『福島の歴史物語」

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2017.02.21
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       対極にある者

 これらの取材中、私は帰布二世との対極にある人たちのいたことを知った。日本からハワイに帰らなかった二世たちであり、帰れなかった二世たちである。このうちハワイに帰らなかった二世たちの理由は分からないが、自分の意志として日本に永住を決めたものと思われる。また帰れなかった二世たちは、ハワイに帰ろうと思いながら果たせなかった人たちである。帰れなかった理由で特に多かったのは、年老いた祖父母などの病気やその介助のためであったことが多い。

 私はハワイで、帰米二世がどう定義付けがされているか知りたかった。そのためホノルル図書館を訪ねた。図書館では、『帰米二世とは、幼少期に日本に戻り、太平洋戦争前にハワイへ帰って来た人たち』であったということが確認できた。しかし現実には、ハワイに帰ったのが戦後、それも十年を超えての帰布者も多かったという。しかし戦後の帰布ともなれば、日系二世による第100大隊や第442連隊の輝かしい戦歴がアメリカ中に知られた後のことであり、日系人に対する評価が大分好転してからのことになる。それもあってか、定義付けは、次のように変わっていた。

 狭義の定義=幼少期もしくは太平洋戦争前に離米、国民学校もしくはさらに上位
       の学校で軍国主義的皇民教育を受け、太平洋戦争前に帰米した者。
 広義の定義=離米の時期等すべてが同じであるが、太平洋戦争終結後の1948
       年から52年にかけて帰った者。戦後帰米と呼ばれる。

 この定義は、私が予想していた年齢、つまり旧制中学入学時点の年齢での来日者で、太平洋戦争開始以前にアメリカへ帰った人たちであるとしていたイメージの修正には役立った。図書館では、こんなことを話してくれた。「当時、アメリカ側に情報を内報する日系二世がいましてね。私たちは、そういう二世を『アメリカ政府に協力する裏切り者』という意味で、『イヌ』という隠語で呼んでいました」

 明治期以来のハワイにおける日本人移民たちは、より関係の深い組織、県人会を組織するようになる。1920年代に発足したハワイ各地の福島県人会も、この例に漏れない。ハワイ州最古のハワイ島福島県人同志会の設立は、明治三十一年(1898)であるから、すでに百十年を越えている。彼らは常に祖国日本の動静を注視してきた。時にそれは、日系人たちを巻き込む事件にもなりかねなかったからである。

 日本は戦争をすることで、海外に住む日系人、そしてそれらの二世たちに多大な犠牲を与えた。そして日本の敗戦は、さらなる犠牲者を生むことになる。それは間もなく消えたが、ハワイで景気のいい日本の謀略放送を聞いて信じていた人たちが作った『勝った組』の派生である。『必勝組』、あるいは『布哇大勝利同志会』などと称される人々が各島にいたのである。しかもハワイ島のヒロでは、1970年代後半まで、「必勝会」なるものがあったそうであるから、その根深さには驚かされる。

 戦争により日本全土は焦土と化し、敗戦後の再興もおぼつかない中、これを救ったのが敵国であった連合国、特にアメリカからの援助であった。それでもこの敗れた国を祖国と考える多くの国の日系人たちも、自分たちの苦衷を顧みず多くの寄付をした。それにはハワイの日本語新聞によるキャンペーンの効果も大きかった。細々と再起をはじめた日系人団体が募金などの活動をはじめ、それに応じた。それはまたこのような組織としての他に、個人による協力や援助も相次いだのである。

「日本から明るいニュースが届けば誇らしい気分になるし、悪いニュースであると辛い気持になる。どうか日本は、よい国であって欲しい」

 この表現は、数代にもわたったハワイの移民たちの、偽らざる心情であろう。日本が苦しいとき、これら各地の県人会は、全力を上げてそのときどきに起きた祖国日本の受けた苦衷を援助・協力してきた。大正十二年(1923)の関東大震災のときの義捐金募金など、その活動には刮目すべきものがある。この援助活動の実践のために組織され、これら活動の拠点となったホノルル福島県人会の設立は、関東大震災のあった年であった。

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 ホノルル福島県人会は戦争で一時中断したが、日系二世による第100大隊や第442連隊のイタリア、ドイツ戦線での多くの命を失う戦闘などもあり、日系人の地位の向上が見られるなかで、1949年の再興につながった。2011年の東日本大震災への支援や募金活動は、福島県に対する愛情の最たるものであろう。これらハワイ各地の福島県人会の活動には、帰布二世を含む二世たちの次の世代の力も大きかった。つまり三世や四世たちの力である。現在の福島県人会員の多くは二世の子どもや孫たちである。その二世たちも高齢化し、各家庭とも曾孫(五世)がいる時代となった。祖父や親たちが戦争に行くなどしてどんな苦労をしたかを尋ねても、その口は重かった。重かったと言うより、知らされていなかったというのが本当かもしれない。だからなのか、その口の重さと反比例して、その態度は明るかった。

 戦後70年、日本でこそ第二次世界大戦後に戦争はないが、アメリカでは二十回以上の戦争や武力行使を行っている。二世の子や孫は、祖国日本に深い思いを抱きながらも、これらの戦争などにどう対処してきたのであろうか。ハワイでは今でも、『辛抱人』というハワイ製の日本語の造語が残されている。いまはあまり使われなくなったが、意味は『我慢して勤倹節約してカネを貯める人、苦労の多い人』という意味である。ハワイの移民となった日本人は、入植以来幾世代にもわたって多くの苦難を舐めさせられてきた。そのような中、無意識のうちに祖国日本を慕うのか、日本人同士の結婚が多い。彼らはすでに、五世、つまり玄孫の時代なのにである。その彼らが日本のため、母県のためにと協力してくれているのである。



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最終更新日  2017.02.21 09:44:48
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