忘れられないお客さん・5



かわいいおばあちゃんがいた。
先生のお客さんの母親で、彼女もまた、先生にやってもらいにやってきた。
美容師の先生って結構みんなそうなのかもしれないけど、結構カリスマでさー。
みんなある種の宗教団体のように先生を崇拝しちゃってたりするんだよね。先生のお客さんとか、Tさんのお客さんもそうだったし・・・。
ところが、このおばちゃんは訳が違った。
なんたって、自分の息子より若いんである。先生。
私達には人生の師でも、おばあちゃんにしてみりゃ、若造なのだ。
金持ちのオバサマ方が「先生、今日もありがとうございました」と帰る中、おばあちゃんは「ん!よくできた!」と先生を褒める。
先生も「ありがとうございます。」と子供のようになっている。
しかし、これで可愛げのないババァならむかつくところだが、このおばあちゃん、非常にかわいらしかった。
ある日、新聞包みを持ってきた。
「うちの鶏が卵産んだんだ。先生に食べさせちゃろと思って!」
卵はまだホカホカと暖かかった。
別の日、おばあちゃんは夕方にやってきた。
待っている間に雲行きが怪しくなったのを見ると、おばあちゃんは「あれ!いけね!みいちゃん雷鳴っとこわがっから、帰ってやんなきゃなんね!」と帰る支度をする。みいちゃんって誰ですか?と聞くと、アタリマエのこと聞くな!って感じで「子猫だっぺ!」と言われた。
先生は慌てておばあちゃんの髪の毛を仕上げていた・・・。

あれから8年・・・・。
おばあちゃんが今も元気でいてくれることを祈ります。


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: