月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第1話


どんよりと暗雲がたちこめ今にも雨が降ってきそうだ。
嫌な天気・・・。
夏も真っ盛り。ただでさえ暑いというのに、これで雨まで降ったら湿気が鬱陶しくてたまらない。
暑いのは嫌いではないがこの湿気だけはどうにかならないものか・・・。
私は降り出す前にそそくさと帰途に着いた。


私はある雑誌のライターをやっている。
・・・と言えば聞こえはいいが、まだ駆け出しの新人で先輩にくっついて東奔西走している毎日なのだが。
こんな私にも『一応は』休日というものはある。
やはり気分転換は必要だし、心のゆとりというのも必要なものだろう。
しかしながら日頃から身体を動かしている私にとって、せっかくの休日まで身体を酷使するのは控えたいところだった。
よってスポーツなんぞは却下。
だが一日中寝て過ごすのも芸がない。
・・・というわけで気軽に気分転換できるゲームに走った私が『これ』に出会ったのは、今年の初めのことだった。

『Ragnarok~神々の黄昏~』

元々ファンタジーものは好きだったし、プレステなどの自己満足ゲームと違い、同じ人間が話し相手として存在するというのが面白かった。
半年以上もやってれば結構仲間も増えたし、他国であっても仲の良い者もいる。
私は家に帰ると、まずこのゲームに顔を出すのが日課となっていた・・・。


この日もいつもと同じように帰宅すると、PCに電源を入れいつもの顔ぶれと挨拶を交わす。
そして今日も眠くなるまでキャラクターを育成し仲間たちとの会話を楽しむ・・・はずだった。

ピカッ!ドッ・・・・ゴォォォオオオオンンン・・・!!!!

いきなり凄まじい轟音とともに閃光が目の前を覆いつくした!
(雷?・・・近くに落ちた・・?)
視界が回復するより先に意識がだんだん落ちていくのを感じた。
・・・・・ザーーーーー・・・・・
遠くの方で雨音が聞こえる・・・。
(・・あーあ・・降り出しちゃった・・な・・・)
そんなことを考えながら意識は暗転していった。


―――――・・・境界線というものを考えていた。
生と死。
真実と虚偽。
出会いと別れ。
肯定と否定。
そして・・・現実と夢。

ファンタジーとは夢、なのだろう。
夢にも2つの意味がある。
例えば、『プロ野球選手になりたい』というのも夢だ。
だがこれは現実にやっている人がいる以上、素質や努力、運次第で叶えることができる夢だ。
ここで私が話しているのは、もう一つの意味。
決して起こり得ることのないこと。想像や妄想の類だ。
しかし、だからこそ憧れから形成される夢。

ファンタジーが好きな者にとって『もしこういう世界に自分が身を置いていたら』という考えは少なからずあるはず。
私とて例外ではない。
そして現実の世界に辛いことがあればある程その思いは強くなっていく。
私も心のどこかに、そういうわだかまりを抱えていた。
現実と夢の境界線。
それを越えることがどういうことなのかも知らずに・・・―――――

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: