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2021.07.20
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     雪村の菁(かぶら)図

 戦国時代の画僧と言われる雪村周継は、武家に生まれながら早くに出家、しかも文化の中心地の京都ではなく、絵師として生地の茨城を離れて福島、神奈川などを遍歴したその生涯は、いまだ謎に満ちたものでした。しかし遺された作品は、高い技術力とともに独特の奇抜さを持ち、いまなおその革新性に驚かされます。雪村の作品について、その質を何で測るかという判断基準は難しい面がありますが、単純に国が指定している国宝や重要文化財の数で見てみるのも一つの判断基準となるのかも知れません。すると雪村の現存する作品のうち、『竹林七賢人』、『呂洞賓図』、『雪村自画像』、『風涛図』などの9点が国の重要文化財指定を受けているのです。

 この雪村の生没年は、はっきりしていません。しかし延徳二年 ( 1490 ) の頃から天正元年(1573)頃まで生きた人と推測されていますから、83歳を超えるほどの長命であったことになります。雪村は、室町期の画僧である雪舟等楊を継ぐ者として、自らを『雪村』と称したといわれます。その雪舟の師と言われるのが天章周文ですが、周文は 室町幕府第四代将軍 の足利義持が朝鮮へ派遣した使節に参加しており、また第六代将軍足利義教の頃には御用絵師となっていました。山水・花鳥画のほか仏像彫刻の制作にも携わり、享徳三年 ( 1454 ) 頃まで生存していた人です。

 雪村は常陸国に生まれ、幼くして禅寺に入り、50歳ごろ常陸を出て、会津蘆名氏を訪ねて奥州に滞在し、最晩年は奥州三春の雪村庵、いまの西田町大田字雪村に隠棲し、最後まで筆力衰えることなく制作を続けたと言われます。河合正朝・千葉市美術館館長は、雪村の遍歴の人生を『歴参』と表現され、修行のために旅を重ね、一つの場所に留まらないのは拘りを持たないということだと図録に書かれています。雪村は、禅僧であったことから、絵を描くことも修行の一つと考えていたのかも知れません。雪村と三春とのつながりは、庇護者であった会津の葦名氏が衰退しはじめた頃にはじまったとされ、当時70歳ほどになっていた雪村の晩年が、その時期にあたります。この当時の三春は、戦国大名である田村清顕の時代でしたが、頻繁に戦さをくりひろげた清顕が、一方で雪村の新たな庇護者になったことに、清顕の文化人としての側面をうかがうことができます。

 2017年に坂本裕子氏は、『なぞ多き戦国の画僧雪村に見る、奇想の源流と細部へのまなざし』に、次のように書かれています。『雪村の作風は、仙人の奇妙なポーズ、山水の特徴的な描法、動物たちの精緻ながらどこか飄々とした愛らしさ、同時に波、風、空気が、みごとに表されたものです。しかしそれらのすべてに通じているのは、細部への視線で、大きな屏風も小さな山水画も、仙人たちの豊かな表情や豆粒ほどでもしっかり描かれる風景の中の人々が・・・。そこには自然の移り変わりと人間の営みへの限りない愛情が感じられます。画僧・雪村の魅力は、その先駆的な表現のみならず、小さなもの、見えないものへ注がれる、その万物への愛着に由来するのかもしれません。奇想の源流とともに、ぜひこの細部への暖かいまなざしを楽しんでください』

 雪村の三春における門弟に、等清がおりました。等清は戦国時代の画家で、雪舟の筆法を学びましたが、雪村の画風によく似ていたと言われます。その後の江戸時代になると、狩野派の絵師で雪村に水墨画を学んで師の雪村に似せた山水、花鳥、人物を描いた雪閑がおりました。しかし雪村の没後においてもその影響は強く、琳派の大成者である尾形光琳の最晩年の傑作、『紅白梅図屏風』の構図は、雪村の描いた『欠伸布袋図』とよく似ているというのです。雪村は琳派の大成者の尾形光琳にとっても特別な存在であったようで、雪村作品の忠実な模写が残る一方雪村を慕い、しかも自作したと思われる『雪村』印を所持していたのです。その後もその作風は、伊藤若冲、曾我蕭白、酒井抱一と続いています。

 酒井抱一には、光琳に私淑して描いた、『琴高仙人図』が伝わっています。琴高仙人とは古代中国の仙人で、琴が巧みで仙術を得意とし、川の龍を捕えるために鯉に乗って水中から現れ人々を驚かせたという画面です。琴高仙人図は雪村や尾形光琳の作品が有名ですが、酒井抱一筆のこの作品は、光琳の画を基にして描いたものとされています。雪村の画は、狩野派が主流を占めた江戸時代に、狩野派の粉本( 後日の研究や制作の参考とするために模写した絵画) としても伝わりました。さらに江戸時代後期に雪村の流れを汲んだ絵師の狩野栄信は、光格上皇に屏風を進献しています。また江戸時代末期の浮世絵師の歌川国芳は、『奇想の系譜』の絵師たちの先駆け、とも位置づけられています。その後も雪村の後継者として、佐々木雪洞や狩野芳崖がいましたが、さらに明治になっても、岡倉天心が雪村を高く評価し、美術専門雑誌『国華』でも雪村をたびたび紹介しています。明治初期の2大巨頭の狩野芳崖と橋本雅邦も雪村に惹かれ、特に芳崖はかなりののめり込みようだったといわれます。

 雪村の作品は海外でも人気が高く、戦後かなりの数が流出してしまいました。 アメリカの メトロポリタン美術館、ミネアポリス美術館、 フーリア美術館、クリーブランド美術館、デンバー美術館、シカゴ美術館、シアトル美術館のほか、海外の個人にも収蔵されています。 雪村は、今の郡山市西田町雪村にある雪村庵で数多くの作品を残しましたが、三春にはほとんど残されていません。奔馬図(三春歴史民俗資料館)、達磨・山水・龍画(伝雪村筆)(以上三点、三春町福聚寺)三十六歌仙絵(三春町田村大元神社・明治十二年田村郡寺社明細書記載。ただし所在不明)それと郡山市西田町の今泉家に所蔵されている蕪図です。この絵については、1993年4月10日の福島民報で報じられました。この今泉家に所蔵されている『菁図(嘉永五年木村明細書上帳記載)』を拝観する機会を得たのですがこの『菁図』、頭部が左向きに描かれているのです。ところが京都の花園大学には、頭部が右向きに描かれた雪村の『菁図』が収蔵されているのです。素人の私は、雪村が対の『菁図』を描いたのではないかと想像しています。

 もしこの絵が雪村の筆によるものであるとしたら、ビッグニュースになると思うのですが、皆さんはどう思われるでしょうか?

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最終更新日  2021.07.20 06:30:07コメント(0) | コメントを書く
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