月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第9話


ラクチェ「『ひさしぶり==ノ』じゃないですよ、まったく・・・。」

ここはフェンリル国城下町、ブエルにある大衆酒場。
すでに陽は落ちており、仕事帰りのおっさん共がワイワイガヤガヤと騒がしい。
そんな中、ラクチェは一つのテーブルを独占している女性に近づいていった。
テーブルに様々な銘酒の空き瓶をズラリと並ばせた女性は、満面の笑みでラクチェを迎えた。

ラクチェ「・・・何してるんです?こんなところで。。」
酒姫「いやぁフェンリルにもなかなか美味い酒があるもんだ==b」
ラクチェ「いや、そういうことじゃなくって・・・。」
酒姫「まぁ座んなよ。この国だと『魂褒め(純米大吟醸)』っていう酒がなかなかイケるよ==b」
ラクチェ「何この世界に来て早々、利き酒してるんですか。。」

ラクチェは呆れつつも言われた通りに座り、差し出された酒を一口飲む。

ラクチェ「ぁ・・・美味しい。」
酒姫「な?==b ドンドン飲んじゃえ。これからの話はしらふじゃできないしね==」
ラクチェ「・・・もちろん酒姫さんのオゴリですよね?」
酒姫「おう。どうせ経費で落とす==b」

ウエイトレスを呼んで追加注文をし、後顧の憂いをなくす。
これで準備万端、と話を本題に移す。

酒姫「・・・この世界のこと、どこまで掴んでる?==」
ラクチェ「全て憶測ですけど・・・。私たちがやってたゲーム・・・『Ragnarok~神々の黄昏~』をモチーフに造られた、ゲームとは別の世界じゃないかと。。何故来てしまったのかはわかりませんけど。」

国数・国名は同じだが、登場人物がガラリと変わっている。
ゲームの中にそのまま入ったのであれば、ゲーム仲間の姿があるはずである。

ラクチェ「今この世界に来てる人は私と酒姫さんと・・・あ、もう一人リエルって人がいるんです。姿は猫ですけど。。だからもしかしたら他にも来てる人がいるかもしれませんね。」
酒姫「ん。いるって考えた方がいいだろうね==b戦争が終わったら世界旅するかな==」
ラクチェ「旅いいですねw戦争終わったら・・・。」

そこでラクチェは思い出した。

ラクチェ「って酒姫さん!そういえば戦争ってどういうことなんですか!?」
酒姫「エリュシオンがフェンリルに正式に布告したってことだけど?==」
ラクチェ「そうじゃなくて!酒姫さんがなんで指揮を執ってるのかってことですよ!」
酒姫「情報を集めるには上にいた方がいいからね。色々やってるうちに軍師になってた==;まぁなったもんは仕方ないし、いっちょフェンリルと戦ってみようかと==b」
ラクチェ「そんな・・・。」
酒姫「もしかしてラクチェさんも戦場に出るつもり?それがどういうことか解ってる?」
ラクチェ「どうって・・・。私たちが戦場で会うってことでしょう?」

その言葉を聞いた酒姫は無言で首を振り、スッと席を立った。
そしてラクチェの目を見ながら口を開いた。

酒姫「・・・やっぱりラクチェさんは戦場に出ない方がいい。今すぐこの街を出ることをお勧めするよ。」
ラクチェ「なっ・・・!?」

酒代をテーブルの上に残し、踵を返して店の入口に向かう。
ラクチェは何が何だか解らず、酒姫を追いかける。

ラクチェ「ちょっ・・・どういうことなんですか!?」

追いつき酒姫の肩を掴み、振り向かせようとする。
しかし次の瞬間一筋の光が閃き、それと同時に左腕に痛みが走る。

ラクチェ「痛っ・・・!?」

・・・チャキ
いつの間に抜いたのか、その手の中には一振りの剣があった。
左腕には軽い裂傷ができており、僅かだが血が滲んでいる。
ラクチェは『信じられない』という顔をしている。
酒姫は剣を鞘に収め、構えを解く。

酒姫「・・・痛いでしょ?」
ラクチェ「そりゃそうですよっ!何するんですか!?」
酒姫「その身体はラクチェさんの現実の身体じゃないのに、斬られたら痛みを感じる・・・。じゃあその身体が死んだらどうなると思う?」
ラクチェ「・・・・・ッッ!?」
酒姫「自分も周りの人間も、街も酒も食べ物も全て見た目にCGのような違和感がある。・・・でもそれは確かにそこに存在している。」
ラクチェ「・・・・・・・。」
酒姫「自分が今置かれている状況が『ゲームではない』ことをちゃんと認識していないと・・・取り返しのつかないことになるよ。」

ラクチェは何も言葉を発することができなかった。
そんな彼女を置いて酒姫は再び背を向けた。
徐々に離れていくその背中を、今度は追いかけることができなかった。
ラクチェが呆然と立ち尽くす中、酒姫は酒場を出て行った。
最後に注文した酒をテイクアウトして。


宿舎に戻ってきたラクチェは、一言も話さずに考え事をしていた。
(『ゲームではない』・・・つまり剣で斬られれば現実と同じように死ぬ・・・そして反対に殺すことも・・・?一体どうしたら・・・。)
様子を不思議に思ったリエルが話しかけても生返事しかしない。
日付が変わってもなお考えはまとまらないままであったが、いつしか夢の世界へと落ちていったのだった・・・。

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