ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 311 シャッフル6

シャッフル6 ぴかろん

百数えてニヤつきながら居間に戻ると妙に騒がしい
ソクとテジュンは黙々と布団を敷いている(この二人、まったく、なんだかなぁ…)
部屋の片隅にかたまった残りの奴等は僕が俺がと口々に自己主張をしている
ホンピョだけは口を閉じたまま、皆の顔をきょろきょろと見ている
俺はテジュンのところに行って、あっちのみんな何揉めてんの?と訊ねた

「寝る準備」
「へ?」
「イナ!お前も手伝え!」

ちょっとテジュンと喋るとすぐにソクが口を挟んでくる
ええい!うるせージジイだ!
俺は布団を敷くのを手伝いながら、あのカタマリは何を言い争っているのかともう一度訊ねた

「どこに誰がどう並んで寝るかって…」
「え?そうなの?てじゅは俺と寝るんだよね」

今夜こそはせめて隣で…

「テジュンの今宵のパートナーは僕だ」

またソクが口を出す
俺はジジーを無視してテジュンの顔を覗きこむ

「…てじゅ、俺と一緒に寝るよね?なんならてじゅの部屋で2人っきりで…ぐふっ」
「だめだよイナ。ラブが可哀想だもん。だから僕、昨日みたいにソクの隣で寝る」
「じゃ、せめてもう片方の隣に俺を寝かせてくれよ。なっ?」
「そんな事させられるか!お前は危険だ」

ソクが俺を遮る
そんなに頑なに俺を拒まなくても…

「なぁテジュン、イナは危険人物だろ?」
「うん」
「てっ…てじゅ」

テジュンとソクはニコッと微笑みあい、着々と布団を敷いている。…てじゅのぶぁが…ソクの大ぶぁが!
唇を尖がらせて突っ立っていると、騒がしいカタマリの一部が俺の周りを取り囲んだ

「イナさん、僕ですよね?」
「俺だよね?イナさん!」
「何でだよ!ラブは俺と」
「やだ!今日はイナさんがいい!」
「じゃ、ラブさんは左で僕は右」
「やだ!俺、右のがいい!」
「どっちだっていいじゃないですか!」
「だめ。得手不得手があるでしょ?俺、右」
「僕だって右の方が落ち着く」
「俺、ラブの右にくっつく」
「だめ。俺の右はテジュン」
「そんなのだめだよ!イナさん何とか言ってやってよ!」
「…えと…何を?」
「テジュンさんの隣、ラブに取られてもいいの?」

話についていけずにいると、でしゃばりソクが首を突っ込んできた

「ラブ君、テジュンは僕とヨンナムさんが挟むから」
「え?ちょっと待ってよソクさん。何で僕がテジュンの隣に…」
「いいじゃないですか、ミルキーはミルキーでかたまるようにできてるんです。ヨンナムさんは壁際の布団です」
「やだよそんなの!ソクさんが壁際に行けばいいじゃん!」
「そうだよ、ソクさんは壁際に行けばいい!んでヨンナムさんでテジュンで俺でイナさん」
「やだ!テジュンさんとラブの間に俺が入る」
「だめ。スヒョクがそんなとこに入ったら、テジュンとソクさんを間違えて抱きついたりするもん!」
「俺はラブに抱きつくもん」
「だめ!重い」
「酷い!ラブのがデブなのにっ!」
「ぶー」
「僕、ヨンナムとソクの間でいい」
「テジュン、いい子だ」
「えー!僕やだよぉ、何でテジュンの横になんなきゃいけないのさぁ」
「ヨンナムさん、小さい頃はテジュンと一緒の布団で寝てたんでしょ?」
「だったらソクさん壁際になれよ!僕の片側はBH顔の子に来てもらう。ホンピョ、僕の隣でいいだろ?」
「え?あ…」
「だめだよ、ヨンナムさんは壁際!僕がBH顔の隣」
「…じゃ、俺、ソクさんとラブの間?」
「スヒョク、それはダメだよ」
「…そう…だよね…」
「じゃ、俺がイナさんとソクさんの間。ぜーったいにソクさんとテジュンとを間違えたりしないし」
「ラブ君、僕を乗り越えてテジュンに手出しするつもりじゃないだろうな」
「それは…ふへへん…場合によっては」
「もしそういう事をしたら容赦なく叩きのめす!いいね」
「…こわ~い…」
「待ってよ、じゃあ俺どこに行けばいいのさ…」
「スヒョクはドンヒの隣に行けば?」
「僕の隣にはホンピョが」
「え?俺?」
「だってどうせ背中トントンしなきゃなんないんだろ?!」
「え…あ…」
「じゃあ俺って仲間はずれじゃん!一人ぼっちじゃん!」
「スヒョク、一人じゃないだろ?ホンピョがいるじゃない」
「だってホンピョはドンヒに背中トントンしてもら…」
「いいよ、俺、端っこで…」
「何だ?背中トントンしなくていいのか?」
「ああ」
「…ふぅん…」
「あの…」
「何ですかイナさん」
「寝る時の並び順決めてるんだよね?」
「「「「「「はい」うん」」」」」
「ひょっとして俺の争奪戦?」
「「はい!」」
「イナの争奪戦展開してるのはラブとドンヒだ。イナ、安心しろ。テジュンは僕とヨンナムさんが守る」
「守るって…」
「だからイナさん、俺の隣で寝てよね」
「僕の隣でもあります」
「ドンヒ、お前左ね」
「…仕方ない。右は譲ります。ホンピョ、僕の左に寝ろ」
「いいってば、俺は一人で…」
「俺、どこで寝ればいいのさ!」
「スヒョクは端っこ」
「やだ!寂しい」
「スヒョクさん、俺が端に行くからさ」
「ホンピョ、お前、また夜中に僕の布団に潜りこむつもりなんだろ?なら最初から僕の隣にいろよ。皆に迷惑かけるじゃないか」
「…大丈夫だ。端から動かないから」
「…本当に?」
「ああ」
「…勝手にしろ。スヒョクさん、ホンピョの見張りお願いします!」
「やだ!つまんない!ラブの横がいい!」
「昨日寝たじゃん!スヒョク寝相悪いから今日はゆっくり寝たいもん俺」
「ラブのバカ!」
「バカじゃないもん!」
「ソク…僕、眠い」
「ああテジュン、そうだよね、お前明日も早いんだもんね。おいコラガキども!テジュンが眠たがってる!布団は敷けたからさっさと寝ろ!」

ソクはジジーの威厳を振りかざし、有無を言わさず皆の寝る場所を決定した
窓際にヨンナムさん、次にテジュン、次にソク
その隣にラブ、それから俺、そしてドンヒ
ドンヒの横にスヒョク、その隣、戸口側の壁際にホンピョ
各自割り当てられた場所に滑り込み、灯りを消して静かにした

俺の首にはラブとドンヒの腕が巻きついている
かなり苦しい
どっちでもいいから早く眠っちまえ!このぶっとい腕をどかして安眠したい

暫くすると二つ三つ寝息が聞こえてきた
それと同時にヒソヒソと話す声も聞こえてきた

ソクは不気味にうふ、うふふと笑っている。絶対おかしいぜ、ジジー!

…くすんくすん…
…スヒョクさん、泣くなよ
…だってラブったら冷たいんだもん…
…あの人はああいう人なんだからさぁ
…くすん。じゃ、お前でいいや
…え?!あぐっ
…くすんくすん…
…ずびょぐざん、ぐるじい…

「スヒョク「ホンピョ」ったら…」

俺の両隣が同時に呟き同時に黙った

「何?」
「スヒョク「ホンピョ」…」

また同時に呟いて黙り、それから同時に俺の体をぎゅうと抱き締める

「げ!ぢょっど!」
「だってドンヒったら生意気」
「ラブさんこそ僕がイナさんに話そうとしてるのに邪魔して!」

ますますぐいぐい俺を抱き締める2人
俺は2人の腹のあたりを必死でポンポン叩いて合図を送った。でも…
2人は逆に力を込めて俺の首根っこに取り縋っている。苦しい…
あまりに苦しかったので、つい、力を込めて2人のボディにグーでパンチを入れてしまった
2人の力がすこぉし緩んだ

「イナさん、酷ぉい」
「そうですよ、何で突然殴るんですか!」
「お前らがぐいぐい締め付けるから…」
「じゃあ口で言えばいいじゃない!」
「そうですよ!暴力反対」
「喋れなかったんだもん…」
「僕そんなに締めてませんよ」
「俺だって」
「…両側から締められてみろ!めちゃくちゃ苦しいんだぞ」

そしてめちゃくちゃうっとおしい!

「…ドンヒ、少しは遠慮しろよ」
「ラブさんこそ」
「先輩に向かってなんだよ!」
「先輩なら後輩を優しく見守るべきでしょ?!」

「ええいうるさい!」

ソクが起き上がって2人の頭にゲンコをくれた

「「てっ」」
「静かにしろ!」
「「…ごめんなさい…」」
「イナ!監督不行き届きだ」
「え?え?俺が悪いの?」
「三人の中で一番年上だろうが!五歳児だけど」
「…」
「とにかく騒ぐな!」
「「「あい」」」

ジジーは闇の中でギロリと俺達を睨み、布団に潜った

「…俺の首を締めるんじゃない!いいな?」
「「あい」」
「んで?さっき何か言いかけたろ?」
「「え?」」
「スヒョクとホンピョがどうのって」
「「ああ、それは…」」
「何なの?」
「…いや、意外と合うんじゃないかなって…」
「そーそー。がっつりくっついてるみたいだし」
「そうだよね、ラブさん」
「ね、ドンヒ」

この2人のが合うんじゃないの?やっぱこいつら似たとこあるわ、絶対

「とにかく…寝よう」
「「は~い」」

俺達は目を閉じた
ホンピョはちゃんと眠れてるだろうか…スヒョクは泣き止んだろうか…
てじゅは…スヤスヤ寝てるみたいだし…

明日はどれぐらいパンを焼くんだろう
また今日みたいに昼まででアガリだったらどうしよう

あれこれ考えていたらラブが囁き声で話しかけてきた

「イナさん、明日、ミンチョルさんのお見舞い、一緒に行かない?」

見舞いか…いいかもしれない

「ん。パンが昼で終わったら行く」
「終わらせてよ。一緒に行きたい」
「多分、明日もカフェ中心だから大丈夫だと思うけど」
「やった!」
「一人じゃ心細いのか?」
「…別に心細くはないけど…ミンチョルさんも入院してるし、イナさん気になってるんじゃないかと思ってさ」
「まあな…」

「イナさん」

こそこそ話が聞こえたのかドンヒが俺を呼んだ

「ん?」
「僕、明日もチェミさんのお店行ってもいいですか?」
「…いいんじゃない?お前、ウエイター似合ってたし」
「よかった。おやすみなさい」
「…おやすみ」

聞こえてたわけじゃないのかな…
俺はドンヒの頭を軽く叩き、ラブの顔を見た
ラブはうふっと笑い目を閉じた
ようやく安眠できそうだ
俺も深呼吸して目を閉じた




見舞いの品を抱かえた俺はラブとともに、あのおっちゃんのタクシーでミンチョルの入院先に到着した

チェミさんのパン屋さんは今日も『カフェ・フェアー』で、朝、工房に顔を出すといきなり、今日はいらないと言われた
ドンヒとラブと俺がえ~っと声を上げると、カフェのテーブルの準備をしていたmayoッシが、あ、ドンヒ必要、と言った
チェミさんは、そういうことだ、と言ったっきりテソンとメニューの相談を始め、俺達はほったらかしにされた
ドンヒは必要ってどういうこと?と三人でヒソヒソ話していると、二階からドドドーッとテス君が降りてきた
チェミぃぃ~と寝癖頭で叫びながらドアを開けたテス君をとっ捕まえて問い質すと、
あ、そうそう、昨日、カフェは大はやりだったけどパン売れなかったから、今日は売り物のパンは焼かないって…とニコニコしながら言った
…なら連絡してくれりゃよかったのに…

「すまんな、決定したのがついさっきだ」

チェミさんは俺達に背中を向けたまま低い声で言った

「テス、ドンヒが必要ってのは?」
「昨日ドンヒ君の働きがとってもよかったのね。だから今日、ドンヒ君が来たらまたウエイターお願いしようって」
「え…僕?」
「うん。お願いしてもいい?」
「あ…はい…僕、暇ですから…」
「やった!mayoッシ、ドンヒ拉致」
「あいよっ、ドンヒ、お願いね」
「あ…はい…」

てなわけでドンヒは昨日に引き続き、カフェのウエイターをやることになり、ラブと俺は早々に追い出された…

昼からミンチョルの見舞いに行く予定だったので、差し入れでも探そうと街をぶらついた
美味しそうな菓子を見つけたが、どうせ持っていくなら『casaのスウィーツ』だよな、ということで、だけどcasaのスウィーツは本日は無理だから必然的に菓子はナシとなった
ま、持ってってもミンチョルの口に入るかどうかわかんないし…体調的にもギョンビン的にも…
ここはオーソドックスに花か何か持ってくか…と花屋でアレンジフラワーを選んだ
時間を持て余した俺達は、とりあえずRRHに行くことにした
俺は俺の部屋で、ラブはギョンジンの部屋で着替えた
示し合わせたように2人ともジャケットにチノパン姿で部屋から出てきた
俺はいいけど、ラブ、らしくねぇな、と言うとラブは、イナさんこそジャケットなんて普段着ないじゃん、いつものパーカーにすれば?と唇を尖がらせて反抗した

…ラブはいつものテレンテレンシャツのがいいんじゃねぇの?
…だぁって、キチンとしないとチンピラに見られちゃう…
…キチンとしててもチンピラだけどぉ?
…酷い!イナさんだってチンピラじゃんか!

ちょいと言い争った後、キッチンでコーヒーを淹れ、窓際のカウンターで景色を眺めながら少しの間くつろいだ
早めに昼飯を食べて病院に向かうことになり、カップを片付けて出かけようとしたその時、ソファの片隅にいるミソチョルを発見した
ミソチョルは、イナしゃん、お久しぶりでしゅ、ミソを覚えてましゅか?ふん!ミソはずっとここにいたのにちっとも気ぢゅいてくれましぇんでしたね、ふん!きちゅねもつり目もエロミンもイナしゃんもみんなミソのことを忘れていましゅ、ふん!とウジウジグチグチ俺を詰った
するとラブが、あ~、ミソチョル、俺の事忘れてンだぁ~酷ぉい…とミソチョルを責めた

「あう、ラブしゃんだってミソに気づかなかったでしゅ、酷いのはラブしゃんとイナしゃんでしゅっ、ふん!」

さすがはミンチョルのぬいぐるみだけあって負けず嫌いで気が強い
ごめんごめん、忘れてたわけじゃないよ、と言ってぎゅうっと抱き締めてやると、ミソチョルは簡単に機嫌を治した
ラブと俺は微笑みあってミソチョルを抱いたままエレベーターに乗った
どこへ行くでしゅか?と尋ねるミソチョルに、いいところ…とだけ告げ、外に出た

近くの喫茶店で適当に飯を食ってから玉水洞の駅まで歩いた
ミソチョルを抱いた俺を訝しげに見る人もいたが、隣を歩くラブがアレンジフラワーをぶら下げていたので
俺の胸にいるミソチョルは必然的に見舞いの品だと認識されたようだ

おっちゃんのタクシーを探したがいない。ラブはおっちゃんに電話し、玉水洞の駅で待ってるから二時に間に合うように病院に連れてってと頼んだ
まもなくおっちゃんのタクシーがやってきた。おっちゃんは、待たせちゃってごめんね~と言ってから、ミソチョルを見て、お見舞いにぬいぐるみかい?と不思議そうな顔をした

それから車に俺達を乗せて出発した
ラブは助手席に、俺とミソチョルは後部座席に座った
イナちゃんも一緒だと安心だね、ラブちゃん、今日は会えるね、とニコニコ話すおっちゃん
ラブも笑顔でおっちゃんに話しかけている
俺は小声でミソチョルに行き先を告げ、ミンチョルの状況を説明した
ミソチョルはおっちゃんに聞こえないように、ミソは見舞いぎちゅねで見舞いの品物じゃありましぇんからっ!と毒づきプリプリ怒っていた
こいつ今日は怒りっぽいぞ…

そうこうしているうちに病院前に到着してしまったというわけだ…

「まだちょっと早いね。喫茶店でお茶でもどう?」
「そだね。そういやおっちゃん、お昼まだだろ?奢るよ、俺」
「いやぁいいよイナちゃん」
「何で?昨日もラブが世話かけたもん。お礼に奢らせてよ」
「え~でもぉ…イナちゃんに奢らせるなんて…。普通ラブちゃんが奢るんじゃぁ…」

おっちゃんは悪戯っぽく呟いたがラブは爪を噛みながら病院を眺めていて気づかない
俺達は喫茶店に入りおっちゃんに飯を奢って、四時過ぎに迎えを頼んでおいた

「ところでイナちゃん、そのぬいぐるみ、お見舞いなの?」
「あ、これ?ミソチョルってんだ。きつね…じゃない、ミンチョルのぬいぐるみなんだよ」
「ミンチョルさんの?!」
「うん。あいつのお気に入り」
「ふええ…ミンチョルさんがぬいぐるみを…想像できないなぁ」
「あいつに似てるだろ?この前髪とかさ」
「あ…本とだ」
「ミソチョル、挨拶しろ」
「…挨拶?」
「ああ、おっちゃん、内緒だけどさ、こいつ…喋るんだ」
「…。あ…あは。イナちゃん冗談がうまい…」
「…信じてないな。おい、ミソチョル、おっちゃんに挨拶しろ」
『…』
「あれ?おい、ミソチョル」
『…』
「寝てるのかな…」
「…イナちゃん…」
「おっちゃん、本とにコイツ喋るんだよ」
「あーうん…今なんとなくコンニチワって言ったような気がするよアハハあは…」

おっちゃんは気の毒そうな顔をして俺から目を逸らした
ちくしょう、ミソチョルのヤツ、お喋りのくせに、!裏切り者め!

ラブはずっと黙ったままソワソワしている
何度もトイレに行き、落ち着かない様子だ
ラブが何回目かのトイレに立った時、おっちゃんは俺に囁いた

「イナちゃん、そろそろ病院に行ってもいいんじゃない?ラブちゃん見てられないよ」
『しょうれすよ、ミソも早くミンチョルしゃんに会いたいれしゅ』
「…。イナちゃん…腹話術…上手いねアハハあは…」
「俺じゃないよ。ミソチョルが喋ったんだ。ミソチョル、おっちゃんに挨拶しろよ」
『…』
「あ…こいつ!」

黙り込んだミソチョルは普通のぬいぐるみにしか見えない
おっちゃんは完全に俺をおかしい奴だと思ったようだ

「おいっ!ミソチョル!俺、おっちゃんに誤解されてるじゃないか!何とかしろよ、な?挨拶してくれよ」
『…』
「何で喋らないんだよ!」
『おしょとでは黙ってないと』
「このおっちゃんは信用していい。俺達の味方だ」
『本とれしゅか?』
「本とだ」
『解りまちた』
「おっちゃん、ミソチョルが挨拶するって」

俺はおっちゃんにミソチョルを差し出した。おっちゃんは俺とミソチョルを交互に見て、ミソチョルを手に取った

『こんにちは、ミソチョルでしゅ。驚いちゃだめでしゅよ。いちゅも「こいちゅら」がお世話になってましゅ。ペコリ』
「は…」
「しいっ。騒がないでよ」
「は…しゃ…しゃ…」
「ね?本とだろ?」

おっちゃんは素早く何度も頷いて、ミソチョルをまじまじと見つめた

『おっちゃん、優しそうでしゅね。今後とも「こいちゅら」をよろしくお願いしましゅでしゅ。ペコリ』
「…か…可愛い…」
『でへっ。いちゅも言われましゅ、けひっ』

喜ぶミソチョルと、驚きながらも楽しそうなおっちゃん
おっちゃんは、暫しミソチョルと景気の先行きなどを話し(ミソチョルはきつねのぬいぐるみだけあって世情に詳しい…俺よりも…)ていた
話が終わらないうちにソワソワしたラブが帰ってきた

「はぁ」
「ラブちゃんお帰り」
「ね、今何時?」
「まだ1時20分」
「ね、まだ行っちゃダメ?」
「面会時間って2時からだろ?早くない?」
「でもさ手続きとかさ、色々あるんじゃない?面会票に何か書き込むとかさ」
「あー」
「そういうの、先に書き込んでおくべきじゃない?としたらもう行ったほうがよくない?」

目を泳がせながら訴えるラブを見て、おっちゃんが俺に目配せする

「あーそうだなぁ…じゃあぼちぼち行くか?」
「うん!じゃ、おっちゃん、四時過ぎにお迎えお願いねっ!これ、代金。行こう、イナさん!」
「代金は俺が…あ…ラブ…、行っちゃったよ…」
「早く行って。ほら、ミソチョルちゃん連れてってあげなきゃ」
「うん。じゃ、また後でよろしくお願いします」
「あいよ。ミソチョルちゃん、バイバイ」
『おっちゃんばいばい』

結果的にラブがおっちゃんに飯を奢ったことになる。というか俺の分まで払ってるんだ…
俺はラブに追いつき、昼飯代払うから…と言ったが、奴は上の空でどんどん先に行く
ねえ、聞こえてる?もしもし?ラブ?としつこく話しかけたが、ラブは一言も答えず、病院の正面玄関から中に入って行った
真っ直ぐ受付のカウンターに行き、そこにいるお姉さんにいつもより高くて細い声で話しかけた

「こんにちは…昨日はどうも。あのう…イ・ミンチョルさんに面会したいんですけど」
「…あら、いらしたのね?随分お早いですね」
「あ…手続きとか時間かかるかなと思って」

受付のお姉さんはニコリと笑って書類を渡してくれた
ラブはロビーのソファに座り込み、唸りながら書類の空欄を埋めている

「何唸ってるんだ?」
「字、丁寧に書かなきゃ。それに誤字脱字のないように…うーん…」
「お前…そんなもん適当に書き込みゃいい…」
「だめ!チンピラだと思われたくない!」
「…取り繕ってどーすんだよ」
「取り繕ってなんかいない。本来の俺…僕に戻るだけですから」
「…。ラブ?」

ラブは緊張しながら一文字一文字丁寧に空欄を埋めていった
はぁ~、確かにこりゃ時間かかるわ…
ミソチョルと俺はラブの様子を見ながら、可愛いよな~とくすくす笑っていた

用紙を記入し終えるとラブは受付まで行き、お姉さんにそれを渡した
俺はミソチョルを抱かえてラブの後についた

「面会時間は2時からですのでもう少々お待ちください」
「…はい…」

ラブはあきらかにがっかりした様子で、カウンターを離れようとした

「あ、ちょっとここが抜けてます」

受付のお姉さんがラブを呼び止めた

「え…確かめたつもりだったのに…」
「…ということにしておいて…、貴方の身元も解ってますので静かに病室まで行ってください」
「へ?」
「しっ!静かに。騒がずに病室まで行ってください」
「え…」
「時間外ですが特別に」
「…。えっと…」
「面会に行ってもいいですよ」
「え?!本とに?」
「しいっ!静かにしてください。内緒ですよ。それから今後はきちんと時間を守ってくださいね」
「…あ…ありがと…ありがとございますっ」

ラブは小刻みに震えながらお姉さんに礼を言い、満面の笑みを浮かべてエレベーターに向かった

…俺がいること忘れてない?
…ラブしゃんは自分の事で精一杯のキュウキュウでしゅね、ふん!
…お前、今日、怒りっぽくない?
…ミソはキビシい子ぎちゅねでしゅ、ふん!

エレベーターの前でソワソワしながら階数表示を見つめているラブの肩を掴み、お前、テンパりすぎ!と言ってやった
それには答えず、咳払いしたり唾を飲み込んだりあちこちをきょろきょろ見回したり…ラブは挙動不審だった

…よっぽどエロミンに会いたいんでしゅね?ミソだってミンチョルしゃんに会いたい気持ちは負けましぇんっ、ふん!

「あああ…イナさんどうしよう…俺、変じゃない?」
「…思いっきり変」
「髪の毛ちゃんとなってる?」
「…」
「ね、顔に何かついてない?」
「…目と鼻と口」
「眉毛は?」
「…ある」
「よかったぁ…あああ、どうしよう、エレベーター来ちゃった。乗らなきゃ」
『ラブしゃん、ヘンテコリンでしゅ、ふん!』
「…ミソチョル、こんなラブ見るの初めてだ。めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか、怒るなよ」
『ミソのが可愛いでしゅ、ふん!イナしゃんの裏切り者!』
「裏切り者ってお前…」

俺達はエレベーターに乗ってミンチョルのいる階に上がった
箱から降りるとラブはギクシャクという音が聞こえそうなくらい緊張しながら歩いた

『ミミソはかか可愛いでしゅか?』
「え?」
『かか可愛いでしゅかと聞いている』
「え?あ、ああ…可愛いけど」
『髪の毛ちゃんとなってましゅか?』
「髪の毛?」
『チャームポイントの前髪でしゅ!キチンと流れてましゅかっ?』
「あ…ああ…」
「イイナさん、俺、色っぽい?」
「え?あ…ああまぁ…」
「ね…シャツのボタン開けたほうがいい?」
「え?…好きにしろよ」
『イイナしゃん、携帯ちゃんと持ってましゅか?』
「え?ポケットに入ってるけど?」
『違いましゅ!ミソの携帯でしゅ!ちゃんと耳にあててましゅか?』
「…あたってるけど…」

ラブだけでなくミソチョルも異常に緊張しているようだ
俺達はミンチョルの入院している『特別室』の前に来た

「へ。特別室だって。流石は元御曹司ってか…。まさか部屋中に赤いバラが飾ってあるんじゃねぇだろうな」
「やだっ!」
「何?赤いバラはイヤか?」
「やだっどうしよう。出る」
「は?な…何が?!」
「心臓が口から出るっ!」
『ミソもでしゅっ』
「ミソチョルは心臓無いだろうが」
「やだっ!」
「…何」
「足が、足が動かないっ」
『ミソもでしゅっ!』
「ミソチョルは俺がダッコしてやってるじゃん」
「やだぁぁ」
「何だよ!」
「前が見えない」
『ミソもでしゅっ』
「…涙で前が見えないとでも?!」
「ラブ、入ります!」
『あいりましゅ!』

ガチガチに緊張したラブがドアの取っ手に手をかけた

「…。あ…やだ…開かない…開かない、イナさん!鍵かかってるぅいやぁん」

ラブはドアをぐいぐい押し、パニクっている
明らかに『引き戸』なのに…
俺は黙ってドアをスライドさせた


ベッドには上体を起こしたミンチョルが、ベッドの横には穏やかな顔をしたギョンビンがいた

『ミンチョルしゃんっ!』

ミンチョルはドアのところにいる俺達をゆっくり見た

「…小児科は三階だが…」

そう言ってから左眉をピクりと上げた

「こんの野郎、元気そうじゃねぇか」
「イナさん、ラブ君…わぁ、ミソチョルも…。ねえ、ミソチョルも来てくれたよ」
「RRHに帰ったらリビングで拗ねてたからつれて来た。こいつがいないと眠れないんだろ?」
「…馬鹿を言え」
『あうあう、ミンチョルしゃんっ』

ミンチョルは優しく微笑んでミソチョルを自分の横に置いた

「ああの…」

カチンコチンのラブが目玉をギョロギョロさせながら言葉を発した
手に持った見舞いの花をギョンビンに渡した後、病室を見回している
特別室とは言っても応接セットがある程度で、別段豪華なわけではない

「おお…お体のお具合は…」

ラブがきょときょとしながらミンチョルに聞いた

「お体のお具合か?僕は全然平気なんだが、医者がまだ安静にしていろと言う」
「いい…痛みとかは?」
「徐々に痛まなくなってきた。店はどう?うまく回ってる?」
「えっと…多分…あ、はい…えっと…」
「なんとか回ってる。心配すんな」
「イヌ先生は大丈夫か?」
「ウシクががっちりサポートしてる」
「そうだな、ウシクがいれば安心だ」
「ギョンビン、お前の怪我は?」
「僕は若いから平気です」
「端正な顔に傷ができちゃったな」
「すぐに元通りになりますよ、若いから」
「ミン。僕が若くないとでも言いたいのか?」
「だって僕、貴方より若いもの」
「フン」
『あうあう、相変わらじゅ強気の言い合いでしゅ、懐かしいでしゅあう~』

ギョンビンもミンチョルも思ったより元気そうで安心した
ガチガチのラブが目だけ動かして固まっている
そういえばギョンジンはどこだ?と聞くとギョンビンが答えた

「ちょっと外出するって昼前に出てったんですけど…今日ラブ君が来るって知ってるからもう戻ると思います」
「えええ…お、俺が来るって知ってたの?」
「うん、受付の人が教えてくれたみたい」
「あう…しまった、彼女さっきも親切にしてくれたのに俺ったら…」
「帰りがけに礼言っとけよ」
「うん、お礼のキス、しちゃお」
「出入り禁止になるぞ、チンピラ」
「冗談だよ、俺、チンピラじゃないし」

今ここにギョンジンが居ないと解ったからなのか、緊張を解いたラブは軽口を叩いてヘラヘラしだした

「しっかし兄さんどこに行ったのかなぁ」
「ん?わかんねぇの?奴の行き先」
「うん。そのうち帰ってくると思うよ」
「電話してみたら?」
「兄さんの携帯ぶっ壊れたんだ。あの人、何も言ってなかった?」
「…知らない…」
「昨日、兄さんに僕の電話貸したんだけど…ラブ君に電話なかった?」
「え…あ…それでギョンビンからの着信だったのか…。なんでかなぁって思ってたんだ…かけ直したけど繋がらなかったから…」
「なんで最初連絡した時に電話が壊れたって言わないかなあ。ボケてるよね、あの人」
「ミン、お兄さんをそんな風に言うもんじゃない」
「ホントのことだよ。貴方あの人の事、よくわかってないでしょ?!」
「…そんな風にきつく言うもんじゃない…」
「あーはいはい!…ごめんねラブ君、兄さん、肝心な事、抜けちゃうんだ」
「あ、いや、大丈夫…」
『ミンチョルしゃん、しばらくここでおねんねでしゅか?』
「僕は今すぐにでも退院したいぐらいだ」
「またそんな事言って。今すぐ退院しても世話するのは僕なんだから!もう少し動けるようになってからにしてよね」
「仕事が気になる」
「だからキチャンさんが明日仕事持ってくるって電話で言ってたじゃない」
「おいおいミンチョル、入院中ぐらいしっかり休めよ」
「休んでられない」
「おめー、ほんとに仕事中毒だな」
「ところでチェミさんのパン屋はどうだ?」
「昨日から明日までテソンのカフェ中心で営業するんだって。今日と明日と俺、多分休みだと思う」
「テソンのカフェ…」
「俺、まだ食べたことないけど、なんか美味しそうな軽食メニューがいっぱいあった」
「…」
「チェミさんのスウィーツもテスのパウンドケーキもめちゃくちゃ美味しそうだったぞ」

ごくり

「見舞いに来るのにお菓子でもと思ったんだけど、持ってくるならチェミさんのスウィーツがいいだろ?」
「もちろんだ!」
「今度持ってきてやる」
「是非頼む。チェミさんのスウィーツにテス君のパウンドケーキ…」
「俺のパンも持ってきてやる」
「イナのパン?…ああ、別に、もらってもいいが…」

…。むかつくきつねだ…

「イナ、お前、明日休みだと言ったな」
「うん」
「明日はどうだ?チェミさんのスウィーツ…」
「貴方ね、明日って何言ってるの?」
「明日もカフェ・フェアだからちょっと頼み辛い」
「まだ食事は五分粥なんだよ!」
「明日になれば普通食だ」
「ミンチョルよ、明日は無理だってば」
「じゃあ、いつ持ってきてくれるんだ?」
「いつって…うーんと…」
「イナさんを困らせちゃダメだよ」
「ミンも食べてみたいだろう?チェミさんのスウィーツなんだぞ」
「急がなくても退院してからカフェに行ってゆっくり食べればいいじゃない」
「いやだ!」
「貴方ねぇ」
「退屈だ!」
「ギョンビン、大変だな…このわがままぎつね…」
「ええ。慣れてるとはいえ…」
「僕のどこがわがままなんだ!」
「「全部」」
「…」

ミンチョルは唇を尖らせ、ミソチョルをぎゅっと抱きしめた
拗ねた様子が可愛かったのか、ギョンビンは口の端を少し上げて微笑んだ
しかしギョンジンはどこへ行ったのだろう…

*****

「あらら~、こっちじゃないな。えーっと、こっちだ…ふむふむ」
「だから大きい通りを走れと行ったのに!」
「裏道を抜けたほうが一般的に早く着く」
「お前、『一般的』を語れるほど、この町の地理がわかってるのか?僕でさえこの辺りはちゃんと把握してないのに!」
「ナビがある。目的地には着く。安心しろ」
「あとどれぐらいかかる」
「ナビによると…30分かな?」
「…2時半過ぎになるか…まぁいい…」
「入院してるわけじゃないんだから何時になろうが構わないだろう?」
「…。用事があるんだ!急げ」
「急いで事故るのとゆっくり走って無事に着くのとどっちがいい?」
「急いで無事に着け!バカ!」
「せっかちな奴だ。もっと余裕を持て」
「ああもう!お前と関わるとろくな事がない!」
「なんだよ、最新式の携帯電話を買ってやったんだぞ」
「お前のせいで僕の携帯が壊れたんだから当然お前が補填すべきだろうが!」
「僕のせい?勝手に怒って電話ぶん投げたくせにさ。言っとくけどこれは補填じゃない。僕の個人的な謝礼なんだぞ。ありがたく思え!」
「にしたって、なんであんな遠いところのショップで…」
「コネがある。市場の何分の一って価格で最新式のものが手に入る」
「…ケチな男だ」
「あそこは品揃えも豊富だ。お前、たいそう気に入ってたじゃないか」
「確かに、機能といい色といい、よかった」
「しかしお前があの色を選ぶとはなぁ」
「あれはいい色だ。とても可愛い」
「あの色は普通、若い女性が好んで選ぶらしいぞ。お前、携帯の色でナンパしようってんじゃないだろうな。ラブ君にチクってやる」
「は!あれはラブをイメージして選んだんだ。可愛くてほっとけないだろ?ベビーピンクって」
「…」

ポールは突然黙り込み、運転に専念し始めた。なにか文句でもあるのかな?

昼前にポールがこっそり病院にやって来た
壊れた携帯を弁償し、昼飯を奢ると言う
ここに来た事は入院中の二人には内緒にしてくれと頼むので
僕は弟に、ちょっと出てくるとだけ言い残してポールの車に乗った
事件の後始末はどうなっているのか聞くと奴は

「心配するな、順調だ、解決したら報告する、しかしまだ解決していない部分がある。そういうわけで入院中の2人には僕が来た事を秘密にしてくれ」

と答えた

先に昼飯を食い、奴の行きつけの携帯ショップとやらに連れて行かれた
病院から一時間もかかるとは思わなかった
インスピレーションでベビーピンクの機種を選び、超スピードで手続きをさせた
ショップの可愛いお姉さんたちは新規手続きをテキパキとこなした
とびっきりの笑顔で礼を言うと、可愛いお姉さんは頬を赤らめ俯いた
ああ、ごめんよ、その唇にありがとうのキッスを落としたいけれど
今日は僕、ダーリンに会うんだもん♪だから笑顔だけで許してね、お姉さん♪

「無駄なナンパはもう終わったか?」

ポールは失礼な言葉を吐き、僕を車へと促した

「サンキュー、今度一杯ご馳走するよ」

ポールはお姉さん達にそう声をかけた

「…無駄なナンパはお前の方だろ」
「俺はフリーだから無駄じゃないさ」

僕たちは車に乗り込み、病院へ向かった


「まだ着かないのかよぉ!」
「渋滞してるからなぁ」
「早くしろよ!」
「そう焦るなよ」
「早く帰らなきゃなんないんだ!早くしろよ早くぅぅ」

僕は、ポールの首に取り縋って騒いだ

「苦しいってばミン・ギョンジン」

ヘラヘラと笑いながらポールは僕の手の甲を抓った
痛いじゃないか!
僕は奴の二の腕を思いっきりぶち叩き、少し気持ちをスッキリさせた

今日はラブが来るはずだ
面会時間までに戻りたかったのに…
それでも二時半なら上等だ
早く着いてほしい

「ポール、お前、忙しいんだろう?早く仕事に戻らなきゃならんのだろう?なら僕を早く病院に運んでさっさと帰らなきゃいけないんじゃないのか!」

僕はイライラしてきつい語調で言った

「んー、今日はオフ~」

奴はのんびりと答えた

「しかし僕は急ぎの用事があるんだ!とにかく2時半までには必ず戻りたい!」
「2時半は無理みたい」
「なんだと?!ついさっき2時半って言ったその舌の根も乾かぬうちに無理とはどういう…」
「あ。大通りに出た。このまま行った方がいいかな」
「そうしろ!ったく最初から大通りを行けばいいものを」
「そうだなぁ、お前の言うとおりだ」

…。おかしい。ポールが僕の意見に賛同するなんて…
嫌な予感がして回りの景色を見てみた

…デジャヴ…

まさか…

「おいお前、ここってさっき通った道じゃないのか?!このもう少し先で左折するとか言って細い道に入って…」
「流石はミン・ギョンジンだ。よくわかったな。その通りだ。前進したつもりが後退してた。アハッ」
「アハッじゃない!一体何時に着くんだ!」
「えーっと…2時半のつもりだけど…でもぉ」
「でも何だ!」
「渋滞してるからわかんなぁい…ぐえっ」

僕は奴の首を絞めた。奴は僕の鳩尾に肘鉄を食らわせ、僕が蹲ったと同時に、叫んだ

「事故るじゃねぇか!ばかやろう」
「うう…バカはどっちだ…くそ…」
「とにかくじっとしてろ。そのうち着くから」
「うう…二度とお前の誘いには乗らないからな…」
「ふん!それは俺のセリフだ!」

*****

もうすぐ3時になる。俺達はミンチョルの病室で店や皆の様子を話し続けた。きつね達が巻き込まれた事件に関しては、敢えて聞かなかった
ギョンジンの不在を気にしてか、ギョンビンはラブにしきりに気を遣っている。それがわかるのかラブもまたギョンビンに気を遣いながら明るくふるまっている

「イナ、テジュンさんはどうしてる?」
「それが…聞いてくれよ、かくかくしかじかでさぁ、ソクの野郎がてじゅを囲い込んでさぁ」
「ソクさんが?ラブ、ほんとかい?」
「うん。なんか仲いいよね、ソクさんとテジュン」
「…いけないな…あんな濃い顔同士でそんなこと…」
「そんなことって、何考えてるんだよミンチョル」
「ソクさんとテジュンさんがもしもああなってこうなったら…あああ…だめだ!そんなこと…」
「ミンチョル!そういう意味の仲良しじゃねぇよ!」
「じゃあどういう意味だ?」
「うーんとね、ほんわかした感じなんだよ、ミンチョルさん」
「ほんわか?」
「うん。なんか…。…」

ラブは突然言葉を止めた

「どうした?」
「…あ…いや…ちょっと…タバコ…」
「ラブ?」

ラブはパタパタと部屋から出て行った

「何だあいつ…」
「お兄さんの気配でも感じたのかな」
「野生の勘?」
「愛のテレパシー」
「お手洗いじゃないの?」

なんだかわかんないけどラブは暫く帰ってこなかった


*****

ミンチョルさんの病室で、ソクさんとテジュンの話をしていた時、妙な感じがした
妙って言うより、何かわかりかけたような気がしたんだ
その感覚をもう少し突き詰めたくて、俺は部屋から飛び出し屋上に向かった

病院の屋上には、新鮮な空気を吸いに来た患者さんやその家族らしき人たちがちらほらいる
休憩中の看護師さんの姿も見える
ベンチやテーブルが何個かあるし、たくさんのプランターに綺麗な花が植えてある
くつろげるようになってんだなぁ…

空いてたベンチに腰を下ろし、スヒョクに電話をしてみた
昨日ちっと冷たくしちゃったし、それに、さっき掴みかけた『感触』が、スヒョクの声を聞けばわかるんじゃないかと思って…

『…もしもし…』
「スヒョク。今どこ?」
『…店…』
「え?もう店にいるの?」
『…何か用?』
「…スヒョク、怒ってる?」
『…べつに』
「今日はソクさんと仲良くできた?」
『いつも仲良いよ…』

あー、やっぱり不機嫌だ
俺はスヒョクにごめんと謝った

『何がごめんなの?』
「だってスヒョク、怒ってるんだろ?俺が昨日、冷たくしたから」
『…ラブが「えす」なのは解ってるもん。別に怒ってないよ…』
「じゃ、なんでそんな不機嫌なのさ」
『不機嫌じゃないよ、別に…』
「テンション低」
『…ふつーだよ』
「…今日、何してた?」
『ラブは?病院?ギョンジンさんに会えた?』
「あう…まだ…」
『まだ?!』
「あいつ、どっかに外出しててまだ帰ってこないんだ。それよりスヒョク、今日はソクさんと2人っきりで過ごした?」
『…昨日とほとんど同じ…。違うのは、早めに店に着いたってことぐらい…』

ってことは…

「昼メシ、また昨日の喫茶店?」
『…ん…』

受話器の向こうで鼻を啜る音がした

「…テジュンも一緒にご飯?」
『…ん…ジャンスさんも…』
「あのさ、あの…ソクさんさ、テジュンにどんな風に接してた?」
『だから昨日と同じだよ。すっごく優しくてさ…』
「どんな風に優しかった?」
『どんなって…なんかデレデレしてて…。ああもう、ヤな事思い出させるなよ!それがどうかしたの?』
「あ…いや…ごめん…」
『ミンチョルさんの様子はどう?』
「あ、うん、元気そうだ。退屈してるみたい」
『ギョンビンは?』
「うん、患者と思えないぐらい元気」
『そか。よかった』
「店で何してんの?」
『イヌセンセとウシクさんのリハ見てる。もしかすると今日のステージでソクさんが踊るかもって…。俺、ヤなんだけど』
「なんで?」
『祭ン時のエロダンス踊りだしたらどうするのさ!』
「あはは。いいじゃん、スヒョクがフォローすれば」
『やだ』

スヒョクはソクさんとテジュンの仲の良さに嫉妬してるみたいだ
俺の『掴みかけた感覚』は、結局何なのかわからなかった
喉元まで出掛かってるのに…
まぁいいか

ふと時計を見ると、3時半近くになっていた
いっけねぇ。ギョンジン、戻ってきてるかも…

俺は慌ててミンチョルさんの病室に戻った

*****

「ああうううなんでまた話し中?!」
「ラブちゃんか?」
「うるさいゴリラ!まだ着かないのか!」
「これでも急いでいる。まったくどうしてソウルの道はこんなに混むのかな?予定では僕はもうホン局長んとこに帰り着いているはずなのに」
「お前が変な脇道を行こうとするからだ!何度道を戻った?大通りでいいというのに!」
「渋滞すると眠くなる」
「だからってカンに任せてハンドル切るな!」
「抜け道のはずなんだけどなぁ、一方通行とかあったしね」
「楽しそうに言うな!大幅な時間のロスだ!」
「そうね、ノロノロでも確実に真っ直ぐ行く方がいいね」
「…そのセリフ、五百回は聞いた。くそう!二度とお前の車には乗らないからな!」
「もう少しで辿り着くさ♪」
「くそっ!」

僕はイライラしながら何度目かの電話をかけた

「あうあう、まだ電話してる!長いよダーリン、なんでよ!」
「ふ…。浮気かな」
「ぶぁかゴリラっ!…もう一度トライ。…ううう…」
「どした?」
「…電源が切れてるって…あうう…なんてタイミングが悪いんだ」
「あらあら、相性が悪いんじゃないの?」
「うるさい!あとどれぐらいだ!」
「ん~、距離的には5キロぐらいかなぁ」
「5キロ…。この道真っ直ぐ行くんだよな?」
「そう。渋滞さえしてなきゃあっという間だと思うよ」
「ゴリラ、二度とお前と会うことはないだろう。さらばだ。達者でな」
「は?何言ってるのお前…、おい、おいって…。ああ…、走ってっちゃった。全くせっかちな奴…」

5キロ、20分で行ける、いや、15分、いや、僕のこの切実な気持ちがあれば12分で行ける…かもしれない!
僕はポールの車から降り、病院に向かって走り出した

*****

「兄さん遅すぎる!どこで何してんだろうあの人!」
「ミン、目が吊り上ってる」
「あ…あの…俺達長いことお邪魔しちゃって…。イナさん、そろそろ帰ろうか」
「へ?でもギョンジンがまだ…」
「いいよ、今日はもう…。ミンチョルさんとギョンビンが元気そうだってわかったし、よかったよ」
「ギリギリまで待とうよ、ラブ」
「ギリに帰って来られたら俺、帰るに帰れなくなっちゃうもん。店、遅刻したらイヌ先生倒れちゃうよ。ミンチョルさん、俺、明日また来ます」
「…ラブ君…ごめんね…」
「やだなーギョンビン、謝らないでよぉ、勝手にお見舞いに来ただけなんだしぃ。ね、イナさん、そろそろ行こう」
「あ…うん…4時まであと10分だけど…行く?」
「うん。また明日ね」
「ラブ」
「はい、ミンチョルさん」
「明日来るなら、チェミさんのスウィーツ…」
「ラブ君、明日は何もいらないからね!」
「ミンチョル、明日は無理だって言っただろ?」
「つまらない!」
「明日キチャンさんが仕事持ってきてくれるでしょうが」
「甘いものがないと仕事がはかどらない」
「…貴方まさかいつも会社で…」
「ミンチョルさん、一度チェミさんに聞いてみるね。作ってくれたら持ってくるよ」
「ラブ!君はなんていい子なんだ!明日は絶対にお兄さんを捉まえておくから」
「ラブ君、彼の言うことなんか聞かなくていいよ、チェミさんに迷惑だし。兄さんは僕が首輪つけてハウスさせておくから」
「ミンチョル、チェミさんはカフェの仕込みで忙しいから無理だって言っただろ?」
「イナ」
「ん?」
「うるさい」
「なっ」
「ちょっと貴方ねぇいい加減にしないと…」
「ミン」
「何」
「うるさい」

ギョンビンの目が鋭く吊りあがり、口元に不敵な笑みが浮かんだ

「あの…喧嘩しないで、仲良くしてね。あは。イナさん、行こう」
「あ…う…うん、そうだな」

ラブはぎこちない微笑みを浮かべながらミンチョルとギョンビンにお大事に…と言い、ミソチョルに手を振ってそそくさと扉に向かった
俺は慌ててラブの後を追う
ラブはまた、引き戸を押していた
ギョンジンに会いたかったんだろうな…

引き戸をスライドさせ、ラブと俺はにらみ合っているミンチョルとギョンビンにもう一度挨拶してエレベーターに向かった

*****

「よかったのか?」
「ん?」
「ギョンジン」
「ああ。うん」
「どこ行ったんだろうあいつ。お前が来るってわかってるのにな」
「仕方ないよ、アイツ、バカだからさ」
「…。さっき病室から出てった時、どこに行ったの?」
「んあ?ああ、屋上」
「屋上?」
「うん。ちょっとスヒョクに電話」
「スヒョクに?」
「うん。気になることがあったから」
「気になること?」
「うん。だけど何が気になるかわかんなくてさぁ」
「…ふぅん」
「あ、そだ、ちょっと早めに来てっておっちゃんに電話しなきゃ」

そう言うとラブは急いで病院の玄関から外に出た
受付のお姉さんがラブに気づいて顔を上げた
ラブ、ねーちゃんにお礼のチューするんじゃなかったのか?
俺はラブの代わりに受付のお姉さんに向かって会釈をした
お姉さんはニコッと笑ってくれた

電話を終えたラブの横に立つと、ヤツは笑って、おっちゃん5分で来てくれるって…と言った
その時、聞き覚えのある声がラブを呼んだ

「ラブちゃあん」
「ピーちゃん!どしたの?ミンチョルさんたちのお見舞い?」
「いや、ミン・ギョンジンに用があって。ラブちゃんはお見舞い?」
「うん。ギョンジン出かけてていないよ」
「何?まだ着いてないのか?」
「え?」
「途中まで一緒だったんだが、車から降りて走ってったんだ」
「…ってことはギョンジン、ピーちゃんと出かけてたの?」
「うん。あいつ、一応活躍したからご褒美に携帯電話買ってやった」
「…」
「ん?」
「…。なんで今日連れ出したのさ」
「僕のオフが今日だったから」
「…。ピーちゃんのばか」
「…ラブちゃん…もしかして2時頃から待ってた?」
「…」
「そうか、それでアイツは2時にどーしても帰りたいと…。いやあ悪いことしたなぁハッハッハッ」
「ハッハッハじゃないよ!もう!」

ラブは突然湧いて出たピーちゃんと痴話喧嘩のような会話を交わしている
ピーちゃんを責めてはいるものの、思ったより辛そうじゃなかった
ギョンジンが何をしてたかわかったからだろうか…

「もう帰るの?」
「うん。店があるから」
「ほんとに?!あの馬鹿に会わないまま帰るの?」
「もう。誰のせいよ。ピーちゃんがアイツ連れ出すから会えなくなっちゃったんだからね!」
「あー、間の悪い。あの馬鹿が車を降りたりしなきゃ…」
「帰り道、渋滞してたの?」
「うん。それと…僕が道を間違えて手間取った…ハッハッハッ」
「もおおお!ピーちゃんのばか!」

ラブはピーちゃんの胸をどんどん叩いた
でも顔は笑ってる

「もう少し待ってたら?そのうち走りこんで来るよ、アイツ」
「ふ。また明日来るからいいよ。ヘロヘロのアイツに会いたくないしさ、それに今会うと帰りにくくなっちゃうもん。ピーちゃん、明日は邪魔しないでよ!」
「わかった。ラブちゃんにも何かお詫びしなきゃな」
「んじゃ、暇になったらどっかに遊びに連れてって」
「わお。大歓迎。泊りがけでどこかに行く?」
「いいよぉ~、温泉なんかいいな」
「日本に行く?」
「あ、いいかも!アキタとかね、くふっ」

ああ…、会話が危ない

「ラブちゃん!浮気しちゃダメでしょ!」

ラブとピーちゃんがイチャイチャしてる最中におっちゃんのタクシーが到着した
ギョンジンはまだ帰ってこない

「おっちゃん、早いね、ありがと。じゃね、ピーちゃん」
「うん、ラブちゃんごめんね」
「謝ンないでよ。イナさん、いこ」
「あ…うん…ピーちゃんバイバイ」
「ジミー!いたのか!」

ピーちゃんは俺を見て驚いている。俺に気づいてなかったらしい
どーゆー事だ!

「あは、イナさん、むくれてるぅ~可愛い」
「ごめんごめんジミー。キミにも改めてお詫びするよ。そうだ!三人で泊りがけで日本の温泉に遊びに行こう!」
「いやだ!」
「拗ねたジミーは一段と五歳児だねぇ」
「…」
「ピーちゃん、じゃあまたね。おっちゃん、行こう」

ラブは助手席に乗り込みおっちゃんを促したが、おっちゃんはピーちゃんを睨みつけこう言った

「アンタね、この子達に手ぇ出したらタダじゃおかないよ!」
「ふえ…」
「おっちゃんってば、ピーちゃんは悪いヒトじゃないんだからさぁ」
「ラブちゃん!おっちゃんは浮気は許さないよ!」
「…浮気って…おっちゃん…」
「…ふん。ラブの日頃の行いが悪いからだ…」
「ンな事、イナさんに言われたくない!」

ピーちゃんは困った笑顔を浮かべておっちゃんのタクシーを見つめていた

「とにかくアンタ!この子達とは接触禁止!いいね!」

おっちゃんはピーちゃんにそう吐き捨てて車を発進した
ラブは俺の方を振り返り首をすくめた




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