月下美人の語り草

月下美人の語り草

らぐなlock 第23話


リュシス・ディストピア連合軍の兵たちはみるみるうちに蹴散らされ、司令官のいる本陣まで押し迫られていた。
先陣を務めているのは仮面の男zero。
度重なる戦いで体中に傷が無数についているが、まだまだ元気に動きまわっている。

zero「うはwwwお前らじゃ話になんねェ!とっとと司令官を出しやがれってんだwwwww」

目の前に壁となって立ちはだかる親衛隊の兵たちを一撃で斬り払いながら叫ぶ。
武将までの力を持っていないとはいえ、彼らもそれなりに実力を持っているのだが・・・。
zeroの前では子供も同然のようだ。

「俺が相手をしてやろう。」

一つの影がzeroに斬りかかった!
zeroは慌てず剣で打ち払う。

zero「・・・!?お前は・・・。」
ディス「よう。やっと追いついたぜ。」
zero「何故お前がここに・・・。エンちゃんは・・・!?」
ディス「・・・さてな。」

・・・とたんに雰囲気が一変した。
あれほど騒がしかったzeroが無言になり、動きを止め俯く。
ディスはもちろん、周りの兵たちも不可解に思い警戒したまま様子を窺っている。
しかし空気の読めない者というのはいるもので、兵の中の一人が佇んでいるzeroに襲い掛かった!
その瞬間、仮面の奥の眼が光る。

ッヒュン!
・・・どさ

風を切る音。
襲い掛かった兵はそのまま倒れ、二度と目を覚ますことはなくなった。
・・・見えない。太刀筋がまったく・・・。
ディスでさえもわずかに目で追える程度だ。
zeroは顔を上げ、静かに言い放った。

zero「・・・・・殺す。」
ディス「ぐぁ・・ッ!?」

言い終わらぬ間に一瞬の隙をつかれ、ディスのわき腹は切り裂かれていた。
傷は・・・深くはない。
しかしこの力の差は・・・万全の状態であっても辛いだろう。
スピード自体はエン程ではない。しかし力や技は圧倒的だ。
ディスが攻撃を受けたのを見て、兵士たちは我に返った。
弾かれたように動き出しzeroに殺到する。

ディス「や・・やめろ!お前たちでは到底敵う相手ではない!!」

ディスの叫びも虚しく、次々と倒れていく兵たち。

ディス「くそっ!俺も行かねばならんか・・・!!頼むぜ、護衛獣の剣・・・ッ!!」

受けた傷の止血もそこそこに、護衛獣の剣を携えてzeroに斬りかかるディス。
ギィンッ!!
さすがのzeroも護衛獣の剣の威力を完全に押し殺すことはできなかったか、受けた剣を弾かれてバランスを崩してしまう。
その隙を狙い、周りの兵たちが襲い掛かる。
zeroは弾かれた剣を捨て、その右手を素早く天にかざした!
兵たちの剣がzeroに届くよりも早く、宙に黒い紋様が浮き上がり空間が裂けはじめる。
zeroを取り囲む兵たちはほとんどがその空間の裂け目に吸い込まれていく。
ディスも剣を地面に突き立てて耐えている。
とても攻撃などしている余裕はない。

ディス「クッ・・・これが『エビル・ゲート』か・・・。噂には聞いていたが・・強力過ぎる!!」

ひたすら技が終わるのを耐え続けるディス。
やがて空間の裂け目が閉じ始め、吸い込む力も弱まった。
ディスは一息ついた・・・が、殺気を感じ慌てて横へと跳んだ!
その勢いで地に刺した剣を抜く。
先程いた場所に目をやれば、すぐ背後にまでzeroが来ていたことがわかった。
いつの間に拾ったのか、剣を右手に構えて徐々にディスに近づいてきている。
ディスは覚悟を決め、剣を構えた・・・。


zeroの攻撃をずっと見定めている者がいた。
ヴァルハラ攻撃部隊の司令官、牛である。
・・・どうでもいいが、このシリアスな場面でこの名前はムリがあるな・・・。
え~っと・・なになに?ふむ・・・牛は本当は『蒼牛』というのか。
こっちならまだマシだな・・・。

蒼牛はzeroと闘うため、剣を抜こうとしていた。
本来ならば司令官である彼は先陣に立ってはならない立場である。
しかし彼は次々と倒れていく仲間たち、そしてこれから傷つこうとしている仲間たちをこのまま見過ごせるほど冷めた男ではなかった。
剣の抜き、一歩進み出る。

「私が出よう。」

後方より引き止める声がした。
振り返ると少年のようなあどけない表情をした剣士が一人こちらを見ている。
軽く茶の入った長い黒髪を後ろで束ねており、動きやすさを重視した身なり。
瞳は蒼く澄んだ色をしている。
この顔を見るのは初めてだが、蒼牛には彼が誰だかすぐにわかった。
温和な顔立ちとは裏腹に、この隠し切れぬ強大な力は間違えようもない。

蒼牛「・・・こちらの軍におられたのですか。てっきり要塞攻めの方におられると思っていました。確か当初の作戦ではあちらに名前が連なっていましたが?」
剣士「ふふ・・あちらにはシュウくんや銀狼くんがいるからねwそれに・・・こっちの方が面白そうだと思ってさ♪」
蒼牛「それはそれは・・・相変わらず気まぐれな御方だw」
剣士「ははっwそれが私の持ち味だからね♪それに何より・・・。」
蒼牛「何より・・・?」
剣士「あのzeroくんには個人的に因縁があってね・・・。ちょっと戦いたかったのさ。」

スラリと剣を抜きzeroの方へと散歩でもするような足取りで進んで行く。
その背中を見ながら蒼牛は一つのことを確信していた。
『この戦いはもうすぐ終わる』と。


ディス「はぁ・・・はぁ・・・。」

zeroの攻撃で身体のいたるところに裂傷をつくり、息を荒くするディス。
今のところ致命傷はないが、一瞬でも隙を作れば即座に死が待っている。
普段使っていた鉄の剣はすでに折れてしまい、使い慣れない護衛獣の剣で応戦している。
とはいっても防戦一方だが。

ディス「・・・ッ!?」

重い一撃で剣を弾きとばされた!
剣を拾いに行く余裕はない。

ディス「(もはやこれまでか・・・!)」

ディスは覚悟し、目を瞑って苦し紛れにその拳を繰り出した。

ギィンッ!!
びしっ・・・

金属音と何かの激突音が聞こえる。
ディスは拳に妙な手応えを感じ、目をうっすらと開き様子を窺った。
目の前にはzeroの一撃を剣で受け止めている剣士の姿があった。
そしてその剣士はディスの拳をも受け止めていた。・・・顔で。
あ・・・痛がってる。そりゃそうか。

ディス「あ、ごめん。」
剣士「ふ、ふふふ・・・なかなかいい拳してるじゃない。私と一緒に世界目指すかい?」

いや、そのネタはすでに以前アイラがやったから。
まぁそれはいいとして、zeroが驚いた表情で剣士を見ている。

zero「・・・く、黒猫・・・!?」
黒猫「やぁzeroくんw久しぶりだねぇ♪」

黒猫の方は旧友にでもあるかのような口振りだが、zeroの方は明らかに怖れが混じった声をしている。

zero「な・・なんでこんなところにお前が・・・ッ!?」
黒猫「いやぁ、ちょっと今ディストピアの国王の代理をしていてねwzeroくんが暴れているって聞いて出てきちゃったよ♪」
zero「くそっ!邪魔するのならお前も殺す!!」
黒猫「ふぅん・・・やってみなよ。」

目を細め獲物を狙うようにzeroを見る黒猫。
まさに名前の通りネコ科の肉食動物のような鋭い眼光でzeroを捉える。
zeroはその眼光に射竦められ、一瞬怯む。
だが大きく雄たけびを上げ、自分を奮い立たせて黒猫へ攻撃を仕掛ける。
恐怖に縛られているとはいえ、zeroの動きは速かった。
地を蹴り、剣が閃く。
zeroの剣が黒猫の姿を刺し貫く!

zero「・・・!?」

手応えがない。貫いたのは残像に過ぎなかった。

黒猫「いくよ。」

すぐ背後から黒猫の声が聞こえた。
zeroは振り返る間もなく攻撃を受けた!
ザンッ!!!
まともに背中を切り裂かれ、戦場に悲鳴が響き渡る。
しかしまだ黒猫は動きを止めない。
2撃・・3撃・・4撃・・・5連撃をくらわせ、ようやくzeroを解放する。
zeroはもはや悲鳴をあげることもできず、膝から崩れ落ちる。
誰がどう見ても致命傷である。

黒猫「・・・この戦いはもうキミらの負けなんだ。これ以上無駄に命を散らさず降伏すべきだったんだよ・・・。」

倒れたzeroを見下ろしながら呟く黒猫。
そして・・とどめをさすつもりだろう、右手の剣をゆっくりと振り上げた。
振り上げた剣を今にも振り下ろそうとした・・・。
と、その時。

「待ってッ!!」

突然の制止に思わず剣を止める黒猫。
辺りを見回し声の主を探す。
一人の女性が近づいてくる。
水色の髪。妖艶な目つき。整った顔立ち。ナイスバディな体つき。
ヘルヘイム軍武将、エンである。
しかし服装は埃まみれで両手には武器を携えていない。
以前までの優雅さは見られなくなっているが、その表情だけは凛としていて翳りがない。

エン「・・・もう・・許してあげて。」
黒猫「ふむ。しかしこの男はまだ戦うつもりのようだけど?」

見るとzeroはゆっくりとだが立ち上がろうとしている。
それを見たエンはzeroに向かって駆け出した。
立ち上がりふらつくzero。弱々しげに剣を構えようとする。
それをガッと掴み押さえるエン。

エン「zeroちゃん・・・もういいの。もう戦わなくていいのよ・・・!」
zero「・・・エンちゃん・・?・・無事だったのか・・・よかった。あとは・・こいつをぶっ飛ばせば・・・。」
エン「いいんだってば!貴方が一番国のこと想ってるのはわかってる!でも・・・これ以上やったら死んじゃうよぉっ・・・!」

最後は涙声になりながらzeroを諭す。
zeroはそんなエンの様子を見、寂しそうな眼をして空を仰ぐ。
やがて糸が切れたように力が抜け、前のめりに倒れこむ。
慌ててエンはzeroを受け止め、その場にゆっくりと寝かせる。

黒猫「・・・もういいだろう。この戦いは終わった。・・・それでいいかな、司令官殿?」
蒼牛「ええ。これ以上は無意味です。誰か、この二人を救護班の元へ連れて行ってくれ。・・・丁重にね。」

他の兵もあらかた投降したようだ。
まだ反抗を続けている者もいるが、直にそれも鎮圧できるだろう。
ヴァルハラ防衛軍は、ここに終わりを迎えたことになる。

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