月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第2話


さすが夏というべきか。
たった一週間の命とはいえ今日も盛大に鳴いている。
(あ~~もぅ・・・うるさいわねぇ。寝てられないじゃない・・・。)
仕方なしに目を開けると気持ち良い木洩れ日がキラキラと光っている。

「・・・あらぁ?お昼まで眠っちゃったかな・・・?」

空を見れば太陽が高く昇り、さんさんと輝いている。
(ぁ、雨やんだのか・・・ってちょっと待て!?)

「・・・ここ・・どこ!?」

周りを見渡してみれば一面森の木々。
セミの鳴き声に混じって、時折小動物の鳴き声が聞こえてくる。
見覚えの無い景色ばかりだ。

「・・・えっと・・・とりあえず状況を整理しよう・・・。」

まず仕事から帰ってきて、PCに電源入れてラグナにINした。
次に仲間と話しつつキャラの育成に励んでた。
そうしてる内にいきなり雷が落ちてきて・・・意識が・・・。
んで目が覚めたら森の中にいて・・・。

「・・・明らかにおかしいって!どういう寝相したら寝てる間に家から森まで来るのよっ!?」

泣けど叫べど状況は変わらず。
夢なのかと思い、その辺にある木を手でペシペシやるが感触はちゃんとある。
(むぅ・・・どういうこと?)
考えてもわからないことは調べればいいだけの事。
(まさか仕事の考え方がこんな時に活きてくるなんて思わなかった・・・。)

「何も教えてくれない先輩に感謝、かぁ・・・。」

不本意だが。
ともかくこんなところでは調べようもない。
まずはこの森から出るのが先決だろう。
ブツクサ言いながら道を探しに腰を上げる。
探せば獣道くらいはあるだろう。
獣道は河に繋がっているはずだから、上手くいけば森を出られるかもしれない。
(まったく・・・こんなとこを歩くような服装じゃないのになぁ・・・。)
今の服装は上はTシャツ、下は短パン。
およそ女の子らしくない格好である。
動きやすいのは良いのだが、少なくとも森を歩くのに向いていないのは確かだろう。
足には何故かサンダルを履いていた。
『ヒールじゃないだけマシか・・・』と背の高い雑草を掻き分けながらため息をつく。
と、その時後ろの方で物音がした。
振り返り、そのままの姿勢で硬直する。
茶色い毛並み。今にも獲物に喰らいつきそうな牙。犬のようだが犬ではない。

「も・・もしかして・・・狼?初めて見た・・ていうか、現代の日本にいたっけか・・・?」

それに・・・何か不自然だ。どこか現実感がないような・・・。
(なんだろ・・・やっぱり夢なのかな?)
狼は唸り声を上げつつ徐々に近づいてくる。
(とりあえず戦う?武器も持ってないしなぁ・・・。逃げるって言っても背中を向けた途端襲い掛かってくるだろうし・・・どうしよう。)
考えている間にも一歩、また一歩と距離は縮まっている。
それに合わせてジリジリと後退する・・・と、足が何かに当たりまともに背中から倒れた!

「うぁ・・・ッ!?」
ゴンッ!

ついでに後頭部も打ったようだ。
涙を浮かべつつ起き上がり目を開ける。

「あいたた・・・痛いってことは夢じゃない・・・ぁ。」

目が合う。
心なしか『ちゃぁ~~んす☆』とかいう目をしてるのは気のせいだろうか。

「お・・おーけー・・・まず落ち着いて話し合おう・・・ね・・?」

引きつる笑顔で言う彼女に、問答無用で飛び掛ってくる狼。
漫画であればここで『いただきま~す♪』とか背景に紛れて書かれてそうだが、残念ながらこれは漫画ではない。

「ちょ・・・やめ・・・!?」
バシッ!

寸前まで迫った狼を無意識に腕で払う。
『きゃぃんっ!?』と悲鳴を上げ吹っ飛ぶ狼。

「・・・・・あれ?」

自分の手と狼を交互に見ながら呆然とする。
(えぇ?私ってこんなに力あったっけ・・・?)
起き上がり再び唸り声を上げながら向かってくる狼。

『うぅ~・・ガウッ!』バシッ!『きゃいん!?』
『うぅ~・・ガウッ!』バシッ!『きゃいん!?』
『うぅ~・・ガウッ!』バシッ!『きゃいん!?』
『うぅ~・・ガウッ!』・・・・・・・・

・・・・・何度繰り返しただろう。すでに狼はフラフラだ。
涙目になってる気がするのは気のせいだろうか。
そうまで彼(彼女?)を駆り立てるのは一体・・・?

「も・・・もういいから!そろそろ休みなさいって!」

なおも向かってこようとする狼に制止の言葉をかける。
その言葉を受けて『くぅん?』と悲しそうな目で返す狼。
『いいからいいから』とぽんぽんと叩く彼女に頭を下げてフラフラと去っていく・・・。

「ふ・・・人間と動物は解りあえるものなのね・・・。」

・・・ツッコミどころはそこか?まぁ危機は去ったが。
(それにしても何かおかしい・・・。さっきの狼だけじゃない、私の手も、足も・・・。まるで私が私じゃないような・・・?)
疑問を残したまま森の出口を探してさまよい歩く彼女であった・・・。

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