6~9


神様のくれた恋6   





牧野、おめでとう。

今日はよく晴れた。

昨日はあんなに雨が降って、

みんなで今日のことやきもきしたのに

当日は嘘のように晴れてた。



俺はその一点の曇のない青い空を見上げながら、

「お前達らしいよ。」

とつぶやいた。


神様のくれた恋(別バージョン 類編)



教会の中庭の緑の芝生を踏みながら、知った顔を捜す。

後ろから、背中をひとつ、ポーンと叩かれた。


「よぉ!お前を捜してたんだよ。」

式の前、みんなで牧野の花嫁姿を控え室まで冷やかしに行った。


「俺はいいよ。どうせ、もうすぐ、こっちにくるんだから」と断ったが

結局、みんなに連れて行かれる結果になった。


牧野は見事に化粧が崩れていた。

6月の花嫁は嬉し涙で顔がぐしゃぐしゃだった。


メイク係りの人が困っていた。

「花嫁さんがこれじゃ、お式に出られませんよ。」 



牧野、感動する気持ちはわかるが、ちょっと、泣きやめ!

鼻水まで出てる。

しかも、普段しない、マスカラから、黒い物が・・・

司から、「汚ねぇ」って、嫌われるよ。



なんとか、式も滞りなく終わり、

女性陣、注目のブーケ投げで

牧野の投げたそれは弧を描き、宙を舞う。




見事にあきらの手がキャッチ。

白と淡いピンクでまとめられた見事なキャスケイドブーケ


あきらは非難を浴びながらもずっと、大事そうにそれを持っていた。

どことなく、あきらがうれしそうに見えるのは気のせいなのか?


まぁ、いいや、牧野のブーケのことは

誰の手元にいこうが、今は2人が幸せならばそれでいい。


幸せの瞬間に包まれた2人を見ながら、

遠い日のことを俺は思い出していた。





神様のくれた恋7     


2人のことは俺が一番よく知っていると思う。

2人の恋は高校の時に始まった。


最初は司が勝手な思い込みから、牧野を好きになって・・・

超単純男と超鈍感女のカップリング

確かに傍目から見てもきついかった…。

そんな2人が育てた愛。




俺はその隙間に入り込もうとした時もあった。

特に司が記憶障害で牧野の存在を忘れてしまったあの時期。


牧野がかわいそうで見ていられなくて…。

でも、それは同情なんかじゃなくて、

やっぱり、牧野が好きだったんだ。


姑息な手段かもしれないけど、

NYに牧野が司を追いかけていった時、

本当に司から奪ってしまいたかったんだ。


でも、牧野はどんなに冷たくされても、

その目はしっかり、司の方を向いていた。

その強い光を放つ瞳の奥に揺るぎない真実と見た時、悟ったんだ。


今は司の気持ちが牧野にないにしても

気持ちも距離もずいぶん離れているけど、

きっとまた、どこかで出会って同じ相手と恋するんだろうって…。



2人の恋は奇跡のような恋だった。

ありえない恋だと思った。

神様がいたずらで用意したかのような不思議な偶然で出会った2人。


あの司を虜にした牧野。

愛すること、愛されることに無縁の生活を送っていた司が初めて抱いた感情。


たぶん、それが、恋だなんて気づかず、どうしていいかわからず、

不器用な方法でその感情を牧野に向けていったんだ。

それで牧野をずいぶん、傷つけたこともあった。


でも、神様は間違ってなかった。

いたずらなんかじゃなくて、司の相手には牧野が必要だったんだ。

牧野でなくては司の恋は成就しなかったんだ。



今なら、それが俺にはわかるんだ。

確信めいたものがあった。


運命なんて信じない俺だけど、この2人の恋はそう思う。

だから、俺は素直に応援したくなったんだ。



司に見せる牧野のとびっきりの笑顔。

ちょっとはにかんでいる横顔が大好きで、

非常階段で司のこと話題にするたび

照れ隠しの、その笑顔が一番だった。


高校時代から、この2人を見てきて、総司郎やあきらが

「面倒くせっー。一途な恋はよ!」なんてウザそうに言ってたけど、

実はうらやましく思っていた事を俺は知っていたけどね。



神様のくれた恋8      




司がNYに行って、すこし、経った頃、俺は牧野と2人で

例の非常階段でしばらくぶりに話しをした。



5月晴れの青い空が広がって、吸い込まれそうな日だった。

こんな日は退屈な講義を抜けて居眠りするに限る。


キャンバスを通り抜け、高等部のあの場所にむかう。

非常階段のドアに手をかけた時、

俺の微かな期待は現実のものとして…そこにあった。



先客はもう、居眠りしていた。

牧野、バイト、がんばってるの?

無防備な寝顔は俺の笑いを誘う。

しばらく、先客の隣で横になって、青空を見ていた。


先客のかすかな等間隔の寝息は心地よく響く。

5月の風は君に髪を揺らし、俺の心も揺らす。


その時に思い浮かんだ言葉だった。


神様のくれた恋。

神様・・・っているか?


俺がそう考えた時だった。


軽く、伸びをしたかと思うと

牧野がこっちを見て、目をパチクリ開けている。

「わぁー!!びっくり!花沢類、いたの?なによ、いつから?」

先客は横にいる俺を見て、まるで、

見られてはいけない物を見られたかのように慌てている。



「うん、今、さっきだけど、牧野が幸せそうに寝てるから、

司の夢でも見てたらいけないと思って起こさなかった。」



「あぁ、ない!ない!残念ながら。

アイツの夢は見てないけど、夢は見てたよ。なんか、おいしそうな夢。

よく、覚えてないけど、甘いお菓子が出てきたような・・・

で、なんでここにいるの?」


「なんでって、今日は牧野が呼んでくれているような気がしたからさ。」

「また、冗談はやめてよ。でも、ひさしぶりだね。大学、どう?」

「うん、まぁ、まぁ、かな。ちゃんと、司から、連絡来てる?」


「来てるよ。バイトの入ってない日に、時間を見て、電話くれるの・・・

電話代、高いから、お前はしなくていいからって。」

「そう、遠恋、順調に行ってる・・・か!良かった。」



俺は牧野が司のことを話す顔を見て、本当にそう思った。

牧野の目は遠く、異国の彼方にいるはずの恋人を見ていた。



「ねぇ、牧野、神様の存在、信じる?」

「神様?うーん、そうだね、信じるよ。でも、どうしたの?急に」

「いや、ちょっと、思ったんだけど、

司とアンタってどうして出会ったのかなってね。偶然かな?

でも、もし、偶然、出会うことはあったとしても恋愛にまで発展する?」



「花沢類にそんなこと言われるなんて…なんか、ちょっとびっくり!

道明寺があたしを・・・って考えるのさえ、否定してきたからね。

あのころ、そんなはずないって・・・

天地が引っくり返っても絶対ないって思ってた。

何度も何度も好きだって言われても信じようとしなかったし。」


「俺も、最初、司はなに、血迷っているんだって思っていたよ。

勝手に恋愛するのは自由だけど、

相手は牧野だし、あの司がまさかってね。」


「相手があたしで悪かったわね。でも、こっちも、大変だったんだから!

あたしだって、言ってやりたいわ。どうして、選りによって道明寺なんだって!」





「だろう?だから、思った。神様がいるんだって!

きっと、ありえない2人をくっつけるため、

神さまが気まぐれで用意した恋だったんじゃないかって」




「それじゃあ、あたしと道明寺は神様の気まぐれで出会ったってわけ?」

ちょっと、しゃくに障るけど、それって、意外と当たってるかも・・・



「そう、出会うはずのない2人が出会って、

恋するはずのない2人が恋をする・・・

神様は時々、退屈しのぎにいたずらを

上からして楽しんでいるんだよ。」




牧野が急に噴き出して、笑う。

「おかしい?」


「う、ううん、違うの。

もし、あいつにこのこと言ったら、どう思うかなって考えたら

笑えてきっちゃって・・・

アイツ、絶対に否定するよ。俺は誰にも支配されてないってね。」



くすくす、笑う、牧野。



「そうだね。司なら、そう言いそうだね。

『神様なんか関係ない。』って!

『俺が牧野を好きになっただけ』だって!文句あるかってね。」



俺はそうやって、牧野が言ったことに同調しながら、

実は神様のきまぐれなんかじゃなくて、

神様は用意周到に2人の出会いを作っていて

上のほうから、成り行きを、見守っているんじゃあないかって思った。


でも、それはそう思っても、くやしいから、今は口に出しては言わない。

いつか、2人の結婚が決まった時にお祝いの言葉として

振られた経験を持つ俺から言ってやりたいと思う。


「2人の恋は神様がくれた恋なんだから、大切に育てていけよ。」って!


「花沢類?どうしたの?急に黙っちゃって」

と牧野が俺に声をかけた。


「なんか、眠たくなってきちゃった。

大体、ここには昼寝するため来たんだから・・・ね。」


「そうだね。そろそろ、あたし、行くよ。

次の授業は出ないとヤバイの。花沢類はゆっくり休んでね。」

と時計を見ながら、立ち上がり、別れを告げた。。


そして、非常階段のドアノブに手をかけて、こっちを振り向いて

「花沢類、神様のくれた恋、大切にするから・・・。ありがとう」

と言って、姿を消した。


俺は、その姿を見送った後、軽く、あくびをして、深い眠りに入った。



神様のくれた恋9      





「おい!類、二次会いこうぜ。もう、限界だ。

こんなとこいたら、頭、痛くなるぜ。」

と総二郎が声をかけてきた。


披露宴会場で俺たちは親の知り合いの紹介ばかりされて、

いい加減。閉口していた。


「いいのか?途中で抜け出して」


「大丈夫だって。2人のとこ行って、悪いけど、先に帰るって断ってきたから」

とあきらが答えた。


「じゃあ、そうさせてもらうか!」と俺たちは、会場をあとに出ていった。



二次会のクラブではよく、ものが俺の頭の上を飛んでいった。

それをあきらが必死でキャッチしている。

たまに俺のほうにも飛んできて、当たった。


俺同様にとばっちりを受けている総二郎があきらに

「お前、ブーケ、どうするつもりなんだ。」と聞いている。


「あぁ、あれは牧野に返そうかと思っているんだ。」

「いいのか?そんなことして?」

「別にいいだろう?今から、誰かにやるわけにはいかないだろう?」

「まぁ、確かにそれはそうだけど、それにしてもお前よく取ったな。」


「俺だって、そんなつもり、なかったさ。

まさか、ブーケがこっちにやってくるなんて思ってもみなかったし、

俺自身、どうして、キャッチしたのか、わかんねぇ。」


と、また、女性陣が投げた物が飛んできた。


「オイ、いい加減にしろよ。これじゃあ、ここにも、長くいられないぜ。

あきら、おまえのせいだからな。俺たち、3人で、今度、どっか、行くか?」

と総二郎が提案する。

「それがいい。そうしようぜ。早く、脱出しよう。

類、お前、今日は大丈夫か?まだ、眠たそうにしてないよな?」

とあきらが聞いてきた。


「いいよ。今日は付き合うよ。3人で、司と牧野の恋の成就を祝おう。」

と俺は2人の意見に賛成した。

「へぇー、類が誘いに乗るなんて珍しいな。

お前、このごろ、付き合い、悪いからな。

あきらもすっかり、忙しそうで、

3人で、飲むなんて久しぶりだ。よし、行こう。」



やっとの思いで、二次会場を抜け出して、

俺たちは総二郎の行きつけの静かなクラブで祝杯を上げた。


「類、お前が乾杯の音頭を取れよ。」

と総二郎から言われた。



『おれが言うのか?』と思ったが、

「いいよ。」と返事をして

「じゃあ、言わせてもらうよ。用意をいい?」


シャンパンを入れたグラスを持ち、俺は2人を前に言った。


「2人のこれからを祝って、神様のくれた恋に乾杯!」


グラスの当たる音が響く。


総二郎がグラスに入ってものを飲み干してから、

「その言葉、前にお前から、聞いたことがあるよな。

いつだったっけ?」と聞いた。


俺が答える前にあきらが言った。


「俺、よく、覚えているぜ。

今日も、2人の式の時、思い出したくらいだぜ。

なぁ、類、確か、それって、司が牧野にプロポーズしたのに、

牧野が断ったって大騒動があったときだよな。

司が海外に出張に行ってさ、みんなで集まった時・・・」


総二郎が思い出し、割り込んできた。


「思いだした!あん時、そうそう!珍しく、お前が先に来ていて、

牧野が司のプロポーズ、断って、

お前んっちに相談に行って、一緒に来た日だ。」



俺は思い出してた。

類が、『神様のくれた恋なんだから、何とかしてあげないと。』と

突然、わけのわからない、おかしなことを言い始め、

『最初、なに言ってんだ?』ってみんなできょとんとしたことを。



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