東方見雲録

東方見雲録

2024.03.09
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カテゴリ: 政経

広井良典 京都大学こころの未來研究センター教授

ポスト・コロナ時代の基本コンセプトとしての「生命」
ではどうすればよいのか。ここで、「生命」を軸とする経済のあり方というテーマを考えてみたい。
私は、ポスト・コロナの時代においては、「生命」というコンセプトが社会の中心的な概念として重要になると考えている。この場合の「生命」とは、生命科学といった狭い意味のみならず、英語の「ライフ」がそうであるように、「生活、人生」といった意味を含み、また生態系や地球の生物多様性といったマクロの意味も含んでいる。
このように、これからの時代の基本コンセプトとして「生命」が重要になると言うとき、それには科学技術に関する側面と、経済社会に関する側面の二者がある。
まず科学技術に関する側面では、「情報から生命へ」という視点が重要となる。すなわち、17世紀にいわゆる科学革命が起こって以降、科学のコンセプトは大きく「物質→エネルギー→情報」と推移してきた。一見すると、「情報」に関するテクノロジーは現在爆発的に拡大しているように見えるが、「情報」が科学の基礎概念となったのは、アメリカの科学者クロード・シャノンが情報量の最少単位である「ビット」の概念を体系化し、情報理論の原理が作られた1950年頃のことである。
つまり「情報」は既に技術的応用と社会的普及の成熟期に入ろうとしており、情報の次なる基本コンセプトは明らかに「生命」であって、新型コロナ・パンデミックは逆説的な形でこのことを示したのである。昨今、「デジタル」の議論が盛んだが、私たちはむしろ「ポスト・デジタル」の経済社会を構想する時代を迎えているのだ。

「生命関連産業」あるいは「生命経済」のビジョン

一方、「生命」の経済社会に関する側面はどうか。これについては、これからの時代には、いわば「生命関連産業」あるいは「生命経済」と呼ぶべき領域が、社会の中で大きな比重を占めるようになっていくという視点が重要である。
ここで「生命関連産業」とは、具体的には少なくとも次の5つの分野を指している。すなわち、(1)健康・医療、(2)環境(再生可能エネルギーを含む)、(3)生活・福祉、(4)農業、(5)文化であり、これらはいずれも先ほど述べた広い意味での「生命」に深く関連している。最後の「文化」はやや意外に聞こえるかもしれないが、これはドイツのメルケル首相が、新型コロナが広がっている状況にあっても「文化」に関する活動は絶やしてはいけないとし、"文化は生命の維持に不可欠"と述べたことと関わっている。
ここでポイントになるのは、以上のような「生命関連産業」は、いずれも概して比較的小規模で、「地域」に密着した"ローカル"な性格が強いという点だ。したがって、こうした分野を発展させていくことは、昨今の「地域再生」あるいは地方創生の流れとも呼応すると同時に、ローカルな経済循環や地域コミュニティの再生に寄与し、またコロナ後の「分散型」社会という方向とも共鳴するのである。もちろんこれらと他の様々な経済分野とのネットワーク的連携も重要となる。

それゆえに、「生命関連産業」という言葉と並べて先ほど「生命経済」という表現を使ったのだが、大きく言えば、それは「資本主義」の今後のありようというテーマともつながるし、また昨今議論が活発なSDGs(持続可能な開発目標)やいわゆる「ESG投資」などをめぐる話題とも接続するのである。
引用サイト:JA こちら


(参考文献)広井良典『人口減少社会のデザイン』、東洋経済新報社、2019年。

関連サイト:国際社会経済研究所(IISE) こちら




関連日記:2024.02.03の日記  ネイチャーポジティブ経済   こちら

ポスト資本主義 広井



「生物多様性国家戦略2012- 2020」における具体的施策の数値目標  環境省   こちら
生物多様性国家戦略2012-2020の実施状況の点検結果 [PDF 5.2 MB] こちら

生物多様性国家戦略2023-2030において設定する状態目標・行動目標に関する指標 こちら





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Last updated  2024.03.10 05:49:35
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