ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 278

細長い闇5  あしばんさん

滑らかな肌触りは、ホテルのベッドのリネンだった

二日酔いのようにぼんやりとした頭でリビングに出ると
ソファにチョンマンが丸くなって眠っている

夕べ深夜、いや、明け方に近かったような気もする
疲れ切ってホテルに戻って…
店が終わった後にスタジオに戻ったチョンマンは
ジホ監督に言われて、僕の世話のためについて来た



霊安室から始まった、ジンの荒んだ日々を撮り終え
スヒョンは疲れ切っていた
体力よりも、精神的な疲労が大きかったのだろう
大事なものを失った心の演出は
餓えた海のように自分を襲い、次第にカラになっていく

ふたりをホテルに送ったスタッフにも
夜食の手配を申し出たホテルの総支配人にも
ほとんど口をきかず、首を縦か横に振るばかりだった

「チーフ…お風呂…入って下さい」

ああ、と言ったきりソファに横になって目を閉じてしまった彼に
「困りますよぉ」と泣きそうな声で訴えるチョンマン

これまでにも、多くの現場に顔だけは出していたチョンマンは
俳優たちの、こういった場面にはよく出くわしていた
深刻な台本であればあるほど、彼らはその時期、その世界にのめり込む
実生活に支障をきたすことさえある
プロとはそういうものだと思っている

しかし、今回は勝手が違った
今まで職場の仲間として、上司として見てきたスヒョン
時に、兄のようにも思えるスヒョン
家族のように暖かいBHC
留学を迷った原因のひとつは、あの空間から去るのが嫌だったからだ

その空間が壊れてしまうようで怖かった
撮影が終われば元に戻る
頭ではわかっているつもりでも、不安はつのる
いつも自信に満ちているあのスヒョンが
こんなに疲れ切った姿を見るのは、初めてなのだから

「家族が…こういう仕事だったら…大変だろうな…」

チョンマンの呟きに、スヒョンは目を開けた
ソファの横に、ぺたりと座り込みうなだれている彼も
やはり疲れているのだということを思い出す

「わかったよ、大丈夫だから、もう帰りなさい」
「え、だめです、朝また早いからって、ジホ監督に言いつかってるんです」
「そんなに心配?」
「ええ!すっごく!チーフに何かあったら困ります!
 撮影のみんなにも、店のみんなにも言い訳したくないんです!」

スヒョンは、微かに笑って身体を起こし
わかった、と言いながらチョンマンの頬にキスをして立ち上がり
ひとりバスルームに向かった

熱いシャワーを浴びて出てきた時には
チョンマンは、ソファの一部になったように寝入っていたが
ベッドに行けと声を掛けたところで、素直に従うわけはない
スヒョンは、薄掛けを一枚掛けてやった

そしてベッドに沈み込んだ
その前に、早朝のルームサービスを頼んだのはチョンマンのためだ
夜が明けても、自分に食欲が戻るようには思えなかった



「先に寝たーっ?何のためについて行ったのよ!」
「チーフのシャワーの音を聞いてたらフーっと眠気が…」
「チーフのシャワーの音聞いて平気って、どういうワケっ?」
「ちょっと、ジホ監督、ホントは何をさせたかったんですか」
「いやぁ…ハッハッハッ」
「ハッハッじゃないっしょ!」
「でも一緒に夜明けの珈琲飲んだのよね?」
「変な言い方しないように」
「やーん、だってぇ、チェ・スヒョンとホテルでふたりきりなのよ~♪」
「どうでもいいけど、そのオネェ言葉!」
「あ、オネェで思い出したけど、チーフ」
「はい?」
「今日、録音するらしいよ」
「あ?」
「主題歌、ミンチョルさんから連絡があったって、シン監督が言ってた」
「…そうですか」
「大丈夫かねぇ、青年約2名」
「…」
「早く聴きたいなぁ~ぐふふ~ん」

結局、スヒョンは、今日までドンジュンから直接歌の話を聞くことはなかった

どこだかで特訓をしていることも
その先生が「あの先生」の弟だということも
とうの昔に監督から聞いてはいたが
ドンジュンは、どうしても直接その話をしたがらなかったし
スヒョンも聞くつもりはなかった

ー僕が彼を語って…おまえが歌う

そんな言葉で言いくるめたのは、いつのことだったろうか

あの頃は…まだ何もわかってなかったんだ…
自分がどんなことになっているかなど
自分の中が…

ビニールの折り畳み椅子に、台本が鳴った

ギョッとして振り返ったチョンマンの視線の先には
演技に入っているのではと思うような彼が立っている
暗く哀しげなスヒョン
どうしたものかと直ぐ横の男の顔を見れば
ジホは、何ごともなかったように鼻歌を歌いながら
タイムテーブルのチェックを続けていた


「あ…スヒョンさん!」

スヒョンは馴染みのない声に振り返ったが、見知った青年だった
数日前、ミンチョルの控え室で鏡を割り
ぽろぽろと涙を流したあの彼だ
しかし、そこにいる笑顔には、あの時の弱々しさはなかった

「ああ…君か…」
「あの、監督が役を下さったんです!」
「役?」
「はい、今日のバーのシーンでジンと絡む…ほんのチョイ役ですが」
「へえ…よかったね」
「あの後、監督が声をかけて下さって…スヒョンさんのお陰です」
「僕は、ちょっと話をしただけだよ」
「いえ…いえ…」
「ん?」
「僕…本気であなたと共演したいって思ったので…嬉しいです、どんな端役でも」
「そう言ってくれるなら僕も嬉しい」

微笑んではいたが、すっと踵を返し控え室に向かってしまったスヒョンを
青年は寂しそうに見送る

「バカだなぁ、あんた…あんなチーフに声かけて」
「チーフって…あなた誰?」
「え?ああ、スヒョンさんのダチよ、ダチ」
「誰がダチだ、チョンマン、ええと…君、イルス君ね?」
「はい…よろしくお願いします」
「よく覚えてるわよぉ…カメラテストの映像は何万回も見たからね」
「あ…はい…」
「ふふん…なるほど…」
「ジホ監督、目線がイヤらしいっすよ」
「ふぅん…こうしてナマで見ると、ちょっとさ…目の…強さが似てるんだね、君」
「はい?」
「似てるって誰に?」
「いや、シン監督が事情を知ってるとは思えないけど
 あの人の勘って動物的だからなぁ…」
「あの…」
「だから、誰に似てるんっすか」
「ドンジュン青年よ」



薄暗いカウンターで酒をあおるジン
冷めた妖しい目で店内を物色するジン
その美しい暗い影に惹かれる女たちの視線
耳元で囁かれる誘いの言葉

バーと、レストルームのセットで
撮影は順調に進んでいた
その、イルスという役者とのシーンが来るまでは

「できません」
「できる」
「絶対にできませんよ」
「ジンは自分を失ってるんだよ?」
「でも、女性だからできるんです、男ではヒョンジュを思い出す」
「だから惹かれることもある」
「ありえない」

シン監督とスヒョンの意見が、これほど食い違ったのは初めてだった
監督が、急遽イルスを起用したのは
気分に任せて女性を口説きホテルに連れ込んでいた頃
ジンが男性にも声をかけるという設定を撮るためだった

問題は、ジンがゆきずりの青年を相手にできたかどうかだ

「ジンに冷静な見境いがあっちゃ困るんだよ」
「ヒョンジュを忘れるための行動ですよ?」
「だが、彼の影を無意識に求めてる」
「それでも…」

「手の届かぬものへの執着は、綺麗ごとだけじゃないだろう」
「…」
「ジンは自嘲しながらも満たされたいんだ」
「…」
「だから、夢のシーンの変更をしたんだよ、わかるか?」
「ちょっと…考えさせて下さい」

スヒョンが苛ついていることは、誰の目にも明らかだった
いつも、暖かい海のように泰然としている彼のそんな姿は
勿論、今撮られているシーンの余波だとわかっていても黙らざるを得ない

休憩の声がかかって、皆一様にホッとした表情を浮かべる
だから、例の薄暗い休憩所に向かったスヒョンを追ったのは
直接関係のある、そのイルスという青年くらいなものだった

「あの…僕のせいでしょうか」
「まさか、純粋に制作上の話だ」

長椅子にドサリと座ったスヒョンが
らしくもなく睨みつけるように青年を見上げる

「でもスヒョンさん…」
「やれやれ…カメラテストの時の自信はどうしたの」
「…」
「君は充分魅力的だよ、抱いたっていいくらいだ、今」
「え…」
「僕は君が思ってるほど立派なやつじゃない」
「…」
「僕はね…実はかなり無節操な男なんだ、気が向けば誰とだって寝る」
「スヒョンさん…」
「おまけに、恋人にはひどく残酷な男だ」

ヤケになったような乱暴な言葉は
本当のスヒョンのものでないことくらい理解できる

何が彼をそうさせているのかはわからないが
その恋人とやらの「ゴージャスな大人の女性」を想い描きながらも
思ったことを口にできるのは
その青年の、持ち前の性格の強さでもあった

「そんなの嘘です…あの時のあなたはそんな人じゃなかった」
「あの時?」
「ミンチョルさんの控え室で…」
「一部分でしかない」
「僕の力が足りないなら納得しますけど、そうじゃないならやって下さい」
「ジンは…」
「あなたが無節操かどうかは問題じゃない、俳優として凄いと思ってるんです
 引き受けたなら、監督の要求に応えるべきじゃないですか」
「…」
「僕のシーンが結局必要ないなら切られてもかまわない
 でもやる前に引き下がるのは嫌です」

物怖じしない真っ直ぐな目と口調
スヒョンは、ドンジュンを思い出していた

「例えジンがヒョンジュを愛していたって、悔いていたって
 無意識に心に入り込むものもあると思うんです」

スヒョンは青年から視線を外し、ほの明るいガラスブロックの光を見た
まだ陽は射さないが、厚いガラスは僅かな光を器用に反射している

「わかった、行こう」

スヒョンが立ち上がったのは、10分ほどの沈黙の後だった

そして、監督の描くシチュエーションであっても
スヒョンが感じたままの演技をすることを提案し
了承されたのは、ほどなくのことだ



店で出会った青年の微笑みに
どこか懐かしさがこみ上げるジン
アルコールの回った瞳が潤む

レストルームの壁に相手の身体を押しつけ
息がかかるほどの距離で覗き込む

少し怯えたように
しかし決して拒否しない興味深げな瞳は、誰かを思い出させる

小さく震える唇にそっとくちづけ
その細く締まった背中に手を回す
熱い息が、僅かに逃げようとする唇を捕まえにいく

スヒョンは、とうに思い出していた
ドンジュンに、こうして、このシーンを模して
主題歌の説得をしたことを

ーあのお話憶えてるでしょ?
「当たり前でしょ」
ー泣いてくれたじゃない
「だからって」
ー僕が彼になるんだよ?
「わかってるよ…」
ー僕が彼を語って…おまえが歌うの
「…」
ーそんな風にひとつになるのって…よくない?

僕だ…僕がやらせた

どんな想いで歌うのか…
あいつが…

青年へのくちづけは、予定よりも深く激しいものになっていた
その激しさに、スヒョンよりも僅かに背の低い青年の踵が浮く

わかっている…
ジンは、ただ情けないんだ
遂げられぬ想いと
それでも尚求める哀しさと
そして自分を救ってくれる者への期待と
…甘え

そんなものが
無性に…
無性に情けない


カメラは、予定外の映像を切り取っていた

哀しげに寄せられたジンの眉
微かに濡れた睫毛は
自分の愚かさを嘆く涙を予感させた

青年の息が苦しくなった頃、絡んでいた舌は唐突に離され
ジンは青年の肩に顔を埋めた
白いシャツに小刻みに揺れる黒い髪
青年が見せる困惑の表情

ジンは泣いていた

思いもよらなかった展開に、シン監督すらカットの声を忘れていたが
数秒後、彼は立ち上がり、ようやくOKを出した

そのシーンの採用は
監督の中で即決されていた


夜が明けるようには訪れない  ぴかろん

店にチョンエがやって来た
いや、チョンエだけじゃない。スヨンもやって来た
いや、チョンエとスヨンだけじゃない。ジャンスさんもやって来た
いや、チョンエとスヨンとジャンスさんだけじゃない。ヨンナムさんも…やって来た…

ジャンスさんは次々とホ○ト達を呼び、技のリクエストをし、チョンエとスヨンに解説していた
そう言えば今日はチーフ天使がおりませんなぁフグ君などという余計な言葉を発し、通りかかったソヌさんに

パチン☆そこ(@_@)

と指さされ、嬉々としてゴミを摘み取っていた
好き放題リクエストしまくりながらも他のお客様達には愛想を振りまき、如才なさを発揮するジャンスさんは、もしかしたら誰よりもホ○トに向いているかもしれない

最後の最後に俺を指さし、ジャンスさんは回し蹴りと飛び蹴りをリクエストした
だが、チョンエとスヨンはそれを却下した
そして二人の女子は俺に、五歳児で涙目になって甘えてみろと命令した

「どーして?イナの蹴りはかっこいいですぞ。見ればよいのに!」
「だって…ねえ、スヨンさん」
「そうよ…ねぇ、チョンエさん」
「なにがだってそうよですのよなのよスヨンさんチョンエさん」

息継ぎしろよ!句読点つけろよ!よく口が回ったな

「「私達、見飽きてるもの…。ねっ(^-^)」」

ああ…そうだ…こいつらってば、俺のかっくいー技なんか、確かに見飽きてるわ…(-_-)

「僕、見たいなぁ」

ヨンナムさんが言った
隣でチョンエが、あらオッパ見てないの?と叫び、それじゃ見せてあげてなどと言う
今日調子悪いからと抵抗を試みると、チョンエは俺の瞳を覗き込み、大丈夫、できるわよ、拗ねないで!と俺の肩を叩いた

「イナ…見せてよ…」

瞬きしながら嬉しそうにヨンナムさんが言う

その長い睫毛に俺は弱いんだから…
ずるい
卑怯だ
知ってるくせに…

ふらりと立ち上がり、少し広い場所で回し蹴りと飛び蹴りを見せる
ヨンナムさんは大喜びして、かっこいい!ブラボー!と叫び、その後、嬉しそうな顔をしてチョンエの耳元に何か囁いていた

あの二人はきっとうまくいく
いいことだ
しあわせになればいいんだ

そのまま足を軽く振っていると、背後で拍手が聞こえた

「かっこいいぞ、イナ」
「てじゅ…」

駆け寄って、いつ来たんだどっから入って来たんだどうして今頃来るんだなんでジャンスさん達と一緒にこなかったんだもうもうもう…とテジュンの胸を叩いてやった
息が詰まりそうになるぐらい一気に言葉を流した…俺も句読点つけなきゃ…

そう…この人は『俺の』テジュンだ…
目の端に映るか映らないかの人を気にかけながら俺はテジュンの肩に額を擦りつけた

「はは。早くに来たんだけどさ、テス君に捉まっちゃって『オールイン』に行ってた。んで、今裏口から入ってきたの」
「…え?」

「テス君に?」

耳ざとい女だな、チョンエは…
…ヨンナムさんは振り向きもしない…

「ああチョンエさん、後で『オールイン』にも来てねってテス君が」
「ほんと?いやん行きたい」
「…ええ?チョンエ…テス君のところに行くのぉ?」

…貴方はチョンエに夢中ってわけだ…

「だってテス君のホ○トっぷり、見たいもん!」
「…スヨンさんは?どうする?」
「チョングさんやスンドン会長もいらっしゃったわね?久しぶりにお会いしたいわ」
「じゃ、行きましょ。ジャンスさんどうする?」
「ジャンスは行くに決まってるジャンス~」

…あんたはそうだろうな

「オッパは?」

…貴方は?…

「…僕…。あんまり…」
「行かないのね?じゃ、私達、『オールイン』に行ってくるわ。バイバイ」
「あっ!チョンエ!もうちっと粘ってくれてもいいじゃないか!」
「私、あっさりしてるから。行きましょ、スヨンさん」
「待ってよ!待ってよチョンエ」

ヨンナムさんは、慌ててチョンエとスヨンの後に続く
…やっぱり行っちゃうってわけか

「ジャンスさん、ここのお勘定よろしくぅ」
「よろしくお願いしますわ、ジャンスシ」
「へ?(・▽・)あ…はい…わかりましたジャンスぅ…」

そうやってバタバタと、チョンエとスヨンとヨンナムさんは、『オールイン』に移動していった
会計を済ませたジャンスさんも、スキップしながら隣に行った
いきなり店の中が静かになった…
俺はテジュンの肩の上で目を閉じた

「おい。もう一回、回し蹴りやってよ」

テジュンが俺の耳に囁く

「イナ。リクエスト。回し蹴り…」
「…いやだ…」
「んー?なんて我儘なホ○トなんだ!お客様の言うことが聞けないってのか、こら!」
「…」
「…ずるい奴だな」
ずるいのはあの人だ…
「卑怯だぞ」
卑怯なのもあの人だ…
「僕の頼みが聞けないのか?」
「てじゅは!」
「…なんだよ…」
「てじゅは俺に…」優しくしなきゃいけないんだ!

そんな事誰が決めたんだ

「しょうがねぇなぁ、よしよしよし…」
俺に優しくするな
ううん…優しくして欲しい…

あの人を見ると俺はダメだ
あの人とチョンエを見ると俺は…
頑張っても頑張っても、心がひび割れて歪んでしまう
あっちに行ってくれてホッとした
けどここに残っていて欲しかった

チョンエの周りの空気が昨日よりずっと柔らかになったのは
あの人の眼差しが香るような色をしていたのは…
その理由を俺は知っている
知らないふりをしていたい
また逃げようとしている
逃げたくない。終わらせたい。いい加減、テジュンだけを見つめて幸せを感じたい

ぎゅっと袖を掴んだ俺の手に、テジュンの長い指が触れる

「まだか?」

それはどういう意味?
まだぐずぐすするつもりかってこと?
まだあの人が好きかってこと?

「まだダッコしてなきゃだめか?他のお客様の視線が痛いんだけど…」
「…あ…ごめん…」

慌てて離れようとした俺を、テジュンは素早くギュッと抱きしめた

「くふ…ついでにキスしちゃおっか」
「…お…おきゃくさまとキスしてはいけないことになっておりましゅし…」
「じゃ、回し蹴りやって」
「(@_@;)」
「僕、お客様でしょ?ならお客様のリクエストに応えてよ」
「…てじゅ…いじがわるい…」
「なんで?回し蹴りのリクエスト、いつも応えてるんだろ?やってよ、久しぶりだから見たいな」
「…むぅ…」
「できれば僕の顔の前でやって」
「え?」
「スリルを味わいたい気分だ」

それは…どうして?

「ほい。やってくれ。やんなきゃ別のホ○トを指名するぞ」
「…べつのって…」
「ラ」

タン!シュワッシャッ
はあはあはあ…

「やった」
「ふぇぇ…怖ぇ…」
「やれっちったからやったんだ!」
「はいはい」
「別のホ○ト指名するな!」
「…僕はお客様なんだからそんなの自由じゃん!」
「やだ!」
「誰にしよおかなぁぁ、あ、あそこにいる可愛い子ちゃんがいいなぁ」
「だめだ!ラブはだめだぞっ!」
「すみませーんウシク君、じゅの君指名お願いします」
「(@_@;)」

「はーいかしこまりましたぁ。じゅのく~ん、ご指名でぇす」

テジュンは意地悪な顔をして俺をチラリと見、トコトコとやって来たじゅの君に案内されて、空いた席に座った
俺の客はいなくなった
ぼうっと突っ立っていると、じゅの君が声をかけてきた

「あの…イナさん、一緒にお願いします…。僕、男性のお客様は初めてなので…」
「初めてなの?じゃあ色々教えなきゃねぇ」
「てじゅっ!(@_@;)」

慌ててテジュンの左隣に座った
テジュンはじゅの君をまじまじと見つめている

「キム・ジュノです。よろしくお願いします」
「ハン・テジュンです。よろしくお願いします」
「えと…僕、まだこれといって技がないのですが…」

テジュンは微笑みながらじゅの君を見つめ続けている
なんだかざわざわしてきた
テジュンは色っぽいのが好きなんじゃないのか?

「君はそのままでいいと思う」
「え?」
「そのまんまで皆、癒される」
「そ、そうでしょうか…」
「うん。大丈夫だよ。誠実さが伝わる」
「…そんな…。誠実さならスハ先生やジュンホさんやイヌ先生や…」
「君もだよ、じゅの君」
「…はぁ…ありがとうございます」
「ところで、君は車に詳しいとか」
「は。ドンジュンさんほどではありませんが…」
「今度僕の車、点検してくんない?」
「はい。喜んで」
「ドンジュン君が開発した初代アクターなんだ。ドンジュン君、時々見てくれてたんだけど、このところ忙しいみたいでさぁ」
「そうですね。ドンジュンさん、書類と睨めっこしたり、どこかへ電話かけ続けたり、『氷男を打ち負かす』とかで大変みたいです」
「あの子は一生懸命だからねぇ」
「はい。太陽のように明るく輝いてらして、フグのように鋭く毒を吐き、そして誠実であることを忘れない、素晴らしい方です!尊敬しています」
「君も輝いているし誠実だよ。毒はなさそうだけど」
「ありがとうございます」

嬉しそうに会話を続ける二人を、俺はしらけて見ていた
つまんねぇの…
じゅの君も少しは俺に話を振れよな…

「イナ」

突然テジュンが笑顔で振り向いた

「は…はい。なぁに?」
「ジン・トニック」
「は?はい?」
「ジン・トニック」
「へ?」

ニッコリ笑って『ジン・トニック』と二度唱え、テジュンはまたじゅのの方を向いた

「じゅの君は何にする?」
「はい、僕はビールを…」
「あー。ダメだよ。もっと単価の高いものを注文しなきゃさ」
「あ…そうか…。すみません、じゃあ…んーとんーと…マッコリ」
「(・_・)」
「マッコ…リじゃ…ダメですか?」
「(>▽<)ハハハハ。いいよいいよ、やっぱり君は庶民派で行くべきだ。イナ、マッコリ」

だから…何それ…

「あ、お前もなんか頼めば?それでじゅの君、僕の車のエンジンなんだけど…」

頼む?あ…そか…要するに、俺に注文してこいってわけか…
冷たいの…ふん…

俺はソクのカウンターに行って、酒を注文した

「お前は何にするの?」

ソクの微笑みは優しい
お爺ちゃんみたいだ…

「オリジナルカクテルにする?」
「え?」
「オリジナルカクテル『わがままななみだ』っての、どう?」
「…なにがはいってるんだ」
「そうだなぁ、お前の涙とヨンナムさんちの水は確実に入れる」

ふんっ

「俺はカンパリ」
「お?おっとな~」
「ばかにしゅるな!」
「くふふ。わかったよ。ちっと待ってろ」
「…」
「テジュン、清純派に鞍替えか?」
「ばかっ!」
「けひひけひひ」

ソクは笑いながら三種類の飲み物をグラスに注いだ

「追い込むなよ」
「…え?」
「アイツも自分も…」
「…」
「ほい。持ってけ」
「…あ…ぅん…」

グラスの乗ったトレイを持ち上げ席に向かう

追い込むな…アイツも自分も…

俺はテジュンを追い込んでるの?
もっと甘えろって言ったじゃないか
あの人になりふり構わずもう一度告白しろって言ったじゃないか!

立ち止まって振り返ると、ソクは微笑みながら頷いた

どうすればいいんだ、俺は…
このままでいいのか?

ふと真面目な顔をしたソクが、再び微笑んだ

どこかで何かを変えなきゃいけないと、俺自身感じている
でもどこで何をどういう風に変えるべきなのかわからない
ソクから目を逸らして俺はじゅの君の席に向かった


Enemy3  波紋 オリーさん

「まだウロウロしてたのか」
男は部屋に入ってくるなり、不機嫌そうに言った
「そう、邪険にするなよ」
「営業中に呼び出されると迷惑だ」
それからロッカーの前の丸椅子を足で引き寄せると腰を落とした
「悪いな。だが今日中に会いたくてね」
「こっちは別に会いたくないわ」
男はポケットに手を突っ込み煙草を取り出しながら言った
「何だか賑やかそうだな」
「ああ、スペシャルゲストのご来店だ」
「商売繁盛で何よりだ」
「それより何だ?あまり席をはずしたくない」
「昨日教授に会ってきた」

男はそこで初めて、僕の顔をまともに見上げた
「教授に?」
「ああ」
「あの人は…どんな様子だった?」
「別に変りはないように見えた」
「そりゃ表向きだろ。お前に泣きつくわけないだろ」
「あのお方は誰にも泣きつかんよ」
「それはそうだろう…ところで何しに行ったんだ?まさか手紙のことか?」
「仕方ないだろ、手がかりはあそこしかない」
「やめろよ、これ以上ほじくりかえすのは。あの人は何も知らん」
「やめられないね」
僕は何でもないような顔で答えた
誰がこんな仕事好きでやるかよ…

「なあ、そんなに隠し資金とやらを見つけたいのなら
世界中の銀行を片っ端から当たってみろよ。どこかにあるさ」
「無理言うな。映画みたいにゃいかん」
「そこを何とかするのがお前の仕事だろうよ」
「だから会いに行ったんだよ」
「あんな手紙を残された人の身になれって言ってるんだ」
「あれは…ある意味幸せかもしれないぜ」
「どういうことだ?」
「あんなに想われていたんだ」
「そうさ…自分が撃った相手にな…」

男はそう言うと、忌々しそうに煙草を口にくわえた
「おい、そこの灰皿取ってくれ」
僕は言われた灰皿のスタンドを男の脇に持っていった
男は下を向いたまま火をつけ、大きく吸い込んだ

お前、いつからメンソールなんか吸ってる?
だから役立たずになるんだぜ
僕は憎まれ口を飲み込んだ

「とにかく、もうこの件には関わりたくない」
煙を吐き出しながら、男は言った
「ギョンビンもだ、あいつには絶対に関わらせない。
ひょんなことから手紙のことが漏れたりしたら…」
「漏れないさ。教授から漏れなければ、後は僕たちが口をつぐんでいればいい」
「あの人は言わんよ。あっちから言ってくれたんだ、ギョンビンには言うなと」
「泣かせるね」
「いいな、だからもうこの話は終わりだ。行くからな」
男は腰を浮かせた
僕はそれを押しとどめた
「待てよ、まだ話は終わっちゃいない」
「何だよ?」

「ちょっと気になる事があったから知らせに来た」
「何だよ」
「教授が大学を放り出された」
「放り出された?どういうことだ?」
「クビになった」
「なぜ?あんな教授、普通じゃ呼べないぞ」
「そうだな…」
「何があった?」
「こんな物が届いたそうだ」
僕は胸ポケットから写真を取り出して男に渡した

男はそれを見て、はじかれたように顔を上げた
「この写真どうした?」
「昼間、大学で学長と学部長をちょっとシメ上げてきた。戦利品だ」
「この写真が大学に送られたのか?」
写真は2枚あって、
一枚は男の弟と教授がたぶんホテルのラウンジでお茶を飲んでいるところ、
そしてもう一枚は、弟がタクシーに乗り込むのを教授が見送るところ
一見何と言うこともない写真だが、
手紙を読めば、状況は一変する

「手紙と一緒だ」
僕はまた胸ポケットに手を入れ、手紙を取り出した
男は手紙をひったくるように取り上げて
真剣に読み始めた

悪いな、また関わっちまったな

だが男の次の言葉を聞いて、僕は驚いた
「あの若造…汚い手を使いやがって」
「何だって?お前、誰のしわざかわかるのか?」
「ああ」
「誰だ?」
「学生だよ」
「学生?」
「あの大学の学生だ。一度店に来たことがある」
「ここに?」
「似たような写真を持ってた」
「似たような?」
「弟とミンチョルさんの写真だ。同じ仕事だよ」

「なぜそんなことをする?」
「嫌がらせだろう。あの人に気があるらしい。
相手にされなくてあちこちクンクン調べたらしい」
「学生がか?」
「金持ちのボンボンらしい。写真はプロに頼んだって自慢してた」
「ボンボンの腹いせで教授はクビか」
「理不尽だな」
「確かに。いつ頃の話だ?」
「もうかなり前だな、ボストンに行く前だったから」
「名前はわかるか?」
「ええと、確か…ギョンビンが何とか言ってたな…」

「ファン・ミンスだよ」
突然部屋の奥から聞こえたその声に、男はぎょっとして振り返った
僕も一瞬息を飲んだ

ロッカーの後ろから、男にそっくりのもう一人の男が現れた
こちらは少し若いのだが

「お前…」
「店に写真を持って来たのは、ファン・ミンスという学生だよ」
もう一人の男はそう言いながら
ロッカーから、こちらに歩いてきた

それを見た男はみっともないくらい狼狽していた
「い、いつからそこにいた?」
「ずっと前から」
「ず、ずっと前って…」
「最初からだよ」
若い男は僕たちの近くまでやってきた

「ネクタイを汚しちゃって替えを取りに来たんだ。
ロジャースさんが入ってきたから挨拶しようと思ったら、その後すぐ兄さんが…」
そう言いながら若い男は、男に手を差し出した
持っている手紙と写真を渡せと言う風に

よく似た兄弟だ
弟が少し髪を伸ばして数年も経てば、この兄のようになるに違いない
だがこれほど似ていて、これほど似ていない兄弟もいないだろう
洒脱で愛想がよいが、事が起こると豪胆さを隠す事をしない兄は
実は心の底に繊細な泉を湛えている
礼儀正しく、天に向かって伸びた若木を思わせる弟は、
ひとたび火がつくと激しく燃える事のできる熱を秘めている

弟は、じっと写真を眺めてから、手紙を読み始めた
兄はその様子を不安そうに見守っていた
読み終わると、弟は小さくため息をついた
「こんな事になる前に、何とかしておくべきだった」
「まさかこんな風に出るとはな」
兄は弟に言った
弟は兄の言葉が聞こえないかのように言葉を継いだ
「先生は自分で何とかするって…でも先手を打つべきだった」

兄は救いを求めるように揺れる視線を僕に投げかけた
繊細な泉に石が投げ込まれたようだ
僕はその視線を受け止めて、弟に話しかけた
「ファン・ミンスか。確かにあそこの学生なんだね?」
「最初に会ったのは教授に会いに大学へ行った時。学部は経済とか経営とか言ってた。
留学の相談があると言って、その頃から先生の回りをうろついていた」
「なるほど、わかった」
単なる学生の嫌がらせか…
何か裏があると勘ぐっていたが、考えすぎか…
ただ嫌がらせにしては度が過ぎてる…

「じゃあ、後はこちらで調べてみよう。助かったよ」
僕は写真と手紙を弟から取り上げ、ポケットにしまった
「仕事中、邪魔したね」
話は終わりだ
帰りますから…

「ちょっと待ってください。次は僕の番だ。教えてほしいな」
弟は静かな声で言った
「何?」
僕はわざとらしく振り返った
弟は、僕と兄の顔を順番に見つめるとしっかりした声で言った
「もう一つの手紙のことを」

「な、何のことだ?手紙はこれしか…」
「兄さん、先生に残されたあんな手紙って何?」
「べ、別に大したことじゃ…」
「ボストンのあの銀行にあった手紙のことだよね」
「いや…」
「違うの?」
「いや…あれは大した物じゃなかったって言っただろう」
「ならいいだろ、見せてよ」
「…」

弟は椅子に腰かけたままの兄をしっかりと見下ろしていた
「兄さん?」
「ギョンビン、いいか、後はこいつの仕事で僕らはもう関係ないんだ」
兄は僕を指さし、やや大きな声を上げた
「わかってる、僕らには関係ない。だけど、僕は個人的に知りたいんだ」
「ギョンビンっ!」
男がさらに大きな声を出して立ち上がった

「撃った相手にあんなに想われていたってどういうこと?」
弟は眼の前に立ち上がった兄にひるむ様子もない
弟の内から火が燃えさかり、兄の泉に飛び火しているようだ
突然降り注いだ炎に、泉の水はただうろたえている

「悪いがあれは機密事項だ。見せることはできない」
思わず僕は二人の間に言葉を投げた
弟の視線が僕に向かった

「今さらそんな言葉を聞くとは思いませんでしたよ」
弟の視線が一直線に僕を貫いた
「ボストンに行くのは僕でもよかった。たまたま兄さんが行っただけだ。
そして、僕たちにそれを依頼したのは、他でもないあなただ」
そりゃそうだがね…
だから頭のいい奴は嫌いなんだ
君のそういうところは長所でもあり同時に短所でもある
そしてそれが兄の頭痛の種だ…

「わかったよ」
僕は呟いて胸ポケットに手を突っ込んだ
「お前、まさかあれを持ち歩いてるのか?」
兄がすばやく動いて、僕の腕を抑え込んだ
「悪いな、僕は資料を持ち歩くタイプなんだ」
「そんなはずないだろっ!馬鹿野郎がっ!」
兄が僕の胸ぐらを掴んだ
僕はその手を掴み返した

「わかるだろう?僕らはドジった。落とし前はつけなきゃな」
「そんな必要あるかっ!」
「いい加減にわかれよ。お前には弟はいつまでも赤ん坊みたいなもんだろう。
だが弟はおむつは自分で取り換えられるって言ってるんだ」
「何言ってるっ!」
「あきらめろ。隠しておける事じゃなかったんだよ」
「だめだっ!」
「わからないか?ドジったんだよっ!」
兄の手がわずかに緩んだ隙をとらえ、僕は弟の方に紙切れを差し出した

そして弟がそれを手を触れたと同時に僕は兄から手を離し
弟の腕を掴んでその体を引き寄せた
「何にでも首を突っ込むのが愚かな事だってのは知ってるよな。
兄貴はどうしても君にそれを読ませたくない。僕も兄貴に賛成だ。
世の中には知らなくても済む事は山ほどあるってことも承知の上か?」
弟は無言で僕をしっかりと見据えた
「君がそれを読んでも何も変わらないし、変えることもできない。
覚えておけ、事実の前では人は無力だ。それでも読むというなら…どうぞ」
弟は、果たして僕の目を見据えたまま、僕の手の中の紙切れを抜き取った
やっぱりね…

弟は僕たちに背を向けて読み始めた
兄はその弟の背中を呆けたように見つめている
こいつは、あのラマンと、この弟の事になると、とたんに分別をなくす
やれやれ…
知ってるか?
僕はお前のそんなこと、案外嫌いじゃないんだけどね

まっ白い時間が流れた
時折、店の方から遠巻きに嬌声が聞こえてきて、
それがこの部屋の静寂を際立たせた
どれくらい時間が経ったのか
長いようでもあり、案外短かかったのかもしれない
いずれにせよ、時計を見る気分でもなかった
弟の肩が一瞬大きく揺れ
それからまた時間が流れた

最後に弟は天井を見上げて大きく息を吐き、
それから、僕らに向きなおった

「ありがとうございました」
弟は丁寧に紙切れを僕に返した
「気が済んだかい?」
弟は答えず、ただ唇を噛んだ
その顔色は蒼く、瞳にはうっすらと膜がかかったようだ
先ほどまで燃えていた火は勢いをなくし、
代わりにパリパリと氷の柱が立っていくのが見て取れた

「兄さん、悪かったね。大変だったろう…先生も…兄さんも…」
弟が小さな声を漏らした
「僕の事は気にするな。それより…」
「それより?」
弟は兄の方を振り返った
「あの人も、お前に見せたくはなかった。本当にそう言ってくれた」
「先生が…」
「ああ」

兄はゆっくりと腕を動かし弟の首を掴み、抱きよせた
僕は返された紙切れを折りたたみながらその様を見ていた
まいったね
苦手なんだよ、こういうの…

「誰のせいでもない…だた起きてしまったことだ、いいな?」
兄はそう言って弟を抱きしめた
弟は兄の肩に顔をうずめて小さく頷いた

「邪魔したね」
僕は二人に言葉をかけて踵を返した
これ以上いても、本当に邪魔なだけだ


部屋を出ると、店から聞こえるざわめきは一層大きくなった
くそっ!
歩きながら廊下の壁に拳を打ちつけ毒づいた
どうもこのヤマは思い通りにいかない
この僕のせいか
あの兄弟のせいか
それとも教授のせいか
くそっ!
気にいらない…
何もかも…

最後に建物の扉を思い切り蹴り上げて、外に出た


甘えられるのは… 1 ぴかろん

「くふっ」
「こら!」
「(@_@;)」
「うふーん、いらっしゃぁい」
「お前は指名してない。指名したらアイツが拗ねる」
「いいじゃんかぁ、ねぇじゅの君」
「あ…は…はい」
「きゃぁんじゅの君、かわいいっ」ぎゅ
「あうっ」
「くぉらっ!清純派のじゅの君にえりまきするな!」
「ねぇじゅのくぅぅん、座ってもい~い?」
「あ…はいどうぞ、ラブさん」
「あんがと(^-^)じゅの君、こんどカンアジ連れてきてよ」
「(^^;;)そ…そういうわけには…」
「見たぁい」
「いや…でも」
「俺、カンアジ、見たぁい」
「いや…あの…」
「見・た・い」
「ラブ!我儘言うんじゃない!」
「ぁあん、テジュンったら冷たいなぁ、俺達、あぁんなことした仲なのにぃ」

飲み物を運んでいくと、色気小僧がじゅの君とテジュンに纏わりついていた

「イナ、マッコリはやっぱりコイツでいかないと…」

立ち止まった俺に声をかけたのは、徳利を持ったソクだった

「ん?どうした?」
「…いや…さんきゅ…」

テジュンのいる席を見て、ソクはクスッと笑う

「あはん、ラブちゃん、荒れてるね」
「荒れてる?」
「ほら、『おもちゃ』がいないじゃん」
「…『おもちゃ』って…ギョンジンか?」
「他に女王様の『お気に入りのおもちゃ』は無いでしょ?ほい、これ、持ってって」

トレイにドンと置かれた徳利はかなりでかい

「それと、やっぱ、グラスじゃねぇ…。はい」

ソクはぐい飲みも何個か重ねて置いた

「おも…」
「落とすなよ」
「重いよ。手伝ってよ」
「僕じゃなくてテジュンに甘えれば?」

来てくれるはずないじゃないか!

「なあ…、テジュンはラブの『おもちゃ』じゃないのか?」

俺の問いに、ソクは目を丸くしてゆっくり首を横に振った

「少なくともお前よりずーっと大事にしてると思うけど。おーいテジュン~、お前のごさいじが困ってるぞぉ」

ソクは『真実』をグサリと突いた後、大声でテジュンを呼んだ
パッと振り向いたテジュンより素早く、じゅの君が俺に駆け寄ってきた

「申し訳ありません、お手数かけてしまって…」

すまなそうに頭を掻いているじゅの君を、ソクは愛おしげに眺めている
まるで息子を…、いや、息子というより『孫』を見つめる瞳だ
さしずめじゅの君は『できのいい自慢の孫』で、俺は『我儘で意固地でどうしようもない野良孫』なんだろう
ソク爺…、今度からそう呼んでやる…

じゅの君は徳利とぐい飲みを運び、俺は残りのドリンクを席まで持って行った

その間、ラブはテジュンの体に巻きついて思いっきり甘えていた
ムカつく!ギョンジンはどこに行ったんだ!

「どーじょ…ぞ!」
「ん?」
「どぉぞっ!」
「どーじょって言わなかった?やぁだぁイナさんったら可愛い子ぶっちゃってぇ」
「む」

テジュンの左隣に座ったラブを睨み付けていると、じゅの君が、あの、ここへどうぞとテジュンの右隣を指した

「いいよ。じゅの君は『正式に』テジュンに指名されたんだからさぁ」
「でも…」
「俺はここに座るから!」

どすんとラブの膝の上に座ってやった

「いやぁん重いぃぃ」
「てめぇよりずっと軽いよ!」
「いやぁぁんテジュン~、イナさんが苛めるよぉ」
「イナ、大人げないぞ」
「俺はごさいじらもん!」
「イナさんのヤキモチやき!」
「お前の方がずっとヤキモチやきじゃねぇか!俺達の邪魔すんな!」
「ヤキモチやくんなら、ちゃんとテジュンの事見てろよ!」

ラブが真面目な顔で鋭く吐いた
俺は何も言い返せなかった
言葉は溢れるくらい用意できてたのに

お前こそギョンジンといちゃつけばいいだろう?
もっとギョンジンを大切にしろよ!
何様のつもりだ!なんでテジュンに纏わりつくんだ!

アンタこそテジュンさんといちゃつけばいいでしょ?
もっとテジュンさんを大切にしなさいよ!
何様のつもりよ!なんでヨンナムさんに纏わりつくのよ!

チョンエの声が頭の中で響いている
そうだ
ヤキモチやくぐらいなら
テジュンから離れなきゃいい

「どいてよぉ重~い」
「イナ、なんでラブの膝に座るんだよ」

ぼうっとしていた俺に、テジュンが微笑みながら声をかける
俺に、優しくしてくれるテジュンは、俺の、望み通りなのに…

「…だってコイツ…」

ラブがなんだっていうんだ?
問題なのはラブじゃなくて俺自身だろう?

「どうして僕の膝に来ないんだ。ん?」

テジュンが甘く囁き、同時にラブの体が強張った
…そうさ…テジュンはお前じゃなくて俺が好きなんだもの…だから…

「ん?今からでも遅くないぞ」
「…そ…そうらな…」

その優しさを半信半疑で受け止めながら、俺はラブの膝からテジュンの膝に移った

「ああん!もう!テジュンはバカだ!大バカだ!」

ラブの本気の罵声
居心地の悪い膝
それでも俺はテジュンに体を凭せ掛けた

「…絶対ばかなんだから!テジュンのばか…」
「んふふ…」

ラブの言葉を笑って受け止めている
ほんとに…ばかだ…テジュン…

ふいに涙が込み上げそうになり、テジュンの方に向き直ってその体にしがみついた
失いたくない人
一生をともに過ごしたい人
その気持ちは変わっていない
ただあの人が…どうしてもあの人が…

「えっと…あの…ラブさんもマッコリ、いかがですか?」
「ちょうだいっ!」
「はい…どうぞ…」トクトクトク
「いただきます!」クビグビッ「んまいっ!もう一杯ちょうだいっ!」
「はいっ」トクトクトク

ギョンジンはどこへ行ったんだろう…どうしてラブは一人でここに来たんだろう…


「お前、今夜はどうするの?」

しがみついている俺に、テジュンが囁く

「こんや?」
「うん。スヨンさんとチョンエさんは、昨日から予約してるホテルに行くだろ?先輩は飲んじゃったから多分ヨンナムんちに泊まると思う。で、僕達はどうする?別々に帰る?」
「ひとりはやだ」
「お?じゃ…ぐふふコースかそれとも宴会コースか…」
「ヨンナムさんちにもRRHにも帰りたくない」

だから…飲みにいきたい…俺は甘える

「わかった…」

目を閉じて小さな声で俺に呟いたテジュンを、俺は大好きで…

「俺も行くぅ」
「は?!」
「お・れ・も・行くぅん」
「な…にが?どこに行くの?」
「飲みに行くぅ」
「はあ?!なんでお前がぁっ!」
「いきたぁい、テジュン、テジュンああん、いかせてぇぇ」
「へっ変な声だすなっ!変な動き方するなっ!変なコト言うなっ!」
「ふんだ!…ねぇテジュン、いいでしょぉ?」
「おまいはぎょんじんとつがってればいいじゃないかっ!大体ギョンジンどこ行ったんだよ!」
「しらないもん!」

ラブがぷっと膨れた

















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