月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第6話


ちょっとした会議室だろうか。現世でいえば学校の進路指導室のような割と狭い部屋だ。
ラクチェたち3人はここに来ていた。
確かにここなら話を人に聞かれるようなこともないだろう。

国王「このようなところでスマンな。一応機密事項なのでな。」

コホン、と咳払いをしてフェンリル王は話し出す。

国王「今朝のことになるのだが、カノアが内密にと報告してきたのじゃ。」
ラクチェ「・・・カノアって?」
エロルド「あぁ、国の宮廷魔術師の一人だよ。魔術ならこの国でも随一と言われている。」
国王「うむ。しかもかなりの別嬪でな。さらにスタイルもこう・・・ボンッキュッボンなのぢゃ♪」

ジェスチャーも交えて説明。真面目な表情から一転してデレ~っとした顔になる。亀仙人か、コイツは・・・。

エロルド「父上、本題をお願いします。」
国王「・・・う、うむ。すまぬ。・・・わかったから、やめてくれんか?」

『チャキ』っと突きつけた剣を収め嘆息するエロルド。
フェンリル王はホッとして冷や汗を拭いつつ、ラクチェに耳打ちする。

国王「お~怖・・・。実はな、エロルドはカノアに『ぞっこんラヴ♪』なのぢゃよ。。」
ラクチェ「ほほー。それは興味深い。。」
エロルド「父上ッッ!!」

収めた剣を再び抜き放つ。逃げるようにラクチェの背中に隠れるフェンリル王。
呆れるラクチェだったが、この親子漫才にも慣れてきたようですぐさま本題に思考を移した。

ラクチェ「それで・・報告とは?」
国王「うむ・・・。喋る猫をな・・・拾ったというのじゃ。」
エロルド「・・・父上。この期に及んでまた冗談を・・・。」

殺気すらこもった語気で剣を構えるエロルド。
フェンリル王は慌てて弁明する。あ、少し涙目だ。

国王「ちゃうちゃう!マジやって!わしも信じられんかってんけど、これは嘘ちゃうねんて!!」

なぜに関西弁・・・?
ともかく本気で言ってるようだが・・・。

ラクチェ「その猫が『異世界から来た』と言ってるんですか?」
国王「うむ。そうなのじゃ。猫が喋るなどこの世界ではありえん話じゃからのー。驚いたのなんのって・・・。」
エロルド「・・・ラクチェ、君の世界では猫は喋るものなのか?」

もっともな質問だ。
猫が言葉を話すことなどありえない。それは彼女の世界でも同様のことだ。
だが物語・・ゲームの世界ならば・・・。

ラクチェ「・・・その話は信用できそうね。会わせてもらえますか?その猫に。」



「あっち行ったぞー!」
「あ、こら!逃げるなっ!!」
「えぇいっ、大人しく捕まれぇー!!」

ラクチェ達がまず目にしたのは騒々しく走り回る兵士や料理人、メイド達だった。
その様子を沈痛な面持ちで見つめる女性が一人。
フェンリル王はその女性に話し掛けた。

国王「カノアではないか。一体何の騒ぎじゃ?」
カノア「ぁ、王様。申し訳ありません。。例の猫が逃げ出してしまいまして・・・。」

(これが噂のカノアさんかぁ。確かに美人だしスタイルもいい・・・。ちょっぴり羨ましかったり。。)
ラクチェは一瞬本題の猫をそっちのけでカノアに釘付けになった。
しかしカノアの言葉の最後の『逃げ出してしまいまして』で正気に戻った。

ラクチェ「に、逃げたぁ~!?」
カノア「あら・・・貴女は?」
エロルド「挨拶は後だ。それで猫は?」
カノア「えぇっと・・・厨房に入り込んでお魚を食べたり、休憩所で兵士の秘密を聞いて笑ったり、メイドの更衣室で下着くわえて逃げたり。。それで今追いかけてます。」
ラクチェ「・・・機密事項とか言ってなかったっけ?」
エロルド「・・・随分と知れ渡っているようだが。」
国王「・・・・・・・。」

ここまで来れば機密もなにもないな。
相手が猫だけに行動が予測できないわけか。

「そっち行ったぞーっ!!」

その言葉に一同はハッとして振り向いた・・・ときには既に黒い塊がフェンリル王の顔にしがみついていた。

国王「グフォっ!?な、なんじゃぁ~、真っ暗じゃぞぉ!?」
カノア「王様、じっとしててください!」

カノアは黒い塊をつかんで即座にフェンリル王から引き剥がす。
その際に爪が顔に喰らいつき『バリッ!』とか聞こえたが気のせいだろう。
フェンリル王が『ぬぅぁはぁッ!?』とかわけのわからない声を上げたのも、もちろん気のせいだ。

カノア「こら!ダメでしょう、逃げたりしちゃ!」
猫「にゃは~w面白かったのにゃぁww」

猫は満足そうな表情でカノアに首根っこを掴まれたまま揺れている。
やけに饒舌な猫である。発音自体も人間のそれと変わらない。
エロルドは初めて見る『喋る猫』に言葉も出ないようだ。
フェンリル王は別の意味で言葉も出ないのだが。

ラクチェ「語尾に『にゃぁ』ってことは・・・。」
猫「にゃ?・・・にゃんだかラクチェさんに似てる人だにゃぁ・・・。」

のほほ~んとした調子で呟く猫。
その言葉でラクチェは確信した。

ラクチェ「やっぱり・・リエルさん!?」
猫「え?ホントにラクチェさんだったのにゃ!?」

流石に意表を突かれたのか、まともに驚きの声をあげる。

猫改めリエル「いや~驚いたのにゃあwラクチェさんもこっちに来てたんだにゃぁ・・・。」
ラクチェ「驚いたのはこっちよ。。まさか私以外にもこの世界に来てる人がいるなんて・・・。しかもそんな姿で。」
リエル「最初はビックリしたけど、この姿もなかなか慣れるといいもんにゃあ!」
ラクチェ「まったく、お気楽だねぇ・・・・・ぁ。」

二人(一人と一匹?)で盛り上がっていたが、ふと周りを見ると先程までリエルを追いかけていた者達が険悪なムードで二人を取り囲んでいた。
その威圧感に押され、引きつった笑いでラクチェは一歩下がった。
しかしリエルは平然とした感じで向き合っている。

リエル「安心するにゃあ!兵士さんが女装癖があるなんて誰にも言わないし、メイドさんの下着を着たいなんて言ってたことも言わないにゃあ!」
兵士「あああああッッッ言っちゃった!!!?」
メイド「・・・・・そんなことを言ってたのですか。。」

メイドから兵士へ冷たい、凍えるような視線が送られる。
まぁメイドからだけではないが。

料理人「それで、魚を取ったのは何故だ・・・?」
リエル「それはただお腹がすいたからにゃあ!」

エッヘンと胸を張るリエル。
その言葉をきっかけに再び追いかけっこが始まった。
泣き崩れる兵士。噂話を始めるメイド達。走り回るリエルと料理人。
この騒ぎが収まったのは夜も更け、狼が遠吠えを始める時間だったという・・・。

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