「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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月下美人の語り草
その瞳に映るものは・・・ 第10話
ラクチェ「あれ・・・?先輩、なんでこの世界にいるんですか?」
先輩「はぁ?何言ってんのお前?寝ぼけてんのか?」
ふと周りを見渡すと見慣れた光景が広がっていた。
机、電話、散らばった書類、慌ただしく走り回る同僚たち。
奥の方には編集長の頭が見える。うん、今日も一段と進行しているようで。
近くに目を移すとペンギンのマグカップが机の上にある。
会社に入ったときから愛用しているものだ。
どうやら自分の机に間違いはないようだ。
ラクチェ「・・・えぇ?ひょっとしてさっきまでのは夢?」
先輩「ったく・・・。いい身分だなぁ?こちとらお前のミスで編集長にシバかれたばかりだってのによぉッ・・・!」
ラクチェ「あぁっ!ゴメンなさい先輩っ!こめかみにグリグリはや・・やめっ・・・イダダダダダ!!」
先輩「さぁ早く準備しろ!今日は遠出するからな!」
ラクチェ「はぁい・・・只今いきます~。。」
こめかみを押さえつつ後を追いかけるが、いくら走っても追いつかない。
そればかりか、相手は歩いているにもかかわらず二人の距離は開いていくばかりだ。
ラクチェ「ちょっ・・・先輩っ!?歩くの速すぎ・・・!待ってってばっ!!」
しかし声が届いていないかのように彼はどんどん離れていく。
そしてやがて・・・姿を消した。
ラクチェ「せ・・・先輩・・・?」
姿を消したのは彼だけではなかった。
今まで視界に存在していた物が全て・・・机も同僚もマグカップも。
気づけば周りは暗い闇に覆われていた。
いくら見渡しても何も見えず、光すらない世界。
ただその中に浮かぶのは小さな自分の存在だけ。
言い知れぬ重圧に押し潰されそうな自分がいた。
・・・・・ぴちょん
何か水が滴るような音が聞こえた。
彼女は音を頼りに聞こえる方向へと歩き出す。
やがて視界がだんだんと明るくなってきた。
しかしそこで彼女が見たものは・・・。
ラクチェ「・・・・・ッッ!?」
荒野に立ち並ぶ小さな山々。
しかし近づくにつれて山の正体が判明した。
幾つもの折り重なる人型のモノ。
そのどれもがピクリとも動かない。
むせ返るような血の臭いに我慢し切れず、彼女はその場にしゃがみ込んだ。
胃の中のものを全て出してもなお、むせ続けている。
・・・・・ぴちょん
また先程の水音が聞こえた。
彼女が振り向くと、そこには一つの死体を抱きかかえ号泣する少女の姿があった。
死体から流れる血が地面に落ちる。
まだ息を引き取ってから間もないようだ。
少女は泣き叫んでいるはずなのだが、不思議と声も聴こえない。
ラクチェは胸が締め付けられる思いだったが、躊躇いつつも少女に声をかける。
ラクチェ「あ・・あの、あなた・・・。」
その声が聴こえたか、少女は涙をそのままに顔を上げた。
しかし先程までと打って変わって、今度は憎しみに満ちた表情でラクチェを睨んでいる。
ラクチェは何が何だか解らず戸惑っていると、少女はゆらりと立ち上がり近づいてきた。
そして口が開いた・・・。
少女『・・・人殺し・・・っ!』
声は聴こえなかったはずなのに、何を言ったのかは伝わってきた。
少女の言葉に愕然とするラクチェ。
何故。どうして自分が人殺しなのか、と。
ラクチェは誤解を解く為に口を開こうとする・・・が、その前に手に何かの感触があることに気づいた。
硬い、重い、冷たい感触が・・・。
ラクチェは自分の手に目を向け、言葉を失った。
冷たく鈍く光る血塗られた剣。それを握る手すらもドス黒い血に染まっていた。
ラクチェ「・・・・・ち、違う・・・。私じゃ・・・・・。」
少女と自分の手を交互に見ながら後退りする。
とその時急に地面が消え去り、ラクチェは落下していく感覚に陥った。
それと共に、先程までの視界だけが取り残されたかのように遠く離れていく。
ラクチェは意識と共にそのまま深い闇の底へと落ちていった・・・。
(私じゃ・・・ない・・・。)
目が覚めたのは昼過ぎ。夢見は最悪だった・・・。
シャツの背中は汗でぐっしょりだ。暑さだけが理由ではないだろう。
このままでは気持ち悪いのでシャワーを浴びることにした。
のらりくらり服を脱いで浴室に入り、少し熱めのお湯を浴びる。
(私じゃない・・・?ホントにそうなの?)
夢で見た映像を思い出し、顔をしかめる。
(今は違うだけじゃないの?・・・戦場に出れば実際に起こり得ることだわ。)
少女の表情を忘れることができない。怒りと哀しみの表情が・・・。
『シャワーで頭の中も洗い流して全てを忘れられたらいいのに・・・』とため息をつくラクチェだった。
リエルは悩んでいた。
この世界に来てここまで彼女が悩んだのは初めてのことじゃないだろうか・・・。
器用にも猫の姿で腕を組み、目の前の物を睨みつけている。
そう・・・昼食のメニューを。
リエル「あぁ・・・焼き魚定食もいいけど、海鮮丼も捨てがたいにゃあ!」
かれこれ20分くらい悩み続けている。
今現在、この王城内の食堂にはリエルと食堂のオバサンが一人いるだけ。
オバサンとはいうものの、すでにかなりの高齢に達しているように見受けられる。
そこに丁度通りすがる男が一人。
リエルがメニューとにらめっこしているのを不思議そうに見ている。
まぁ黒猫がメニューを見て悩むなど、そうはあるまい。
リエル「ムムッ!?そこの遠巻きに見ている照れ屋ボーイ!どっちがいいと思うにゃあ!?」
男「ひぇっ!?ね、猫が喋った!?」
『びしぃっ!』とポーズをつけて振り返る猫にまともに驚く男。
その反応が面白かったのか、リエルは目を『キランッ☆』と光らせて男に近づく。
リエル「何にゃ?猫が喋っちゃいけないのにゃあ?」
男「い、いけないっていうか・・・おかしいだろっ!?」
ジリジリと近寄る猫に合わせて後退する男。
認めたくはないが、話してしまっていることで認めざるを得ないというこの状況。
男はそのプレッシャーに耐え切れず走り出した。
リエル「あっ!待つにゃあっ!!」
猫の習性も手伝っているかは解らないが、獲物を狙うが如く男を追いかけた。
暗い顔をして中庭を歩く姿が一人。
訓練をしている兵士たちに目を向けながらため息をついている。
ラクチェ「この人たち・・・何のために戦ってるんだろう。。」
戦争をいうものを肌で感じたことのなかったラクチェにとって、人を殺めるかもしれないというのは初めての感覚だった。
(人の命を引き換えにしてまで得るものって何なのよ・・・。)
ラクチェは未だ戦う理由を見つけられずにいた。
嫌味なくらい晴れ渡っている青空に見つめながら、今日何度目かのため息をつく。
「うわぁぁぁあああああッッ!!!」
思考を断ち切るように大声が中庭に響き渡った。
ラクチェ「な、何事・・・?」
見渡せば遠くの方から砂埃を巻き上げながら、物凄い勢いで何かがこちらに向かってくる。
目を凝らしてみれば兵士風の男が走ってきているようだ。
そしてその後ろには・・・。
リエル「待つにゃあ~~~~~っっ!!」
ラクチェ「・・・リエルさんっ!?」
何故リエルが男を追いかけているのか、まったく状況が読めない。
しかし黙って見ているわけにはいくまい。
ラクチェはタイミングをはかり、腰を落として構える。
男が通り過ぎる瞬間に右腕を振り抜き、見事に男の首筋を捉えた!
男「んぐぉうッ!?」
首を支点に半回転し、まともに頭から地面に激突する。
『グッジョブ!』とリエルはこれまた器用に親指を立てる。
ラクチェ「やってしまってから言うのもなんだけど・・・何やったのこの人?下着ドロボー?」
男「お・・俺は・・・何もやってないのに・・・。」
男の意識はそこで途絶えた。
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