猪熊弦一郎



彼を想像する時最初に思い出すのは三越デパートの包装紙だ。

アンパンマンでおなじみのやなせたかし氏が当時の思い出を語る。

同じ四国と同郷だったが、当時、やなせにとって猪熊は大先生の存在だった。

三越デパートに職を得ていたやなせは包装紙のデザイン画を依頼し、
それを受け取りに猪熊氏の自宅に行った。

そして、丁重にそれを受け取り、会社に帰ると、原画を見て
あることに気づいた。

三越の文字がどこにもないのだ。

慌てはやなせはまた、先生の自宅に尋ねるのも憚られたため、
自分で三越の文字をその原画に入れたそうだ。

よって、三越の包装紙は日本を代表する二大巨匠の合作となったのである。


三越といえば、濃いピンクで描かれた模様に白地の文字が入った包装紙、
おわかりになるだろうか?
1950年にクリスマス用として登場して以来、ずっ~と使われているものなのだが、石からインスピレーションを受けたデザインだそうで、これが猪熊弦一郎画伯によるデザインというのは、わりと知られている。
ただ、この包装紙の中にある「mitsukoshi」というローマ字の筆記体を書いたのは別の人物。しかも、みなさんもよく知っている人なんだけど、
これが意外と知られていないのではないだろうか?

あの文字を書いたのは、なんと、やなせたかし先生なのだ。
そう、アンパンマンの作者として有名なやなせさん。

なにしろ彼が三越宣伝部にグラフィックデザイナーとして勤務していた頃に
書いたものが、起用されたそうで。当時はまだほとんど無名だったやなせさんだけど、その後のご活躍ぶりは周知のとおり。というわけで、今となればこの包装紙も、巨匠たちのコラボレーションとなってしまったわけなのだ。なんて、知ってからみてみると、ちょっと違うのでは?!

さすが、100年という長~い歴史の中には、いろいろあるものですねぇ


1902年、香川県高松市に生まれ、
幼少の頃から19歳で上京するまでの幼少年期を丸亀市を含む近隣で過ごした。

1922年東京美術学校西洋画科入学、藤島武二に師事し、
その後帝展などで活躍したが、1936年帝展改組をきっかけに、
小磯良平、脇田和などと共に新制作派協会を設立した。

1938年、フランスへ渡り、フォーヴィスムの巨匠アンリ・マティスに
指導を受けたが、第2次世界大戦が始まり帰国。
1955年にニューヨークに活動の拠点を移してからは、
それまで徐々に変化していた画風は一挙に抽象の世界へと移った。
精力的に制作・発表を続けるかたわら、社交的な性格から、
ジャクソン・ポロック、マーク・ロスコ、イサム・ノグチなど
多くの著名人と交流した。

1973年脳血栓で倒れニューヨークを離れた。
晩年は、毎年冬を気候の温暖なハワイで過ごしながら制作に励んだ。
1993年5月逝去。
ハワイから帰国し、猪熊弦一郎現代美術館を訪れた三日後のことだった。

「絵には勇気がいる。」と、画伯はよく言った。
画伯にとって、生きることがすなわち「美の世界」への冒険であった。



『ごめん』って…


司からは滅多に出ない言葉だよ。




それに携帯は花沢類が車に忘れていったもので、

司は全く、関知していない。


謝る必要はなんてない。


なのに、それで、『ごめん』はないよ…



もう、それだけで、この後、どう言葉を発したらいいのか

すっかり、うろたえてしまった。



何かを言っているあたしがいる


でも、私、何をしゃべっているの?

でも、口が勝手にしゃべっている…


『あ、あのね…今日、今から、3人で…山下さんとあたしとほら、藤田さんよ。

3人で食事するはずだったの…今日、電話があって約束したの。

でも、疲れているし、お邪魔かななんて思って、帰ろうとしたんだけど、

山下さんったら、あたしを置いて先に帰っちゃったのよ。

どうしたのかしら?やっぱり、あたしが邪魔だったのね。

最初からそう言ってくれたらいいのにね。可笑しいよね!』



顔が引きつり、目は泳いでいる。



自分がなにしゃべっているかわかってないな、こいつ…

早口が動揺する気持ちを代弁している。



『あ、あのさ、なんか、飲む?それとも食べる?

ここのコーヒー、初めて飲んだんだけど、結構、いけるの!』


必死でおしゃべりを続けている。



雑居ビルの一階にありがちな何の変哲も無い普通の喫茶店

コーヒーの香りに混じり、ピザや、スパゲッティの匂いがする。

時間的に軽い夕食を取っている客が数組いるようだった。



あんまり、こんなところには長居したくなかったが、

ここから、連れ出すのは今は無理だ。


『コーヒー、もらおうか…』と、

俺は近くを通りかかっウエイトレスに視線を送り、注文をした。




ダメだ…

まともではとてもいられない。

目が合わせられない。



あたしはどうすればいいわけ?

頭の中で整理しようとすればするほど訳がわからないなる。




えっーと…会ったら、まず、謝らないといけないのよね…

えっ? 

あれ? 何を謝るんだったけ?

あたし、司になにをしたんだったけ?



思わず、顔を上げると目の前に司の顔があった。



『なにか、言いたげだな?俺に…』

司の声が聞えた。


そう、ごもっともです。

“なにか、言いたげ”じゃなくて、謝らないといけないの…


でも、何をどう言ったらいいのか

どう謝ればいいのか、わからない…


パニックが輪をかけて行く。



で、出てきた言葉がこれだった。


『あ、あのさ、何で、ここにいるわけ?』





…なんでここにいる??


あぁ、そうだ。お前にはわからんだろうな…


気の利いた言葉がこいつから出てくることは“まず、ない"と

思っていなかったが、ここまでトンチンカンな言葉が出るとは…


やぱり、突然の登場は相当こたえているようだ。




だから、俺もトンチンカンな答えを言ってみることにした。


『お前に一言、お礼を言いたくてな…』



俺の言葉に驚き、目を大きく見開いているパニック女が

次の言葉に息を止めて待っていた。









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