陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

この空の下で 6




実は、数日前彩子は翔と会う機会があった。

一樹が9月からロンドンに留学が決まっていて、それまでに結婚したいとかで合コンに出掛けたり、紹介してもらったりしていた。

「ねえ、誰かいい人いない?紹介してよ。」

せっぱ詰まったのか話もろくにしたことがなかった彩子にまで言ってきた。

「友達に聞いてみます。」

大学時代の友達で彼氏募集中の子がいたので彩子は答えた。

「早くね。」

夜、彩子は早速大学時代の友達の橋本千鶴に電話をした。

「今度イギリスに留学する人が職場にいるんだけど、その人、結婚して奥さん同伴で行きたいんだって。それで、今、彼女募集中で、私にも誰か紹介して欲しいっていってきたの、ちづちゃんどう?顔はどっちかと言えばくどめかな。身長はまあまあある。」

彩子はこんな急ぎの話に千鶴は乗ってこないだろうと思っていた。

「うん、いいわよ。」

あっさりと千鶴はOKの返事をしてきた。彩子は内心少し驚いた。
千鶴はどちらかと言えば、慎重なタイプだし、大学時代の彼氏は長身のハンサムだった。

「いいのね。じゃぁ向こうに話すね。あ、そうそう、名前を言うの忘れていたわ。田中一樹。また連絡するね。お休み。」


何も知らずに


翌日、彩子は一樹に千鶴が食事に誘うことをOKしたことを伝えた。

「じゃぁ、君も一緒にどう?」

「えっ?私もですか?」

「今度、研究所に同期の川村翔っていう同期が本省から移動になってくるんだよ。だから、翔君も誘うって、紹介してあげるよ。」

「はぁ。」

「いいよね。翔君は長身でなかなかの男なんだから。早速電話してスケジュール聞いてみるから。」

なんだか一樹はうきうきして、どんどんことを進めていこうとしている感じだった。その勢いに彩子はあっけにとられてしまった。

この時、彩子はこの先起きることを何も知らなかった。想像もしていなかった。

早速、一樹は翔に連絡を取ったらしく、翌週の金曜日でどうかと彩子に聞いてきた。彩子は千鶴に都合を聞いて返事をすることにした。

その日の夜、彩子は千鶴に電話した。

「来週の金曜日ってあいてる?例の職場の人。紹介しろって言っていた人。食事に行きましょうって。」

「彩ちゃんも一緒なの?」

「うん。一緒に行くよ。」

「よかった。初めて会うから。」

「その人、私にも紹介してくれるんだって。頼んでもないのに。同期の人で、今度、同じ職場に移ってくる人なんだって。嫌われたら、この先、気まずいよね。だからあんまり気乗りしないんだけど。」

「いいじゃん。気楽に会えば。よかった。彩ちゃんも一緒で。」

「じゃあ、明日、OKって言っておくね。時間や場所はまた連絡するから。仕事、相変わらず忙しいの?ちゃんと食べて寝てる?睡眠は重要よ。」

「はいはい。彩ちゃんお母さん。」

「やだぁ。お母さんだなんて。じゃ、おやすみ。」

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