陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

優しく抱きしめて 43



「大丈夫ですか?昨日は、大変でしたね。あれから、過呼吸になることはないですか?」

「はい。」

「やはり、お仕事を軽くしてもらった方がよさそうですね。いいですね。ちゃんと、上司の方に話してください。」

「わかりました。」

美奈は、下を向いたままだった。

「外苑前のSELANというイタリアンのお店知っていますか?オープンテラスのあるレストランです。銀杏並木沿いにある。」

「は、はい。」

「ランチしませんか?」

「えっ?」

「会計を済ませて、先にタクシーで行っていて下さい。直ぐに、行きますから。」

美奈は、タクシーでSELANに向かった。

テラス席に通された。

外苑の銀杏並木沿いにあるオープンテラスのイタリアンレストラン。

並木の緑が時折、吹き通る風に揺れている。

その間から、太陽の光が溢れてくる。

『気持ちいい。』

美奈は、心の中に優しい風がす~っと吹いていく感じがした。

「お待たせしました。」

そこに、森口がウエィターに案内されて来た。

「先生。」

「外では、先生は、止めましょう。」

「何てお呼びしたらいいでしょうか?森口さん?」

「ええ。森口でお願いします。それにしても、もう、すっかり夏ですね。緑がきれいだ。」

そこにウエィターが注文を取りにきた。

「何にしますか?」

「先生、いえ、森口さんは?」

「じゃあ、このランチのコースでいいですか?」

「はい。」

「じゃあ、このランチコースをお願いします。」

美奈は、外の景色を見ていた。

森口は、その美奈の横顔を見ていた。

「きれいですね。」

「そうですね。きれいな景色ですね。」

「えっ、そうですね。」

美奈は、森口の方を向いて、微笑んだ。

「よかった。」

「えっ?」

「あなたが、微笑んでくれて。」

美奈は、恥ずかしくなって少し、うつむいた。

「ありがとうございます。気分が晴れてきました。先生、あ、森口さん、お仕事、大丈夫ですか?お時間を取っていただいて。すみません。」

「ええ、急いで後片付けしてきましたよ。私も最近、忙しくて村沢さんとこうしていると、気持ちが落ち着きます。久しぶりです。こんな気分。こちらこそ、ありがとう。」

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: