忘れられないお客さん・8


銀座の姉さんについて印象深かったのは、非常に頭のいい人が多かったこと。
英語ペラペラなんてのはアタリマエ。
毎日、新聞を持参して隅から隅まで読み尽くし、さらには文芸雑誌などを読みふける。会話をしても、非常に博識で楽しい人が多かった。

毎日若いのに、和服で来る姉さんがいた。
物静かで、品のある姉さんだった。
どうかすると、気が強くて私達美容師を下僕と間違えてるような輩が多い中、彼女は非常に人間的であった。
毎日、きちっとした束髪を結って出勤していた。
ずいぶん後になって、ある文芸雑誌で(その頃その雑誌では銀座のお姉さん方の話を連載していた)そのお姉さんがスゴイお金持ちの社長と結婚したことを知った。
たかがホステス、されどホステス。
バカにしてはいけない商売だとつくづく思った・・・・。

しかし、金銭感覚はやはり美容師の私達とは比較にならなかった。
当時「たまごっち」というおもちゃがはやって、なかなか手に入らなかった。
ある姉さんは言った。
「たまごっち、手に入れてくれたら5万円で買うわ!」(確か定価¥1000くらいだったと思う・・・。)
そして手に入れたうちの先輩は本当に5万円をもらったのである。
彼女は仕事を遅刻してまで5万円のために博品館に並んで手に入れたのであった。
そりゃぁ、5万円もらえるなら、遅刻しようが2~3日休もうがそっちの方がいいよなぁ・・・・。

お正月になると、私達は姉さん方からお年玉がもらえた。
これがすごい。
羽振りがいい人だと、1人に対して1万円とかくれちゃうのである。
私達は正月はとんでもなくお金持ちになれるのであった。
「今年も頼むわね」とこの辺は非常に律儀で日本的である。

時にはいらなくなった服やバッグをくれる姉さんもいた。
しかし・・・・・。
私のワードローブとは決定的に種類が違う為、結局一度も着ないまま・・・なんて言うのも多かった。なんたって私はたいていジーンズをはいていたから・・・。
一度穴だらけのリーバイスを履いていって、先輩に言われた。
「オマエ、ここがどこだかわかってるか?よくそんなの着て銀座の駅で電車から降ろしてもらえたな」
確かに・・・・・。
夜になるとスカウトマンも多い銀座だが、私は結局1度もスカウトされたことはなかった・・・・・・。


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