のんびり生きる。

のんびり生きる。

風をにがしたにもかかわらず、


 上昇気流は狗鷲を蹴散らしたあと、真綿のような積乱雲へと成長した。気流は小さな水滴や雪片、あられなどをはげしくもみしだいた。電気的に中性だった積乱雲の内部は、プラスとマイナスに分かれ始めた。それと同時に雷を発生させる電場が蓄積され、雷雲細胞のセルが発生した。
 セルは雷を生みだす最小の要因である。上空の寒気が内部に流れ込み、下層の多湿な空気が強い浮力を得ると発生する。気象学でいく、こうした大気の不安定状態がつづくと、セルはぐんぐんと成長を始め、雷もそれに見合ったどでかいものになる。
 上昇気流は勢いをまし、秒速二〇メートルに達した。積乱雲の内部に超大細胞スーパーセルが誕生しつつあった。雲は一万五〇〇〇メートルの対流圏に突きあたると、水平に漂った。こうして積乱雲の頂は、最も発達した形である鉄床型を描き始めた。
 巨大な発電所と化した雲の内部では、数十万ボルトの電気が、電光放電のチャンスを狙っていた。空気の絶縁の切れ目を探し、電気はメドューサの髪のようにもつれあって渦を巻き、互いに触れあうと恐ろしげな音と青白い火花を発した。


 「青首亭」本山賢司

 俺たちの川 103頁

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: