月下美人の語り草

月下美人の語り草

らぐなlock 第24話


心地良い風が頭の方から吹いてくる。そこで初めて自分が仰向けに横たわっていることに気づく。
何故寝ているのか。どうも記憶が曖昧ではっきりしない。
とりあえず上半身を起こす。
荒野のど真ん中。あれ程数多くいた兵たちの姿が見当たらない。

「目が覚めたか?」

後ろより声が掛かった。振り向くと色黒の大男が座り込んでいる。
体中怪我だらけで、立ち上がることもできないようだ。
特に右の肘は動かすこともできず、左手も砕けていて酷い状態だ。
腹には青いアザまでできている。

アイラ「・・・あれ?何がどうなって・・・?」
須佐之男「ふむ。やはり覚えておらんか。」
アイラ「確か貴方と闘ってて・・・それで私が攻撃を受けて・・・負けた、はず・・。」
須佐之男「勝ったのだよ。この儂に、な。」
アイラ「・・・え?」

信じられない、といった表情だ。
確かにあの状況ではにわかに信じられまい。
状況を見ていた私も今でも信じられない。だが事実である。

須佐之男「負けたのだ。お前の底力にな。満身創痍でありながら、あそこまで力を出せるとは思わなかった。」
アイラ「満身創痍・・・そうよ!私攻撃をまともに受けたはず・・・無事でいられるはずないわ!」
須佐之男「・・・無事ではなかったがな。意識を失くし、折れた肋骨が肺を突き破りながらも立ち向かってきたのだ。私を遥かに凌駕する力でな。」
アイラ「そんな・・・それじゃあ何故私は生きてるの!?何故怪我が消えているの!?」

・・・そうなのだ。彼女はどこも傷ついている様子はない。
あの時、閃光が二人を包んだ。
光がおさまった時にはすでにアイラの傷は全て癒えていた。
そして糸が切れたようにパッタリとその場に倒れこんだのである。
状況から察するに、あの光は・・・。

須佐之男「『エンドオブヒール』・・・あの状況からお前を救うにはそれしかなかった。正直、上手くいくか賭けだったがな。」
アイラ「私を・・助けてくれたの・・・?一体どうして・・・。」
須佐之男「死なすには惜しいからな。それに・・また闘い、勝つまでは死んでもらっては困る。」

ニヤッと笑みを浮かべる須佐之男。
それを見たアイラも微笑を返す。

アイラ「一応、お礼を言っておくわw」
須佐之男「なに、いずれ貸しを返してもらうさ。・・・どうやらヴァルハラは落ちたようだな。」

ヴァルハラの街に目を向けると紫色の旗が下ろされ、代わりに茶色と水色の旗が掲げられている。
戦いが終わったと実感がわく。

須佐之男「だがヘルヘイム要塞はまだ国王が堅守しているようだな。・・・お前も加勢に行くのだろう?」
アイラ「えぇ・・・。銀狼さんと空野蜘蛛、二人の闘いの行く末を見届けるのが私のこの戦争の参加理由だから・・・。」
須佐之男「そうか・・・。儂の分まで見届けて来てくれ。儂はしばらく動けないのでな・・・。」
アイラ「わかったわ。しばらくすれば救護班がくると思うから、それまで安静にしてて!」

言って要塞に向けて走り出すアイラ。
その姿を見送りつつ須佐之男は笑みを浮かべた。

須佐之男「ふ・・・あのような娘がまさか『発勁』をつかうとはな・・・。これだからこの世界は面白い・・・。」


アイラ「・・・発勁?」

そうだ。先程の闘いでお前が使ったのだ。
でなければ勝てはしなかったろう。

アイラ「う~ん・・覚えてないなぁ・・・。」

凄かったぞ。あの男の正拳突きを弾き返し、逆に砕く程の威力だったからな。
あれを自在に使えるようになれば、更に上のレベルの強敵とも互角に渡り合えるようになるだろう。

アイラ「覚えてないんだからやり方もわかんないってば。。」

そんな掛け合いをしつつアイラは要塞へと急いだ。



シュウ「まだ落ちないのか・・・。よく耐えているな。」

シュウは小高い丘の上で要塞攻めの総指揮を取っている。
風に乱された長い水色の髪をかきあげつつ、馬上から戦場を見下ろしていた。
戦況は当初連合軍が押していたのだが・・つい先程伝令から『敵国王、空野蜘蛛が要塞より出陣した』との情報が入った。
その影響からか敵国兵士の士気が上がり、一進一退の状況にあった。
やはり国王自ら戦場に立てば軍の士気が段違いだ。

シュウ「やれやれ・・・こちらも国王(代理)様がいれば士気の差も埋めれようが・・・。一体どちらへ行かれたのやら・・・。」

『困ったもんだ』とでも続きそうな口ぶりである。
士気が高ければ、時に実力以上の力を発揮することができる。
今のヘルヘイム軍が良い例であろう。
代わりに士気が低ければ、どんなに実力を持っていたとしてもそれを十分に発揮することができずに敗れ去ってしまう。
連合軍は別に士気が低いわけではない。しかし力が拮抗すればするほど、軍の強さというのは士気で決まってしまう。

シュウ「さて、この状況を打開するにはっと・・・ん?どうしたんだい?」

シュウが考え込んでいると、いつの間にか目の前に一人の少女が立ち『じ~・・・』っと見ていた。
別に少女だからといって迷い込んできたわけではない。
彼女もれっきとした戦士である。それは彼も知っている。
だから彼女がここにいる理由は一つ。

Jupiter「あたしの出番はまだぁ?」

退屈で仕方がない、というような様子だ。口を尖らせて言っている。
まぁ確かにじっとしているよりは身体を動かしていたいと思う年頃だろう。

シュウ「まぁまぁ・・もうちょっとだけ我慢してくれないかな?今作戦を考えてるから^^;」
Jupiter「むー・・・わかったよぉ~。」

頬を膨らませて持ち場へと戻るJupiter。
その途中で銀狼とpockiの二人とすれ違う。
腹いせか、すれ違いざまにpockiのみぞおちに一撃を喰らわす。
『おごぉっ!?』という呻きを残し悶絶するpocki。
予想外の攻撃でかわせなかったか・・・。気の毒に。
『自分でなくて良かった』と思いつつ銀狼はシュウへと近づく。

銀狼「シュウ殿。頼みがある。」
シュウ「頼み?なんでしょうか。」
銀狼「敵国王、空野蜘蛛との一騎打ち・・・俺にやらせてはくれまいか。」

その言葉を聞き、シュウの目が細くなる。
いや、まぁ元々にこやかな顔つきのせいもあって目はいつも細かったりするのだが、『より一層』ということで。

シュウ「しかし・・貴方と空野蜘蛛は旧知の友と聞いております。相対すれば剣が鈍るのではありませんか?」
銀狼「奴と戦うのに躊躇いはない。むしろ他の誰が戦っても我慢ならんのでな。」

言葉の裏を探るようにシュウは銀狼の眼を窺った。
強い意志は感じられるが、その思惑までは巧妙に隠されている。
シュウは完全には言葉を信じることはできなかったが、銀狼に任せることにした。

シュウ「・・・わかりました。彼の王は貴方にお任せしましょう。」
銀狼「・・・感謝する。」
シュウ「それでは銀狼殿の為に突破口を作るとしましょうか。空野蜘蛛がいるのは中央の本隊。まず敵軍を少数精鋭で一点集中突破し守備兵を蹴散らす。そして銀狼殿が彼の王を倒すということで。貴方が闘っている間は私たちは他の兵が近づけないようにしましょう。」
銀狼「わかった。よろしく頼む!」

少数精鋭部隊に選ばれたのは以下の者たちであった。
銀狼、シュウ、pocki、Jupiter、紅禮、犬・・・以上6名である。
皆は初めて聞く名もあるだろう。それに犬って・・・?
一応紹介しておくか。

紅禮・・・アイラとほぼ同時期に入国した女剣士だ。
赤い髪に薄い紫がかった瞳。ちょっと悪戯っぽい表情をしている。
日頃の言動は『みんなのお姉さん』的な感じで、世話を焼いたり苛めたり世話を焼いたり苛めたり・・・。
・・・おそらく家族に姉を持つ者は容易に想像できるのではないだろうか。
まぁそんな存在なのだが・・日頃の訓練は誰よりも多くこなし、剣の腕は間違いなく上達している。
もはやアイラなど比べようもあるまい。

犬・・・もちろん、あのペットの犬ではない。まぁ同じような扱いを受けつつあるが。
本名は『犬飼 現八 信道』というらしい。忍者の格好をしているが現在の職業はビショップである。
こちらもアイラとほぼ同時期に入国している。
ちなみにJupiterから借金をしたことがあるらしい・・・。
それ以来彼女には頭が上がらないとか。まさに名前の通り『飼い犬』である。
てか12歳の少女に金を借りるってどうよ?
犬「しくしくしくしく・・・・・。」

まぁ何はともあれ、以上のメンバーで突入することになった。
これでこの戦いを終わらせる。
それぞれがそれぞれの想いを抱き、作戦は動き出す・・・。

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