pooyanの部屋

pooyanの部屋

荒涼たる帰宅


智恵子は死んでかえってきた。
十月の深夜のがらんどうなアトリエの
小さな隅の埃を払ってきれいに清め
私は智恵子をそっと置く。
この一個の動かない人体の前に
私はいつまでも立ち尽くす。
人は屏風を逆さにする。
人は燭をともし香をたく。
人は智恵子に化粧をする。
そうして事がひとりでに運ぶ。
夜が明けたり日がくれたりして
そこらじゅうがにぎやかになり、
家の中は花にうずまり、
何処かの葬式の様になり、
いつまにか智恵子がいなくなる。
私は誰も居ないアトリエにただたっている。
外は名月と言う月夜らしい。


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