月下美人の語り草

月下美人の語り草

らぐなlock 第15話



ぶつぶつ言いながら街に帰ってきたアイラ。
ふと見上げると月が街並みを明るく照らしている。
うむ。いかにも犬や狼が吠えそうな夜だな。
アイラは『狼』という言葉に銀狼を思い出したのか、憮然としたまま宿へと向かう。
宿に近づくと人影が入口のところに立っているのに気がついた。

アイラ「・・・・・牛?」
牛「やぁ♪いい月夜だねwちょっと一緒にその辺歩かないかい?」
アイラ「ナンパならお断りよ。そんな気分じゃないし。」

冷たくあしらって宿の中にはいろうとするアイラ。
しかし牛は断られることが読めていたのか、落ち着いて言葉を続ける。

牛「そっか、残念♪銀狼さんのこと知りたいんじゃないかって思ったんだけど。」
アイラ「・・・えっ・・?」

言われてアイラは振り向く。
牛は真面目な顔で月を見上げている。
その表情からは何も読み取ることはできない。
牛はそのまま黙って歩き出した。

アイラ「あ・・ちょっと・・・!」

アイラは一瞬躊躇ったが牛の後を追い歩き出した。


夜の広場はとても静かだ。
昼間であれば遊ぶ子供たちや犬の散歩に出ている老人の姿がちらほらと見られる。
休日にはカップルがいちゃいちゃしてる姿も見ることができるだろう。見たくもないが。
月の光で十分明るいが、ここには街灯が数多くあるせいもあってより一層明るさを増している。
牛とアイラは広場中央にある噴水まで歩いてきていた。
二人はここまで一言も話さずにいた。
立ち止まり噴水の水を見ながら沈黙している牛。
アイラは牛が話し出すのを黙って待っていた。

牛「・・・彼と蜘蛛さんはね、知っての通り国を隔ててはいるけど仲はすごくいいんだ。」
アイラ「・・・・・。」

ポツリポツリと牛が話し始めた。アイラは黙って聞いている。

牛「ちょっと前にヘルヘイムの国の王様が不在になっちゃってね。その時も結構悩んでたみたいなんだけど、銀狼さんが相談にのってあげてたよ。」
アイラ「そんなことが・・?」
牛「うん。それで蜘蛛さんを王様に推してたのも銀狼さんでね、王様になった時は銀狼さんもそれは喜んだものさ。」
アイラ「はあ・・・!?」

アイラは一瞬何を言っているのかわからなかった。

アイラ「蜘蛛が・・・王様になった・・・・!?」
牛「え・・あぁ、うん。・・・知らなかったの?」
アイラ「ちっとも・・・。そんな威厳まったく感じなかったし・・。」

うむ。確かに。
オーラというか・・・そういうものがまったく、な・・・。
王だと言われなければまったく連想できない。
というか王だと言われても信じられないこの始末・・・。

牛「ま・・まぁ普段はそうは見えないけどね。いざとなったら凄いんだよw」
アイラ「ふぅん・・・まぁ塔では一応お世話になったし・・。あ、だからあの時衛兵が驚いてたんだ・・・。」

そうだな。そういえば塔では鋭いことを言っていたか。
アイラも一応は納得する。

アイラ「それで?どうしてその大切な友人を見捨てるようなことをするっていうの?」
牛「それは・・彼が・・銀狼さんがすごく仲間想いだからさ・・・。」

・・・?意味が繋がらない・・・。
なぜ友を見捨てるというのに仲間想いなのか・・・。
当然アイラにも分かろうはずがない。

アイラ「・・・どういうこと?」
牛「彼は個人ではない。王としての立場がある、と言えばわかるかな?」

アイラは牛の言わんとしていることに気づいた。

アイラ「・・・銀狼さんの判断が彼を慕って集まった者の運命を左右する、ってこと?」
牛「そう。彼とて迷わなかったわけじゃない。現状を見て、最善の選択をしただけさ。」
アイラ「だからって・・・友人を見捨てることを選ぶなんて・・・。」

アイラは足元に目を向けて思案した。
銀狼の気持ちはわかる。
客観的に見て王の立場からすれば、確かに友より国を守るのが普通だろう。
それが王の責任であり義務だ。
しかし友を犠牲にすることはアイラには耐え難いものなのだ。
銀狼も迷っただろう。
王としての立場。銀狼個人としての私情。
様々なものが入り混じって、選択から逃げたい気持ちも生まれたであろう。
だがそれでも答えは出さなければならない。
彼を慕う国民。彼を信じる友。彼を国として見てくる同盟国。そして彼自身の誇りのために・・・。

牛「・・・それなんだけどね。彼は蜘蛛さんを見捨てるなんて一言も言ってないよ。」
アイラ「・・・・・え・・?」

アイラが顔を上げると牛は笑みを浮かべていた。

アイラ「それって・・どういう・・。」
牛「さてね。それはおいおい分かっていくでしょう♪あぁ・・話し込んじゃったかな?今日はこの辺で失礼するよwそれじゃ、おやすみ子猫ちゃん♪」

牛はくるりと背を向け手を振りながら去っていく。
アイラは牛の言葉の意味を考えながら牛を見送った。
ただ一人広場にぽつんと立っているアイラ。
頭の整理がつき、宿へと歩き出したのはそれから1時間後のことだった。


翌朝、アイラは官邸に銀狼を訪ねてきた。
銀狼の行方を使用人に聞いたところ、このところ朝はいつも訓練場にいるとのことだ。
訓練場は官邸の別館にあり、ここでは軍の各部隊に所属している者同士が日夜剣を交え、お互いを鍛え磨いている。
アイラが顔を出すのは初めてであった。
近づくにつれて剣のぶつかり合う音がだんだん大きく聞こえてくる。
音だけ聞いていても凄まじい剣技であることがわかる。
アイラは訓練場の扉を開き中を覗いた。
中はだだっ広く何もない空間。天井は高くどんなに高く跳躍しても届きそうもない。
四方を取り囲む壁には様々な武器が立てかけられている。
そんな中、中央でただ二人だけで戦っている者たちがいる。
銀狼とpockiだ。

銀狼「・・・・はぁぁあああっ!!」
pocki「・・・ッッ!!?」
キィンッッ!!

銀狼の放った横払いの一撃でpockiの剣が跳ね飛ばされた。
銀狼の剣の切っ先がpockiの喉元に突きつけられる。

銀狼「・・どうした?そんなことでは戦争では生き残れんぞ?」
pocki「はは・・キビしいですねぇ・・・。」

言い放つ銀狼にpockiは苦笑いで返す。
親衛隊長をこうも簡単にあしらうとは・・銀狼はやはり国内最強・・・。世界でも指折りの強者であることは間違いなかろう。

キィ・・・
銀狼「・・・?」
pocki「・・・・・アイラさん?」

訓練場の扉が軋み、その音に銀狼たちが振り向いた。
二人はここで初めてアイラの存在に気づく。

銀狼「・・・こんなに朝早くどうした?」
アイラ「あ・・えっと・・・。」

昨夜の牛との会話・・・。
銀狼が一体どういう気持ちでいるのかはなんとなく分かった。
しかし最後の言葉がどうしても気になったのだ。
『蜘蛛さんを見捨てるなんて一言も言ってないよ』
蜘蛛をどうするつもりなのか。それがアイラは知りたかった。

アイラ「あの・・あのね・・・!」

アイラは銀狼の眼を見た。
迷いがない、澄んだ眼。全てのことを受け入れ、己の信じる道を進むと決意した眼。
それを見た瞬間、疑問は霧となって消えた。
『もういい。この人を信じてみよう。私が口出しすることではない。』

銀狼「どうした?早く言え。」
アイラ「あ・・・そ、そうそう!銅の鎧、ありがとねっ♪」

急遽口にする言葉を変更した。
銀狼は少々面食らったようだ。

銀狼「あ、あぁ・・・気にするな。もう使わなくなったのでな、誰かが使わないともったいないだろう?」
アイラ「うん、ありがたく使わせてもらうねw」
銀狼「・・・それだけか?」
アイラ「うん、それだけ!じゃねっ♪」

慌しくアイラは訓練場から姿を消した。
眉をしかめて顔を見合わせる銀狼とpockiであった・・・。


アイラ「・・・見届けよう。銀狼さんの覚悟を・・・。その中で私ができることを精一杯やればいい・・・。」

官邸から出てきたアイラは決意を固め、訓練へと出発した。

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