月下美人の語り草

月下美人の語り草

らぐなlock 第9話


アイラ「うぁ・・・・・。」

紛れもないミッドガルドの森で出会った少女だった。
相変わらずの無邪気な笑顔で笑いかけてくる。

少女「おねーさん?どうしたの?」
アイラ「い、いや・・えーと・・ここで、何してるのかな?」

アイラは戸惑いながらも少女に問い掛けた。
考えてみれば初めての対話である。しかも5日越しの対話ということになるか・・。

少女「別にwただこの人をぶっ飛ばしただけだよ♪」

と倒れている人影を指して言う。
人影は打撲であちこちにあざができており、ボコボコにされているのがよく分かる。
よく見れば腕や足が変な方向を向いているようだ。
普通ならにわかに信じられないところだが、森での出来事を見ているアイラにはあっさりと信じることができた。
爆発音らしきものの正体は無事判明した。

アイラ「ぶっ飛ば・・・ってどうして?」
少女「この人ね、パンを盗んだんだよ!悪いことしたらオシオキしちゃわないといけないよね♪」
アイラ「あぁ・・それで・・・。」

アイラは倒れている万引き犯と周りに散乱しているパンとを交互に見て分析した。
・・・結論、やり過ぎだ。
まさかこの男もパンの代償に己が生死の境を彷徨うことになるとは思いもしなかったろう。
・・と、遠巻きで見ていた野次馬の方で騒がしいことに気が付いた。

???「さぁさぁ!見世物じゃないんだから帰った帰った!」
???「こっちは我々が片付けるから皆はいつもの生活にもどってくれ!」

どうやら国の衛兵が駆けつけてきたようだな。
7、8人くらいだろうか。野次馬たちを追い払っている。
そのうちの3名がこちらに向かってきた。
先頭にいる男が他の者に指示を出していたので、おそらく彼がリーダーなのだろう。
水色の髪をターバンでまとめており、細目でほんわかした雰囲気のある男だ。
アイラは第一印象で『縁側でまどろむ猫』を想像した。

ターバンの男「Jupiter。また貴方ですか・・・。」

男は『やれやれ・・』といった感じで少女に話しかけた。
少女の名前は『Jupiter』というらしい。彼女らしい可愛らしい名前だ。
彼女は悪戯を見つけられた子供のように照れ笑いをしている。

Jupiter「あはは・・・」
ターバンの男「何度も言っているでしょう?一般の人に危害を加えてはいけないと。」
Jupiter「でも、ああいうの見ると黙ってられなくて・・w」
ターバンの男「それはわかりますよ。しかしね、だからって完膚なきにまで叩きのめさなくても良いでしょう・・。」

地面に倒れて完璧に気を失っている万引き男と市場の惨状を見ながら、改めてため息をつく男。

Jupiter「あはは、ごめんね♪」
ターバンの男「ふぅ・・仕方ありませんねぇ・・。この商品とお店はどなたの所有のものですか?」

衛兵に言って中に入れてもらったのか、中年の女性がこちらに進み出てくる。

おばさん「私だよ。」
ターバンの男「申し訳ありません。この娘には私からも重々言い聞かせておきますので、どうか許してはいただけませんでしょうか?もちろん商品代やお店の修理代はお支払い致します。」
おばさん「あっはっはwいいんだよぉそんなこと気にしなくてwジュピちゃんも悪気があってやったんじゃないんだしさ♪」

中年女性は笑いながらJupiterの頭を撫でつつ答えた。
「それにね・・・」と言葉を続けた。

おばさん「お店やパンはまた作ればいいけど、『誰かのために何かをする』っていう貢献の心はそう簡単に作れないからね。ジュピちゃんがその心を持ち続ける為の糧になったと考えれば安いもんさね♪」

暖かい眼差しでJupiterを見る中年女性。まるで母親のようだ。
その口調でまったく怒っていないことがよくわかる。
Jupiterはホントに大切に思われているようだ。
その言葉に深々と頭を下げるターバンの男。

ターバンの男「・・・ありがとうございます。」
おばさん「まっ、弁償代はありがたくもらっとくよ♪」

一連の話をずっと見ていたアイラ。
どうやら中年女性の言葉にちょっと感動してしまったようだ。
言葉もなく立っていると、ふとターバンの男がこちらに視線を向けた。

ターバンの男「・・おや?貴方は・・どこかで見覚えがありますねぇ・・・。」
アイラ「・・・え?」

そう言われてアイラも思い返してみる・・・が。

アイラ「・・・私は知りませんけど。」
ターバンの男「・・・あぁ!そうだ、官邸で見たことがありますね。チラッとですが。」
アイラ「あぁそっか。つい先日入国したばかりで、その時に官邸に行きましたね。」
ターバンの男「そうでしたかw申し遅れました。私はリュシス国の親衛隊長を務めております、pockiと申します。以後お見知りおきを・・・。」

親衛隊長といえばかなり高位の役職だ。
そのわりにかなり腰の低い対応をしているが、これも彼の秘めた実力からくる余裕だろう。
真に優れた者は相手によって態度を変えたりはしないものだ。
慌ててアイラも挨拶を返す。

アイラ「あっ・・と。アイラです。よろしくお願いします。」
Jupiter「ふぅん・・おねーさん、兵士だったんだぁw」
アイラ「うん、そうよwよろしくね♪」
Jupiter「私もそうなんだよ♪がんばろうね!」
アイラ「・・・え?」

聞き間違いか・・?と思いpockiに確認の視線を送る。
しかし彼は動じることなく頷いてみせる。

pocki「そうです。彼女も我が軍の兵です。こう見えても我が軍の主戦力の一人なのですよ♪」
Jupiter「えへへw」

実力的には確かに申し分なかろう。強ければ年齢は関係ないということか。
しかしこの国には化け物クラスの力を持つ者が続々と出てくるものだ・・・。
アイラはこの先やっていけるか自信をなくしかけている。

pocki「まぁアイラさんも焦ることはありません。誰だって最初は力を持たないものです。自分のペースで着実に強くなっていけば、いずれ皆から頼りにされるような力を持つことができますよ♪」
アイラ「・・・はぁ。ありがとうございます。」
pocki「さて、そろそろ行きましょうかJupiter。貴方にはみっちりとお仕置きが待ってますよw」
Jupiter「ゲッ・・ぽ、ポキさん勘弁して♪」
pocki「ダメですwさぁ行きましょう。」
Jupiter「こ、こうなったらポキさんを気絶させて・・・!」

・・とJupiterはpockiのみぞおちを狙って拳を繰り出した!が、身体をひねりあっさりとかわされる。

pocki「無駄です♪」

笑顔のまま言い放ちJupiterを連れて去っていくpocki。
むぅ・・やはりこの男も只者ではなかったか・・・。
先は遠いな、アイラ・・・。

アイラ「・・・・・そうね・・・。」

妙な脱力感に見舞われるアイラ。
どうでもいいが、この万引き男はどうすればよいのだろうな・・・。
一応生きてるみたいだが。

アイラ「捨てとこう。」

そだな。

万引き男「しくしくしくしく・・・・。」

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