き出した

「あっ!」

ジャンスさんの横からサルの声がする
心配なのか?
ジホさんが?俺が?

「なぁに?イナちゃん」
「…パートナーじゃない奴にキスしに行ってるってのさ」
「うん」
「つまり、みんな動揺してるの?」
「じゃない?…ここにドンジュン君とギョンビン君がいればねぇ…」
「…」
「…和んだろうに…」
「ジホさん、一枚噛んでるくせによく言うよ…」
「ふふん。けどさ…。みんなといると和むでしょ?」
「…うん…。あいつらったら自分達だけでなんとかしようとしてるよな…」
「そうね」
「もっと頼ればいいのに」
「イナちゃんだって一人で頑張ってたじゃない?」
「うん…」
「仕方ないねぇ」
「…。そういう風にしかできないんだよ…」
「ふぅん、そか」
「…伝わるといいんだけどな…あいつらに…」
「…みんながちゃんと待ってるからって?」
「…うん…」
「…みぃんな…同じだからって?」
「…ん…」
「ふぅ…」
「なにさ」
「イナちゃん、解ってるでしょ?真っ只中にいる人にはそんな余裕ないって」
「…うん…」
「ふぅ…。でも、待っててあげましょ、彼らを。頼むね」
「…うん…」

ちっとだけ、ジホさんを見直した
ジホさんは俺の目を覗き込んで、今度の主役にイナちゃん使おうかなと呟いた
ジャンスさんの陰から、サルがゲホンゲヘンとわざとらしく咳をした
ジホさんと俺はクスクス笑ってサルを見た
サルは決まり悪そうにジャンスさんの撫で肩の後ろに顔を隠した

午前2時を過ぎた頃、そろそろお開きにしようと俺達は帰り支度を始めた
ラブはポールとがっつり抱き合いながらギョンジンを足蹴にし、そして誰かに電話している
ギョンジンは勿論ぎゃうわうとうるさい
イヌ先生はうつらうつら舟を漕いでいる
トッショリにはキツい時間か?
それを見てビョンウとジョンドゥが、今夜は無理みたい、じゃあ朝だな…と謎の会話をしている
テプンの悩みは解決しなかったようで、少し涙ぐんでいる
それをホンピョが慰めている!珍しい!
そしてシチュンとドンヒは、当たり前ですよねぇ、そうだよ、まずアレをしないとねぇ!などと言い、それを聞いたテプンは顔をくしゃくしゃにして泣き始めた
ホンピョがトントンとテプンの背中を叩き、泣くなよテプンさん、俺だってそんなアレはできねぇよ…、だって本来の目的は子孫繁栄なんだからよぉと聞き捨てならない事を言った
テプンはマジマジとホンピョの顔を見つめ、それから大声で、俺はできねぇ俺はだめだ、子孫繁栄もムリだぁぁと泣き出した

「こんばんは、みなさん」
「「「「「ミンギ!」」」」」

ミンギはみんなに挨拶した後、ラブにクイクイと手招きをした

「あ…ギンちゃぁん、ピーちゃんだよっ」
「ああ、お久しぶりです」
「いやー久しぶりぃぃ」はぐっ
「げ・僕、ハグはいらないですから…。ところでラブちゃん、ちょっと」
「なになに?」

ミンギはラブを連れて店の隅っこに行った
残されたギョンジンとポールは英語で言い争いを始めた

「なになにギンちゃん」
「…。はぁ…」
「どしたの?なんか悩み事あるの?俺、聞いたげるよ」
「ラブちゃん」
「ん?」
「ギョンジンさんを大事にしなよ」
「…」
「なんだってポールさんだけを泊めるのさ!」
「…」
「信じられない。何するつもり?あの人とどうにかなっちゃうわけ?」
「…。ちが…」
「違わない。そういう気持ちあるんでしょ?!」
「…ぢが…」
「涙目で誤魔化さない!僕はラブちゃんを親友だと思うから言ってるんだ。いい加減にしないとギョンジンさん、どっかに行っちゃうよ、いいの?!」
「ぢがうぼん!ぐしゅ」
「あのねラブちゃん、僕はラブちゃんのお色気になんか惑わされませんからね!それにいっくら親友だからってこんな時間に呼び出して『送ってぇん』って、僕はアッシーじゃありません!」
「…ださいよギンちゃん…」
「アッシーは今回限りです!もし今後こんな電話してきたら、僕ラブちゃんと絶交するからね!」
「えっえっえっギンちゃん怒んないで…えっえっ…怒っちゃやだっええんええん」
「シャー!泣くな!」
「うえっうえっ」

「「きゅうううん(*^^*)」」

隅っこでミンギに叱られて泣いているらしいラブを、英語で言い争っていたギョンジンとポールが口を開けて見ている
あほか!

「泣くなって言ってるだろ?!」
「えっくえっくぢがうもん!ピーちゃん、時計持って来てぐれだんだもん!らからギンちゃん呼んで三人で時計の仕事進めようと思ってそれで…ええんええん」
「え?」
「ニホンで見つけたアンティークの時計とか、自分の持ってるタグホイヤーのとか、わざわざ持って来て貸してくれるっていうがらぁぁぁああんああんギンちゃんにも見せたくてぇぇんええんええん」
「…そか…そうだったんだ。…でもそれなら電話でちゃんとそう言えよな!」
「…ぐす…ふえん…」
「仕事と遊びと一緒くたにしないでよね!」
「…あい…ごめんねギンちゃん」
「わかったよ。じゃ、帰ろう」
「ギンちゃんも一緒に泊まってってね。三人で寝ようね。ギンちゃん真ん中」
「…ラブちゃん…ギョンジンさんは?」
「あいつが来ると仕事にならないもん!(`^´)」
「…。はぁ…。ラブちゃん、ギョンジンさんの事大事にしろよ」

どうやらミンギはラブに丸め込まれたらしい
涙目ながらもニコニコ顔のラブは、ミンギと腕を組み、『きゅうん』となっているアホウ二人のところにやって来た

「というわけで、俺、ギンちゃんとピーちゃんと俺のマンションで『時計の仕事』するから、あんたひとりでRRHに帰ってね」
「いやぁぁんいやぁぁん、僕も行くぅぅぅ(;_;)」
「邪魔だからダメ!」
「いやぁぁん何が『というわけ』なのか僕にはわかりましぇんっ僕も行くぅ一緒に行くぅ」
「…。また『一緒にイケるようになったら』ね!フンっ」
「…」
「キーッヒッヒッヒッ、ヒャーッハッハッ」

可哀想にギョンジンはラブに振り解かれ、打ち捨てられ、ポールには執拗に嗤われ、らーぶ、らーぶ、おおおぅぅぅと泣き叫んでいる
そんなギョンジンを振り返りもせずに、ラブは三人で楽しげに帰っていった

「キム・イナ」
「あうん?」
「テジュンをよろしくな」
「…うん…」
「また飲みに行こうな」
「うん」
「じゃ、俺は帰る」
「気をつけてね」
「あうっジャンス家に帰っても一人じゃんすー。さびしーっ」

ジャンスさんも帰っていった
他の奴等もそれぞれの帰る場所に向かった
俺は、斜め座りで手を宙に彷徨わせている涙でドロドロのギョンジンをつれてRRHに帰った


セピアの残像 14  れいんさん

長い長い夜
浅い眠りと虚ろな覚醒を彷徨いながら
夜は夜のままで、朝が来なければいいと思う
そうしたら夢から醒めた時の
今見ていたものは全て夢だったのだという虚しさと
その後すぐに訪れる息苦しさに喘ぐ事もないのだから

夢の中の僕はよく笑ってる
声をたてて屈託なく、悩みなど何一つないといった風に
夢の中のあの人は眩しそうに目を細め
とても自然に両手を広げ、優しく僕を抱き寄せる

彼に抱かれた感触は
僕をひとときの幸福感で満たしてくれる
でもそれはただの幻影


部屋の向こうで賑やかな朝が聴こえる
活気に満ちた子供たちの声と優しげな君の声
それは、夢の境にいた僕が、現実に戻る瞬間


身支度を整え部屋を出ると
もう子供たちの姿はなく
食卓に残った食器たちが、慌しさの余韻を僅かに残していた

「おはよう・・」
「あ・・うるさくして起こしてしまったかしら・・」
「いや、ごめん・・うっかり寝過ごしてしまったよ」
「・・昨夜はよく眠れたの?」
「うん・・」

眠れたと答えても、眠れなかったと答えても
君は哀しそうな顔をする
僕はそんな君に、ただ微笑んでみせる事しかできない

今朝は特別寒い朝だった
この冬一番の寒さだったかもしれない

昨日君とした約束は忘れてない
君が行きたいと言ってた場所にこれから行こう
僕らは軽い朝食を済ませ
厚手のコートを羽織り外に出た

指先の感覚がなくなるほど外気は冷たかったけれど
今の僕には逆にそれが心地よかった
君は僕の半歩ほど後ろを遠慮がちについてくる
だから君に話しかけたい時は、振り返って立ち止まる

彼と歩く時はどんなだった?
頭を掠めるなるそんな想いを、僕は急いで振り払う


「君が言ってた『行きたいところ』って、どこ?」
「それは、まだ教えてあげない」
はにかみながら微笑む君
そんな君を見ていると、これでよかったのだと僕は思う

「ねえあなた、覚えてる?」
小さな石ころを蹴るような仕草をして君は言う

「あなたがあの学校に赴任してきた時・・私の事を『お嬢さん』って呼んでくれた事」
「ああ・・そんな事もあったね」
「そんな風に呼んでくれた人なんて誰もいなくて、だからなんだか恥ずかしかった」
「そうだったの。君は、僕が君の方を見ると慌てて目をそらしたり・・そうかと思えば僕の後をついて来たり・・とても印象的な子だった」
「私、いつもあなたの事ばかり見てた。学校に行ったのもあなたがいたからだったのよ」
「ははは。いけない子だな。てっきり勉強しに来てるのだと思ってたよ」
「あら、他の子達だってそうよ。家にいたって色々面倒くさい事させられるから・・だから結局みんな、そんな理由で学校に来てた」
「それはちょっと・・教師としては複雑な心境になってしまうね。」
「ふふ。動機は不純でも、私あなたに褒められたくて随分頑張ってたのよ」
「そうだね。特に君のあの日記・・なかなか個性的で面白かった」
「嫌だ。それを言わないで」

うっすらと頬を紅く染める君
こうやってゆっくりとゆっくりと、時間が流れていけばいい
そうしたら失くした夢の事なんて
最初からなかったものだと思えるから


その時、君が立ち止まった
そして君は、僕の肘の辺りをつんと引く
なんとなく促されるまま歩いてゆくと
そこに懐かしい光景が広がった

風に吹かれて砂埃が舞う閑散とした校庭
一枚残らず落葉し、それでもじっと春を待つ校庭の木々
今では誰も使うものがいないのだろう、赤茶色に錆付いた鉄棒
運動場の向こうには平屋造りの木造校舎
老朽化の為、既に廃校となっている過ぎし日の思い出の場所
12時をさしたまま時を止めてしまった時計が
過ぎ去った思い出を儚んでいるようだった

「もう一度・・あなたとここに来たくて・・」
君は溜息と一緒にそう呟いた


僕らは、誰もいない校舎を歩き、あの頃の思い出を探した
職員室に並んだ古びた大きな机
僕の机は・・そう、ここだった
いつも飾ってあった花・・あれは君が飾ってくれてたの?
君は悪戯っぽく微笑んで小さく頷く

今改めて見ると
こんなに距離が短かったのかと感じてしまう、教室の横の廊下
あの頃はとてつもなく長い廊下に思えてた
そうそう、あの時、君の肘をつねったのはね
ただ君を驚かせたかっただけなんだ
君が妙な反応をするから、僕は困ってしまったよ

ああ・・
この教室も、あの時のそのままだ
僕はこの教壇に立ち、君はあの場所に座ってた
僕がそちらを見ると君はさっと下を向いて
僕が視線をそらすと君は僕を見てたね
ふふふ・・懐かしいね
みんなはどうしているだろうね・・
そう・・ただ一つ、僕が心残りだったのは
君たちが立派に卒業していく姿を、見届けられなかった事
本当にそれが心残りだったな・・

その時君は、弾かれるように顔を上げた
そう、だから・・
強い意志を宿した瞳が真っ直ぐに僕を見る

だから、今ここで卒業式をしてほしいの
あなたと私の卒業式
あなたを卒業する私を、しっかりとその目で見て

淀みなく動く唇
僕はその言葉の意味が、すぐには理解できなかった

「ホンヨン・・」
「あなたもこの地を卒業し、私もあなたを卒業する」

「何を言ってる?」
「そうする為にここに来たの」
「冗談なら・・」
「真面目に言ってるの」
「ホンヨン、僕は・・今は・・今はそんな話はしたくない」

君のあまりの真剣さに、教壇をおりる僕
「待って」
どこにそんな力があったのかと思うほど強く、僕の腕を掴む君

君の瞳に溜まった涙は
今にも堰を切って溢れそうで
僕はそれをどうしていいのかわからない

お願いだから泣かないで
そんな君を見てるのが、何より僕は辛いんだ
なのに君は、ぶるぶると震えながら、それでも僕を掴んで離さない

「もう逃げないで」
「・・」
「苦しみから目を背けないって、後悔しない人生を送れって・・あなたがそう教えてくれたのよ」
「ホンヨン・・」
「だからもう私の事を気にかけたりしないで。自分を責めなくてもいいの。
あなたは十分よくしてくれた・・だからあなたは戻るべき場所に・・」

「そんなつもりはない!」
「・・あの人・・待ってるのよ。あなたの事を」
「・・もう終わった事だ」
「終わってなんかない。あなたからあの人が消える事なんてない。あの人もそう」
「彼には・・彼を待ってる人がいる」
「それでも・・あの人はあなたを待ってるわ。たった一人で・・ずっと待ってる」

なぜそんな事を言う?
ホンヨン、君は・・
僕がいなくなってしまったら君は・・
ああ・・
僕は、君を置いてなんかいけないよ
そんな事できるわけない・・

君は教室の隅のオルガンの蓋を開け、鍵盤をそっとなぞった
壊れてしまった鍵盤はもう音を奏でない


私・・あなたにずっと恋してた
でもそれは一方通行の恋
一方通行だと気づいたら
来た道をまた引き返さなきゃね

あなたは優しい人だから
私がそうしてほしいと言えば、ずっと傍にいてくれる
自分の気持ちを誤魔化してでも、私の前で笑ってくれる
それでもいいから傍にいたいって
そう思った
凄く迷った
だけど、それはずるい事でしょう?

壊れてしまった鍵盤から、力なく落ちていく細い指
思わず僕はそれを握り締めた

私ね・・後悔しながら生きたくないの
あなたが私の幸せを願ってくれているように
私もあなたの幸せを願ってる
だから今ここで卒業するの
あなたはちゃんと私の事を見届ける義務があるのよ
ね?そうでしょう?
スハ先生・・

君の前で泣かないと
そう決めてたのに、流れてくるこの涙をどうする事もできない
僕はその場に膝まづき、君に許しを乞うた
頬を伝う涙は、君の細い指先までも濡らしていた

君の笑顔を取り戻したいと思ってた
僕の罪を償おうと思ってた
君を愛したいと思っていたんだ

なのに僕は
なのに君は

苦しくて苦しくて
言葉が何も出てこない
すまないとか・・ありがとうとか・・
そんな言葉じゃないんだ

ねえ、スハ先生
今度生まれ変わっても、また私、先生の生徒になりたいな
先生はどう?また私の先生になってくれる?
でもね先生・・今度は先生に恋したりしない
先生が私に恋をするのよ

肩が、背中が、全身が
小刻みに震え出すのを止められなかった
君はそんな僕を
いつまでもいつまでもその手で優しくなで続ける
いいのよ、先生・・いいの・・
君の声が優しく響く

そして僕らは
今ここで
二人きりの卒業式をあげた

最終便のバスが来るまで、君と色んな話をした
君が手話の勉強をしていた事も
教員資格を取るつもりでいる事も
この春に、隣町にある養護学校に臨時勤務をする事も
僕はちっとも知らなかった
『キャリアウーマン』という言葉に、ずっと憧れていたんだと君は笑った

そうか・・君も先生になるんだね・・
芯の強い、心の綺麗な君だから
きっと素敵な先生になる
それは僕が保証する・・

涙はとうに枯れてしまったけれど
心が晴れたわけではない
もやもやと奥底にたちこめる霧と、その隙間に見える一筋の光

僕の中にたちこめる霧が
心の中から消える事は、永遠にないのだと思う
消してはいけないのだと思う

遠くに、土煙をあげながら走るバスが見えた
それに乗ってあの人の元に行く
それはこの地との別れを意味し
君との『さよなら』を意味する

山吹色の古びたバスが、急ブレーキをかけ目の前で停車した
油圧式の折りたたみドアが、間の抜けた音をたてて開く

躊躇う僕の背中をそっと押す君
振り返る僕に優しく微笑んでみせる君

重い足を引きずり、ステップを昇り、窓際の座席に座る
手を振る君の姿がだんだんと霞んでいく
旧式のバスはエンジンを震わせ、ガクンと一つ大きく揺れて発車した

窓ごしにいる君を慌てて目で追う
君が微かに震えている
そして、だんだん、だんだん、君は小さくなっていく



「運転手さん!待って下さい!」
気がつくと声をあげていた

バスが急ブレーキをかけ停車する
バスを降り駆け出す僕

僕の最後の忘れ物
君に伝えたい事がある
伝えなければならない事がある

どうしたの?と言い掛けた君を、何も言わずに抱きしめた
折れそうなくらい強く強く抱きしめた

戸惑う君に僕はそっと口づける
唇の先が僅かに触れるだけの
幼くて不器用な僕の口づけ
僕の最後の口づけ

ありがとう
君を忘れない
君を心に刻んだまま僕は生きていく
それが僕の償いだから


今の僕にできる精一杯の想い
それは君に伝わっただろうか

旧式のバスはガタゴトと僕を揺らす
無神経なその振動が、なぜだか今は優しく感じた
僕が好きだったあの地が遠ざかっていく
もう二度とあの地を踏む事はないかもしれない
僕はもう、あの人と生きる事を選んだのだから

冬曇りの空からチラチラと粉雪が舞い降りてきた
この雪を君も見ているだろうか
この雪をあの人も見ているだろうか

花の家に戻ったら
あの人は、どんな顔して迎えてくれるだろう
僕を待っててくれてるだろうか

もうすぐです
もうすぐ僕はあなたの元に帰ります

粉雪がしんしんと降りしきる
バスはガタゴトと走り続ける
僕を運んで
あの人が待っている花の家へ


凪いだ時化   ぴかろん

エレベーターの中でもスン、スンと泣いているギョンジン
可哀想なので頭を撫でてやった
抱きつかれるかなと警戒しつつも期待してたんだけど、ギョンジンはずっと俯いたままだった

40Fのフロアに着き、俺はギョンジンの背中を押して箱から出た
暗い部屋の向こうに、夜の光が見える

「元気出せよ。おやすみ」
「いな…」
「ん?」
「夜景、きれいだ…」
「うん」
「…ちょっとだけ、一緒に見ようよ…」

端整な顔が静かに誘う
ほったらかすのは気の毒だったので、ギョンジンより先に窓辺のテーブルまで行って腰掛けた
奴はゆっくりと歩いてきて、俺の隣の椅子に座った
黙ったまま、暫く眼下の灯りを見ていた

パタン
しゅたしゅたすた…しゅた…すたすた

ドアの開閉音と引き摺るような足音がした
俺達は顔を見合わせ、足音の行き先を窺った

しゅた…しゅたしゅた…はぁ…。…。しゅたしゅた…。ふぅ

足音は遠ざかるのに、溜息が妙に大きく聞こえる
俺は忍び足で廊下まで進み、足音の主を確かめた

廊下に佇むミンチョル
端の部屋のドアノブに手をかけ、躊躇した後にカチャリと開けた
そしてふぅっと小さな溜息をついて、中に入って行った

「イナの部屋じゃないね」

いつの間にか俺の後ろに立っていたギョンジンが呟いた

「なんであの部屋にキツネが?」

ギョンジンは、今しがたミンチョルがしたような溜息を吐き、俺に背を向けて自分の部屋に向かった
キツネが俺の部屋の隣にいる?
どういう事だ?ギョンビンと喧嘩でもしたのか?
俺は俺の部屋に行っていいものかどうか迷った
背中でカチャリという音を捉え、ギョンジンの部屋の方を振り返った
ギョンジンは俺を見ている…いや…俺というより俺の向こうを…ミンチョルの消えた部屋を見ているようだった
そしてドアの前で項垂れ、それから部屋の中に消えた

一人で廊下の真ん中にポツンと立っていた
急に、様々な映像が頭に浮んだ
それは、今日の出来事ばかりで、最初に浮んだのは今見たばかりのギョンジンの寂しそうな顔だった
巻き戻されていく映像
実際に見たものばかりではなく、俺が感じたものまでが、映像となって巻き戻され流れて行く
ミンチョルの眼、スヒョンの眼、ギョンビンの、ドンジュンの…ギョンジンとラブの、ジホさんの、チョンマンの、みんなの瞳…
苦しくて悲しくて切なくて、あちこちに彷徨い続ける視線
僅かな喜び、ひとしずくの幸福
そこに縋ってようやく生きている
取り囲むのは大気
美しい言葉も醜い言葉も
優しさも憎しみも
全てがそこに融けこんでいる

ギョンジンの虚ろな姿が浮び、映像が途切れた
俺はギョンジンの部屋に向かった

*****

ベッドの縁に腰掛けた
涙が零れ落ちる
ミンチョルさんの後姿を見た
あの部屋に弟がいる
彼を避けて眠っている

弟の心は波立っていない
何故だろう
ミンチョルさんとスヒョンさんのキスを
弟は既に受け入れているのだろうか

なにかがずれているとかんじる
それがとてもふあんで
ぼくのひとみからなみだがあふれる

お前…泣いてないね…
どうして?

お前が甘えられるのはミンチョルさんでしょ?
ミンチョルさん以外に甘えられるのは
ぼく…

お前…落ち着いているね…
なんで?
それにお前…
似合わないよ…その緋色…

そんな風に嗤うなよ…
ぼくのところへおいで
聞いてあげるから
抱きしめてあげるから

でもお前はぼくを頼らない

おまえ…どこにいってたの…

*****

ギョンジンの部屋のドアを開けた
頭を抱えてベッドの縁に座っている
小さく震えているのは泣いているからかな…

「入るぞ」

俺の声にハッとして顔を上げたギョンジン
やはり涙が頬をつたっていた

「…どうしたんだよ…」
「…え…」
「ラブが冷たいから?」
「…あ…うん…」

うそだとすぐに解った
ギョンビンとミンチョルの事が気になるんだろ
俺はギョンジンの隣に腰掛け、奴の頭を抱きしめた

「弟思いだからなぁおにいちゃんは…」
「…」
「大丈夫だよ、あの部屋にきっとギョンビンがいるんだ。だからキツネは」
「弟は」
「ん?」
「…」
「なに?」
「なんでもない…。ねる…」

ギョンジンは布団に潜り込み動かなくなった
仕方がないので俺は部屋に戻ろうと立ち上がった
おやすみと声をかけると、小さな声がした

「いな…ここに…いて…」

俺はくふふと笑いながらギョンジンの隣に滑り込んだ

「ラブに怒られる~♪」

ギョンジンはゴソゴソと動いて俺に擦り寄った

「…お…おいって…」
「…だきしめて…」

弱々しい声でそう言った
そうだよな…気になるよな…
俺はギョンジンを抱きしめて眠った

明け方近くに目を覚まし、テジュンに電話した
寝ぼけ声で、何時だと思ってるんだぁと明るい声が帰ってきた

「今日、暇あるか?」
「二時過ぎに会社行くけど、それまでは暇だよ」
「二時?変な時間だな」
「先輩が二日酔いらしくてヘンテコなメールが来たんだ。なんか用事?」
「…撮影現場、見に行きたいんだけど…」
「え?」
「スヒョンとミンチョルの映画の…」
「僕と一緒に?」
「…うん…」
「喜んで!…でもお前、午前中パンだろ?」
「…やすむ…」
「また怒られるぞ」
「うん。でも…今日行かなきゃいけないような気がして」
「なんで?」
「…わかんない…なんかわかんないけど、納得したいのかもしれない…」
「何を?」
「…わかんないんだ…」
「…オッケー。八時ごろに迎えに行く」
「…うん…。あ…てじゅ…。ヨンナムさん…」
「ふふ、元気になった」
「…そ…」
「後で会えばいい」
「…うん…」

今日でなくてもいいのかもしれない
でも見ていられない
ギョンジンも、ドンジュンも、ギョンビンも…
行ってこの目で確かめたい
あの二人は『映画を撮っているのだ』ということを…

それで、俺はテジュンと午前中に撮影の見学に行く事にしたのだ


朝の光景  ぴかろん

本格的に陽が昇ったようで、窓から射す光に瞼の裏がピンク色になる
ああもう眠っていられないか…と思った瞬間、甘ったるいキスを受けていた


「ね…キス…」
「…。だめだよ」
「いいでしょ。おはようのキス…」
「だめ…」

朝っぱらから甘ったるい
乗り気ではなかったのに、欲望が穿り出されて舌に絡みつく
離れようとすると頭にしがみつき、もっと甘い蜜を与えられる
たいそうなごちそうだ…


「ん…。…。んあ?!」
「んが…」

甘い唇の主は、体を離して俺をまじまじと見つめ、それから五秒後にぎゃーーーっと叫んだ

「…あんだよ…鼓膜破れるよ…」
「なんでいなさんここにいるのさっ(@_@;)」
「…あー…なんでだっけ…」
「あのバカはどこさっ(@_@;)」
「え?…あ…ギョンジン?…となりに…」

いない…

「あれ?どこ行ったのかな…あ…あ…あへ…へひん…けひ…」
「(@_@;)!」

がばぁっ

ラブは布団をひっぺがした
中には俺の腹にしがみついているギョンジンがいた
間の悪い事にギョンジンの唇が俺のヘソ横にくっついている
俺はくすぐったくて身を捩った

バタン☆
「らぶぅぅ!イナがいないっ!いないよぉぉお」

うっすら涙を浮かべながらテジュンが飛び込んできた

「あ…てじゅ…」
「い…ぎ…な…」

イナ、ギョンジン、なにこれ?
そう言いたいのだろう
俺の方は、なんでお前ら二人揃って現れたんだって事を聞きたい!

そこでひとしきり言い争いが起きた
それぞれがそれぞれの事情を自分勝手に説明し、それぞれのパートナーを勘繰り、パートナーと居た相手を睨めつけた
4人とも肩で息をしながらあらゆる罵詈雑言を並べ立てた

カンカンカン☆
「朝っぱらからうるさい!何やってんの騒々しい!」

ドアの向こうにフライパンとお玉を持って目を吊り上げたギョンビンが居た
俺達4人は一斉に下を向き、厳格王にすみませんと謝った

「何時だと思ってるの!まだ7時すぎだよっ!」
「…キツネは?」
「もう出かけた!」

ギョンビンは目を吊り上げたままドアの前から消えた

「ちょっと落ち着こう。つまり、ギョンジンが寂しそうだったのと、厳格王と天然のカップルが、なぜかイナの隣の部屋で寝てたらしいってんで、イナはギョンジンの部屋に泊まったってわけね?」
「だからって抱き合って眠る事ないじゃん!」
「あ…ラブが妬いてる…くふ」
「ぶぁか!こんなことならピーちゃんと一緒に行けばよかった…」
「え?どこへ?」
「ロケ地巡りバスツアー!」
「…え…あいつ本とにそれでここに来たの?」

「しょれよりほんとにおまえら偶然一緒になったのか?!」
「そうだよ、イナ。エレベーターの前でバッタリ…」
「ふぅん…。おまえ、八時ごろに来るって言わなかったか?もしかしてふたりで申し合わせて…」
「違うよイナ!何言ってるんだ!」
「ふぅん…しょれで…えれべーたーのなかで、なにもなかったのか?」
「え?何が?」
「あ…目が泳いだ」
「え?!」
「…きしゅしたな?」
「えっ?!」
「…」

「ラブ!まさかこのクソジジイとキスしたの?!」
「あんたこそ五歳児ベッドインしてるじゃん!」
「ぼくはただ抱きしめてもらっただけだもんっ!ラブが冷たいからっ!」
「ふん、キスしまくってたんじゃないの?」
「…してないもん…」
「うそつけ。あんたが我慢できるはずないじゃん!キス以外に何したの!」
「してないもんっ!ばかっ!」
「…。俺に向かってばかだって?!」
「ふん!ばか!」
「…」

「じだんだな?」
「えと…避けられなくてつい…」
「…俺はしなかったのに」
「ん?」
「ギョンジンの隣で寝たけどキスなんかしなかったのにいぃぃ」
「…。でも先輩からのメールでは、昨日随分『ごらんこう』だったそうじゃねぇか!」
「ぢがう。あれは皆が俺にぎじゅを…」
「隙だらけだからだよっ!」
「!。でじゅのぶぁがっ!」

ばかだと?ばかだからばかっちったんだ。うわきもの。どっちがうわきものだよ!ぎーぎーぎゃいぎゃい

カンカンカンッ☆
キッ
しーん

「…。皆さん、朝御飯お召し上がりになりますかどうですかっ?!」
「「「「あ…はい…いたらきます…」」」」
「では食堂へどうぞっ!」

バン☆

はぁぁっ…こわかった…なんか今日、吊り具合酷くない?めちゃくちゃ機嫌悪そう…ぐずぐずしてるとまた怒られる…

俺達は口々にそう言って、そそくさと食堂に行った
テーブルにはでかいオムレツとサラダ、バケットとハッシュドポテト、そしてポタージュスープが用意してあった
吊り目のギョンビンは、俺達にコーヒーをサーブして、食卓についた

「どうぞ!召し上がってください!」

言葉の端々に棘を感じる
そんなにうるさかった?

「ギョンビンっ。美味しいよっ。このポタージュ、最高に美味い!」

ギョンジンがハイテンションで叫んだ

「インスタント」
「…あ…そ…。いやぁでもこのハッシュド…」
「冷凍」
「…。オムレツが…」
「それは作った」
「…し…塩コショウ効いてない…」
「…」
「けけけどっケチャップつければおいし…」
「中にチーズが入ってますから!塩コショウは各自でお好きなようにどうぞっ!」
「…う…あい…」

「ばか」

ラブが小声で言った
ギョンビンがラブを睨んだ
ラブは開き直って大きな声で言った

「だってばかだもん、あんたの兄さん」
「うん。わかりきったこといちいち言わなくていいよラブ君」

ラブとギョンビンはじっと睨み合い、そしてぶはははっと吹き出した
ようやく空気が和み、俺達は割と楽しく朝食を終えた

それから俺とテジュンは撮影現場に向かう事にした
ジホさんに連絡を入れ、場所を教えて貰った
テジュンについてきてもらってよかった
俺は地理がわからないもの…

「お前、チェミさんに連絡入れたか?」
「あっ!忘れてた!」

慌てて電話すると、ぶぁっかもの!破門だ!と怒鳴られた
電話で謝り倒すと、大笑いされた

『明日もう一度入門させてやる!じゃあ今日一日ごゆっくり…ふふん♪』

ちょっとばかりいやらしい言い方で言われた


撮影現場のビルに着く
地下の駐車場に車を入れる
降りようとするとテジュンが腕を引いた

「なに」
「キス」
「…。おはよーのキスは済ませたんだろ?!」
「お前とはまだだよ」
「俺はしたもん!お前がキスした綿飴と」
「…」
「間接キスになるだろ?」
「イナ」
「…」

文句を並べたてたところでテジュンに敵うわけがない
軽度・中度・重度で分けるならば、中度のキスをされた

「今晩ヨンナムんちに帰ろう」
「え…」
「ね?」
「…うん…」

そうだな。テジュンから話を聞くより、直接会って確かめたほうがいい
撮影場所に向かいながらそう思った





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