月下美人の語り草

月下美人の語り草

らぐなlock 第18話


窓から差し込む眩しい光で少しクラクラしてしまうが、幾分目は覚めた。
壁に掛けてある鏡に目を向けると、自分の顔がそこにある。・・・が、頭は爆発したようにあちこち髪がハネている。
苦笑したように小さく息をつき、バスルームへと足を運ぶ。
彼女の目を覚ますのと身だしなみを整えるのには一番の方法だろう。
『サー・・・』とシャワーの音が聞こえてくる。
・・・さすがに中までは実況中継はできない。男性諸君には残念だが我慢してもらいたい。
『キュッ・・・』と水を止める音が聞こえ、しばらくすると濡れた髪の彼女が下着姿で出てきた。
手早く戦闘用に用意したシャツとズボンを身につける。
サッパリした表情で髪をタオルで乾かしている。
いつもより少し少なめの朝食(ハムトースト)を口にしながら、ベランダに腰掛けて髪を風にさらす。
・・・長い黒髪が静かになびいている。
目を瞑り、物思いに耽る。
静かだ・・・。まるで音がこの世から消え去ったように・・・。
しばらくの後、彼女はスッと立ち上がり準備に取り掛かり始めた。

使い慣れた鞣革製のグローブを手にはめ、2・3度握ったり開いたりして使い心地を確かめる。
旅に出てからこの国に仕官するまで、長い間使っていたナイフは刃こぼれが酷かったのでつい先日新調した。
この先どんな敵が待ち受けているのかわからない。装備は万全にしたかった。
『鉄の剣はいらないな・・・。』と宿のベッドの枕元に立て掛けた。
銀狼よりもらった銅の鎧を身につける。ひんやりと冷たい。
軽く身体を動かし、装備が動きを制限しないかどうか確かめる。
うむ。問題ないようだな。
宿の親父に挨拶を済ませ、宿の外に出る。


・・・どこからか、風が歌を運んできている。
子供に聞かせるような優しい・・・けれど悲しい歌・・・。
世界が・・・泣いているのかもしれない。
これから起こることを考えれば・・・そう思わずにいられない。
空を見上げた。
その日はいつもより空が青い気がした・・・。



銀狼「調子はどうだ?」
アイラ「悪くないわ。」

準備運動をしながら答えるアイラ。
ヘルヘイムとの決戦前だ。準備運動は欠かせない。

銀狼「そうか、それならいい。・・・ヴァルハラには強い武将が守備についている。油断するなよ。」

真剣な目で忠告し、他の兵の方に歩いていく。
・・・全ての兵に激励をしに回っているのか。相変わらずマメな男だ。
先程ヘルヘイム戦についての作戦の説明があった。
攻撃目標は2つ。ヘルヘイム国『要塞』とヴァルハラの街。
軍を2つに分け、銀狼含む主力部隊で要塞を攻め、残りの人員はヴァルハラの街を攻める。
ディストピアも同じような部隊配置のようだ。
そして、アイラはヴァルハラ攻めの部隊であった。
アイラは同じ部隊の面々を見回す。
・・・アイラもそうだが、戦争に不慣れな者ばかりだ。
緊張の余り顔面が蒼白になっている者や、ピリピリして怒鳴りつけている者もいる。
これでは開戦しても苦戦しそうだ・・・。
アイラは・・・落ち着いているな。大したものだ。

アイラ「・・・私には目的があるから・・。」

目的か・・・。蜘蛛のことであろうな。
この戦いの向こう側にあるもの。それを見届けること、か。
おそらく辛く厳しい戦いになるだろうが・・・な。

Jupiter「おねーさんっ!」
アイラ「・・・ん?」

人ごみの中からアイラの姿を見つけてJupiterが駆け寄ってきた。

アイラ「ジュピちゃん、おはよう♪ジュピちゃんも同じ部隊?」
Jupiter「ううん、要塞攻め部隊になっちゃったwヴァルハラの街、さっさと落として手伝いに来てねっ♪」
アイラ「あはは・・・^^;先に要塞の方が落ちちゃうかもねw」
Jupiter「ふふwじゃあ競争だね!頑張ろうねっ♪」

手を振って走り去っていく。
その元気な後ろ姿に思わず笑みがこぼれる。
ああいう周りに元気を振りまいているところが、周りから好かれる所以なのだろうな。
その様子を見ながら近づいてくる者がいる。

牛「やぁマイハニー♪今日も笑顔がステキだねw」
アイラ「牛・・・あなたもいつも変わらないわね。」
牛「オ~ゥ、当然さマイハニー☆ミーはいつでもどこでも君に夢中なのさっ♪」

おどけてアイラにウインクをする。
しかもなぜかハートが浮かんでアイラの方に飛んでいっているように見える。
アイラはハートをわざわざナイフで受け流しながら言葉を返す。

アイラ「・・・こんなのが部隊の隊長なんてね・・。信じられないわ、まったく・・・。」
牛「ナイフで受け流すなんて・・ヒドイ!Σ( ̄□ ̄;)そんなことしたらミーのハートがギザギザになっちゃうじゃないか!触るものみな傷つけちゃうじゃないか!」
アイラ「はいはい・・JASRACに引っかからないうちにその辺にしときなさい(==;)」

アイラはわけのわからないことを言って牛をなだめた。
牛もとりあえず納得したのか、話を変えた。

牛「さて・・・あと少しで開戦だ。準備は大丈夫かい?」
アイラ「えぇ。いつでもいいわよw」
牛「僕らはヴァルハラを制圧するのが目的だ。しかしその為には街を守る強者を倒さなければならない。」

牛は視線をヴァルハラに送りながら続ける。

牛「あの街は様々な武将が守っているが・・その中でも突出した力をもった者は3人だ。」
アイラ「・・・3人?」
牛「そう。一人は『zero』という仮面の剣士だ。特徴としては・・・とにかくテンションが高い。」
アイラ「テ、テンションって・・・^^;」

アイラは『なんだそりゃ』と思ったが、牛は構わず話を続けた。

牛「戦いを楽しんでいる節があってね。テンションもそこからきているのだろう。そして腕は確かだ。彼の剣の一撃はとてつもなく重い。うかつに剣で受けようものなら腕が痺れてしまうこともある。」
アイラ「・・・・・。」
牛「彼に出会うようなことがあれば十分注意することだね。そして次に・・・『エン』という女剣士だ。彼女もなかなかのナイスバディで僕好みの・・・いや、えっと・・・あ、そうそう彼女の神速について来れる人はいないっていう噂だよw」

・・・どうもこの男の情報は主観が入って(特に女性のことになると情報が偏って)しまうようだな。
実際に見てみなければ詳しいことはわからんか・・・。

牛「最後の一人・・・『須佐之男』。色黒の大男でね、とんでもない怪力らしいよ。素手で大木をへし折るって噂もあるくらいだ。彼に出会ったら捕まらないことだね。」
アイラ「・・・手強そうね。」

怪力だけなら捕まる前に速攻で仕留めれば良いのだが・・・ここまで噂になる程の男だ。それだけではあるまい。

アイラ「・・・その3人。牛なら・・・勝てる?」
牛「・・・どうかな?勝負はやってみなければわからないよw」

牛はアイラに笑って答えた。

牛「純粋に力が上だったとしても、それだけで勝負が決まるものじゃない。運や状況、何よりもその戦いに対する気持ちの入り方次第で勝敗は大きく左右されるもんだよw」
アイラ「気持ち・・・。」
牛「相手は国を守ろうと必死になってる。十分気をつけて・・・。」

最後に牛は一瞬真顔になって忠告した。
アイラは頷き、ヴァルハラの街を見つめていた。


そして1時間後・・・戦いの火蓋は切って落とされた。

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