のんびり生きる。

のんびり生きる。

もうそんな細い線でしか


 それは灰色の布で出来た熊だった。首に赤いリボンが巻いてある。木田が手の平に乗せると、手と足がわずかにはみ出た。
「ああ、それはいい考えだ。だけど奥さん、すぐにこいつをわたせるときはつらいときですよ。だから、そのう、我慢して持っていて下さい。どんづまりの状態で気を許すと、遭難した者は、ふっと命の灯を持っていかれちまうことがあるんですよ。もうそんな細い線でしか、娘さんの命はつながっていないかもしれねえんです。だから、奥さん、それは自分で持っていて、どんな状態で娘さんが帰ってくるか分からないけど、そのときにゃあ娘さんをほめて、わたしてやって下さいよ」

 「青首亭」本山賢司 

  少女の峰 88頁

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